学位論文要旨



No 122791
著者(漢字) 川原田,寛
著者(英字)
著者(カナ) カワハラダ,ヒロシ
標題(和) 形状設計のための細分割曲面の解析と拡張
標題(洋)
報告番号 122791
報告番号 甲22791
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第121号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 数理情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉原,厚吉
 東京大学 教授 室田,一雄
 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 山口,泰
 東京大学 講師 寒野,善博
内容要旨 要旨を表示する

(本文) 本論文では,形状設計のための細分割および細分割から生成される細分割曲面について解析し,また細分割の拡張を行った.大きく分けて4つの貢献を果たした.

 第一に,定常な細分割曲面のGj級連続性の必要十分条件の導出である.これは,多くの研究者が研究してきたテーマであり,かつ細分割の最大の難問であるが,本論文では,より直感的な解析を用い,任意の細分割に対しての条件を導く.特に,差分スキームやnormalの細分割スキームなどを任意の細分割が持っていることを示し,それにより線形代数だけで議論が出来ている点が新しくかつ理解しやすい.

 第二に,Laplacian細分割という,Laplacianオペレータと細分割行列の線形結合を新たな細分割行列として持つ細分割の拡張を提案する.Laplacianオペレータは曲面のうねりを制御できる性質を持っており,それを受け継いだLaplacian細分割は細分割曲面のうねりを制御することができる.さらに,第一の貢献の条件を用いることにより,Laplacian細分割がG1級連続になるための必要十分条件を導出する.これにより,滑らかでうねりの制御ができる曲面生成手法が構成できたことになる.非常に実用的な細分割の拡張である.

 第三に,双対細分割の枠組みを提案する.双対細分割は射影幾何学の双対原理を細分割に適用することにより得られる,細分割の双対構造で,三角形でない平らな面をもった多面体により曲面を近似することを可能にする.また,双対細分割は滑らかさの双対など,通常の細分割の性質を多数受け継ぐ.さらに,細分割核というアイデアを用い,双対細分割が生成する曲面が有界となる十分条件も導出する.また変曲平面というアイデアを用い,双対細分割が任意位相の曲面を表現できるようにする.

 第四に,直線の細分割という枠組みを提案する.双対細分割はメッシュの面に関する細分割であり,従来の細分割は頂点に関する細分割である.直線の細分割はメッシュの最後の要素,辺に関する細分割である.直線の細分割も従来の細分割と同様に,滑らかな曲面を生成する.また,直線の細分割が生成する曲面が有界となるための条件を求める.直線の細分割は特殊ケースとして,従来の細分割と双対細分割を含む広い枠組みになっている.これにより,細分割と双対細分割を統一的に議論できるようになる.

審査要旨 要旨を表示する

 コンピュータおよび情報処理技術の発展により,工業製品の設計段階における性能評価は,従来の試作模型による物理実験から,コンピュータによるシミュレーションへと大きく変わりつつある.その結果,自由な曲面を含む立体形状の記述法は,設計された製品を表現するための基本技術として,その重要性がますます高くなると同時に,より高精細な形状表現が要求されるようになってきている.細分割曲面とよばれる表現法は,この要請に応えることのできる形状記述法として期待が高まり,近年注目を浴びている.

 このような背景のもとに,本論文は,「形状設計のための細分割曲面の解析と拡張」と題して,細分割曲面の滑らかさを保証する条件の解明と,その多様な拡張の可能性を論じたもので,7章からなる.

 第1章「はじめに」では,細分割曲面の今までの歴史,形状設計における意義を述べるとともに,その中での本論文の位置づけを明らかにしている.

 第2章「細分割」では,細分割曲線と細分割曲面の定義とその基本的性質を復習して,本論文の議論の準備をしている.特に,不規則三角形メッシュ上の細分割を,メッシュの接続構造の変更規則と細分割行列によって導入するとともに,これが任意位相の形状を表すために必要な重要技術であることを指摘している.また,細分割曲面によって生成される基底関数が入れ子の関数空間をなすこと,それによってウェーブレットが導けることを示し,それを利用したフィルタバンクによるメッシュの階層構造が得られ,それが形状の多重解像度解析の手法となることを指摘している.

 第3章「細分割の滑らかさの解析」では,細分割曲面を構成する際に最も重要な性質である滑らかさに焦点を合わせ,不規則三角形メッシュの上に定義される細分割曲面の種々の連続性を保証する条件を、差分スキームのJordan標準型に着目して明らかにしている.まず,曲面を表現するためのパラメータのとり方に依存しない幾何的連続性を導入し,細分割曲面が,0級連続性,接平面連続性,1級連続性をもつための必要十分条件をそれぞれ与えている.次に2級連続性をもつための必要十分条件を論じ,最後に一般のj級連続性をもつ条件を求める方針も示している.これらの連続性に関しては,すでにZorinの与えた必要十分条件があるが,本論文の結果は,それより弱い仮定のもとで成立する条件であり,かつ線形代数のみで論じることのできる計算手続きを伴ったものであるという特徴をもつ.さらにこの特徴を利用して,Loopの細分割を例にとって法線ベクトルの厳密な計算法も構成している.

 第4章「Laplacian細分割」では,LaplacianオペレータとLoopの細分割を重ね合わせたLaplacian細分割とよばれる新しい細分割曲面を開発し,重ね合わせの重みを変えることによって,高周波数成分を抑制することも、また逆に強調することもできることを示している.そして,第3章の結果をこの細分割スキームに適用することによって,この細分割が1級の連続性をもつための条件を明らかにすると同時に,うねりを最小にするという意味で最適なパラメータの選択法も与えている.

 第5章「双対細分割」では,従来の細分割曲面がすべて頂点生成とその位置の更新手続きから成り立っていることに注目し,それと双対な面の生成とその位置の更新手続きからなる新しい細分割の考え方を提唱している.これによって得られる曲面を,双対細分割曲面と名付け,これが有界であるための条件および滑らかであるための条件を導いている.

 第6章「直線の細分割」では,メッシュを構成する頂点・辺・面の3要素のうち,最後に残った辺を生成しその位置を更新する手続きによって定義される細分割が構成できるかという問いに肯定的な答えを与えている.そして,直線に基づく細分割が,従来の頂点に基づく細分割と,第5章で提唱した面に基づく細分割を含むことを指摘し,これによって通常の細分割と双対細分割の統一的な議論が可能となることを示している.

 第7章「結論」では,本論文で得られた結果と,今後に残された課題をまとめている.

 以上を要するに,本論文は,形状設計のための細分割曲面に関して,その連続性に関して新しい解析法を開発するとともに,従来の細分割をいくつかの方向に拡張してユーザの選択範囲を大きく広げたものであり,数理情報学に大きく貢献するものである.

 よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク