No | 122772 | |
著者(漢字) | 中村,克行 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナカムラ,カツユキ | |
標題(和) | レーザスキャナと画像センサの併用による群集行動の計測・認識手法 | |
標題(洋) | A Method for Sensing and Recognizing Human Activities by using Laser Scanners and CCD Cameras | |
報告番号 | 122772 | |
報告番号 | 甲22772 | |
学位授与日 | 2007.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第309号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 社会文化環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景と目的 人間行動の計測は非常に幅広い分野との関連を持っており,セキュリティやコンテクストアウェアネスへの応用を中心として,多様な分野で高い関心を集めている.応用に向けた主要な技術的課題は,誰が・いつ・どこで・何をしているのかを自動認識することである.極めてシンプルな課題であり,実際に多くの試みがなされてきているものの,社会の要求に対して必ずしも満足する水準に達しているとはいえない. 例えば自動監視への応用を考えてみる.監視が必要とされている施設には,原子力プラントなどの重要施設や,誰にでも立ち入りが可能な駅や空港ロビーといったパブリックスペースがある.重要施設における自動監視の実現形態としては,侵入者検知といった非常に厳しい監視が求められている.この場合,人物を発見したら即不審人物とみなすことができるため,比較的容易に実現可能である.既往研究で十分にカバー可能であり,実際に製品化されているものも多い.オフィスや学校などでは特定の人物だけを入場させる必要がでてくる.これに対する解として,製品としてはICカードや指紋/静脈認証・電子タグによるもの,実用段階の研究では顔認識に基づくバイオメトリクス認証によるものなどがある.完全に達成できたとは言い切れないものの,成熟段階に入りつつあるといえよう.これらの事例と比較して,パブリックスペースにおいては,大多数の人の中にいるごく少数の不審人物の発見といったゆるやかな監視が求められる.こうした監視形態の実現には,群集における個々の人物の広域追跡技術,監視エリアにおける平常時の学習技術,それに伴う異常事象の認識技術などが求められる.非常に難度の高いタスクといわれており,重要性は指摘されつつも,現状では研究事例すらほとんど無い. こうした自動監視への応用も含め,今後,より多くの条件下で人間行動を計測し,実用化を進めていくためには,(1)広域計測,(2)群集計測,(3)高度な行動認識を実現する必要があると考えられる.例えば,駅や空港・展示会場などのように,観測範囲が広く人が混みあう環境においても,群集中における個々の歩行者の挙動や行動を詳細にモニタリングすることを目指す必要がある.特に行動認識技術として,平常時の学習に基づく異常事象認識の研究を進める必要がある.本論文ではこのような観点から,群集における人間行動の広域モニタリング手法の開発を目的とする.レーザスキャナと画像センサを用いた歩行者追跡手法・画像モニタリング手法・要注目行動の認識手法の枠組みを提案し,都内の鉄道駅における大規模な実験によって提案手法の有効性・信頼性を示す. 論文構成 第2章では,マルチレーザスキャナを用いた歩行者追跡手法について述べる.既存手法が主としてCCDカメラを利用していたのに対し,本手法は複数のレーザスキャナを同期させ,得られた足断面のレンジデータから歩行者追跡を実現する.既存手法と比較して,広域計測が容易であり複数人物を追跡できることを実験で示す.第3章では,レーザベース手法に画像情報を付加したハイブリッド群集計測手法について述べる.レーザスキャナと画像センサを統合する幾何モデル・逐次的に得られる画像シーケンスからベストショットを推定する手法を提案し,展示会場における実験により提案手法の有効性を示す.第4章では,群集における要注目行動の認識手法について述べる.ロバストトラッキングによる追跡結果から歩容特徴・軌跡特徴を抽出し,通常行動部分空間を教師なしで学習する.部分空間からの逸脱を要注目挙動とみなし,群集における個々の歩行者の要注目行動を自動で認識する.第5章では,観測シーンにおける空間的な行動特性を学習することで,より柔軟に要注目行動を認識する手法について述べる.第6章では,駅構内における群集流動解析への応用について述べる.第2章〜第5章で述べた手法をベースとした群集流動のマッピング手法・流動変化の解析手法を提案し,東京都内の駅で実験を行うことによって混雑環境における本研究の有効性を示す.第7章は,結論および今後の展望である. 成果 本研究では,複数のレーザレンジスキャナと画像センサを併用することで,従来手法の課題であった相互遮蔽や照明変動・マルチセンサ協調の問題を解決し,これまでは困難とされてきた広域における群集計測および要注目行動の認識を実現した.また,従来手法がシーン内の行動特性を一様とみなしていたのに対し,本研究では場所ごとに卓越する行動特性(空間的行動特性)が存在することを指摘し,それらの特性を教師無しで学習した.これによって,対象人物の状況に応じた適応的な要注目行動認識を実現した.さらに駅構内における実験や群集行動解析への応用を通じて,実世界への適用可能性を示した.以下,本論文を構成する各章について,その内容を要約する. (第2章)複数のレーザスキャナを用いた群集における歩行者追跡手法を提案し,一日25万人が利用する東京都内のE駅で検証実験を行った.統合するセンサを増やすことによって遮蔽領域を効果的に軽減でき,平均0.6(人/m2)という高い混雑度でも8割超の追跡精度を実現できた.遮蔽に対するロバスト性,協調センシングによる広域計測性,低計算コストによるリアルタイム性に優れており,プライバシー保護にも有効であることが示された.従来手法が苦手としてきた,混雑環境における歩行者追跡に対して極めて高い有効性を誇ることがわかった. (第3章)レーザスキャナのみでは人物の外観や属性情報を取得できないという問題を解決するために,レーザスキャナと画像センサを併用したハイブリッドセンシング手法を提案した.両センサの幾何モデルについて述べ,歩行軌跡に対応する人物画像のシーケンスを抽出した.また,解像度・正対度・遮蔽度を用いたベストショット評価指標を定義し,連続的に得られる画像シーケンスからのベストショット推定を実現した.提案手法を用いることによってレーザスキャナのみでは得られない人物画像を取得できるため,画像情報が必須となる自動監視システムや,ビルにおけるアクセスコントロールシステムへの応用が可能となる.また,抽出したベストショット人物画像を用いることによって,追跡の高精度化への発展も期待される. (第4章)ロバストトラッキングの結果をもとに各歩行者の軌跡特徴および歩容特徴を抽出し,One Class SVMによって通常行動部分空間を学習した.学習した部分空間からの逸脱を要注目行動とみなし,駅における実験によって精度を評価した.軌跡特徴を使った要注目行動の認識実験では,99.3%の認識精度(FPR=1.4%,FNR=0%)を達成した.また,歩容特徴を使った要注目行動の認識実験では,98.3%の認識精度(FPR=2.9%,FNR=0.6%)を達成した.本手法は,(1)教師無し学習手法であるため,サンプルの少ない要注目行動の学習データを収集する必要がない,(2)アウトライアの割合を意味するvを調整するだけで簡便に要注目行動を学習できる,(3)局所動作特徴に基づく学習・認識手法であるため,長時間の同一人物追跡を必ずしも必要としない,(4)軌跡特徴だけでなく,詳細な歩容特徴を用いた要注目行動の認識が可能な点に特徴がある. (第5章)直進する人が多い場所,曲がる人が多い場所,待ち合わせや滞留する人が多い場所など,場所別の行動特性(空間的行動特性)が存在することを指摘し,これらの特性を教師無しで学習することによって適応的な要注目行動の認識を実現した.具体的には,アクティビティマップと場所クラスの学習手法を提案し,東京都内の駅構内に適用した.アクティビティマップを利用することによって,コンコース中央においては方向の変化が生じにくい,壁や柱の影・また店舗の前などでは方向の変化が生じやすい,などの空間的行動特性を学習することができた.こうした特性を考慮することで,より柔軟で人間の感覚に近い要注目行動の認識が実現できた. (第6章)第2〜5章で述べた計測・認識手法をベースとした実用システムを開発し,駅構内における群集行動解析への応用を試みた.まず,駅構内における群集流動を可視化する手法として,速度ベクトルを用いた流動クラスタリング手法,および行動モード判別手法を提案した.さらに,空間の快適性評価の一指標として衝突回避行動に着目し,接近と歩行変化に基づく認識手法を提案した.これらの各行動ラベルを時系列で広域にマッピングすることにより,群集流動を効果的に総描する手法を確立した.次に,こうしたマッピング手法のみでは異なる時点間の流動変化を解析することが難しいという問題解決を試みた.その一例として,カーネル密度推定によって,群集の滞留時間及び滞留場所を統計解析する手法を提案した.一日150万人の利用者が存在する東京都内のS駅において実験を行い,提案手法を適用した.その結果,案内情報表示器の変更前後で流動変化を認識でき,視認性の向上を確認することができた.これまで,旅客に対するアンケートやトラフィックカウンタ,またはカメラによる目視計測に頼っていた群集流動計測の作業負担を大幅に軽減できることを実証した. | |
