No | 122750 | |
著者(漢字) | 大橋,広行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオハシ,ヒロユキ | |
標題(和) | 再構築蛋白質翻訳系を用いた蛋白質スクリーニングシステムの開発 | |
標題(洋) | Efficient protein selection based on ribosome display system with purified components | |
報告番号 | 122750 | |
報告番号 | 甲22750 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(生命科学) | |
学位記番号 | 博創域第287号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | メディカルゲノム専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、ヒトをはじめとした各種生物のゲノム情報解析により、膨大な数の遺伝子情報が蓄積されつつある。ポストゲノム研究においては、これらの膨大な遺伝子情報の中から、目的の機能を持つ分子の解析・選択を高精度で行うことが出来る技術の構築が強く望まれている。現時点では、生体高分子間相互作用を解析する方法として、ファージディスプレイ法と酵母ツーハイブリッド法が主流であるが、これらの方法は生細胞を用いるため、遺伝子改変の手順を伴い、この過程でライブラリーの大きさが制限されてしまうことや(一般的に分子種108以下)、宿主である細胞に有害な蛋白質の場合、発現効率が著しく低下することなどの問題がある。本研究では、理論的には理想的とされているが、実際的な成功例の少ないリボソームディスプレイ法(図1)を、当研究室で開発したPURE system(再構築蛋白質翻訳系、図2)を用いて確立し、さらに生体高分子間相互作用解析ならびに、高効率な機能分子選択手法へと発展させることを目的とした。リボソームディスプレイ法(図1)は、蛋白質翻訳反応中に形成される「mRNA-リボソーム-新生ポリペプチド」からなる複合体(ternary complex)の形で蛋白質を提示させる技術であり、この複合体形成により表現型と遺伝子型のリンクを実現できる。しかしながら、従来のリボソームディスプレイ法は大腸菌S30などの細胞抽出液を用いていたため、ternary complexの安定的な維持が難しく、信頼性が高いとは言い難いものであった。この問題を解決するため、系中の因子を自由にコントロール出来、系の最適化を行えるPURE systemを用いることで、リボソームディスプレイ法の最適化を図った。分子選択実験のモデル系として、DHFRをcompetitorとし、単鎖抗体(scFv-HyHEL10)の特異的選択を行った。mRNAの回収効率に着目して、リボソーム調製法の改良、リボソームの系中の濃度、シャペロンの添加など、いくつかの条件を最適化したところ、mRNAの回収率は投入したmRNAのおよそ2.5%以上となった。また、最適化した系を用い、2種類のmRNAの混合比を変えて目的遺伝子の増幅を調べたところ、initial pool混合比が1:105からでも1回の選択ラウンドで目的遺伝子の増幅が確認できた(表1、濃縮効率としては約12,000倍)。これは従来の細胞抽出液を用いたリボソームディスプレイ法の成績が、mRNA回収率 最高0.2%、1回の選択ラウンドでの濃縮効率が20〜250倍であると報告されているものと比較すると非常に優れた結果であった(Hanes et al.,PNAS,1997,1999.)。また、他のin vitro分子選択系と比較しても、最も高い選択効率であった(Griffiths et al.,Curr Opin Struct Biol,2005.)。さらに、複数回のセレクションラウンドを重ねることで、initial pool 1:108からの分子選択実験では2ラウンドで目的分子を確認し、3ラウンドでは完全に単離するまで至った(図3)。加えて、1:10(10)からの特異的分子選択も3ラウンドで確認することが出来た(図3)。PURE systemを用いた単鎖抗体の特異的選択系において、従来の細胞抽出液の無細胞蛋白質合成系を用いた場合よりも、ターゲット分子をきわめて高効率に選択出来ることを実験的に確認した。また、非免疫単鎖抗体ライブラリーから、新規抗体の取得に成功し、本方法の実用性を実証した。さらに、抽出液の翻訳系では困難であった温度条件(37℃)においても、特異的セレクションを行えることを確認した。これは、nucleaseなどのような複合体を壊す因子が、新しく調製したPURE system系中にほとんど存在しないことに起因すると考えられた。加えて、PURE systemを用いたリボソームディスプレイ法の詳細な素過程解析を行い、ternary complex形成による遺伝子型と表現型のリンクによる分子選択という、リボソームディスプレイ法の基本概念を、改めて明確に確認することが出来た。これは、従来の細胞抽出液を用いた系では、出来なかったことである。このように系中の因子を再構築し、最適化することで、本方法は従来の方法の限界を大きく打開した。 本研究をより進展させることで、新しい抗体分子の創出や蛋白質の網羅的機能解析といった、蛋白質研究のための高効率で信頼性の高い基盤技術となり、生命科学分野の進展や医薬分野、産業などの発展に大きく貢献できるものと期待する。 図1 リボソームディスプレイ法の模式図 図2 PURE system を用いた試験管内翻訳 表1 1ラウンドセレクションの選択効率 図3 複数ラウンドセレクション | |
