学位論文要旨



No 122758
著者(漢字) 張,愛年
著者(英字) Zhang,Ai nian
著者(カナ) チョウ,アイネン
標題(和) 非線形有限要素解析による船舶の衝突と座礁に関する研究
標題(洋) A Study on Ship Collision and Grounding Using Nonlinear Finite Element Method
報告番号 122758
報告番号 甲22758
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第295号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 人間環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 鈴木,克幸
 東京大学 教授 湯原,哲夫
 東京大学 教授 久田,俊明
 東京大学 教授 都井,裕
 東京大学 教授 大和,裕幸
内容要旨 要旨を表示する

 環境問題の高まりに伴い、衝突、座礁などの事故に対する船体構造強度の研究は数多く行われてきた。大型でかつ高速航行する船舶が衝突した場合には、被衝突船の船側に大きな損傷を与え、乗組員の安全が脅かされるのみならず、積み荷の漏洩により重大な環境汚染を引き起こす恐れも大きい。大型タンカーに対するダブルハルまたは等価な構造の強制化後も、2001年3月に発生したダブルハルタンカー"Baltic Carrier号"の事故をはじめとする船舶の衝突・座礁事故およびそれに伴う貨油の流出事故は未だに後を絶たない。船舶の設計において、通常航行時の強度のみでなく、衝突、座礁などの事故時の強度を評価する手法の研究開発が重要となっている。油槽船の衝突・座礁時には、船体構造の破壊に依存する衝突力と、周囲の流体とタンカー中の貨油の影響を受け、これらと船体運動がカップリングして、複雑な挙動を示す。現状では船体周りとタンカー中にオイルの流体力を含まないFEMシミュレーション解析は設計支援に役立っているが、流体と構造の連成を含んだ衝突・座礁シミュレーション解析は実用レベルにあるとは言い難い。

 このような背景にあって、本研究の目的として非線形有限要素解析の手法の1つであるArbitrary Langrangian Eulerian(ALE)法を用いて、構造と流体の連成を含んだ衝突・座礁のシミュレーションを行い、構造の衝突・座礁に対する強度および船体運動を評価する手法の提案をすることがこの論文の主目的である。陽解法非線形有限要素法汎用コードを用い、タンカー構造には大変形、大歪み、弾塑性挙動、摩擦を考慮した面接触、破壊などを考慮したLagrangeの定式化に基づく有限要素法を用い、流体領域にはArbitrary Langrangian Eulerian(ALE)法を用いて解析を行い、タンカーの衝突を解析する手法を提案する。

 本論文の構成は次のようである。

 第1章では、本研究の背景と必要性および目的を明確にした。第2章では船舶衝突・座礁メカニズムに関する文献調査を行って、その現状と問題点を検討し、まとめた。第3章では,特定された崩壊モードaxial crushing of thin-walled structureは非線形有限要素法シミュレーション解析して、縦式防撓板と横式防撓板の影響を考慮して、新しい等価な板厚公式と崩壊荷重公式を求めることができた。関連実験結果と比較してその妥当性を確認した。第4章では,座礁時のVLCC船底構造破壊の静的実験をFEMシミュレーション解析した。船底構造の座礁耐力および吸收エネルギー特性に対する境界条件、要素タイプ、残留応力、材料特性、摩擦係数、破壊歪みの影響について、解析精度を高めるための方法を述べた。第5章では、油槽船の衝突時には、タンカー中にオイルの影響を考慮して、タンカー構造の衝突耐力と吸收エネルギー特性を評価する手法を研究した。タンカーの貨油を4つのモデル(ALE FEモデル、Lagrange FEモデル、Linear Sloshingモデル、Rigid point massモデル)を用いて、解析結果と比較して、Lagrange FE モデルの優位性を示した。第6章では、周囲の流体とタンカー中の貨油の影響一緒にを考慮して、タンカー構造の衝突耐力と吸收エネルギー特性を評価する手法を研究した。そして、Arbitrary Langrangian Eulerian(ALE)法を用いて、タンカーの衝突・座礁時には、船体構造の破壊に依存する衝突力と、周囲の流体とタンカー中の貨油の運動と船体運動が連成する、複雑な挙動を解析する手法を開発した。さらに、第7章では、これらの手法を用いて、衝突角度、被衝突船(VLCC)の前進速度、衝突船の質量と衝突速度の影響などを調べた。第8章ては本研究の成果と概要を示すと共に、その意義についてまとめた。

審査要旨 要旨を表示する

 大型でかつ高速航行する船舶が衝突した場合には、被衝突船の船側に大きな損傷を与え、乗組員の安全が脅かされるのみならず、積み荷の油の漏洩により重大な環境汚染を引き起こすことが問題となっており、タンカー構造の衝突・座礁耐力および油流出防止能力を評価する手法の開発が求められている。本論文では以下の2点に関して研究を行った。まず、ALE法に基づく非線形有限要素解析を用いて、タンカーの衝突・座礁時における船体構造の破壊に依存する衝突力と、周囲の流体とタンカー中の貨油、船体運動がカップリングする複雑な構造挙動および船体運動を評価する新しい手法を提案した。次に、解析結果に基づいて、タンカーの衝突・座礁時の実用性、合理性と簡易性を考慮した新しい船体構造強度評価の簡易計算システムを構築した。そして具体的に以下の点について研究を行った。

 第3章では、特定された崩壊モード(axial crushing of thin-walled structure)を非線形有限要素法シミュレーション解析した。縦式防撓材と横式防撓材の影響を同時に考慮することにより、新しい等価板の厚さ、極限荷重と平均破砕荷重計算モデルを求める簡易式を導き、関連実験結果と比較して、その計算モデル妥当性を確認した。

 第4章では、座礁時のVLCC船底構造破壊の静的実験に対応するFEMシミュレーション解析を行った。大型座礁実験の結果を比較することによって、船底構造の座礁耐力および吸收エネルギー特性に対する境界条件、要素タイプ、残留応力、材料特性、摩擦係数、破壊歪みの解析精度への影響を検討した。

 第5章では、タンカーの衝突時には、タンカー中にオイルの影響を考慮し、タンカー構造の衝突耐力と吸收エネルギー特性を評価する手法について検討した。タンカー中の貨油を4種類のFEMモデル(ALE FEモデル、Lagrange FEモデル、Linear Sloshingモデル、Rigid point massモデル)を用いて解析した。それらの比較により、Lagrange FEモデルの優位性を示した。

 第6章では、タンカーの衝突時の周囲の流体とタンカー中にオイルの影響を同時に考慮し、タンカー構造の衝突耐力と吸收エネルギー特性を評価する手法を検討した。ALE有限要素法を用いて、タンカーの衝突・座礁時における船体構造の破壊に対する衝突力と、周囲の流体とタンカー中にオイルの影響を受ける船体運動がカップリングする複雑な挙動を評価する新しい手法を提案した。

 第7章では、この新しい評価手法を用いて、衝突した場合のタンカー構造応答と船体運動を把握する為、様々な衝突条件に対するFEMシミュレーション解析を実施した。タンカー構造応答と船体運動特性に対する衝突角度、被衝突船の前進速度、衝突船の質量と衝突速度の影響を検討した。

 第8章では、解析結果に基づいて、タンカーの衝突・座礁時の新しい船体構造強の簡易評価システムを構築した。被衝突タンカーの全体的な横曲げによる振動とグローバルな運動は吸収エネルギーを評価する際に無視できない影響を持つことが確認し、それを含んだ形で簡易評価システムを構築した。そして、その評価システムに基づき、油流出量期待値を評価した。

 以上のように、本論文ではタンカーの衝突・座礁時における船体構造の破壊に関する衝突力と、周囲の流体とタンカー中の貨油、船体運動がカップリングする複雑な問題に対して、構造挙動および船体運動を評価する新しい手法を提案した。衝突・座礁時衝突力と船体運動に対して、本手法はこれまでの研究に比べ高い推定精度を持つことを示した。また、新しい船体構造強の簡易評価システムは既存の簡易計算手法をさらに前進させ、設計の際に有用なツールになると思われる。

したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/9291