学位論文要旨



No 122985
著者(漢字) 盧,東川
著者(英字)
著者(カナ) ロ,トウセン
標題(和) 中国の北方都市集合住宅の空間構成と住様式の変遷に関する研究
標題(洋)
報告番号 122985
報告番号 甲22985
学位授与日 2007.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6602号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 西出,和彦
 東京大学 教授 藤井,明
 東京大学 教授 松村,秀一
 東京大学 准教授 村松,伸
 東京大学 准教授 千葉,学
内容要旨 要旨を表示する

1949年以降の中国において、戦争と解放に伴う住宅の被害や人口の都市流入による住宅不足が起き、それを緩和するために、国が一元的に投資、建設し、低家賃で分配するという住宅供給制度が導入された。しかし、1970年代後半までは極端な生産第一主義路線が堅持されたため、平和時期における人口の急激な増加に比べ十分な都市集合住宅建設がなされなかったことは事実だった。

このような背景に、1978年に経済開放政策が実施されるとともに、1980年代に、「(1)住宅の商品化と私有化、(2)住宅の分配方式の見直し、(3)家賃の値上げと元の公有住宅の払下げ」を三本柱とする都市住宅改革政策が実施された。それをきっかけに都市住宅の建設ブームが起こった。その結果、従来の画一的な所有形態の住宅に加え、多様な所有形態の住宅が共存する状況が生じ、住宅を選択できない状態から選択できる状態になり、住宅規模の拡大、住宅の類型や平面構成の多様化が見られた。

近年、高度経済成長の中、住生活をはじめ、生活全般の水準が向上し、外来文化の影響、生活意識と人口構成の変化、新しい空間の採り入れなどにより、中国の都市集合住宅における空間構成や住様式は様々な面において急速に姿を変えている。

社会政治及び経済情勢などの変動に大きな影響を受けている中国の都市住宅政策は現在でも大きな転換を遂げ、新たな段階を迎えている。経済開放政策とそれに伴う住宅私有化によってこの20年都市の住宅事情が急速に変化し、現在もその変化の過程にある。商品化、近代化が進む都市集合住宅おける各空間構成要素の現状、住様式、そして両者即ち空間構成と主な公共生活行為の対応について再考する必要があると考えられる。

本研究は前に述べた中国住宅政策の変化に注目し、北方都市ハルビン市を取り上げ、80年代以来に建てられた都市集合住宅を対象にその普及過程・平面構成・生活行為・起居様式・地方性などの分析軸によって中国の北方都市集合住宅の近代化過程の特徴を整理することを目的とする。

主たる柱は、A.都市居住における集合住宅の位置と役割、B.社会体制と集合住宅供給の関係、C.空間構成の変化と特徴、D.生活行為と居住空間との対応関係、の4つである。

以上の背景と研究状況をふまえ、本研究は、以下の6章よりなる。

序章では、研究の背景と目的、研究の方法、既往研究、論文の構成といった本研究の基本的な考え方を述べる。

第一章 中国の都市住宅建設状況と住宅事情

この章では、前半で都市集合住宅の出現及び建国後各時期の集合住宅建設の背景と特徴を概述し、建国後の都市集合住宅建設は、改造回復期、調整模索期、文革停滞期、改革繁栄期の四段階を経たことがわかった。

次に、集合住宅の平面構成の推移を文献調査に基づいて分析し、小規模住宅、套間型住宅、前期庁型住宅、後期庁型住宅、nLDK型住宅への変容過程として整理した。ここでは、平面構成を規定する要因として、(1)初期の外来影響、(2)コスト低減のための面積制限と平面計画、(3)住生活の合理化と庁の役割、の3つが浮き彫りになった。

更に、80年代以降の中国都市住宅制度改革の状況と現在都市住宅の概況及び住宅供給体制の変化と今後住宅の発展動向を説明した。

最後に、中国の伝統住居の特徴を分類し、概述した。その中で北方の伝統住居の地域性、特徴及び現在の集合住宅との関連性を説明した。

第二章 調査概要および調査から見た居住実態

この章では、調査の目的、方法、内容について述べた。アンケート調査の結果をまとめて、分析・考察した。調査を通して、以下のことが分かった。

(1)現在の中国では、「一人っ子」の政策により、夫婦+子供1人の3人核家族は主な世帯類型である。また高齢化が進むと共に高齢夫婦二人の世帯も増えている。以上の2種類世帯はこれから中国集合住宅の主な世帯類型であることが明らかになった。

(2)住宅建設が大幅に進行すると共に、都市住民の住要求も変化しつつある。住戸ごとの世帯人数が少なくなり、家族規模の小型化傾向が見られた。

(3)住戸空間構成におけるn室無庁、n室1庁から、さらにn室2庁までに発展する傾向が見られた。

(4)新規住宅の選択要因として、間取り、自然環境、交通などの要素が重視されることが分かった。

第三章 集合住宅の空間構成変化及び特徴

この章では、集合住宅の主な空間要素である庁、寝室、余裕室、厨房、衛生間、入り口玄関、バルコニーの構成形態と使い方の実態の調査を通し、分析・考察した。さらに、集合住宅の内装実態の変化を加えて考察した。

結果、以下の特徴が明らかになった。

(1) まず、庁・室を中心とした平面構成の変化として、庁の実態についての考察を通し、従来の「無庁型」の住戸形式から、「庁型」の住戸形式の変化傾向が見られた。「庁型」住戸の変化から見ると、「玄関ホール型」の小さい庁の平面構成から、「拡大居間型」の大きい庁と「複数庁型」の平面構成に至る変化の傾向が見られた。

集合住宅の空間構成における、80年代最初の室中心型から現在の開放庁型空間配置へと移行した。

住宅規模の拡大に伴い、各空間の面積、部屋数とも増加したが、面積の増加は寝室面積の影響よりも、庁の面積と室数増加への影響が大きいことがわかった。

近年、住宅規模の拡大や世帯規模の小型化に伴い、余裕室が現れてきた。余裕室の使われ方としては、大きく2つの傾向が見られた。1つの傾向は、従来の無庁型または庁面積の小さい住戸の場合、余裕室は主に家族の起居室または食事室などの公的行為の場として使用している。また、一定規模と数量の庁を持つ住戸には、余裕室は主に個人室としての利用傾向が高まっている。

(2)次に、その他の空間要素の変化傾向を分析した。

近年、厨房と衛生間の面積は増加し、設備の更新、システム化も進んでいる。今回の調査によると、十分な面積と良好な設備を確保した上で、DK型は北方の都市集合住宅の中で一定の発展を遂げる可能性があるといえる。また、浴室とトイレ空間の機能を分けようという要求はますます強くなっている。

住戸内外の連絡空間としての入り口玄関の役割はますます重要視されている。バルコニーの機能としては、サービス用と生活用の2分化傾向が見られた。

(3)さらに、内装実態の変化について論じた。

中国の都市集合住宅供給の主流であるスケルトン住宅供給の理由と問題点を明らかにし、次に、住戸の改造、内装の変化を把握した。

第四章 生活行為と居住空間の対応に関する考察

この章では、まず、住宅内の生活行為の内容を概述し、集合的行為・個人的行為・家事的行為・生理的行為・補助的行為の5種類に分類した。次に、住居の主な集合的行為(団らん行為、接客行為、食事行為)、個人的行為(就寝行為)、家事行為を主要なものとして生活行為の特徴、類型、実態を明らかにした。この結果、住宅の空間構成の変化に伴って、各生活行為の実態も共に変化しつつある。また、各機能空間の専用化または一体化は、場合によって異なっており、住宅の物環境の変化に対応しながら、各生活行為の変化動向を更に検討する必要がある。

第五章 終章

この章では、上記諸章のまとめを行い、本研究の調査から得られた知見に基づき、中国の北方都市集合住宅の計画について提言を試みた。さらに、今後継続すべき研究の課題を提示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、中国ハルビン市の都市集合住宅の調査によって、都市居住における集合住宅の位置と役割、社会体制と集合住宅供給の関係、空間構成の変化と特徴、生活行為と居住空間との対応関係によって中国の北方都市集合住宅の近代化過程における空間構成と住様式の変遷を明らかにすることを目的としている。

中国の経済開放政策とそれに伴う住宅私有化によってこの20年都市の住宅事情は急速に変化し、現在もその過程にある。従来の画一的な所有形態の住宅に加え、多様な所有形態の住宅が共存し、住宅を選択できる状態になり、住宅規模の拡大、住宅の類型や平面構成の多様化が見られるようになったことが研究の背景にある。商品化、近代化が進む都市集合住宅おける各空間構成要素の現状、住様式、そして空間構成と生活行為の対応について再考する必要があると考えられるのである。

