学位論文要旨



No 122770
著者(漢字) 鈴木,香菜子
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,カナコ
標題(和) 日欧比較による建築解体廃棄物の資源循環のための方策に関する研究
標題(洋)
報告番号 122770
報告番号 甲22770
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第307号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 社会文化環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 清家,剛
 東京大学 教授 神田,順
 東京大学 助教授 清水,亮
 東京大学 助教授 佐藤,弘泰
 東京大学 教授 柳沢,幸雄
内容要旨 要旨を表示する

【研究の背景と目的】

 現在、持続可能な循環型社会の構築に向けた様々な取組みが実施されている。廃棄物は重点課題のひとつであり、発生抑制やリユース・リサイクルの推進、有害廃棄物の処理に向けた方策が実施されている。建設廃棄物は排出量が多く、日本における廃棄物排出量の約16%、EUにおける廃棄物排出量の約22%を占めているため、資源循環に向けた対策が求められている。

 建設廃棄物のうち、土木廃棄物よりも建築廃棄物の方が様々な種類の廃棄物が排出されるなどの理由から、建築廃棄物のリサイクル率が低くなる傾向がある。また、建築廃棄物のうち6割を占める建築解体廃棄物は、分別時に異物の混入する可能性が高いため、リサイクルが困難である。よって、建築解体廃棄物への対策は特に重要であるといえる。

 そこで本研究は、建設廃棄物への先進的な対策が実施されている日本とEUにおいて、建築解体廃棄物の資源循環のための方策の実施状況を調査し、その方策による効果と課題について明らかにする。その成果を用いて、資源循環を構築させるために実施しうる方策と、各々の方策によって得られる効果や問題点を分析し、建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策について提案する。

 従って、研究の目的は以下のとおりである。

(1)日本とEUにおいて、環境や廃棄物に関する状況と課題、環境や廃棄物に対する施策、各国の建設廃棄物や建築廃棄物、建築解体廃棄物に関する状況と課題などに応じて、建築解体廃棄物の資源循環のためにどのような方策が実施されているのかについて明らかにする。

(2)日本とEUにおいて、建築解体廃棄物の資源循環のための方策を実施したことによって、どの程度の効果が得られ、どのような課題が生じたかについて明らかにする。

(3)建築解体廃棄物の資源循環のために実施しうる各々の方策に関して、期待される普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の問題点や留意事項について分析する。

(4)国や地域の状況や課題に応じた、建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策の策定方法について提案する。

【研究の対象】

 研究対象として、日本と、オランダ、ドイツ、イギリス、フランスのEU4ヶ国を選定した。オランダは、EUの中で建設廃棄物のリユース・リサイクル率が最も高く、効果的な建設廃棄物対策が実施されていると考えられるため選定した。ドイツとイギリスは、1990年代後半から現在にかけてリユース・リサイクル率が急増し、その期間において効果的な建設廃棄物対策が実施されたと考えられるため選定した。また、イギリスでは様々な建材をリユースしていることも選定理由のひとつである。フランスは、リユース・リサイクル率が低いが、有害物質含有建材の使用が多く、有害廃棄物対策が実施されていると考えられるため選定した。

 建築解体廃棄物の資源循環には、行政、建材製造業者、設計業者、建設業者、解体業者、収集運搬業者、処理業者、建築主、発注者、消費者など、多くの主体が関係するという特徴がある。そのため、多くの関係主体が協力し、責任と役割を分担してマネジメントを実施することが重要である。よって本研究では、建築解体廃棄物の資源循環のための方策を調査し分析するにあたり、関係主体によるマネジメントについて重点を置いた。

 建築物は他の工業製品に比べて長期間使用され、ライフサイクルが長いという特徴がある。そのため、建築解体廃棄物の資源循環を実現させるには、建築物のライフサイクル全体を通したシステムを構築することが重要である。よって本研究では、建築解体廃棄物の資源循環のための方策を調査し分析するにあたり、建築物のライフサイクルの各段階における施策や、ライフサイクル全体を統合したシステムの構築について重点を置いた。

 建築解体廃棄物の資源循環は、廃棄物の発生抑制、リユース・リサイクル、有害物質含有建材の処理の3つを実施することによって達成される。発生抑制は建築物の生産・運用段階において対策を実施する。リユース・リサイクルと有害物質含有建材の処理は、建築物の生産・解体・処理・再生段階というライフサイクル全体を通して対策を実施する。本研究では、建築物のライフサイクル全体を通したシステムに注目するため、リユース・リサイクルと有害物質含有建材の処理を研究の対象とした。

