学位論文要旨



No 123036
著者(漢字) 小林,篤
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,アツシ
標題(和) ZnO基板上へのGaNの成長と評価
標題(洋) Growth and Characterization of GaN on ZnO
報告番号 123036
報告番号 甲23036
学位授与日 2007.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6653号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤岡,