No | 122933 | |
著者(漢字) | 北原,圭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キタハラ,ケイ | |
標題(和) | リボソームRNAの改変によるRNP構築原理の研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 122933 | |
報告番号 | 甲22933 | |
学位授与日 | 2007.09.13 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6587号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | タンパク質の合成工場であるリボソームの構造は生物の進化と共に、機能を保ったまま変化していることが知られている。例えば、大腸菌のリボソームではRNAとタンパク質の重量比率が、2:1であるのに対して、真核生物のリボソームでは1:1、さらには哺乳動物ミトコンドリアのリボソームではその比率が1:3と逆転している。 第1章では、進化的に生じたリボソームのアーキテクチャーの変化とrRNAの最小機能構造を実験的に探求するために大腸菌rRNAの改変を行い、得られた変異体の機能解析を行った。その結果、大腸菌rRNAの146本のRNAヘリックスの内、40箇所が欠失或いは短縮可能であることが明らかとなった。さらに、16S rRNAのh40の短縮をU1Aタンパク質の結合により相補しうることを示した。このことは、RNAの機能はタンパク質に代替可能であることを証明するものである。第2章では、サルモネラ菌IVS配列を大腸菌rRNA内部に挿入する実験を行い、rRNAが様々な箇所で切断可能であることを証明した。この結果は、各rRNA分子が必ずしも1分子として連続している必要が無いことを示している。第3章では、23S rRNAの円順列変異体の作成を試み、合計9種類の変異体を取得することに成功した。円順列変異の導入によって50Sサブユニットのアッセンブリー効率が低下することは無かったため、サブユニットのアッセンブリーは想像以上に柔軟に行われていることが予想された。第4章では、23S rRNAのL2タンパク質結合領域(H66)の詳細な機能解析を行い、RNA-タンパク質間の相互作用が進化的に保存されていることを明らかにした。本章の研究結果はすでにNucleic Acids Research誌に受理されている。 | |
審査要旨 | 本論文は、大腸菌rRNAを遺伝子工学的手法を用いて改変し、機能解析を行ったものである。タンパク質の合成工場であるリボソームの構造は生物の進化と共に、機能を保ったまま変化していることが知られている。例えば、大腸菌のリボソームではRNAとタンパク質の重量比率が、2:1であるのに対して、真核生物のリボソームでは1:1、さらには哺乳動物ミトコンドリアのリボソームではその比率が1:3と逆転している。この事実は、rRNA分子とリボソームタンパク質が機能的・構造的に相補しつつ進化していることを連想させる。リボソームのアーキテクチャーの変遷メカニズムを探ることは、RNP粒子の構築原理を解明することにもつながると期待される。 第1章では、進化的に生じたリボソームのアーキテクチャーの変化とrRNAの最小機能構造を実験的に探求するために大腸菌rRNAの改変を行い、得られた変異体の機能解析を行った。その結果、大腸菌rRNAの146本のRNAヘリックスの内、40箇所が欠失或いは短縮可能であることが明らかとなった。各変異体について、ショ糖密度勾配遠心(SDG)を行い、各変異によるサブユニットのアッセンブリーやサブユニット間の会合への影響を定量した。さらに、レポーター遺伝子(lacZ)の翻訳効率を測定することにより、各ヘリックスの欠失が翻訳精度に与える影響を測定した。これらの実験により、大腸菌rRNAの各ヘリックスの機能の詳細が明らかになった。さらに、16S rRNAのh40の短縮をU1Aタンパク質の結合により相補しうることを示した。このことは、RNAの機能はタンパク質に代替可能であることを証明するものであり、リボソームの進化の課程で見られるrRNA-タンパク質間の相補的進化の概念を実験的に検証することができた。 第2章では、サルモネラ菌IVS配列を大腸菌rRNA内部に挿入する実験を行い、rRNAが様々な箇所で切断可能であることを証明した。この結果は、各rRNA分子が必ずしも1分子として連続している必要が無いことを示している。自然界では、サルモネラ菌をはじめ、IVS配列によりrRNAが分断化されている生物が存在するが、切断される部位は比較的限定されている。本研究では、実際の生物で切断が確認されていない部位においてもIVS配列を挿入すれば切断可能であることを初めて示すことができた。この手法は、工学的にリボソームを改変し、新しい機能を有するリボソームの作成にもつながることが期待される。 第3章では、23S rRNAの円順列変異体の作成を試みた。円順列変異体とは、遺伝子の5'側と3'側をひっくり返してリンカーで連結させた変異体である。これまで、タンパク質の円順列変異体を細胞内で機能させた報告例は多数存在しているが、RNA分子の円順列変異体を発現させた例は存在していなかった。第2章で、rRNAは様々な位置で断片化可能であることが示されたので、本章ではその結果を元に円順列変異体の作成を試みた。その結果、合計9種類の異なる円順列変異体を取得することに成功した。これらの変異体のSDG解析を行ったところ、50Sサブユニットのアッセンブリー効率が野生型のものと極端に変わらない変異体が多いことが明らかとなった。従来、50Sサブユニットが細胞内で効率的にアッセンブリーするためには、23S rRNAの5'側ドメインに特定のタンパク質郡が優先的に結合することが必須であると考えられてきた。しかし、本研究結果では、3'側のドメインから転写が始まるような円順列変異体においてもアッセンブリー効率が正常なものがあったので、そのような考え方を完全に否定することができた。逆の表現をすれば、サブユニットのアッセンブリーは想像以上に柔軟に行われているということが示唆された。 第4章では、23S rRNAのL2タンパク質結合領域(H66)をランダマイズすることにより得られた機能配列の詳細な解析を行った。その結果、機能配列の1つは真核生物の対応部位と同じ配列であることが示された。本配列は、野生型の配列よりも機能が劣るものの、rRNAの他部位の二次的な変異により容易に相補できることが確認できた。このことから、L2結合領域はL2が認識する特徴的な高次構造を維持するように進化してきたことが示唆された。本章の研究結果はすでにNucleic Acids Research誌に受理されている。 なお、以上の研究成果は、論文提出者が主体となって行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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