【日欧における建築解体廃棄物をめぐる状況と資源循環に向けた課題】

 日本とEU全体、EU4ヶ国における、環境や廃棄物の資源循環に関する施策の発展とその特徴について、文献調査によって把握した。そして、日本とEU4ヶ国における建設廃棄物の特徴や排出・処理状況、建設廃棄物の資源循環に向けた課題について、文献調査や統計データの収集、ヒアリング調査を実施し、各国における建築解体廃棄物をめぐる状況と、資源循環に向けた課題について比較した。

【日欧における建築解体廃棄物の資源循環のための方策に関する分析】

 日本とEU4ヶ国における、建築解体廃棄物の資源循環のための方策について文献調査とヒアリング調査を実施した。

 調査と分析に先立って、建築解体廃棄物の資源循環のための方策における重要なポイントに関して各国の特徴が明確になるよう、方策の枠組を設定した。設定した枠組は、関係主体によるマネジメント、建築物ライフサイクルにおけるシステムの構築、システム構築のための施策の実施、の3つである。また、建築解体廃棄物の資源循環システムは、品質・量の管理システム、情報の管理システム、経済システムの3つのシステムを総合したシステムとして設定した。この枠組に沿って、各国における方策を調査して比較分析し、各国の状況と課題に応じた方策の策定について考察を行った。

【日欧における方策の効果と課題に関する分析】

 日本とEU4ヶ国における、方策による効果と課題について、統計データ、現地の解体業者や処理業者などへのヒアリング調査、解体現場や処理施設の視察などによって把握した。そして、各国における関係主体のマネジメントの特徴による効果と課題について比較した。また、各国における、建築物ライフサイクルにおけるシステムの特徴や、施策の特徴による効果と課題について比較した。そして、資源循環のために実施しうる各々の方策に関して、実際の普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の問題点や留意事項について分析した。

 関係主体によるマネジメントについては、事業者と行政による協定方式と、行政主導方式に分類して、その効果と課題について比較分析した。

 建築物ライフサイクルにおけるシステム・施策については、品目・量の管理システム、情報の管理システム、経済システムの各々に関して、その効果と課題について比較分析した。リユース・リサイクルのための品質・量の管理システムについては、建築物の分別解体からスタートするシステム、解体現場における建築解体廃棄物の分別からスタートするシステム、処理施設における建築解体廃棄物の分別からスタートするシステムに分類し、その効果と課題について比較した。有害物質含有建材の処理のための品質・量の管理システムについては、解体段階において他の廃棄物と分別するためのシステムと、処理段階において有害物質がリサイクル材料へ混入することを防ぐためのシステムに分類して比較した。情報の管理システムについては、発注者や事業者が委託業者や協力業者、解体・処理・再生方法などを選定するために行うシステムと、事業者が建材や建築物、廃棄物、リユース・リサイクル材料などの品質・量などに関する情報を得るために行うシステム、廃棄物の適正な処理を管理・監視するために行うシステムに分類して比較した。経済システムについては、関係主体による適正な費用の負担のためのシステムと、財政措置や処理価格の設定により資源循環を誘導するシステムに分類して比較した。

 施策には、規制、合意、認定、教育など、様々な手法がある。そこで、上に述べた各々のシステムに対して、それぞれの手法を用いた場合の効果と課題について比較分析した。

【建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策に関する提案】

 国や地域の状況や課題に応じた、建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策の策定方法について提案を行った。

 関係主体によるマネジメントについては、事業者主体が主導するパターン、事業者主体と行政とが協働するパターン、行政が主導するパターンの3通りがある。国や地域の状況に応じて、どのパターンを選択すべきかについて示し、また各々のパターンについて、マネジメントサイクルの各段階における作業の仕方や留意点について示した。

 建築物ライフサイクルにおけるシステムと施策については、国や地域の状況に応じたシステムの設定の仕方や検討項目についてまとめた。そして、設定したシステムを構築するための施策について示した。施策の策定にあたっては、状況に合わせて複数の施策を組み合わせて用いたり、施策を徐々に拘束力の強いものへと変化させたりすることによって、各施策の欠点を補完し、より高い効果を目指すことを提案した。また、複数の施策の策定に際しては、建築物ライフサイクルの各段階を総合して扱う核となる施策をつくり、他の施策はその核となる施策を支持し補完するような内容にすることによって、手法の異なる施策や、建築物ライフサイクルの各段階における施策が整合性を持つように策定することを提案した。

