学位論文要旨



No 122704
著者(漢字) 坂川,日出海
著者(英字)
著者(カナ) サカガワ,ヒデミ
標題(和) 楕円曲線の群位数の研究
標題(洋) STUDY OF GROUP ORDERS OF ELLIPTIC CURVES
報告番号 122704
報告番号 甲22704
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数理第306号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 教授 織田,孝幸
 東京大学 教授 斎藤,秀司
 東京大学 教授 斎藤,毅
 東京大学 教授 宮岡,洋一
内容要旨 要旨を表示する

1 巡回性

 Eを、有理数体Q上定義された楕円曲線とする。Eの良い素数(good prime)pに対し、Ep(Fp)でE mod p上のFp-有理点のなす有限群を表す。我々は、pが動くときの、Ep(Fp)の漸近的な挙動に興味がある。まず始めに巡回性の問題について考察する。f(x,E)で、Ep(Fp)が巡回群となるような素数p〓xの個数を表そう。この計数関数(counting function)の漸近的な挙動に関して、1976年に、J.P.Serre[5]は次の結果を得た。

定理1. 一般Riemann予想(以下GRHと記す)のもとで、Eのみに依る実数CEが存在して、次の評価がなりたつ;

 その後、1979年に、Ram Murty[3]により、Eが虚数乗法を持つ場合には、上の定理が無条件で成り立つことが示された。一般の場合は現在でも未解決である。

 ところで、有限Abel群の基本定理より、#Ep(Fp)が平方自由(square-free)であれば、それは明らかに巡回群である。ここに次の自然な疑問が生じる。すなわち、群位数が平方因子を持ち、なおかつ巡回群となるような、素数p〓xの個数は、どのような漸近挙動を示すのであろうか?先のf(x,E)に習い、今の場合の計数関数をg(x,E)で表す。この関数の漸近挙動に関して、筆者は次の結果を得た。

主結果1. Eを虚数乗法を持たない楕円曲線で、すべての素数qに対して、同型Gal(Q(E[q])/Q)〓GL2(q)が成り立つものとする。この時、GRHの仮定のもとで、Eのみに依る正の実数CEが存在して、次の評価が成り立つ。特にそのような素数の集合は、正の密度を持つ;

2 素数性

 巡回性に準ずる自然な問題は、Ep(Fp)が素数位数を持つような、素数p〓xの個数を考察することである。素数位数の群は当然、巡回群だからである。この場合の計数関数をπ(x,E)で表そう。この関数の漸近挙動に関して、1988年にN.Koblitz[2]は次の予想を立てた。

予想1. EをQ上定義された、非自明な捩れ点を持たない楕円曲線とする。この時、Eのみによる正の実数CEが存在して、次の評価が成り立つ;

 その後、2001年に、A.MiriとK.Murty[4]により次の結果が得られた。

定理2. EをQ上定義された、虚数乗法を持たない楕円曲線とする。またGRHを仮定せよ.この時、#Ep(Fp)が重複を込めて高々16個の素因子を持つような、素数p〓xの個数に関して、次が成り立つ;

 しかしその後も、上限に関する結果は得られていない。上限について考察するために、筆者は計算機を用いて、前掲のKoblitzの予想の解析を試みた。その時に得られた数値データを、博士論文の末尾に収録した。筆者は計算結果により、Koblitzの予想を次のように拡張した。

予想. Eを非自明な捩れ元を持たない、Q上定義された楕円曲線とする。kを任意の自然数とする。この時、Eとkのみに依る正の実数C(E,k)が存在して、#Ep(Fp)が丁度k個の相異なる素数の積で表されるような、素数p〓xの個数に関して、次が成り立つ;

 この予想を認めると、A.MiriとK.Murtyが考察した計数関数の緊密な下限は、以下のオーダーを持つことになる;

上限と下限のオーダーが一致した結果を得るために筆者は、正の実数αに対し、#Ep(Fp)がxα以下の素数で割り切れないような、素数p〓xの計数関数πα(x,E)を考察した。良く知られた群位数に関するHasse-Weilの定理より、

が分かる。計数関数π1/(22)(x,E)に関して、筆者は次の結果を得た。

主結果2. EをQ上定義された、非自明な振れ点を持たない楕円曲線で、虚数乗法を持たないものとする。この時、GRHのもとで、次を満たすEのみに依る実数AE、BEが存存する;

 最後に、GRHの仮定を外した、次の結果を得た。証明はC.Cojocaruが[1]で用いた論法に依るところが大きい。

主結果3. EをQ上定義された楕円曲線で、虚数乗法を持たないものとする。この時、無条件に次がなりたつ;

特に、#Ep(Fp)が素数となるような素数pの密度はゼロである;

参考文献[1] Cojocaru, Alina Carmen. On the cyclicity of the group of Fp -rational points of non-CM elliptic curves. J. Number Theory 96 (2002), no. 2, 335-350.[2] Koblitz, Neal. Primality of the number of points on an elliptic curve over a finite field. Pacific J. Math. 131 (1988), no. 1, 157-165.[3] Murty, M. Ram. On Artin's conjecture. J. Number Theory 16 (1983), no. 2, 147-168.[4] Miri, S. Ali; Murty, V. Kumar. An application of sieve methods to elliptic curves. Progress in cryptology―INDOCRYPT 2001 (Chennai), 91-98, Lecture Notes in Comput. Sci., 2247, Springer, Berlin, 2001.[5] Serre, Jean-Pierre. Resume des cours de 1977-1978, Annuaire du College de France. 1978, p. 67-70, in Collected Papers, volume III, Springer Verlag, 1986, p. 465-468.
審査要旨 要旨を表示する

 Eを有理数体Q上の楕円曲線とし,Eのよい還元を与える素数pに対しE mod pのFp-有理点のなす有限群Ep(Fp)を考える.Ep(Fp)が巡回群となるような素数p〓xの個数をf(x,E)と書く時,J. -P. Serreは一般Riemann予想(GRH)を仮定してf(x,E)の漸近挙動に関する評価式を与えた.1979年にはR. MurtyはEが虚数乗法を持てば,GRHの条件を落とせることを示した.本論文において,坂川日出海は,このような結果を踏まえ,まず,Ep(Fp)の位数が平方因子を持つような巡回群になる素数p〓xの個数をg(x,E)であらわすとき,g(x,E)の漸近挙動を調べ次の結果を得た.

 定理. Eを虚数乗法をもたない楕円曲線,素数qに対しE[q]を代数平方Q上のq-torsionのなす群とする.ガロア群Gal(Q(E[q])/Q)〓GL2(Fq)が成り立つと仮定する.このとき.,GRHの下にEのみによる定CEが存在して

が成り立つ.

 次に,正の定数αに対し,Ep(Fp)の位数がxα以下の素数で割り切れないような素数p〓xの数の計数関数πα(x,E)を導入し,次の結果を得た.

 定理. Eを虚数乗法をもたない楕円曲線で非自明なねじれを持たないとする.このとき,GRHの下に,Eのみによる定AE,BEが存在して,

が成り立つ.

 この結果はA. ArtinとR. Murtyの手法に基づくものであるが,計数関数πα(x,E)を導入することにより評価を厳しいものにしている.さらに,Koblitz予想を拡張して,kを任意の自然数とするとき,Ep(Fp)の位数が丁度k個の相異なる素数の積で表されるような素数p〓xの個数がC(E,k)x(loglogx)(k-1)/(logx)2で近似されるという予想をたて,計算機実験によってそれを裏付けるデータを与えている.

 本論文は,有理数体Q上の楕円曲線という古典的な対象を扱い,そのよい還元を与える素数pに対してFp上の楕円曲線の有理点が巡回群になるようなものの分布に関する新しい知見を与え,興味あるデータを示したもので,この方面の研究に大きく貢献するものである.よって、論文提出者 坂川 日出海は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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