学位論文要旨



No 122755
著者(漢字) レ ホア ティ ヴィエト
著者(英字) Le Hoa Thi Viet
著者(カナ) レ ホア ティ ヴィエト
標題(和) ベトナム領内メコンデルタにおける人口構造物建設が水文環境に与えた影響評価についての研究
標題(洋) HYDROLOGICAL EFFECTS OF LOCAL MADE FLOOD CONTROL STURUCTURE IN MEKONG RIVER DELTA IN VIETNAM
報告番号 122755
報告番号 甲22755
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第292号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 自然環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 春山,成子
 東京大学 教授 須貝,俊彦
 東京大学 助教授 斉藤,馨
 東京大学 教授 山路,永司
 東京大学 教授 神田,順
内容要旨 要旨を表示する

要旨

 ベトナムでは,1996年洪水が約9年確率の比較的大規模なものであったため,後にデルタでの減災を考え,堤防の建設ならびに水路堤のかさ上げ,カンボジア国境での水文施設の建設が行われ,今後も続いていくことが予想される.また,都市域拡張のために,道路,水路,塩害用堰,水質改善用の下水道といったインフラ整備を行ってきている.これらの人工構造物は,低平なデルタの水文環境に影響を及ぼしてきた.既往の研究では,メコンデルタにおける洪水時の水文解析が行われてきたが,必ずしも広域で低平なデルタ微地形での詳細な水文解析ではなかった.また,人工構造物の影響を考慮に入れたシミュレーションも行われていない.本研究では,Saint-Venant equation systemを基礎としたGISを用いて,Hydro-GISモデルを開発した.このモデルの有効性および正確性を検証し,ベトナム領内のデルタでの水文解析を行った.ベトナム領内の観測地点のデータを使用し,前述の1996年,歴史洪水である2000年洪水,および2001年・2002年・2003年の水文解析を行った.本研究ではベトナム領内の水文データ,気象データ,河道データに加え,従来では用いられてこなかった標高データ,行政計画データ,堤体の高度変化データを用いてHydro-GISモデルでシミュレーションを行い,人工構造物の建設による影響を明らかにした.研究の結果,2000年洪水をHydro-GISモデルによってシミュレーションし作成した水位のコンターマップと各観測地点の実測値がほぼ一致したことから,本モデルが正確かつ有効であることを証明した.また,人工構造物が人的災害の軽減効果があること,河道の洪水ピーク量が増加傾向にあることを明らかにし,カンボジアからドンタップモイおよびロンスァン地域への人工構造物の洪水アセスメントを行った.2000年規模の洪水が起こった場合,その後の構造物建設などにより,2000年時よりも水位が上がる地域,湛水時間が長くなる地域があることを明らかにした.さらに,2010年の都市計画をもとに,歴史的被害のあったリンダ台風が雨季に襲来した場合,および海水面が0.5m上昇した場合をモデルケースとして,ベトナムでの将来の河川計画に必要とされる水文予測を行った.

 キーワード:メコンデルタ,水文学,洪水変動,数値モデル,土地利用,洪水対策構造物

審査要旨 要旨を表示する

 ベトナムでは,9年確率の1996年洪水後にデルタでの減災を考え堤防・水路堤嵩上・水文施設が建設され,道路,水路,塩害用堰,水質改善用の下水道などのインフラ整備も推進されてきた.人工構造物は低平地の水文環境に影響を及ぼしたが,広域に及ぶメコンデルタでの洪水解析・水文解析は行われていない.また,人工構造物の影響を考慮したシミュレーションも行われてこなかった.本研究ではHydro-GISモデルの有効性を検証し,ベトナム領内メコンデルタを対象として1996年,歴史洪水である2000年洪水,および2001年・2002年・2003年の水文解析を行った.本研究ではベトナム領内の水文データ,気象データ,河道データに加え,従来では用いられてこなかった標高データ,行政計画データ,堤体の高度変化データを用いてHydro-GISモデルでシミュレーションし人工構造物建設の与えた影響を明らかにした.その結果、人工構造物建設により,河道の洪水ピーク量が増加傾向にあること,ドンタップモイ・ロンスァン地域の人工構造物建設によるメコンデルタ洪水評価,2000年洪水規模での水文減少についても構造物建設の影響の及ぶ範囲を明らかにし,2010年の都市計画をもとに,歴史的被害のあったリンダ台風,海面上昇時についても水文予測を行った.

