学位論文要旨



No 123028
著者(漢字) 伊藤,亮嗣
著者(英字)
著者(カナ) イトウ,リョウジ
標題(和) 焼却主灰リサイクルのための有害物除去および金属回収
標題(洋)
報告番号 123028
報告番号 甲23028
学位授与日 2007.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6645号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤田,豊久
 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 講師 定木,淳
 東京大学 准教授 島田,荘平
内容要旨 要旨を表示する

環境省によると、一般廃棄物最終処分場の残余年数は全国平均で14.8年分(2005年)、産業廃棄物最終処分場の残余年数は6.1年分(2003年)であり、非常に逼迫した状況にある。一方で最終処分場の建設は、住民の反対等の理由により長期化するか、建設自体が困難になるケースが多く、新規処分場の数は年々減少している。こうした状況から、埋立処分量を低減することが求められている。本研究では、埋立処分への負担が大きい焼却主灰を対象とし、焼却主灰をリサイクルするため、主灰中の有害物を除去すること、および主灰中の有価金属を回収することを目的とした。具体的には、洗浄、磁力選別、浮遊選別を焼却主灰に適用することにより有害物の除去および金属回収を目指した。

近年、焼却主灰をセメント原料としてリサイクルする動きが徐々に広まってきている。その際、鉄筋コンクリートの腐食を招く塩素(Cl)は、最も問題となる成分であり、できる限り除去する必要がある。本研究では、焼却主灰を洗浄することにより、Cl濃度を0.1%以下に低減することを目的として、主灰中の難溶性塩化物の特性に着目しながら、様々なパラメーターがCl除去に及ぼす影響を調べた。炭酸ガスのバブリングは、特に主灰中のプリーデル塩(3CaO・Al203・CaCl2・10H20)濃度が高い時に効果を発揮するが、フリーデル塩濃度が低い時であっても、pH低下により水洗よりもCl除去率が上がった。バブリングでは通常の気泡よりも微細なマイクロバブルを吹込むことで、反応時間を6分の1程度に短縮できた。フリーデル塩以外の難溶性塩化物を分解するための手法として、水和反応により、主灰中のすべての塩化物をフリーデル塩に転化し、その後、炭酸ガスで分解することを試みた。結果として、大部分の塩化物をフリーデル塩に転化することに成功したが、炭酸ガス吹込みによりフリーデル塩は分解されたものの、その際に溶解したCrイオンが新たにソーダライト(Na8Si6Al6O24Cl2)を生成して固定化されることがわかった。ソーダライトを含めた難溶性塩化物の分解に対しては、酸洗浄が最も有効であり、pHを3以下まで低下させて洗浄することでCl濃度を0.1%以下に低減できた。ただし、酸洗浄においては、重金属等が溶出するという問題があるため、酸洗浄後に中性域まで中和してから固液分離することにより、洗浄残渣中のClを0.1%以下まで低減し、なおかつ、ろ液中の重金属を排水基準以下にすることができた。湿式洗浄以外でC1を低減するための施策としては、焼却炉における冷却方法があり、難溶性塩を生成させないための1つの方法として、空冷が有効であることがわかった。また、水冷する場合、クエンチ水中のCl濃度を低減することにより、焼却主灰中のClを低減できることが、実際の焼却炉のデータからも実証された。

次に、焼却主灰を製錬原料としてリサイクルするために、自動車シュレッダーダストの焼却主灰中の銅(Cu)、亜鉛(Zn)を浮遊選別(浮選)により浮上産物に濃縮し、同時にC1を除去する検討を行った。浮選の前処理として粉砕を行い、粒度が浮選効率に与える影響を調べたところ、細粒になるほどCuとZnの回収率は上昇するが、5μm以下に粉砕すると不用成分の混入量が増えるため、平均粒径で約10μmに粉砕するのが適当であった。また、硫化剤(NaHS)および捕収剤(カリウムアミルザンセート、PAX)は過剰に添加するとCu、Znともに回収率が悪化する傾向があり、NaHS約20kg/t、PへX約10kg/tの添加量でCuとZn両方の回収に対し、良好な結果が得られた。pHはより酸性に調整した方が、Cuの回収には有効であったが、強酸性領域ではZnの溶解が無視できないほど大きくなるため、pH5程度が適当であった。実験で得られた良好な条件(pH5.0;NaHS:21kg/t;PAX:9kg/t)で浮選を行った結果、Cu品位は元の焼却主灰の32%から8.7%まで濃縮し、回収率は49%であった。Znにっいては、品位が1.4%から2、8%まで濃縮し、回収率は36%であった。pHを低下させると、浮上産物、沈降産物中のCI濃度は低減し、pH5での浮選により、焼却主灰のCl濃度は約3%から約0.1%まで低減した。

次に、主灰をセメント原料化する際に除去すべき成分であるチタン(Ti)とクロム(Cr)とについて、除去および回収を検討した。ここでは、廃棄物の新しい分離方法として、湿式磁力選別における液体の磁化率を適切に調整することで、焼却主灰中のTiおよびCr化合物を非磁着物として回収するという方法に関して検討を行った。まず、試薬を用いた基礎試験では、Tiと鉄(Fe)の混合物およびCrとFeの混合物の分離において、それぞれTi、Cr化合物の磁着率が極小となる条件を適用することで、TiあるいはCr化合物を非磁着物として効率的に回収することができた。TiO2とα-Fe203の混合物の分離においては、1g/dm3の塩化鉄水溶液中で選別することで、非磁着物側へのTiO2回収率が、水中での選別に比べ8.5%から72%に増加した。CaTiO3とα-Fe203の混合物の分離においては、30g/dm3の塩化鉄水溶液中で選別することでCaTio3回収率が、水中での選別に比べ24%から65%に増加した。Cr203とα-Fe203の混合物の分離においては、マグネタイト濃度0.1g/dm3の希薄水ベース磁性流体中で選別することでCr203回収率が、水中での選別に比べ33%から62%に増加した。基礎試験で得られた条件を産業廃棄物焼却主灰に適用し、磁力選別を行った結果、TiO2品位は28%に増加し、回収率は64%でTi濃縮産物が得られた。ただし、磁力選別によるTi濃縮効果は大きいとは言えず、実際の焼却主灰への適用について、今後更なる検討が必要である。

最後に、本研究の成果を実際の焼却主灰リサイクルに適用する際に、焼却主灰の性状に応じて、最適な処理方法を選択するためのフローチャートを作成した。このフローチャートを用いることで、実際に処理すべき焼却主灰に対して、適切な処理方法の組み合わせと処理後のリサイクル先が明確になった。さらに、各種処理方法のランニングコストを試算し、それぞれ比較した。洗浄によるCl除去および浮選による重金属回収方法は、浸出や溶融によりリサイクルする場合と比べて安価であり、現実的な選択肢である直接埋立、エコセメントと比較しても、同等あるいは、条件によっては安価に処理できることが明らかに'なった。従って、洗浄による脱塩、浮選は、経済的にも十分に選択可能な方法であると考えられる。

本研究の成果は、焼却主灰をリサイクルするために有害物除去および金属回収を考える上で、重要な指針を示すものであり、今後、リサイクルの必要性がますます高まる中で、本研究で取り扱った処理方法は、様々な廃棄物の前処理技術としても非常に有効であると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「焼却主灰リサイクルのための有害物除去および金属回収」と題し、埋立処分への負担が大きい焼却主灰を対象に、主灰中の有害物を除去する技術および主灰中の有価金属を回収する技術を提案し、主灰のリサイクルを可能とするに至った一連の研究開発をまとめたもので、6章からなる。

第1章「序論」では、研究の背景として一般廃棄物、産業廃棄物の処理状況および埋立処分場の現状をまとめ、焼却主灰のリサイクルの必要性を説明した後、現在行われている焼却灰リサイクルの長所・短所をついて述べている。一般廃棄物最終処分場の残余年数は全国平均で14.8年分(2005年)、産業廃棄物最終処分場の残余年数は6.1年分(2003年)と非常に逼迫した状況にあり、埋立処分量の低減は急務となっている。焼却主灰は、埋立処分への負担が非常に大きいため、現在、溶融スラグ化、エコセメント原料化などにより徐々にリサイクルが広まってきている。しかし、処理コストが高いことやリサイクル品の用途の少なさがネックとなり、あまり普及が進んでいないのが現状である。本研究では、この課題を解決するため、経済的な方法により塩素、クロム、チタン等の有害物を除去し、普通セメントの原料とすること、また、銅、亜鉛等の有価金属を回収し、製錬原料とすることを試みている。

第2章「洗浄による塩素除去」では、主灰を普通セメントの原料としてリサイクルする上で最も問題となる塩素を対象とし、洗浄により焼却主灰中の塩素濃度を0.1%以下まで低減する手法を提案する。代表的な難溶性塩化物であるフリーデル塩を分解するためには、炭酸ガスのバブリングによる洗浄が有効であるが、本研究ではマイクロバブルを吹込むことで、非常に短時間で塩素低減効果を発揮し、処理効率が向上することを示している。フリーデル塩以外の難溶性塩化物の分解に対しては、酸洗浄が最も有効であり、pHを3以下まで低下させて洗浄することで塩素濃度を0.1%以下に低減できることが明らかになった。酸洗浄においては、有害重金属が溶出するという問題があるため、酸洗浄後に中性域まで中和してから固液分離することにより、洗浄残渣中の塩素を0.1%以下まで低減し、なおかつ、ろ液中の重金属を排水基準以下にすることができ、実用化する上で非常に有効な処理法を示している。

第3章「浮遊選別による重金属(銅、亜鉛)の回収」では、焼却主灰を製錬原料としてリサイクルするために、自動車シュレッダーダストの焼却主灰中の銅、亜鉛を浮遊選別(浮選)により浮上産物に濃縮する手法を提案する。実験により、浮選の最適粒度、および硫化剤添加量、捕収剤添加量、pHに関する最適条件が示されており、その条件により、銅、亜鉛濃度は2~3倍に向上し、回収率としては40~50%となることが示された。

第4章「磁力選別によるチタン、クロム、鉄化合物の分離」では、主灰をセメント原料化する際に除去すべき成分であるクロムとチタンについて、除去および回収を試みている。ここでは、廃棄物の新しい分離方法として、湿式磁力選別における液体の磁化率を適切に調整することで、焼却主灰中のチタンおよびクロム化合物を非磁着物として回収するという手法を提案する。試薬を用いた基礎試験では、チタンと鉄の混合物およびクロムと鉄の混合物の分離において、それぞれチタン、クロム化合物の磁着率が極小となる条件を適用することで、チタンあるいはクロム化合物を非磁着物として効率的に回収することができることが明確になった。基礎試験で得られた条件を産業廃棄物焼却主灰に適用することで、磁力選別を行った結果、回収率約60%でチタン濃縮産物が得られたが、チタン濃縮効果は大きいとは言えず、実際の焼却主灰への適用については今後更なる検討が必要であることが示されている。

第5章「各種処理技術の評価」では、本研究の成果を実際の焼却主灰リサイクルに適用する際に、焼却主灰の性状に応じて、最適な処理方法を選択するためのフローチャートを提案している。このフローチャートを用いることで、実際に処理すべき焼却主灰に対して、適切な処理方法の組み合わせと処理後のリサイクル先が明確になった。さらに、各種処理方法のランニングコスト、スケールアップするための課題をまとめており、実用化する上での有用な情報を提供している。洗浄による塩素除去、浮選による重金属回収については経済的にも有効な手法であることが示された。

第6章は、本論文の結論である。

本研究の成果は、焼却主灰をリサイクルするために有害物除去および金属回収を考える上で、重要な指針を示すものであり、今後、リサイクルの必要性がますます高まる中で、本研究で取り扱った処理方法は、廃棄物リサイクル技術の発展に対し多大な貢献をしたと考えられる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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