学位論文要旨



No 122781
著者(漢字) 石川,冬樹
著者(英字)
著者(カナ) イシカワ,フユキ
標題(和) サービス指向コンピューティングにおける合意に基づいた協調的な移動性
標題(洋) Agreement-based Cooperative Mobility in Service-Oriented Computing
報告番号 122781
報告番号 甲22781
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第111号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 コンピュータ科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 萩谷,昌己
 東京大学 教授 今井,浩
 東京大学 助教授 五十嵐,健夫
 東京大学 講師 細谷,晴夫
 情報学研 教授 高野,明彦
内容要旨 要旨を表示する

複合サービスの配備のための新しいパラダイムとしてモバイルエージェントのグループ化が提案されている.しかし,オープンな環境において複数のモバイルエージェントが,どのように競合を扱い協調していくかについては未だ議論されていない.この問題に対し本研究では,合意の概念に基づいた協調的な移動のためのモデルを提案する.このモデルで定義されたエージェントの振る舞いは,協調的な移動のための合意の形成と遵守を含む.このような振る舞いは,エージェントの要求や制約を与えるだけでカスタマイズすることができ,振る舞い全てを書き出す必要性がなくなっている.このモデルはEvent Calculusを用いて形式的に表現されており,定義された不整合が起きないことが証明されている.一方で,ここで定義された協調的な移動のための振る舞いは,柔軟に連携するエージェントの複雑な振る舞いの一側面でしかない.特に,協調的な移動のための合意を含めた動的な連携相手の管理を,相互作用や計算を定めたエージェントのメインロジックに組み込む必要がある.エージェント記述の基盤として,サービス指向コンピューティングのための実装技術は,実行時に発見したサービスやエージェントとの相互作用の実装のための基盤を提供してきた.しかし,それらの技術では,実行時の連携相手の切り替えや合意に基づいた連携など,柔軟な連携相手の管理を扱うことができない.この問題に対し本研究では,協調的な移動のための提案モデルを初めとして,柔軟な連携相手の管理を組み込むことを容易とするエージェントの記述モデルも提案する.このモデルでは,ポリシーに基づいた記述により,メインロジックを変更することなく,パートナー選択等のカスタマイズを行うことが可能となっている.最終的には,協調的な移動を含めたエージェントの記述モデルに基づき,エージェントの実装のための枠組みを提供している.この枠組みは,マルチメディアコンテンツの柔軟な管理のためのSmartiveプロジェクトに適用され,様々な活用を通して評価されている.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、オープンな環境において、協調する複数のモバイルエージェントを構築するためのモデルの提案とフレームワークの実装を行い、実際のモバイルエージェントの構築を通して、モデルとフレームワークの評価を行っている。

 モバイルエージェントのグループ化は、複合サービスの配備のための新しいパラダイムとして提案されていたが、オープンな環境において複数のモバイルエージェントが、どのようにして競合を扱い協調するかについては未だ議論されていなかった。この問題に対して、本論文では、合意の概念に基づいた協調的な移動のためのモデルが提案されている。このモデルで定義されたエージェントの振る舞いは協調的な移動のための合意の形成と遵守を含み、エージェントの要求や制約を与えるだけでカスタマイズすることができる。

 また本論文では、協調的な移動も含めて、連携相手の柔軟な管理を組み込むことを容易にするエージェントの記述モデルも提案されている。この記述モデルでは、ポリシーに基づいた記述により,メインロジックを変更することなく,パートナー選択等のカスタマイズを行うことが可能となっている.これに対して、エージェント記述の基盤を与えるサービス指向コンピューティング技術は、実行時に発見したサービスやエージェントとの相互作用を実装する基盤を提供していたが、実行時の連携相手の切り替えや合意に基づいた連携など、連携相手の柔軟な管理を扱うことができなかった。

 本論文は7部から成り立っている。第1部は序章から成り、第2部では本論文の背景と本論文が扱う問題が述べられている。第3部ではエージェントの記述モデルが詳述されている。まず第4章においてその概要が述べられ、第5章において既存のサービス指向のモデルに対する拡張が与えられる。そして第6章においてパートナーの束縛をカスタマイズするためのポリシー記述が導入される。提案モデルによるアプリケーション開発の具体例が第7章で与えられている。第4部では合意に基づく協調的な移動のためのモデルが詳述されている。第8章において合意のモデル、第9章において合意モデルに基づく振る舞いの制御が述べられ、第10章において第6章の具体例に協調的な移動の記述が追加されている。第5部では提案モデルの実装であるFreediaフレームワークが述べられている。第6部では提案モデルの評価が行われている。第12章では、Smartiveプロジェクトにおいて実際にFreediaを利用した開発者に対する質問によって提案モデルの定性的な評価が行われ、その優位性を主張することに成功している。第13章では、Freediaを用いた場合と用いなかった場合のコード量の評価が行われ、提案モデルの優位性が証明されている。最後の第7部は本論文全体のまとめである。

 結論として、モバイルエージェント技術に対する貢献によって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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