 そして、資源循環のために実施しうる各々の方策について、期待される普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の実施によって起こりうる問題や留意事項について示した。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は4章からなる。第1章では、建築廃棄物を対象とすることの重要性が説明され、調査対象を廃棄物に対する様々な取り組みの見られる日本と欧州にしぼり、双方の状況の違いを述べている。その中で研究の目的として、(1)日本とEUにおいて、環境や廃棄物に関する状況と課題、環境や廃棄物に対する施策、各国の建設廃棄物や建築廃棄物、建築解体廃棄物に関する状況と課題などに応じて、建築解体廃棄物の資源循環のためにどのような方策が実施されているのかについて明らかにすること、(2)日本とEUにおいて、建築解体廃棄物の資源循環のための方策を実施したことによって、どの程度の効果が得られ、どのような課題が生じたかについて明らかにすること、(3)建築解体廃棄物の資源循環のために実施しうる各々の方策に関して、期待される普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の問題点や留意事項について分析すること、(4)国や地域の状況や課題に応じた、建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策の策定方法について提案することをあげている。また、研究の対象として日本と、EUの中で建設廃棄物のリユース・リサイクル率が最も高く、効果的な建設廃棄物対策が実施されていると考えられるオランダ、1990年代後半から現在にかけてリユース・リサイクル率が急増し、その期間において効果的な建設廃棄物対策が実施されたと考えられるドイツとイギリス、リユース・リサイクル率が低いが有害物質含有建材の使用が多く、有害廃棄物対策が実施されていると考えられるフランスとしてる。

 第2章では、日欧における建築解体廃棄物の資源循環のための方策として、調査対象の日本及びEU4国について、ヒアリング調査、文献調査、現場調査を通じて得られた知見を整理している。まず、大きな枠組として関係する主体や制度を整理して、調査対象国における廃棄物のマネジメント、資源循環のための施策を比較整理している。

 具体的には、日本とEU全体、EU4ヶ国における、環境や廃棄物の資源循環に関する施策の発展とその特徴について、文献調査によって把握した。そして、日本とEU4ヶ国における建設廃棄物の特徴や排出・処理状況、建設廃棄物の資源循環に向けた課題について、文献調査や統計データの収集、ヒアリング調査を実施し、各国における建築解体廃棄物をめぐる状況と、資源循環に向けた課題について比較した。

 さらに、建築解体廃棄物の資源循環のための方策について文献調査とヒアリング調査を実施した。この中で、関係主体によるマネジメント、建築物ライフサイクルにおけるシステムの構築、システム構築のための施策の実施、の3つを設定し、この枠組に沿って、各国における方策を調査して比較分析し、各国の状況と課題に応じた方策の策定について考察を行った。

 第3章では、日欧における方策の効果と課題を分析している。具体的には統計データ、現地の解体業者や処理業者などへのヒアリング調査、解体現場や処理施設の視察などによって把握した。そして、各国における関係主体のマネジメントの特徴による効果と課題について比較した。また、各国における、建築物ライフサイクルにおけるシステムの特徴や、施策の特徴による効果と課題について比較した。そして、資源循環のために実施しうる各々の方策に関して、実際の普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の問題点や留意事項について分析した。関係主体によるマネジメントについては、事業者と行政による協定方式と、行政主導方式に分類して、その効果と課題について比較分析した。建築物ライフサイクルにおけるシステム・施策については、品目・量の管理システム、情報の管理システム、経済システムの各々に関して、その効果と課題について比較分析した。このような分析を各項目について行った。また施策には、規制、合意、認定、教育など、様々な手法がある。これらを各々のシステムに対して適用し、それぞれの手法を用いた場合の効果と課題について比較分析した。

 第4章においては、2章、3章で得られた知見について考察を加え、建築解体廃棄物の資源循環に向けた効果的な方策についての結果を得て、資源循環のために実施しうる各々の方策について、期待される普及の程度や技術の高さなどの効果、方策の実施によって起こりうる問題や留意事項について示した。

 以上のように、本論文では、不法投棄などで社会問題となっている建築解体廃棄物について、リサイクルなど資源循環を実現するという重要なテーマに対して、日本と欧州で解体現場、廃棄物処理施設、廃棄物関連の制度などの実態調査を詳細に行い、これらに基づいた考察ののちに方策を示すという成果を得た。したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/9295