審査要旨 | 本論文は3章からなり、第1章はPURE system(再構築蛋白質翻訳系)を用いたリボソームディスプレイ法の最適化、第2章はPURE systemを用いたリボソームディスプレイ法の解析、第3章はランダムライブラリーからの分子選択について述べられている。 第1章 PURE systemを用いたリボソームディスプレイ法の最適化 従来のリボソームディスプレイ法は、大腸菌S30などの細胞抽出液を用いていたため、信頼性が高いとは言い難いものであった。論文提出者は、この問題を解決するため、系中の因子を自由にコントロール出来、系の最適化を行えるPURE systemを用いることで、リボソームディスプレイ法の最適化を図った。分子選択実験のモデル系として、単鎖抗体(scFv)の結合によるmRNAの特異的回収実験を行った。mRNAの回収効率に着目して、リボソーム調製法の改良、リボソームの系中の濃度、シャペロンの添加など、いくつかの条件を最適化し、mRNAの回収率は投入したmRNAの2.5%以上となった。これは従来の細胞抽出液を用いたリボソームディスプレイ法の成績が、mRNA回収率0.01%〜0.2%であると報告されているものと比較すると非常に優れた結果であった。 第2章 PURE systemを用いたリボソームディスプレイ法の解析 論文提出者は、PURE systemを用いたリボソームディスプレイ法の詳細な素過程解析を行い、mRNA-リボソーム-新生ポリペプチドから成るternary complex形成による遺伝子型と表現型のリンクによる分子選択という、リボソームディスプレイ法の基本概念を、改めて明確に確認している。従来の細胞抽出液を用いたシステムでは系中の因子を制御することが出来なかったため、リボソームディスプレイ系中の詳細な素過程解析が行えなかったが、論文提出者はPURE systemの利点を有効に活用し、これを成した。 また、論文提出者は、最適化した系を用い、新たに構築した蛋白質スクリーニングシステム(Pure Ribosome Display)の選択効率の解析を行った。2種類のmRNAの混合比を変えて目的遺伝子の増幅効率を解析し、シングルラウンドで目的遺伝子を約12,000倍程度まで濃縮可能であることを示している。これは従来の細胞抽出液を用いたリボソームディスプレイ法の成績が、1回の選択ラウンドでの濃縮効率で、20〜250倍であると報告されているものと比較すると非常に優れた結果であった。また、これは他の試験管内分子選択系と比較しても、最も高効率な成績である。さらに、複数回のセレクションラウンドを重ねることで、1:10(11)からの特異的分子選択も可能であることも示している。 また、論文提出者は、従来の抽出液の翻訳系では困難であった温度条件(37℃)においても、特異的分子選択を行えることを確認している。この結果は、PURE systemを用いたリボソームディスプレイ法が、既存の試験管内分子選択系の実験上の制約を、大きく打開したことを示すものである。 第3章 ランダムライブラリーからの分子選択 論文提出者は、確立した蛋白質スクリーニングシステムの実際的な有用性を示すため、非免疫マウスscFvライブラリーからの抗原特異的抗体の取得実験を行った。リボソームディスプレイ法により、酵母Sup35に対する特異的なscFvのセレクションを行い、ELISA試験において抗原特異的な結合能を示すscFvの取得に成功した。さらに、取得したscFvを一次抗体として用い、酵母抽出液に対するウェスタンブロットを行い、Sup35の特異的なバンドを確認している。このように論文提出者は、Pure Ribosome Displayが、実際のマウスナイーブ ライブラリーからも、抗原特異的抗体の取得が可能であり、実用的なツールであることを示している。 論文提出者の研究成果は、新しい抗体分子の創出や蛋白質の網羅的機能解析といった、蛋白質研究のための高効率で信頼性の高い基盤技術となり、生命科学分野の進展や医薬分野、産業などの発展に大きく貢献することが期待される。 なお、本論文第1章は、上田 卓也教授、清水 義宏助手、イン ベイウェン博士との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。 | |
UTokyo Repositoryリンク |