学位論文要旨



No 122799
著者(漢字) 渡辺,義浩
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,ヨシヒロ
標題(和) リアルタイム多点計測のための超並列ビジョンシステム
標題(洋)
報告番号 122799
報告番号 甲22799
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第129号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 システム情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 教授 舘,
 東京大学 教授 安藤,繁
 東京大学 教授 南谷,崇
 東京大学 講師 小室,孝
内容要旨 要旨を表示する

計測は、外界情報を定量化するための重要な技術であり、古くから様々な分野の基盤技術であった。このような計測技術は、測定量の感度、確度、分解能、測定範囲などの向上をモチベーションとして、センサデバイスと原理の確立において発展を遂げて来た。一方、計測の次なる技術展開として、リアルタイム化がアプリケーション構築において果たす役割は極めて大きい。このような要請は、例えばセンシングの手順や手段を能動的に変える場合や、目的対象の状態や経過を所定の量に置くために働きかける場合などで生じるものである。このような枠組の計測応用においては、測定量が制約時間内に得られなければ、その価値が失われてしまう。このため、測定量が出力される頻度(スループット)と遅延(レイテンシ)がアプリケーションのパフォーマンスに与える影響は極めて大きく、入力信号に対する計測処理の性能を向上させることが最重要課題として考えられる。

特に、本論文では画像計測において、このような効果を最大化することに主眼を置く。画像信号から取得できる計測量は多様であり、応用発展の可能性は大きい。しかし、画像信号のデータ量は大きく、高スループットと低レイテンシが要求されるリアルタイム計測において用いることは一般に困難であると考えられる。これまでこのような問題が、手法、計測系、精度の全てにおいて著しい制約を課している局面は潜在的に多いと考えられる。

特に、同問題が顕著になる事例は、処理量と観測レートの両面が高いことを要求する応用である。その代表例として多点計測がある。ここでは、数千個レベルの多数の分割領域が存在し、かつその各領域が高速に状態を変化させるような画像パターンから、特徴量を取得し、様々な計測量を推定する枠組みのものを包括的に多点計測と呼んでいる。同計測は、画像計測の多くにおいて、原理に左右されず、共通して利用できる基盤技術であると考えられる。例えば、産業検査、流体などの不可視対象への応用、顕微鏡下の細胞、生体群の観測、運動・3次元計測によるロボティクス応用などが展開分野として挙げられる。同時に、このような計測は、フレームレートは高い程、対象数は多い程有効である局面が多い。しかし、これらのトレードオフの関係によって張られる応用展開を図るための制約範囲に関して、これまでのビジョンシステムが提供できる余地は決定的に狭かった。

このような局面に対し、ビジョンシステムの構造を変え、計測処理速度を上げ、画像計測のリアルタイム性能を向上させるアプローチは有力である。これは、上記の対比構造における制約範囲をシフトし、応用発展が取り得る領域を広げ、多くのアプリケーションが新たな展開を可能とする余地の確保に直結する。このように計測のリアルタイム化は、センサデバイス、計測原理の技術とあわせて、重要なアプローチであると考えられる。

本論文は、以上のような研究展開の方針に基づき、システム、計算手法、プロセッサ、アプリケーションの4点に関する研究を網羅的に実施することで、これまでの性能を遥かに凌駕するリアルタイム多点計測のための超並列ビジョンシステムと新たなアプリケーションを実現した成果について示すものである。

まず、計測のためのビジョンシステムについてまとめ、新たな構成を提案した。提案に先立ち、リアルタイム画像計測において必要となる機能と対応するモジュールについて議論し、その課題を明らかにした。次に、従来事例をまとめ、リアルタイム画像計測のためのビジョンシステムとして、十分な性能を有するものが存在しないことを述べ、特に、画像特徴量を抽出する機能についての性能不足を指摘した。このような問題に有効なシステムとして、演算機能や内部の構成について専用のコアアーキテクチャを備えた超並列コプロセッサを交換可能な形式で搭載するリコンフィギャラブル高速ビジョンシステムの構成を提案した。提案したコンセプトモデルに基づき、システムの構築を行った。性能評価の結果、課題とした1kfpsでのリアルタイム画像計測を実現しうることを示した。

次に、リアルタイム多点計測を実現するための計算手法について述べる。多点計測では、高フレームレートで数千個単位の多数領域で構成される画像を観測する。このため、計測処理では、画像から多点の領域情報を高速に抽出する必要がある。これを実現する計算手法について、演算を実行する回路構成とともに設計した。設計した手法は、超並列構造、対象並列演算、画素間非同期通信などの特徴的な要素に基づくものである。これらの特徴によって、計算量の観点から効率的な多点情報の画像演算を可能とすることを示した。

ここで設計した計算手法は、データパス、回路機能、タイミングなどに関して、専用的な機能を要するものである。これに対して、対応する処理コアの回路設計を行い、実装した成果について示した。さらに同コアを、独自に構築したリコンフィギャラブル高速ビジョンシステムにコプロセッサとして搭載した成果について示した。動作結果として、1,000から2,000対象の情報を1kfpsでリアルタイムに抽出しうる性能を述べ、従来よりも遥かに高い性能が可能となり、応用展開の可能性を十分に広げたことを示した。

以上の成果によって、画像計測のためのビジョンシステムと、リアルタイム多点計測のためのコプロセッサを構築した。これらを導入することによって、新たに可能となる応用展開についてその提案と評価に関する成果を示した。同計測の応用展開では、多点像を受動的に得る場合と能動的に得る場合の2つのアプローチが考えられる。

まず、受動的多点計測の発展事例として、粒子群の計測応用について述べた。同事例は、静止画観測、動画像観測の両者で多くのアプリケーションを包括するものであり、多点計測における重要な応用展開の1つである。ここでは、粒子材料のパターン識別を伴う計測と、流体計測のリアルタイム化について評価事例を示した。パターン識別を伴う計測では、高速に運動する粒子群の詳細な情報を高レートに取得できることを示した。また、応用展開における波及効果として、同材料の検査の高速化や、高速搬送のための形態に対する自由度が大幅に向上し得ることを述べた。流体計測のリアルタイム化では、画像ベースの計測によって流体を乱すことなく、その状態を高速に取得し得ることを示した。また、応用展開における波及効果として、流体情報のフィードバックが可能となり、これまで実現が困難であった制御への発展可能性が高まることを効果として述べた。

さらに、2つめの応用事例として形状計測に関する成果を示した。これは、多点像を生成する過程において、参照光として多点パターンを与え、計測対象を離散化し、計測を行う能動的多点計測のアプローチの有効事例である。本形状計測は、観測レートと同じ速度で対象全体の形状情報の取得することができる。これによって、高速運動中の対象を計測し、制御する対象として扱うことが可能となる。このような利点は、計測領域を走査し、複数フレームから情報を取得するアプローチをとる手法では確保することが困難であった。本形状計測は、医療、検査、ヒューマンインタフェース、ロボティクスなどの運動中の対象をマニピュレーションするフィードバック応用において効果が大きい。評価実験の結果、非剛体変形と剛体運動の両者における有効性を示した.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「リアルタイム多点計測のための超並列ビジョンシステム」と題し、7章より構成されている.リアルタイム画像計測において、計測データの取得の際のサンプリングレート及びスループットを最大化し、レイテンシを最小化することは、センサデバイスや計測手法等とともに、計測システムの性能を左右する重要な要素である.一般に、画像はデータ量が大きく、処理に時間がかかるため、従来の画像計測ではリアルタイム計測を実現することが困難であった.特に、多数の対象に対して様々な処理を必要とする多点計測では、このことが顕著となる.本論文は、リアルタイム計測のための高い計測処理性能を実現する超並列ビジョンシステムを構築し、多点計測におけるデータ計算手法を提案するとともに、システムに具体的な演算機能を実装することによって幅広い応用が可能となることをいくつかの実証例によって示したものである.

 第1章は「序論」であり、リアルタイム多点計測の今後の方向性とそこにおいて要求される性能を明らかにした上で、新たなビジョンシステムの構築の必要性を論じ、本論文の目的と構成を述べている.

 第2章は「リアルタイム計測のためのビジョンシステム」と題し、高サンプリングレート・高スループット並びに低レイテンシでのリアルタイム画像計測を提供する新たなビジョンシステムについて述べている.まず、リアルタイム画像計測において必要となる機能と対応する演算処理について議論し、その課題を明らかにしている.本論文では、このような問題の解決に有効なシステムとして、専用の処理機構を有する超並列コプロセッサを交換することによって、演算機能や内部の構成が可変となる新しい高速ビジョンシステムのアーキテクチャを提案し、このようなアーキテクチャがリアルタイム計測に有効であることを、実際に構築したシステムにおける基本性能を検証することによって示している.

 第3章は「リアルタイム画像計測のための多点解析方式」と題し、リアルタイム多点計測を実現するための計算手法について述べている.数千個単位の対象に対して、高サンプリングレートでの観測を行うためには、画像から多点の情報を抽出する演算処理の高速化が必要である.これを実現する計算手法として、超並列処理、画素間非同期通信等の特徴的な処理機能を導入し、画素レベルと領域レベルでの並列化を実現したアルゴリズムを提案している.演算量を評価した結果、同手法によって、効率的な多点情報の画像処理が可能となることを示している.

 第4章は「多点解析プロセッサの設計と実装」と題し、前章で提案した計算手法を実行するために実装されたハードウェアについて述べている.提案した計算手法の実行には、与えられた処理に対して、処理構造、回路機能、演算方式等を専用ハードウェアで実現することが必要であり、具体的に、第2章で述べたシステムにコプロセッサとして搭載する形で実装し、その動作結果を示している.このシステムの動作結果から、本システムが第1章で述べた要求性能を満たしていることを示し、想定される応用に対して十分な性能を実現することが可能であることを述べている.

第5章は「高速多点解析に基づくリアルタイム粒子計測」と題し、前章までに述べたコプロセッサとして必要な演算を実装した計測システムを用いて、リアルタイム粒子計測を実現した例について述べている.まず、粒子計測がリアルタイム多点計測の重要な応用の1つであることを示し、高速の多点計測の必要性を述べている.次に、評価例として、粒子材料のパターン識別を伴う計測とリアルタイム流体計測に関する実験結果を示している.パターン識別を伴う計測では、高速に運動する粒子群の幾何学的特徴量を即時に取得できることを実験的に示している.これによって、検査やマニピュレーションの高速化が実現できることを述べている.リアルタイム流体計測では、流体を乱すことなく速度分布を即時に取得できることを実験的に示している.これによって、流体情報のリアルタイムフィードバックが可能となり、流体制御の可能性が高まることを述べている.

 第6章は「高速多点解析に基づく運動/変形物体のリアルタイム3次元次元計測」と題し、多点の参照パターンを能動的に与えることで3次元位置計測を実現した例について述べている.このような計測が高速に運動/変形する物体の計測に有効であることを示した上で、超並列ビジョンシステムを用いた計測システムの構成とその手法を示し、実際に実装している.また、評価実験を行い、高速の非剛体変形並びに剛体運動の計測結果を示している.このような3次元計測システムは、医療、検査、ヒューマンインタフェース、ロボティクス等において、運動中の対象をマニピュレーションするフィードバック応用に有効であると述べている.

 第7章は「結論」であり、以上の成果がまとめられている.

 以上要するに、本論文は、リアルタイム多点計測において、汎用性の高い超並列ビジョンシステム並びに多点計測を高速に実現する演算方式を提案し、実際に回路設計と実装を行い、具体的な応用例を示すことにより、その有効性を実証したものである.これにより、リアルタイム多点計測において性能の飛躍的向上が実現され、様々な応用が可能となる.特に、超並列処理の導入により、多点計測におけるリアルタイム化を容易に実現しうる手法を提供するものであり、関連する分野の発展に貢献するとともに、計測工学の進歩に対して寄与することが大であると認められる.よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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