学位論文要旨



No 122752
著者(漢字) 高山,尚子
著者(英字)
著者(カナ) タカヤマ,ナオコ
標題(和) 食物アレルギーにおける制御性粘膜特異的DX5陽性T細胞の解明
標題(洋) Mucosa-associated unconventional DX5+T cells for the regulation of food antigen-induced allergy.
報告番号 122752
報告番号 甲22752
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第289号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 メディカルゲノム専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清野,宏
 東京大学 教授 井上,純一郎
 東京大学 教授 北村,俊雄
 東京大学 教授 高津,聖志
 東京大学 教授 三宅,健介
内容要旨 要旨を表示する

【研究背景および緒言】

 現代においてアレルギー疾患は国民病・難治病として知られており、今もなお予防及び治療に向けて精力的に研究が行われている疾患の一つである。特に食物アレルギーについては、花粉症や喘息などに比べてその機序及び発症メカニズムについて解析するための動物モデルなども少なく不明な点が多い。食物アレルギーを発症した場合深刻な病状を呈することもあり、中にはアナフィラキシーなどのショック症状を引き起こし、死に至る場合もある。したがって、これらの発症メカニズム並びにそのコントロール機序が明らかにされることは、新しい予防・治療法の確立に貢献する為に重要である。

 食物アレルギーや花粉症をはじめとする各種アレルギー性疾患は、一般的にヘルパーT細胞2型(Th2)特異的な疾患であるとされており、IL-4、IL-5、IL-13などのTh2タイプのサイトカインが症状の発症・悪化に関与していると考えられている。通常、消化吸収の過程で引き起こされる食物アレルギーでは、その症状の一つとして重篤な下痢や嘔吐として観察される。この際に、ヒト体内において高レベルのIgE産生と同時に腸管における粘液分泌の亢進および水分の再吸収異常を伴うが、気道アレルギーや接触性皮膚炎などのモデルとは異なり、アレルギー性腸疾患モデルマウスは未だ確立されていなかった。当研究グループでは、腸管における抗原特異的なアレルギー発症モデルマウスの確立に成功し(Mi-Na Kweon et al. J. Clin. Invest. 106:199,2000)、現在このモデルマウスを用いて粘膜免疫という観点から抗原特異的食物アレルギーの発症機序およびその予防・治療法の確立に向け研究を行ってきた。粘膜免疫において、小腸パイエル板は獲得免疫応答を誘導する重要な粘膜関連リンパ組織であり、実効組織である腸管粘膜固有層との間にクロスネットワークを構築し、抗原特異的応答の誘導と制御に重要な働きを担っていることが知られている。当研究室で開発した食物アレルギー動物モデルにおいて、誘導組織であるパイエル板とそこに存在する粘膜免疫担当細胞の役割は未だ明らかにされていなかった。そこでパイエル板における免疫担当細胞と食物アレルギー誘導との関連性に注目し、その中でも制御性T細胞や抑制性サイトカインであるIL-10産生細胞の相互反応に重点を置いて解析を進めることにした。

【研究方法及び結果】

食物アレルギー発症におけるパイエル板の役割の解明

 当研究室で確立された食物アレルギー発症モデルマウスは、BALB/cマウスにニワトリ卵白アルブミン(OVA)をComplete Freund Adjuvant(CFA)存在下で皮下投与して感作したのち、1週間後50mgのOVAを経口により連続投与することでアレルギー性下痢が発症する。このモデルマウスは、大腸に限局して抗原特異的抗体価の上昇を伴うアレルギー性応答が惹起され、重篤な下痢を発症し、また発症に伴い全身において抗原特異的IgE産生も増加する。逆に小腸リンパ球においては抗原特異的抗体価が低く、CD4陽性T細胞からのTh2型サイトカインであるIL-4やIL-5の産生も大腸に存在するリンパ球に比べて劇的に少ないことが明らかとなっている(Mi-Na Kweon et al, J. Clin. Invest, 166:199,2000)。今回私は小腸で激しい炎症が確認されない現象に着目し、小腸において制御性機構が存在するという仮説のもと実験を進めることにした。

 粘膜免疫において、小腸パイエル板(Peyer's patch; PP)は獲得免疫応答を誘導する重要な粘膜関連リンパ組織として、実効組織である腸管粘膜固有層との間に抗原特異的免疫応答の誘導と制御を行う重要な働きを担っていることが知られている。PPにおけるアレルギー発症抑制性機能を明らかにするために抗インターロイキン7受容体α抗体(anti-IL-7R)をマウス胎児期に投与することでパイエル板欠損マウス(PP-null)を作製し上述のようにアレルギーを誘導しパイエル板があるマウス(PP-intact)を比較することでPPの役割について明らかにすることにした。その結果、通常では下痢を発症しない低濃度である10mgのOVAの投与により重篤な下痢がPP-nullマウスにおいて観察された。また、発症を抑制している状態である低濃度の抗原を投与した正常マウス由来PP細胞をPP-nullマウスに移入したところ、下痢の発症が抑制されたことより、パイエル板に抑制性の細胞が存在する事が示唆された(図1A)。以上の結果より、アレルギー性下痢の発症において小腸パイエル板に制御性の細胞・機構が存在することを示唆する結果が得られた。

パイエル板における制御性細胞の同定

 10mgのOVAをコントロールマウス(PP-intact)に経口投与した際にはアレルギー性下痢を発症しない事を裏付ける様に、PPにおいてTh2型サイトカインとは異なる抑制性サイトカインであるIL-10が高産生されていた(図1B)。どの細胞群がIL-10を高産生しているかを検討するために、主な細胞集団であるCD4,CD8,B220,DX5,CD11b及びCD11c分画群を精製・分取して定量的RT-PCRを用いてmRNAの発現を確認した。その結果、主要IL-10産生細胞としてCD4+およびDX5+細胞が確認された。そこで、IL-10を産生するCD4+の細胞としてCD4+CD25+T細胞(Treg)が知られているので、このTreg細胞数を確認したところ、低濃度のOVAを経口で投与することによりCD4+CD25+T細胞がPPにおいて優位に増加していた(図2)。さらに、この増加してきたCD4+CD25+T細胞はFoxp3陽性であることも確認されTreg細胞であることがわかり、このTreg細胞はTGF-βではなくIL-10産生性であることも確認された。よって、アレルギー性の下痢を制御している因子としてこのIL-10産生性Treg細胞の関与が示唆された。そこで抗IL-10抗体または抗CD25抗体をPP-intactマウスに投与する実験を行ったところ、これら抗体を投与されたマウスはIgEの高産生を伴った非常に重篤な下痢を発症した。よって、パイエル板におけるIL-10産生性のTreg細胞がアレルギー症状を抑制していることが明らかとなった。

パイエル板におけるIL-10産生性DX5+細胞の同定

 PPにおいてCD4+CD25+T細胞以外の主なIL-10高産生性の細胞としてDX5+細胞が存在することが定量的RT-PCRによって明らかとなった。さらにin vivoでの抗CD25抗体または抗IL-10抗体を投与することにより、抗CD25抗体投与を行ったマウス群と比較して抗IL-10抗体を投与したマウス群がより早期にアレルギー性の下痢を発症した。そこでIL-10産生性DX5+細胞がアレルギー性下痢の抑制に関与していることが示唆され、それを明らかにするために、IL-10(-/-)マウスから得られたDX5+細胞をPP-nullマウスに移入したところ、アレルギー性下痢の発症が強く抑制されIL-10産生性DX5+細胞が制御的に働いていることを示唆する結果を得た。DX5を発現する細胞として顆粒を持った細胞やNKまたはNKT細胞などが存在することが分かっている。そこで、DX5陽性の細胞集団を特定するために、NK細胞特異的に発現しているとされているasialoGM1(ASGM1)に対する抗体とT細胞マーカーであるCD3特異的抗体で共染色したところ4つの細胞集団が確認された。次にIL-10を高産生している細胞群の特定を行うため、それぞれの細胞を回収した後、IL-10 mRNAの発現を確認したところDX5+CD3+ASGM1-細胞において優位に発現が高かったが、Vα14iT細胞特異的と言われているCD1d拘束性ではなかった。さらにこのDX5+ASGM1-CD3+細胞はCD4陽性でありTCRβを発現していることが判明した。また、このDX5+TCRβ+CD4+細胞はDX5+TCRβ+CD4-細胞に比べてIL-10を高産生することも確認でき、in vivoにおける移入実験により下痢を発症するPP-nullのアレルギー症状を顕著に抑制する事が出来た。よって、このIL-10高産生性DX5+TCRβ+CD3+CD4+ASGM1-細胞がアレルギー性下痢の抑制に重要な役割を果たしていることが明らかになり、このユニークな細胞集団をMUCODX5(DX5+TCRβ+CD3+CD4+ASGM1-)と命名した。