審査要旨 | セキュリティの維持や公共空間における群集運動のコントロールなどのために、群集の中を歩行する人々の動きをリアルタイムにトラッキングし、そのなかから他とは異なる行動(要注目行動)を行う個人を抽出したいという社会的な要望は大変強い。従来こうした目的のためには監視カメラが多く利用されてきた。しかし、監視カメラから要注目行動を行う個人を人間オペレータが抽出することは労力のかかる作業であり、カメラの台数が増加すると現実的ではない。一方、隠蔽部の多い群集画像から個人個人をロバストに追跡することは容易ではなく、従来の追跡自動化手法も群集をなさず移動する少数の人間のトラッキングには成功しているものの、群衆内の個人のトラッキングには成功していない。こうした背景から、本論文は床面に設置されたレーザスキャナからレーザビームを水平に走査して歩行者をトラッキングする手法を開発すること、さらにCCD画像センサを組み合わせることで個々の人間の識別も可能にすること、また追跡結果を利用して周辺の歩行者と異なる動作(要注目行動)を行う歩行者を自動抽出する手法を開発することを目的としている。本論文は7章からなっている。 第1章:序論 第2章:マルチレーザスキャナを用いた群集における歩行者追跡 第3章:レーザスキャナと画像センサの併用によるハイブリッド群集計測 第4章:群集における要注目行動の統計的認識 第5章:空間的行動特性の学習に基づく適応的行動認識 第6章:駅構内における群集流動解析への応用 第7章:結論 第1章は序論であり、研究の背景、既往研究の問題点、研究目的をまとめている。 第2章はマルチレーザスキャナを用いた群集における歩行者追跡であり、床面に設置された多数のレーザスキャナを水平に走査させることで、歩行者の足の位置を10〜30Hz程度の時間間隔でリアルタイムに計測し、その計測結果をもとに群集の中の個別歩行者の移動を追跡する手法を提案している。具体的には近傍にあるレーザポイントを集約することで足を抽出し、2足歩行モデルを基にしたカルマンフィルターを適用することで歩行者を連続的にトラッキングする。 第3章はレーザスキャナと画像センサの併用によるハイブリッド群集計測について説明している。これはレーザスキャナから抽出される個別歩行者の位置を画像に重畳し、さらにその移動速度・方向から歩行者がカメラをむいて歩いているシーンを同定し、歩行者の画像を切り出すものである。これにより各歩行者のいわゆるベストショットを自動的に抽出、アーカイブでき、レーザスキャナデータのみからでは困難な個人の外見の識別が可能となった。 第4章は群集における要注目行動の統計的認識であり、歩行者の歩行行動を軌跡と歩容により特徴付け、その特徴量をシングルクラスSVMにより機械学習することで、教師データがなくても、要注目行動(その場における歩行者の一般的な特徴から逸脱した行動)を抽出する方法を開発した。 第5章は空間的行動特性の学習に基づく適応的行動認識である。前章で提案した機械学習の方法では通常行動と要注目行動との閾値は、学習の結果、対象地域全体で一定となる。しかし、駅などの公共空間においては行動の特徴は場所により異なる。たとえば直線通路では直線運動をするものが多いものの、改札口周辺では急な方向転換も多く見られる。そのため場所の特徴を抽出してクラスタリングすることにより、異なる行動特徴が発生するゾーンを時間的・空間的に同定し、そのゾーンごとに要注目行動の閾値を決定する手法を開発した。 第6章は駅構内における群集流動解析への応用であり、大規模駅コンコースにおいて実施された検証実験の結果をまとめている。群集中の個別歩行者の抽出、追跡精度、要注目行動の抽出精度などを検証し、高い精度を有していることを示した。 第7章は結論であり、結論と今後の課題を述べている。 以上まとめると本論文はレーザスキャナという新しいタイプのセンサを宮集中の歩行者の追跡にきわめて有効に利用できること、さらに要注目行動を行う歩行者の自動識別が十分な精度で可能となることを、大規模な駅での実証実験を通じて明らかにした研究であり、新規性は極めて高く、さらに実利用への適用性も十分有している。このように空間情報科学への貢献は極めて大であり、博士(環境学)の学位を授与できると認める. | |
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