 本論文は9章で構成されており,1章では研究の背景と目的が述べられている.2章ではメコンデルタの地形特性および水文特性についての概要が記述されている.3章から8章までが論文の主部であり,9章にて全体の結論が述べられている.

 3章では,フランス統治時代から現代までの200年間を対象期間として公文書検索によるメコンデルタでの水利開発を詳細に分析し,ベトナムでの20世紀後半の洪水対策にかかわるインフラ整備の実態を明らかにした.また,低平地での水文解析を行うために,Saint-Venant euation systemを基礎としてGISを用いたHydro-GISモデルを開発し、このモデルの有効性および正確性を検証した.

 4章では,メコンデルタにおける洪水軽減にかかわるインフラ施設整備の状況を17世紀から18世紀のグエン朝,1859年から1945年のフランス統治時代,第二次世界大戦後の1954年から1975年,そして,近代的なインフラ整備に向かう1975年以降の4時期に分けて、メコンデルタ改造の段階的な変化について示した.

 5章では,1961年から2004年までの40年間を対象期間として,メコン中下流の水文データから歴史的な洪水の抽出を行い,タンチャウおよびチャウドック観測地点における最近40年間の洪水ピーク流量の生起確率を計算し,1996年、2000年洪水のメコンデルタにおける特異な洪水状況を明らかにした,ここでは,メコン本流および支流であるバッサク川においてピーク流量の変化を明らかにし,カントー観測点より下流側では洪水時のピーク流量が最近30年間で大きく増加していることを示した.

 6章では,2000年洪水,2001年洪水,2002年洪水の3つの洪水生起確率の異なる洪水を用いて,メコンデルタの洪水解析をHydro-GISモデルを用いて行った.解析に用いた主たるデータは,1.2kmごとの河川,水路網の河道断面図,1万分の1縮尺の等高線図(DEM)から得た標高データ,土地利用状況,堤防および水利構造物にかかわるデータであるが,これらにあわせて,基礎的なフアクターとして,水文気象データである降水量,蒸発量,土壌浸透量,流出,気温,河川水位,潮汐水位などを用いた.水文解析の結果,メコンデルタではドンタップ省,ロンスエン地区での洪水氾濫に特異性を見出すことができ,ドンタップでは7月初旬から洪水が電波し,7月末に一回目の水位ピークを向かえ,9月下旬にいたるまでに水位が大きく増加するとともに,水位の急激な低減期は2回あるが,ロンスエン地区の場合には9月上旬にむけて水位が緩やかに増加し,その後,緩やかに低減しており,地域による洪水偏差が大きかったことがわかった,これらの洪水ピークの出現,並びに低減する状況はメコンデルタの微地形が基礎にあり,各々の洪水確率の異なる洪水解析においても,ほぼ同様の結果を売ることができた.しかし,湛水深度,湛水期間,洪水の拡大過程について見てみると,洪水の下流側への伝播速度が異なり、平常年に近い2001年洪水では2000年洪水と比べると湛水期間は1ヶ月短縮されていることを明らかにした.

 7章では,メコンデルタでの防災の枠組みを作るための歴史的な洪水となった1996年および2000年洪水を対象として,インフラ整備の影響を明らかにし,今後建設予定のメコン川の堤防の建設の影響はドンタップ省のみならずタンアン省までに及び,湛水深度ならびに湛水期間が長期化するために稲作農業に与える影響が大きいことを明らかにした.

 8章では,沿岸地域からの塩水遡上をきたし,デルタ沿岸部の洪水被害を伴う台風災害についての洪水解析,また,気温上昇に伴う2010年を対象とした洪水解析,都市拡大による周辺地域の洪水解析を行い,従来は洪水被害の少なかったタンアン省、ミト省などでの湛水深度,湛水期間の長期化を明らかにできた,

 以上のように,本研究は,低平なデルタを対象としたベトナム領内のメコンデルタの洪水解析を行い,洪水脆弱性について明らかにでき,インフラ整備の影響がメコンデルタに与える影響を詳細に評価しており,これらの成果は将来的なメコンデルタの減災に向けた地域計画への一助となる。

 したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク