No | 123008 | |
著者(漢字) | 松下,光次郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツシタ,コウジロウ | |
標題(和) | 進化的設計を用いた脚移動体の身体性機能発現に関する研究 | |
標題(洋) | Evolutionary Design for Emergence of Embodiment on Legged Locomotion | |
報告番号 | 123008 | |
報告番号 | 甲23008 | |
学位授与日 | 2007.09.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6625号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は,脚移動体に内在する身体性機能の物理的表現形を明らかにするために,進化的計算法を用いて試行錯誤的に適応度の高い構造を有する解を発現させ,それらの解の物理的特性を解析し,関節構造,材料特性,エネルギ消費量の三者の関係を明らかにしている. 本論文の主題となる身体性機能は,認知心理学の認識に基づいて定義されており,特殊な身体的特徴から生じる環境適応度の高い運動を発生する機能とし,特に脚移動体においては「エネルギ効率」「情報処理の負荷」に関する重要な要素として位置づけられている. 身体性機能を有する脚移動体を作りだすためには,身体と環境との相互作用の中で,安定した脚移動に適合するセンサ情報や運動情報を獲得し,後天的に身体構造と制御系の設計に反映させる必要がある.しかしながら,一般的な設計法でその解を得ることは困難であり,新しい設計原理が必要となる.本論文の独創的な点は,この問題へのアプローチの方法として,進化的計算法を用いて設計を行う方法を提案し,これを実行するための進化的設計システムの構築を行ったことに集約され,その解探索の詳しいメカニズムが論文内で述べられている.また二脚移動体の進化的設計の結果,粘弾性関節の二種類の身体性機能を発見するに至り,それら粘弾性関節を含む身体構造と移動におけるエネルギ消費量の関係を明らかにすることで,身体性機能の物理的表現形を実現した.さらに,その物理的表現形を利用することで準受動歩行を実現することが確かめられている. 本論文は,序章と結論のほか五つの章から構成される.以下に各章における要約を記述する. 序章においては,本論文の意義と目的,および,研究背景を詳述している.特に研究背景では,認知科学分野およびロボット工学分野における「身体性の概念」の研究動向や,脚移動体の研究動向を詳しく述べている. 第二章においては,ロボット研究における代表的な脚移動体に注目し,それら脚移動体に内在する身体性機能を明らかにするため,剛体動力学シミュレータを用いて構築した仮想空間内に共通身体条件(サイズ・重量)を有する3種類の脚移動体モデル(ZMP制御型・CPG制御型・準受動型)を構築し,挙動解析を行った.その結果,「腰関節トルクの力学特性」・「移動時におけるZMPと支持多角形の軌跡」・「脚移動におけるエネルギ効率」に関して,脚移動体の身体性機能と評価指標を明らかにしている. 第三章においては,教育エンターテイメント(人間の創作能力を利用するロボット設計)を通じて構築された種々の移動体の中に興味深い身体性機能が含まれることを明らかにした.また教育的エンターテイメントの創作開発環境を明確にするため,教育エンターテイメント活動の意義,「初心者においてもロボットの身体構造と制御系を簡単に製作できる教材」,その教材に基づく「創造的なものづくり教育」の構成を述べている. 第四章においては,脚移動体の身体性機能を発現させるために,第二章において示された評価指標を用いて,新しく進化的設計システムを提案している.提案システムは「同時進化アーキテクチャ」と「インタラクティブアーキテクチャ」により構成され,これら二つのアーキテクチャを繰り返し適用するシステムとして構築されている.ここでは,身体と制御の同時進化のフィットネスランドスケープの様相を示すことで解の探索手法として,遺伝的アルゴリズムを用いた意義を明らかにし,大規模探索を要する設計問題の解決可能性について示している.さらに,インタラクティブアーキテクチャにより,設計者の創作能力を解空間の制約条件として,導入する手法について述べられている. 第五章においては,二脚移動体の進化的設計の身体性機能発現に関する検証結果について述べられている.獲得された二脚移動体の挙動解析の結果,以下に示されるような脚移動メカニズムに関する粘弾性関節の二種類の効果を明らかにし,提案する進化的設計が身体性機能を発現することを実証した. ・非駆動関節である粘弾性関節が,身体構造を通じて,他の駆動関節から生じる駆動力を有効利用し,周期的動作を実現. ・粘弾性関節が衝撃を吸収する性質を有することで,地面衝突などの外乱に強くなり,脚移動体の動的安定性を向上. 第六章においては,前章で確かめた粘弾性関節構造に関する身体性機能を詳しく調べるために,駆動関節数を制限(制約条件の導入)し,二脚移動体の進化的設計を行った結果について述べている.獲得された脚移動体の物理的特性の解析により,粘弾性を有する二脚移動体の関節構造がエネルギ消費量との関係性(脚の運動に重力を有効利用できるようになるため,エネルギの省力化が図れることと運動が滑らかとなる)を有することを明示した.さらにその物理的表現形を基に,前頭面上の腰1自由度の制御による高いエネルギ効率を有する脚移動メカニズムを明らかにし,準受動歩行ロボット(二脚・四脚移動体)を構築するにいたった. 結論においては,各章の要約および本論文の成果を述べるものである.本論文における重要な成果を以下に示す. 1.脚移動研究において代表的な脚移動体を同一条件の仮想空間内に構築し,挙動解析から,それらの脚移動体に内在する身体性機能を物理量で明示した. 2.身体性機能を発現する進化的設計システムを提案し,その設計法により発現した脚移動体の身体性機能を実証した. 3.二脚移動体における身体性機能を「関節構造と材料特性の組み合わせ(身体性)」と「移動のエネルギ消費量(機能)」の物理的表現形で示した. 4.身体性機能の物理的表現形を利用することで,1制御自由度で動作する二脚・四脚の新しいタイプの準受動歩行ロボットを構築した. | |
審査要旨 | 松下 光次郎(まつした こうじろう) 提出の本論文は「Evolutionary Design for Emergence of Embodiment on Legged Locomotion(進化的設計を用いた脚移動体の身体性機能発現に関する研究)」と題し,全7章よりなり,認知科学の領域において提唱された身体性機能の概念的表現を,脚移動体の問題領域に限定し,物理的表現形に帰着させることを目的として執筆した論文である. 特筆すべき成果としては,本論文で提案した進化設計システムを用いて身体性機能を探索した結果,従来の脚移動体と比べ,高いエネルギ効率を有する新しい準受動歩行機のメカニズムを発見し,これに対する詳しい解析結果が述べられていることである. 本論文は,序章と結論のほか五つの章から構成される. 序章においては,本論文の意義と目的,および,研究背景を解説している.特に研究背景では,認知科学分野およびロボット工学における「身体性機能の概念」の研究動向,および,脚移動体の研究動向について述べられている. 第二章においては,脚移動研究における代表的な脚移動体に注目,それら脚移動体に内在する身体性機能を明らかにするため,同一仮想空間内に同一身体条件(サイズ・重量)を有する3種類の代表的な脚移動体モデル(ZMP制御型・CPG制御型・準受動型)を構築し,挙動解析を行った.その結果,「腰関節トルクの力学特性」・「移動時におけるZMPと支持多角形の軌跡」・「脚移動におけるエネルギ効率」の物理的表現により,脚移動体の身体性を明示し,それらに内在する身体性機能について示されている.ここでの結論として,身体性機能は,「情報処理負荷の低減」と「エネルギ効率の向上」に深く関与しており,脚移動体において,これらの特徴が一般的に観察されることが示されている. 第三章においては,教育エンターテイメント(人間の創作能力を利用するロボット設計)を通じて構築された種々の移動体の中に興味深い身体性機能が含まれることを明らかにした.また教育的エンターテイメントの創作開発環境を明確にするため,教育エンターテイメント活動の意義,「初心者においてもロボットの身体構造と制御系を簡単に製作できる教材」,その教材に基づく「創造的なものづくり教育」の構成方法について述べられている. 第四章においては,脚移動体を9リンク8自由度のリンクメカニズムとして表現し,関節種類,リンク長,質量,軸角度,粘弾性の解空間を探索する方法として,進化的設計システムを提案し,その構成について述べている.ここでは,身体と制御の同時進化のフィットネスランドスケープの様相を示すことで進化的計算手法として遺伝的アルゴリズムを用いた意義を明らかにし,システムアーキテクチャとそのデータ構造が示されている.本論文で示されるシステムの独創性は,アーキテクチャと解の評価手法に集約される.アーキテクチャは,「同時進化アーキテクチャ」と「設計者とのインタラクティブインターフェース」を二段構えに繰り返し結合することにより,広大な解空間の探索との設計者の創作能力を導入する機能を併せ持っている.解の評価手法は第二章で示された身体性機能を探索するために,制約条件として単振動を制御入力とし,適応度関数に単位時間当たりの到達距離を設定することにより,「情報処理負荷の低減」と「エネルギ効率の向上」の両者の特性を解の探索に組み込んでいる. 第五章は,提案された進化的設計システムにより獲得された二脚移動体の挙動解析の結果について述べられている.その結果,下記二項目の身体性機能が発現したことが確かめられた. ・非駆動関節である粘弾性関節が,身体構造を通じて,他の駆動関節から生じる駆動力を有効利用し,周期的動作を実現したこと. ・粘弾性関節が衝撃を吸収する性質を有することで,地面衝突などの外乱に強くなり,脚移動体の動的安定性を向上したこと. 第六章においては,前章で確かめた粘弾性関節構造に関する身体性機能を詳しく調べるために,駆動関節数を制限(制約条件の導入)し,二脚移動体の進化的設計を行った結果について述べている.獲得された脚移動体の物理的特性の解析により,粘弾性を有する二脚移動体の関節構造がエネルギ消費量との関係性(脚の運動に重力を有効利用できるようになるため,エネルギの省力化が図れることと運動が滑らかとなる)が示されている.さらにその物理的表現形を基に,前頭面上の腰1自由度の制御による高いエネルギ効率を有する脚移動メカニズムを明らかにし,準受動歩行ロボット(二脚・四脚移動体)を構築するにいたった. 第7章では,論文全体に亘る結論として, ◆身体性機能の評価指標を調査した結果,従来の脚移動体の代表例(ZMP制御型,CPG制御型,準受動型)に対して,重量・サイズ・環境条件を統一し挙動の比較解析を行い,エネルギ消費量と情報処理の負荷が身体性機能発現の指標となることを確認したこと. ◆進化的設計法のシステム構成として,形態と制御の同時進化アーキテクチャとインタラクティブな設計アーキテクチャを用い,その解探索特性について大域的探索能力と局所的最適化能力を併せ持つことと,設計者の創作能力を付与することが可能となったこと. ◆提案した進化的設計システムが身体性機能を発現することを実証し,次の二種類の機能を解析し,それらの特性を明らかにしている. ・粘弾性関節が,身体構造を通じて,他の駆動関節から生じる駆動力を有効利用し,周期的動作を生成する機能. ・粘弾性関節が,衝撃を吸収する性質を有することで,地面との衝突などの外乱に強くなり,脚移動体の動的安定性を向上させる機能. ◆インタラクティブアーキテクチャを用いて,駆動関節数を制限することにより,粘弾性を有する二脚移動体の身体構造とエネルギ消費量との関係性を明らかにしていること.また,その物理的表現形として,前頭面上の腰1自由度の制御による高いエネルギ効率を有する脚移動メカニズムの解を発見したこと. ◆上記の成果を実機に適用し,従来の脚移動体と比べ,高いエネルギ効率を有する新しい準受動歩行ロボットを実現したこと. 本論文は,脚移動体を作り出す進化的設計システムを提案し,その有効性を示した.これはロボット工学において,また進化計算論の研究において価値ある成果を得たと評価でき,工学全般の発展に寄与するところが大である. よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる. | |
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