学位論文要旨



No 123007
著者(漢字) 梶原,優介
著者(英字)
著者(カナ) カジハラ,ユウスケ
標題(和) エバネッセント光を用いたナノ光造形法に関する研究
標題(洋)
報告番号 123007
報告番号 甲23007
学位授与日 2007.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6624号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 高橋,哲
 東京大学 教授 小林,郁太郎
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 准教授 新野,俊樹
 東京大学 准教授 割澤,伸一
内容要旨 要旨を表示する

マイクロ光造形法は,半導体プロセスでは困難な複雑3次元微小構造の高速創製の可能性を有していることから,次世代マイクロ生産工学における重要なキーテクノロジの一つとして位置付けられている.そのため,日本を始めとしてアメリカ,スイス等,国内外を問わず活発な研究開発が進められている,これらの研究のうち,特に複雑3次元形状を創製可能なものを挙げると,(1)多光子吸収過程を利用した点走査型造形法,(2)縮小光学結像を利用した一括面露光型光造形法に大別することができる.(1)は,100mm程度といった最小硬化単位(造形分解能)の実現も報告されているが,ビーム走査に起因する低スループットの問題を有しており,造形物サイズは,数10μm程度に限定される.(2)は一括して一層全面(mmスケール)の微小構造造形を行うため,面内並列バッチ処理が可能である等,生産工学の観点からは非常に有用性が高いが,造形分解能は数μmが限界となる.そのため,これらのマイクロ光造形技術では,次世代マイクロ生産工学において期待されているマイクロギヤなどの微小機械要素や,フォトニック結晶に代表される微小光学素子等の微小構造機能素子といったサブマイクロメートルオーダの加工分解能と生産性の両者が要求される微小構造機能素子の創製は困難となっていた.

そこで,本研究では,原理的に光エネルギ局在性を有しているエバネッセント光と本質的に高スループット加工が可能な一括面露光型光造形法を融合することによって,サブマイクロメートルの加工分解能を有しつつ生産性に優れたナノ光造形法の確立を目的とする.

はじめに,光硬化性樹脂を等方性媒質と仮定し,Lambert-Beerの法則とMaxwell方程式から,エバネッセント露光による硬化樹脂の単位積層厚さCdを定式化し,cd=〓と導いた.但し,λ0:入射光波長,θ=入射角,n1:ガラス基板屈折率,n21樹脂屈折率,Uo:露光エネルギ,Ue臨界露光量,r(θ)のは入射角で決まる定数である.定式化した単位積層厚さの式から,エバネッセント光の露光エネルギが樹脂硬化に充足すること,また入射角と露光量を適切にコントロールすることにより,サブマイクロメートルオーダで単位積層厚さを制御できる可能性があることが示された.そして,同じ屈折率のプリズム,イマージョンオイル,カバーガラスを1つの全反射媒体としたエバネッセント露光基礎光学系を構築し,エバネッセント露光による樹脂露光基礎実験を行った.その結果,220nm程度の厚さで硬化した極薄樹脂が確認され,理論解析同様に,エバネッセント光が光硬化性樹脂の露光エネルギとして充足すること,またその硬化厚さは,伝搬光露光では不可能なサブマイクロメートルオーダとなることを確認した.さらに,分解能50nmの精密位置決めステージ,ガラススケールを使用したエバネッセント露光樹脂引き上げ機構を構築・組み込み,エバネッセント露光により硬化された樹脂層の引き上げが可能であることを示した.

次に,上述の樹脂硬化厚さ理論解析結果および基礎実験結果に基づき,エバネッセント露光造形装置を設計・構築した.これは,波長488nmの半導体レーザ,高開口数(N.A.1.65)の対物レンズピクセルサイズ8.3μmのCCD,ナノメートルオーダの分解能を持つPZTステージ等から構成され,インプロセス硬化樹脂観察も可能な光造形装置である.構築したエバネッセント露光造形装置を用いて,エバネッセント露光造形特性を調査した結果,偏光,露光量,入射角を高精度に制御することによって,おおよそ10nm以下の精度で単位積層厚さを制御可能であること,露光量を非常に小さく設定することにより10nm以下(最小5nm)の厚さの硬化樹脂が可能であることを確認した.さらに,観察された樹脂硬化挙動は,単位露光量UwによってLow-watt modeとHigh-watt modeの二つに分類できることを見いだすとともに,両者が発現するメカニズムについて,化学的・電磁気学的側面の両面からの考察を行った.

エバネッセント露光による面内構造創製特性評価としては,マスクパターンを挿入することによってナノチャネルの創製実験を行った適切に入射条件を設定することによって,900nmの溝幅を持ち,厚さ300nmのナノチャネル構造の創製が可能であることを確認し,サブマイクロメートルオーダの面内構造創製が可能であることを示した.次に,高開口数対物レンズ周縁にビームを入射させることにより,単位積層厚さと定在波ピッチの独立制御が可能な定在エバネッセント露光造形装置(理論上,定在波ピッチ1501nm~550nm,単位積層厚さ160nm~1.6μmが実現可能)を構築した.定在エバネッセント露光造形装置を利用して,s偏光入射によりピッチ530nm,単位積層厚さ290nmの微細周期構造を創製した.これより,定在エバネッセント露光において,入射角,対向角,偏光を適切に設定すれば,樹脂硬化サイズなどの影響を殆ど受けず,サブマイクロメートルオーダの周期構造が創製可能であることが確認された.加えて,定在エバネッセント光ピッチと単位積層厚さの独立制御性の検証実験を行い,ピッチと単位積層厚さの独立制御性を実証した.

最後に多層構造創製を実現するために,インプロセスでの規制液面高精度位置決めを実現する共焦点光学系を組み込んだクローズドループ制御積層ユニットを設計し,上述のエバネッセント露光造形装置に組み込んだ.ここでは,エバネッセント露光特有のトンネル効果や散乱などの影響を受けずに高精度積層が可能なNo-gap methodを提案し,シャッタ,PZTステージなど制御する全ての要素を,LabVIEWを利用してPCから一括して自動化するアルゴリズムを組んだ.その結果,500nmの極薄積層厚を持つnan-stepsの創製(3層積層)に成功した.これにより,提案法においてサブマイクロメートルオーダの縦分解能で3次元構造を創製可能であることが確認された.

以上,本論文は,エバネッセント光を利用したナノ光造形法の確立へ向けて,

(1)エバネッセント露光による樹脂硬化の理論的・実験的確認

(2)エバネッセント露光による各層創製技術の検討

(3)エバネッセント露光による極薄硬化樹脂の剥離・積層技術の検討

という3つの最重要基盤要素技術を確認し,サブマイクロメートルオーダの加工分解能を持つ高速3次元造形法の実現可能性を示した.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,原理的に光エネルギ局在性を有しているエバネッセント光と高スループットが可能な一括面露光型光造形法を融合することによって,サブマイクロメートルの加工分解能を有しつつ生産性に優れたナノ光造形法の確立を目的とした論文である.

はじめに,光硬化性樹脂を等方性媒質と仮定し,Lambert-Beerの法則とMaxwell方程式から,エバネッセント露光による硬化樹脂の単位積層厚さCdを定式化し,Cd=〓と導いた.但し,λ0: 入射光波長,θ: 入射角,n1: ガラス基板屈折率,n2: 樹脂屈折率,U0: 露光エネルギ,Uc: 臨界露光量,r(θ)は入射角で決まる定数である.定式化した単位積層厚さの式から,エバネッセント光の露光エネルギが樹脂硬化に充足すること,また入射角と露光量を適切にコントロールすることにより,サブマイクロメートルオーダで単位積層厚さを制御できる可能性があることが示された.そして,同じ屈折率のプリズム,イマージョンオイル,カバーガラスを1つの全反射媒体としたエバネッセント露光基礎光学系を構築し,エバネッセント露光による樹脂露光基礎実験を行った.その結果,220nm程度の厚さで硬化した極薄樹脂が確認され,理論解析同様に,エバネッセント光が光硬化性樹脂の露光エネルギとして充足すること,またその硬化厚さは,伝搬光露光では不可能なサブマイクロメートルオーダとなることを確認した.さらに,分解能50nmの精密位置決めステージ,ガラススケールを使用したエバネッセント露光樹脂引き上げ機構を構築・組み込み,エバネッセント露光により硬化された樹脂層の引き上げが可能であることを示した.

次に,上述の樹脂硬化厚さ理論解析結果および基礎実験結果に基づき,エバネッセント露光造形装置を設計・構築した.これは,波長488nmの半導体レーザ,高開口数(N.A.1.65)の対物レンズ,ピクセルサイズ8.3μmのCCD,ナノメートルオーダの分解能を持つPZTステージ等から構成され,インプロセス硬化樹脂観察も可能な光造形装置である.構築したエバネッセント露光造形装置を用いて,エバネッセント露光造形特性を調査した結果,偏光,露光量,入射角を高精度に制御することによって,おおよそ10nm以下の精度で単位積層厚さを制御可能であること,露光量を非常に小さく設定することにより10nm以下(最小5nm)の厚さの硬化樹脂が可能であることを確認した.さらに,観察された樹脂硬化挙動は,単位露光量UwによってLow-watt mode とHigh-watt modeの二つに分類できることを見いだすとともに,両者が発現するメカニズムについて,化学的・電磁気学的側面の両面からの考察を行った.

エバネッセント露光による面内構造創製特性評価としては,マスクパターンを挿入することによってナノチャネルの創製実験を行った.適切に入射条件を設定することによって,900nmの溝幅を持ち,厚さ300nmのナノチャネル構造の創製が可能であることを確認し,サブマイクロメートルオーダの面内構造創製が可能であることを示した.次に,高開口数対物レンズ周縁にビームを入射させることにより,単位積層厚さと定在波ピッチの独立制御が可能な定在エバネッセント露光造形装置 (理論上,定在波ピッチ150nm~550nm,単位積層厚さ160nm~1.6μmが実現可能)を構築した.定在エバネッセント露光造形装置を利用して,S偏光入射によりピッチ530nm,単位積層厚さ290nmの微細周期構造を創製した.これより,定在エバネッセント露光において,入射角,対向角,偏光を適切に設定すれば,樹脂硬化サイズなどの影響を殆ど受けず,サブマイクロメートルオーダの周期構造が創製可能であることが確認された.加えて,定在エバネッセント光ピッチと単位積層厚さの独立制御性の検証実験を行い,ピッチと単位積層厚さの独立制御性を実証した.

最後に多層構造創製を実現するために,インプロセスでの規制液面高精度位置決めを実現する共焦点光学系を組み込んだクローズドループ制御積層ユニットを設計し,上述のエバネッセント露光造形装置に組み込んだ.ここでは,エバネッセント露光特有のトンネル効果や散乱などの影響を受けずに高精度積層が可能なNo-gap methodを提案し,シャッタ,PZTステージなど制御する全ての要素を,LabVIEWを利用してPCから一括して自動化するアルゴリズムを組んだ.その結果,500nmの極薄積層厚を持つnano-stepsの創製(3層積層) に成功した.これにより,提案法においてサブマイクロメートルオーダの縦分解能で3次元構造を創製可能であることが確認された.

以上,本論文は,エバネッセント光を利用したナノ光造形法の確立へ向けて,

(1) エバネッセント露光による樹脂硬化の理論的・実験的確認

(2) エバネッセント露光による各層創製技術の検討

(3) エバネッセント露光による極薄硬化樹脂の剥離・積層技術の検討

という3つの最重要基盤要素技術を確認し,サブマイクロメートルオーダの加工分解能を持つ高速3次元造形法の実現可能性を示すことができた.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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