マウス脾臓からPPへのMUCODX5細胞遊走

 今回の我々の結果では、MUCODX5細胞がTreg細胞と相互作用を行うことでアレルギー性下痢を抑制していることが判明している。以前の当研究室の研究において、OVAで全身感作されたマウス脾臓よりCD4+T細胞が腸管に移動しTh2型免疫応答を惹起する上重要な役割を果たしていることがすでに示されていたので、PPにおけるMUCODX5細胞がCD4+T細胞と相互作用する際に脾臓からの移動が重要であることを想定し移入実験を行った。まず、あらかじめOVAで全身感作したGFP-Transgenicマウスの脾臓からDX5+細胞を精製し、同様に全身感作を行った正常マウスに移入して経口投与を行った群と行わなかった群で比較を行った。その結果、脾臓由来GFP+DX5+細胞が小腸や大腸の粘膜固有層領域では観察されなかったのに対し、PPでのみGFP+DX5+細胞の存在が確認できた。さらにこのDX5+細胞はCD4およびTCRβ陽性であった。以上より、全身感作され活性化した脾臓に存在するMUCODX5細胞が、経口による抗原暴露後に小腸PPに遊走し、そこでCD4+T細胞と相互作用することでIL-10を介してCD4+CD25+Treg細胞を誘導しさらにアレルギー性下痢を抑制していることが明らかになった。これはIL-10(+/+)またはIL-10(-/-)マウスから得られたDX5+細胞をPP-nullマウスに移入したのちアレルギー性下痢を誘導した時、アレルギー症状発症が前者で抑制が成立し、後者において抑制されなかった実験結果を支持するものであった。

パイエル板におけるIL-10産生性DX5+細胞とTreg細胞の誘導機構の解明

 IL-10産生性DX5+細胞とCD4+CD25+T細胞との関係を調べるために、OVAを経口投与したマウスPPより精製したCD4+T細胞と同様に精製したDX5+細胞をOVAと抗原提示細胞存在下で培養した。その結果、それぞれの単独培養系と比較してDX5+細胞との共培養によりCD4+CD25+T細胞が優位に増加していた。また、CD4+とDX5+細胞の共培養によりIL-10が高産生されていることも確認され、PPにおいてDX5+細胞がCD4+CD25+Treg細胞を誘導している可能性を示唆する結果が得られた。

【まとめ】

 以上の研究により、脾臓由来のMUCODX5(DX5+TCRβ+CD3+CD4+ASGM1-)細胞が特異的に小腸パイエル板へ遊走し、パイエル板内においてIL-10を高産生性し、CD4+CD25+Treg細胞の誘導と両細胞群が連携した腸管粘膜に特有な新しい制御機構を構築していることが強く示唆された。さらに、パイエル板においてIL-10産生性MUCODX5細胞によって誘導されたTreg細胞が、小腸におけるアレルギー応答および大腸でのアレルギー性下痢の発症を抑制していることも明らかになった。

