No | 122723 | |
著者(漢字) | 矢野,良輔 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤノ,リョウスケ | |
標題(和) | 気体論方程式を用いた非平衡緩和の数学的数値的理解と反応気体および相対論的気体への拡張 | |
標題(洋) | Mathematical and Numerical Comprehension of Nonequilibrium Relaxation by Using Kinetic Equations and Its Extension to Reactive and Relativistic Gas | |
報告番号 | 122723 | |
報告番号 | 甲22723 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第260号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 先端エネルギー工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、ボルツマン方程式を基礎方程式とした、気体力学の理論体系である気体論に基づいて、流体中の様々な非平衡緩和現象を考えることを目的とした. 論文の第1部では、単原子分子気体における非平衡緩和現象を考える.そのために、ボルツマン方程式が示す非平衡緩和過程を理解するための様々な数学的手法を考える.本文では、分布関数を構成するモーメントに注目し、分布関数の非平衡緩和を、それを構成するモーメントの非平衡緩和と読み替え、ボルツマン方程式により導出されるモーメント緩和式の形から、緩和現象における、自己相似性、同次非線形性、非同次非線形性に注目し緩和課程の数学的理解を試み、同時に、計算によってそれらを明らかにする.従来の気体論方程式は、ゲインタームに対して、13モーメントの近似式で構築されている事から、不十分である.本文では、拡散型の衝突項を持つフォッカー・プランク型の方程式を考え、ゲインタームが、分布関数の拡散と結びつく事を数値結果から示す. 第2部では、分子が内部量子モードをもつ2原子分子の解離現象を気体論の立場から定式化し、化学反応が、流れに対して及ぼす影響をモーメント方程式、またそれにより得られる輸送係数から明らかにする.分子間非平衡、分子内非平衡の両面から、非平衡と解離を連結させる気体論方程式を定式化する.Wang Chang-Uhlenbeck方程式から出発し、定式化された解離を表現した気体論方程式を用いて、解離を含む衝撃層問題を計算し、解離問題における非平衡緩和現象を考える.解離が及ぼす非平衡緩和現象に対して、解析的・数意的な結論を導き出す. 第3部では、分子が光速で運動する場合に問題となる相対論的効果を含んだ気体中の非平衡緩和現象を考える.理学的関心として、宇宙ジェットのような、相対論的気体力学を考える上で、ジェット中の非平衡量に対する考察はまだ行なわれていない.図1は、本研究で行なった、相対論的気体論方程式による相対論的希薄ジェットの計算例である.本文では、定常問題に着目するために、相対論的気体論方程式を用い、相対論的衝撃層問題を考える.相対論的効果に起因した物理量を数値的に見積もり、気体論により漸近される結果と比較し、議論する.相対論的効果と非平衡緩和がどのように結びつくのか、定性的かつ定量的議論を行なう. 図1 相対論的希薄宇宙ジェットの構造(左から、数密度、温度、熱流束、動圧) | |
審査要旨 | 本論文は、「Mathematical and Numerical Comprehension of Nonequilibrium Relaxation by Using Kinetic Equations and Its Extension to Reactive and Relativistic Gas(気体論方程式を用いた非平衡緩和の数学的数値的理解と反応気体および相対論的気体への拡張)」と題し、9章より構成されている。 第1章は序論であり、研究の背景と目的を述べるとともに、気体論や非平衡緩和など本論文での重要な概念の説明を行っている。気体力学において、分子の速度分布関数が平衡分布(ボルツマン分布)からずれる非平衡現象は、衝撃波構造などで顕著に見ることができる。その解明には、速度分布関数の支配方程式であるボルツマン方程式による解析が必要である。数値計算法としてはモンテカルロ直接法が有効であるが、これは確率的手法であり、解の数学的性質を解析的に調べることには適さない。そのため、ボルツマン方程式に対するモデルとして分子衝突の項を簡略化した気体論方程式を扱うことが有効であると述べている。 第2章から第5章は、第1部としてまとめられ、単原子分子気体における並進モードの非平衡現象を扱っている。速度分布関数をGrad展開し、各種気体論方程式に対するモーメント緩和式を得ており、それらを自己相似、同次非線形、非同次非線形のタイプに分け、非平衡緩和過程において果たす役割について考察している。その結果、従来の気体論方程式は、分子衝突項のゲインタームに対し13モーメントまでの近似であり、衝撃波構造でみられるような強い非平衡性を表現するには、精度が不十分であることを明らかにした。過去の研究の多くは、衝突項を緩和型の式で表したBGK型の気体論方程式に関するものであったが、ここでは衝突項を拡散型の式で表したフォッカー・プランク型の方程式に着目し、それが高次のモーメント緩和をより正確に与えるため非平衡性の強い領域で有効であることを見出した。さらに、2次元円柱前方に生じる衝撃層について気体論方程式の数値解析を行い、分布関数の非平衡現象について定量的な議論を行っている。また、BGK型とフォッカー・プランク型を合わせたハイブリッドモデルを提案し、モンテカルロ直接法の結果と良好な一致が得られることを示している。 第6章は本論文の第2部であり、量子化された内部エネルギーモードをもつ2原子分子の解離現象を気体論の立場から定式化し、数値解析結果を示している。分子の振動モード励起と解離反応の連成および分子と原子の混合気体の効果を表現する気体論方程式をWCU方程式に基づき新たに定式化した。さらに、モーメント緩和式を導出し、粘性係数などの巨視的な輸送係数を求めている。2次元円柱前方に生じる衝撃層流れについて数値解析を行い、解離反応が非平衡現象に及ぼす影響を定性的かつ定量的に明らかにしている。特に、衝撃波構造の中で解離によって促進される異種分子間の非平衡現象である衝撃波分離について詳細に述べている。 第7章は本論文の第3部であり、光速と比べて無視できない速度で運動する分子が存在するために相対論的効果が現れる気体中の非平衡現象を扱っている。過去に提案された相対論的気体論方程式について考察し、モデルの持つあいまいさを排除する改良を示している。光速の50%の一様流中に置かれた2次元円柱前方に生じる衝撃層について数値解析を行い、得られた結果について相対論的動圧などの相対論的効果を定量的に議論している。さらに、相対論的ナヴィエ・ストークス・フーリエの式と比較を行い、相対論的効果の出現と、気体分子の速度分布関数における非平衡性との間に強い関係があることを見出している。 第8章は本論文の第4部であり、第1部から第3部を通した本論文における研究成果を結論としてまとめている。 第9章は補遺であり、超多次元偏微分方程式である気体論方程式を数値解析する際に必須となる並列型スーパーコンピュータによる効率的なプログラミングについて説明している。 以上要するに、本論文は気体論方程式を用い、分子の速度分布関数の非平衡現象を数学的考察と数値解析の両面から解明するものであり、化学反応や相対論の効果を含む気体論方程式への拡張法を示した点で、先端エネルギー工学、特に高エンタルピー気体力学に貢献するところが大きい。 なお、本論文の第2章から第4章は鈴木宏二郎氏と、5章から7章と9章は同氏および黒田久泰氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析および検討を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。 | |
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