本論文は、6章よりなる。

序章では、研究の背景と目的、研究の方法、既往研究、論文の構成を述べている。

第一章「中国の都市住宅建設状況と住宅事情」では、都市集合住宅の出現及び建国後各時期の集合住宅建設の背景と特徴を概述し、集合住宅の平面構成の推移を文献調査に基づいて分析した。次に、80年代以降の中国都市住宅制度改革の状況と現在都市住宅の概況及び住宅供給体制の変化と今後住宅の発展動向を説明した。また、中国の伝統住居の特徴を分類し、概述した。

第二章「調査概要および調査から見た居住実態」では、調査の目的、方法、内容、結果を示し、分析・考察した。

現在の中国では、「一人っ子」の政策により、夫婦+子供1人の3人核家族が主な世帯類型である。また高齢化が進むと共に高齢夫婦二人の世帯も増えている。以上の2種類の世帯がこれから中国集合住宅の主な世帯類型であることが明らかになった。

住宅建設が大幅に進行すると共に、都市住民の住要求も変化しつつある。住戸ごとの世帯人数が少なくなり、家族規模の小型化傾向が見られた。

住戸空間構成において、n室無庁、n室1庁から、さらにn室2庁までに発展する傾向が見られた。

新規住宅の選択要因として、間取り、自然環境、交通などの要素が重視されることが分かった。

第三章「集合住宅の空間構成変化及び特徴」では、集合住宅の主な空間要素である庁、寝室、余裕室、厨房、衛生間、入り口玄関、バルコニーの構成形態と使い方の実態の調査を通し、分析・考察した。さらに、集合住宅の内装実態の変化を加えて考察した。

庁・室を中心とした平面構成の変化として、「庁型」住戸の変化から見ると、「玄関ホール型」の小さい庁の平面構成から、「拡大居間型」の大きい庁と「複数庁型」の平面構成に至る変化の傾向が見られた。

住宅規模の拡大に伴い、各空間の面積、部屋数とも増加したが、面積の増加は寝室面積よりも、庁の面積と室数増加へ大きく影響していることがわかった。

近年、住宅規模の拡大や世帯規模の小型化に伴い、余裕室が現れてきた。余裕室の使われ方としては、大きく2つの傾向が見られた。1つの傾向は、従来の無庁型または庁面積の小さい住戸の場合、余裕室は主に家族の起居室または食事室などの公的行為の場として使用している。また、一定規模と数量の庁を持つ住戸には、余裕室は主に個人室としての利用傾向が高まっている。

次に、その他の空間要素の変化傾向として近年、厨房と衛生間の面積は増加し、設備の更新、システム化も進んでいる。十分な面積と良好な設備を確保した上で、DK型は北方の都市集合住宅の中で一定の発展を遂げる可能性がある。また、浴室とトイレ空間の機能を分けようという要求はますます強くなっている。

住戸内外の連絡空間としての入り口玄関の役割はますます重要視されている。バルコニーの機能としては、サービス用と生活用の2分化傾向が見られた。

さらに、内装実態の変化について論じた。中国の都市集合住宅供給の主流であるスケルトン住宅供給の理由と問題点を明らかにし、次に、住戸の改造、内装の変化を把握した。

第四章「生活行為と居住空間の対応に関する考察」では、住宅内の生活行為の内容を概述し、集合的行為・個人的行為・家事的行為・生理的行為・補助的行為の5種類に分類した。次に、住居の主な集合的行為(団らん行為、接客行為、食事行為)、個人的行為(就寝行為)、家事行為を主要なものとして生活行為の特徴、類型、実態を明らかにした。この結果、住宅の空間構成の変化に伴って、各生活行為の実態も共に変化しつつある実態を明らかにした。また、各機能空間の専用化または一体化は、場合によって異なっており、住宅の物環境の変化に対応しながら、各生活行為の変化動向を更に検討する必要がある。

第六章「終章」では、上記諸章のまとめを行い、今後の課題を提示した。

本論文は、中国ハルビン市の調査から、都市集合住宅の近代化過程における、空間構成の変化と特徴、生活行為と居住空間との対応関係、特に庁の面積と室数増加の傾向を明らかにした。

以上のように本論文は、中国都市集合住宅に対する人々の要求を明らかにし、住戸の建築計画の一つの方向を提示し、建築計画学の発展に大いなる寄与を行うものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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