【考察】

 パイエル板内における制御性細胞ネットワークの存在を突き止め、さらにMUCODX5細胞がTreg細胞を誘導する機構を初めて明らかにした。通常NKT細胞は多様性を持たないT細胞受容体であるVα14-Jα18によって抗原提示細胞上のCD1d分子を介してα-Galcer分子を認識し活性化される。しかしながら、CD1d非拘束性のNKT細胞が存在することが報告されており(Motoi Maeda et al, J Immunol, 172; 6115, 2004)、今回α-Galcerを使用せずOVAの経口投与によってIL-10高産生のMUCODX5細胞を誘導することを示すことが出来たことは非常に興味深いものである。また近年、MR1(単系主要組織適合性複合体様分子I)拘束性であるMAIT(粘膜特異的NKT様細胞)の存在が明らかにされたので、MAIT細胞とMUCODX5細胞との関連性も興味深い。我々が報告してきたIL-10産生性MUCODX5細胞は、脾臓からパイエル板のドーム上皮細胞群直下(Sub Epithelial Dome:SED)と呼ばれる主にDCが存在している領域に特異的に遊走していた。このTreg細胞誘導性のMUCODX5細胞を標的とすることで新しいアレルギーの予防・治療法開発に結び付くと考えられる。

図1.アレルギー性下痢誘導におけるPPの役割 (A)PP-intactとPP-nullマウスのアレルギー性下痢誘導の比較 (B)アレルギー性下痢発症が抑制されているPP-intactマウスの同組織におけるIL-10高産生確認

図2.低濃度のOVAを経口で投与されたPP-intactマウスの同組織におけるTreg細胞の増加

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は二章からなり、第一章は食物アレルギーにおける腸管免疫の要であるパイエル板(PP)とそこに存在する制御性T細胞の役割について明らかにし、第二章はその成果を基盤として新たに同定したアレルギー性免疫応答を抑制する粘膜系DX5+T細胞について免疫生物学的役割とその意義について論じている。

 第一章では、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)を経口接種抗原とした食物アレルギー発症モデルマウスにおいてPPがアレルギー誘導制御に重要な役割を果たしていることを明らかにし、粘膜免疫と食物アレルギーの関連性について追求している。PPに存在する主な免疫担当細胞群の内CD4+CD25+Treg細胞がIL-10を高産生していることを突き止め、食物アレルギー発症抑制におけるPPとIL-10産生性Treg細胞の重要性ついて論じている。

 抗原が小腸で取り込まれる際、小腸PPは抗原の取り込みを行い、その処理・提示の過程を経て抗原特異的免疫応答を誘導・惹起する場として知られてる。しかしながら同組織のアレルゲンに対する免疫応答誘導制御については不明な点が多い。そこで、本研究は食物アレルギーの誘導・制御におけるPPの役割を直接的に解明している。高山氏は、彼女の所属している研究室で確立した食物アレルギー発症動物モデルにおいて、アレルギー応答が大腸に限局し小腸では観察されていないことに注目し、「小腸PPにアレルギー制御システムが存在するのでないか」という仮説のもと、抗IL-7Rα抗体をマウス胎生期に投与することで作成したPP欠損マウス(PP-null)を用いて研究を進めた。

 食物アレルギーは、完全フロイントアジュバンドと共にOVAで全身感作し、一週間後に経口でOVAを連続投与することで誘導している。食物アレルギーの発症は、8〜10回の経口投与後にTh2型の免疫応答と共に抗原特異的IgE産生が上昇し、下痢の症状として観察される。食物アレルギーにおけるPPの役割を直接的に明らかにするべく、作成したPP-null又はコントロール抗体を投与したPPが正常に発達したマウス(PP-intact)の両マウスに、低濃度である10mgのOVAを経口投与することでアレルギー性下痢の発症を比較検討している。この実験によりPP-null群の一部において経口投与一回目という早期にアレルギーを発症したのに対しPP-intactではアレルギー性下痢の症状が観察されないことを示した。次に低濃度である10mgのOVAを投与したPP-intactマウスにおいてPP-nullマウスと比較してアレルギー性下痢の発症が見られないことから、マウスPPから細胞を回収してサイトカイン産生を検討した。アレルギーの発症を抑制しているマウスのPPにおいて抑制性サイトカインであるIL-10が高産生されていることを明らかにした。さらに、どの免疫担当細胞群がIL-10を産生しているかを特定するために、主な細胞群を精製・回収し定量的RT-PCR法にてIL-10mRNA発現を検討している。これによりCD4陽性細胞画分に高いIL-10の発現を認め、さらにIL-10産生性のCD4陽性細胞はCD4+CD25+T細胞であることも示した。このIL-10産生性のCD4+CD25+T細胞はFoxp3陽性であることも示し、CD4+CD25+Foxp3+のTreg細胞であることを明確に特定した。CD4+CD25+Foxp3+ Treg細胞をPP-nullマウスに移入することでアレルギー性下痢の発症を抑制することも同時に示し、PPに存在するIL-10産生性Treg細胞が食物アレルギー発症を抑制していることを明らかにした。

