No | 122856 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | kalpana,Poudel-Tandakar | |
著者(カナ) | カルパナ,ポウデル タンダカラ | |
標題(和) | ネパール・カトマンズにおける若年学生の歩行者交通外傷に関連する行動危険要因と受傷機転に関する研究 | |
標題(洋) | Behavioural risk factors and mechanisms of pedestrian injuries among school adolescents in Kathmandu, Nepal | |
報告番号 | 122856 | |
報告番号 | 甲22856 | |
学位授与日 | 2007.04.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第2956号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 国際保健学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 背景 交通外傷の中でも、歩行者の交通外傷は開発途上国の死亡や疾病の主要原因である。また、その多くは子供や若年者が犠牲となっている。これまでの安全な交通行動を促進する介入活動は、道路横断時に常に道路の両側を見なかったり、道路横断前に信号が青に変わるのを待たなかったり、或いは路上や歩道で遊ぶといった路上での危険行動が歩行者の交通外傷の危険要因であるという仮定に基づいて行われてきた。また、これらの介入活動は安全な交通行動への行動変化を促進してきた。しかし、路上での行動と歩行者の交通外傷の関連は未だ明らかにされていない。 目的 本研究では、以下の2点を目的とする。1)若年学生の路上での危険行動、安全認識、歩行者交通外傷経験の関連を調査する。2)ネパール・カトマンズの若年学生が歩行中に交通外傷を経験した際の危険行動、そのときの車両のタイプ、外傷の結果生じた日常活動制限との関連を調査する。 方法 2003年8月から9月にかけて、ネパール・カトマンズの都市部及び副都市部に位置する14校の6~8年生の生徒1557人に対し、学校をベースとした横断研究を行った。データは無記名自記式の質問票を用い、教室にて収集した。質問項目には、路上行動、安全認識、外傷予防に対する態度、交通安全教育のタイプ、歩行者の交通外傷受傷機転に関する内容が含まれている。データ解析には、多重ロジスティック回帰分析を適用した。 結果 本研究の結果、若年学生の23%(357/1557)は過去3ヶ月間の間に歩行中に交通外傷を経験していたことがわかった(男子:30%(215/725)女子:17%(142/832))。二変量分析では、若年学生は、道路横断時に常に道路の両側を見なかったり、道路横断前に信号が青に変わるのを待たなかったり、或いは路上や歩道で遊んでいる場合に、より頻繁に交通外傷を経験していることがわかった。 次に、多変量解析では、女子の歩行中の交通外傷は特に1)道路横断前に信号が青に変わるのを待たない場合、2)都市部に居住している場合、3)学校への通学経路中に1つ以上の道路がある場合に、より頻繁に交通外傷を経験する傾向があった。これに対して男子は、都市部でテレビを保有しない家屋に居住している場合に、より頻繁に交通外傷を経験する傾向があった。道路横断前に信号が青に変わるのを待たない男子も、より頻繁に交通外傷を経験する傾向があったが、統計学的に有意差は認められなかった。また、道路横断時に常に道路の両側を見なかったり、路上や歩道で遊ぶといった若年学生の交通行動と、歩行中の交通外傷の経験との間には男子、女子共に関連性は認められなかった。 更に、誤った安全認識を持っていた若年学生、すなわち道路の横断をどこでやってもよいと思っていたり、横断歩道で横断してもそれがより安全というわけではないと思っていた若年学生は、横断時に道路の両側を見ていなかったり、横断前に信号が青に変わるのを待たない傾向がみられた。また、路上で遊ぶことを安全と考えていた若年学生は、路上や歩道上で遊ぶ傾向がみられた。更に、ある一つの路上での危険行動をとっている若年学生は、他の路上での危険行動もとる傾向があることがわかった。例えば、道路横断時に常に道路の両側を見ない者は、道路横断前に信号が青に変わるのを待たない傾向がみられた。 歩行者外傷発生のメカニズムとしては、道路横断中や路上で遊んでいるときは自動車との衝突が多く、路上歩行中は自転車との衝突が多いことが判明した。更に、路上歩行中の受傷よりも、道路横断中や路上で遊んでいるときの受傷の場合に、日常活動制限の日数が増える(7日以上)傾向がみられた。 考察 二変量解析では、若年者の路上行動と交通外傷経験との間には有意な関連があることが示された。しかしながら、この関連を示すオッズ比はあまり大きな値ではなかった。これに加え、多変量解析では道路横断前に信号が青に変わるのを待つという行動以外の路上行動と、交通外傷経験との間に統計学的に有意差がなくなった。これは、道路横断前に信号が青に変わるのを待つことが交絡因子となっているものと考えられる。 カトマンズの道路は、様々なタイプの車両が混在し、混雑を極めている。このような環境下で、歩行者が道路横断を判断するのは困難なことである。従って、道路横断時に道路の両側を見ることだけで交通外傷を防ぐことができるとは考え難い。同様に、カトマンズの殆どの脇道は舗装されていなかったり、土道であり、このような道路状況下で車両は非常に低速度で走行せざるをえないため、路上で遊ぶことで交通外傷を経験する傾向が強くなるとは考え難い。 安全教育と交通行動との間には有意な関連があることから、交通安全教育は、若年者の道路横断や路上での行動をより安全にする方法の一つであると考えられる。しかし、若年者の路上行動と交通外傷経験との関連性が認められず、交通安全教育という介入活動だけでは、特に信号機のない道路での歩行者の交通外傷を防ぐのに十分ではないことが示唆される。 カトマンズでは、歩行者と自転車に乗った者は、車両に占領されている道路の端を通行することが主である。これに加え、不十分な歩道や、多くの露店が並ぶ歩道という環境下で、歩行者は自転車が走っている車道を歩かざるを得ない状態になっている。 今後は、更なる縦断的研究、例えば無作為割付対照研究を行い、交通安全教育が歩行者の交通外傷を軽減するのか否かといった結論を導き出す必要がある。本研究では、信号機の導入や歩道と車道の区別といった環境改善を伴わない安全行動の促進活動だけでは、途上国のような交通環境では歩行者の交通外傷の軽減には必ずしも結びつかない可能性が示唆されており、これは途上国における交通外傷予防のための介入策をデザインする上で重要な資料となるものである。 キーワード:受傷機転、交通行動、交通安全の考え、歩行者の交通外傷、歩行者、若年層、学校保健、発展途上国、ネパール | |
審査要旨 | 本研究は、ネパール・カトマンズの若年学生の歩行者交通外傷に関連する行動危険因子と受傷機転に関して調査したものであり、若年学生の路上での危険行動と歩行者の交通外傷経験の関連を調査した途上国のみならず先進国を含めても最初の研究である。これらの関連を調査することは、以下の二つの理由により非常に重要である。 理由1.路上でのより安全な行動を判断することが、特に道路が整備されていない地域においては、困難であるためである。したがって、そのような国では路上でより安全な行動をとることによって必ずしも歩行者の外傷を予防することになるとはかぎらない可能性がある。 理由2.過去の先進国における安全行動介入研究は、危険行動が歩行者の外傷の危険因子であるという仮定にもとづいて行われてきた。そのような介入研究により、行動変容が確認されたが、路上での行動と歩行者の外傷については、これまで調査されてこなかったためである。 本研究の主な結果は以下の通りである。 結果1.道路横断前に信号が青に変わるのを待たない若年学生は、常に信号が青に変わるのを待つ学生と比較して、より交通外傷を経験する傾向があった。 結果2.若年学生の路上での行動、すなわち道路横断前に左右を確認しなかったり、路上や歩道で遊んだりといった行動と、歩行時の外傷経験の間には統計的に有意な関連は認められなかった。 結果3.若年学生においては、道路横断中や路上で遊んでいるときは自動車との衝突が多く、路上歩行中は自転車との衝突が多かった。 今後は、縦断研究、理想的には無作為割付対照研究を行い、路上でより安全な行動をとることによって歩行者の外傷を減少させることができるかどうかについての結論を導き出す必要がある。しかしながら、本研究の結果により、道路整備の不十分な途上国において、行動アプローチは信号機の導入や車道と歩道の区別といったような環境の改善なくしては、必ずしも歩行者の外傷を予防するとはかぎらないことが示唆された。これは途上国における交通外傷予防のための介入策をデザインする上で重要な資料となるものであるため、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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