学位論文要旨



No 122866
著者(漢字) 岡田,浩尚
著者(英字)
著者(カナ) オカダ,ヒロナオ
標題(和) 常温封止接合プロセスと封止性能評価方法の開発
標題(洋)
報告番号 122866
報告番号 甲22866
学位授与日 2007.05.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6576号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 伊藤,寿浩
 東京大学 教授 須賀,唯知
 東京大学 教授 保坂,寛
 東京大学 教授 石原,直
 東京大学 教授 下山,勲
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、従来の加熱プロセスを伴う封止技術ではダメージを受けやすい圧電薄膜や有機薄膜等の材料を用いたMEMS(Microelectromechanical systems)デバイスの封止実装を可能にする、表面活性化法を用いた常温封止接合プロセスの開発と、その封止性能評価方法の開発に関するものである。

これまでに表面マイクロマシーニングによる薄膜シェル構造を用いた手法や、陽極接合等の接合技術を用いたMEMS封止手法が開発されている。これらはそれぞれ利点と問題点があるが、デバイスに対して適切な封止手法を用いることにより(真空)封止を行うことが可能であることが示されている。一方で、これらの封止技術では加熱を必要としているため、キャビティー内部でのガス放出やデバイスへのダメージ等の問題があり、特に圧電薄膜や有機薄膜等の熱の影響を受けやすい材料を用いたMEMSデバイスを封止するためにはプロセスの低温化が望まれている。表面活性化常温接合法(Surface activated bonding: SAB)はプロセスが常温であるため、上記の問題を解決することが可能である。実際に真空封止への適用可能性が検討されており、Si/Si、Si/CuのSABによる真空封止が可能であることがわかっている。しかしながら、Siでは接合に高真空が必要なこと等の問題があり、適切な中間層となる材料をSi上に成膜する必要がある。AuはSABを用いた大気圧での接合が可能であることがわかっており、上記問題を解決できる可能性があるが、Au薄膜の封止接合に関する検討は行われていない。ここで、接触率を真実接触面積と見かけの接触面積の比、リークパスを接合界面に存在する、封止されたキャビティー内部から外界へと連なる未接触部が連なった管とし、臨界接触率をリークパスが消失する接触率とする。本研究では、Au薄膜を用いた常温封止接合プロセスの開発として、金属薄膜接合表面形状が臨界接触率やその近傍でのリーク率に及ぼす影響の調査を行うとともに、実際にSi基板上に形成したAu薄膜同士をSABにより接合し、真空封止の適用可能性を検討した。一方で、封止技術の開発や製品テストでは、半導体実装で利用されているHeやKr-85を用いたリークテスト法では感度が不十分であることや、個別の測定に不向きであること等の問題点があり、MEMSにおける封止評価技術の確立が求められている。本研究では、上記目的に加え、封止評価専用のデバイスを開発することも目的とした。

論文は、総括を含めて全5章からなる。第1章では、本研究の背景としてこれまで発表された封止技術について整理を行い、プロセスの低温化と封止技術の確立の必要性を示した。そして、プロセスの低温化を可能とするAu薄膜を用いた常温接合や封止評価デバイスを組み込んだパッケージングの提案を行い、そのプロセスやデバイスの開発に必要な課題を示した。

第2章では、as-sputtered AuおよびCMP(Chemical mechanical polished)-Cu薄膜表面形状が臨界接触率やリーク率に及ぼす影響を調査することを目的とした。一方の接合面を理想的に平滑な堅い平面(Au, Si)、他方を柔らかい粗面(as-sputtered Au, CMP-Cu)としたモデルで計算を行った。表面形状が臨界接触率に及ぼす影響の調査では、AFM(Atomic force microscopy)で測定した4・m角以下である微小領域の表面形状データにより実際の封止枠サイズ(幅数十・m以上)の臨界接触率を推定する方法を提案した。この方法により、封止枠サイズ(幅)を増加させると、臨界接触率のばらつきが小さくなるために、実効的な臨界接触率を小さくすることができることになるが、臨界接触率が収束するサイズよりも封止枠を大きくしても、接触率に関する接合条件を緩和する効果は無いことを示した。リーク率の調査では、モンテカルロ法を用いた常温接合界面におけるリーク率の計算方法を新たに開発し、リーク率は接触率が増加するにつれ緩やかに減少し、臨界接触率付近で急激に減少することを示した。リーク率が急激に減少する接触率以下では、リーク率は少なくとも10-13Pa m3/sec程度であり、このリーク率ではキャビティー内部の圧力を長期間真空に保つには不十分であるため、常温封止接合では接触率を臨界接触率以上にすることが不可欠であることを定量的に示した。また、リーク率が10-13Pa m3/sec程度以下であった場合、リーク率は急峻に減少するため、その接合界面の接触率は臨界接触率以上になっている可能性が高く、実際に封止接合を行った結果と比較してその妥当性を示した。これにより、接触率とリーク率の関係を用いた新たな真空封止評価方法を提案した。

第3章では、表面粗さを2乗平均粗さで1nm程度以下としたAu薄膜を用いたSABによる真空封止の適用可能性の検討を目的とした。成膜方法に関してはスパッタ蒸着法と真空蒸着法について接合強度を比較し、スパッタ蒸着法が真空封止接合のための膜形成方法に適していることを示した。as-sputtered Au薄膜の接合ではAu膜厚20nm程度で表面粗さが0.6nmの試料を用いた。表面粗さが1nm程度以下では表面の凝着力により無加圧に近い荷重で全面的な接合ができることが予測されたが、全面的な接触を得るためには少なくとも20MPa以上の荷重が必要であることを示した。また、この試料の膜厚ではAuが全面に存在しておらず、一部Tiが露出していることが確認されたが、真空封止では全面で接触している必要はないことは第2章で示されており、20MPaの荷重により12MPa程度の強度が確認されたことから、上記の試料を用いてSABにより真空封止接合が出来る可能性があることを示した。

第4章では、真空封止評価専用デバイスの開発を目的として、デバイスに必要な測定圧力下限、封止評価に適したセンサータイプを検討し、ウエハレベル、低デバイスコストをコンセプトとした簡易測定用デバイスAと、チップレベル、自立したデバイスをコンセプトとしたデバイスBの2つの評価デバイスの開発を行った。これまでに発表された真空封止が必要とされる振動型、赤外線、絶対圧力センサーの文献調査を行い、真空封止評価デバイスに必要な測定圧力範囲の下限は0.1Paであることを示した。また、センサータイプの調査では、隔膜型はセンサーサイズが大きくなること、熱伝導型は測定の際の熱によりキャビティー内壁からのガス放出が懸念されること等から、振動型が真空封止評価デバイスに適していることを示した。デバイスAの基本構造はキャビティー内に3本のカンチレバー構造のみを形成したものであり、カンチレバーの振動の励振と検出は外部の圧電素子とレーザードップラー振動計によりを行うものとした。作製には4インチのSOIウエハとパイレックスガラスウエハを用いており、圧力測定範囲は10-2~103Pa程度であった。カンチレバーの設計では分子流領域における隣接した固定壁がある場合のカンチレバーの減衰量を見積もる方法を新たに提案し、16%程度の精度で減衰量を見積もることができることを示した。デバイスBの基本構造は、貫通電極付き基板チップ、センサーチップ、キャップチップの3層構造とした。センサーチップには静電容量・櫛型振動子をSCREAM法により作製しており、その圧力測定範囲は0.1~104Pa程度であった。この振動子の設計の際には、振動子に多数形成されたリリース用エッチ孔における気体減衰量を見積もる方法を提案し、その妥当性を示した。また、この振動子における可動壁-固定壁間の減衰量の見積もりについては、余弦法則により、特に長い可動壁では減衰量が減少する可能性があることを指摘し、その妥当性を示す結果を得た。

第5章では、本論文の各章で述べた研究結果をまとめ、結論を述べた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、従来の加熱プロセスを伴う封止技術ではダメージを受けやすい圧電薄膜や有機薄膜等の材料を用いたMEMS(Microelectromechanical systems)デバイスの封止実装を可能にする、表面活性化法を用いた常温封止接合プロセスの開発と、その封止性能評価方法の開発に関するものである。特に本論文は、1)接合表面形状のリークに与える影響の調査、2)金属封止枠の常温封止接合への適用可能性の検討、3)封止評価専用デバイスの開発についてまとめたものである。これらの内容について、審査では以下のような議論があった

本研究の意義と全般的な内容について

本論文の成果の具体的な意義に関しては、Au薄膜を用いた表面活性化法による常温封止接合プロセスの開発では、PZTや有機物等の具体的な材料を示し、これらの加熱に弱い材料を用いたデバイスに対する封止プロセスの低温化の必要性から本研究で開発するプロセスの意義を説明した点が評価された。また、封止評価専用デバイスの開発では、これまで半導体実装で用いられているリークテスト法では個別にリークの有無を判断できないこと等の理由からその適用性が限定的であり、本研究で開発するような封止評価専用デバイスを取り付けたキャップ構造を用いる有意性を説明し、それを提案していることが評価された。全体的な論文の記述については、式の適用範囲の明確化や理論の導出過程等の説明も十分になされていると評価された。

1)について

接合表面形状のリークに与える影響に関しては、AFM(Atomic force microscopy)で測定した表面形状データを用いて実際の封止枠の臨界接触率やリーク率を算出しているが、AFMで測定した表面形状データは大きくても4・m角程度であり、そのような微小領域から実際の封止枠(幅数十・m以上)の臨界接触率を算出することの妥当性について議論された。本論文では、多数の異なる1・m角の表面形状データを、例えば16・m角の表面形状データとなるようにランダムに敷き詰める方法により4・m角以上のデータを擬似的に作り、その表面形状データを用いて臨界接触率を算出する方法を提案するとともに、例えば表面粗さが二乗平均粗さで1.53nmのas-sputtered Au薄膜に関しては、16・m角程度の大きさでは臨界接触率が収束することを示すなどの成果が示されている。提案方法の妥当性については、4・m角の大きさに対し、1・m角のデータを敷き詰めたものとそうでないものの結果を比較し、それらがほぼ一致することからその妥当性を示している。このように、この手法により微小領域から封止枠の臨界接触率が算出できることを示す一方で、上記の表面の場合には、臨界接触率の収束値と6個の異なる4・m角の表面形状データから算出した平均の臨界接触率は、前述した収束した値にほぼ一致していることを見出し、臨界接触率の収束値、すなわち実際の封止枠サイズの臨界接触率を算出するためには提案したような微小領域を敷き詰める方法を行う必要はなく、適当な領域数(上記の表面に関しては6個)の異なる4・m角の表面形状データから得た結果の平均値で表せることを示した。また、封止枠サイズ(幅)を増加させると、臨界接触率のばらつきが小さくなるために、実効的な臨界接触率を小さくすることができることになるが、臨界接触率が収束するサイズよりも封止枠を大きくしても、接触率に関する接合条件を緩和する効果は無いことを示している。全体的には、本研究は常温真空封止接合に必要な表面制御条件を算出する方法を初めて提案していることが高く評価された。

2)について

金属封止枠の常温封止接合への適用可能性の検討に関しては、Auの表面粗さが二乗平均粗さで1nm以下の場合には、無加圧での接合実現も予測されたが、実際に荷重を変えて接合実験を行い、その結果を比較することにより適切な荷重印加の有効性を確認するとともに、真空封止接合が出来る可能性を示している点が評価された。

3)について

封止評価専用デバイスの開発に関しては、デバイスの基本形状として固定壁に隣接したカンチレバー構造を提案するとともに、その設計のために必要な分子流領域でのカンチレバーの気体減衰を見積もる式を新たに提案している。作製したカンチレバーの気体減衰量の実測値と提案した式により算出した理論値は良く一致しており、提案した式の有用性が示されている。また、これまでの研究では振動子の機械的なQ値は分子流領域では圧力に反比例することが予測されたが、実測値では傾きが減少しておりその原因が明確になっていなかったが、本研究により、Q値が圧力に反比例する実測値を得ることができ、その原因は構造減衰によって定まるQ値の飽和値が小さいためであることを示していることが評価された。

以上の結果から、本論文には封止プロセスの低温化とその評価技術について工学的に有用な多くの成果がまとめられていると判断される。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる

UTokyo Repositoryリンク