 次に、第二章は第一章で得られた結果を基盤として、PPに制御性のDX5陽性細胞が存在することを同定し、その細胞はCD4及びTCRβ陽性で抗原特異的に脾臓からPPに遊走することでPP内に制御性ネットワークを構築する事について論じている。

 第一章において食物アレルギーをコントロールするIL-10産生細胞としてCD4+CD25+Foxp3+Treg細胞の存在を同定したが、同様にDX5陽性細胞からも高いIL-10 mRNA発現が認められることを突き止めた。また、in vivoでの抗体処理によるCD25及びIL-10の影響を除く実験系において、抗IL-10抗体を投与したマウス群の方が抗CD25抗体を投与したマウスに比べて早期に下痢が観察されることに注目し、「IL-10産生性Treg細胞の他に同サイトカインを産生し食物アレルギーの発症を制御する細胞が存在する」と仮説し実験を進めた。そこで、アレルギー発症を抑制する新規細胞としてIL-10産生性DX5陽性細胞が制御性細胞として働いていることを、IL-10KOマウスから回収したDX5陽性細胞をPP-nullマウスに移入する実験を行うことで明らかにした。DX5はNK、NKT及び顆粒球に発現していることが知られているので、細胞を特定するべくNKに発現しているASGM1とT細胞マーカーであるCD3を用いて確認し、それぞれの細胞群におけるIL-10mRNA発現を検討している。この実験によりDX5+CD3+ASGM1-細胞がIL-10を高産生していることを突き止め、さらにこの細胞はCD4及びTCRβ陽性であることを明らかにした。DX5+CD3+ASGM1-細胞はNKT細胞様の表現型を示していたので、多様性の低いVα14T細胞レセプターを持ったNKT細胞が欠損しているCD1dKOマウスを用いる実験系を立て検討した。この実験により、コントロール群であるCD1d(+/+)と同じくCD1d(-/-)マウスにおいても下痢の発症が観察されないことを示し、DX5+TCRβ+CD3+CD4+ASGM1-細胞は典型的なVα14NKT細胞とは異なる細胞であることを明らかにした。さらにDX5+TCRβ+CD3+CD4+ASGM1-細胞の移入実験によりこの細胞が強い抑制能を持ち食物アレルギーの発症を制御することを示し、粘膜組織に存在する新しい制御性細胞としてMUCODX5と命名している。次に、このMUCODX5細胞がどこに由来しPPにおいて制御性細胞として作用するのかを明らかにすべくGreen fluorescence protein-transgenic (GFP-Tg)マウスの脾臓から精製・回収したDX5陽性細胞をPP-intactマウスに移入する実験を行っている。これによりGFP+MUCODX5細胞がPPのドーム直下に抗原特異的に遊走していること示し、さらにMUCODX5細胞が粘膜指向性インテグリンであるα4β7を発現して抗原特異的に脾臓からPPに遊走することを明らかにした。また、MUCODX5細胞とnaiveマウスから回収したCD4+T細胞を共培養することでFoxp3陽性のCD4+CD25+Treg細胞が増加する事も示し、MUCODX5細胞がTreg細胞誘導能も持つことも明らかにした。

 以上より、脾臓からPPへ抗原特異的に遊走してきたIL-10高産生MUCODX5細胞が、食物アレルギーの発症を制御することを論理的に検討・証明し、その結果を詳細にまとめている。

 なお、本論文は論文提出者が主体となって遂行および解析した研究であり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、高山氏は博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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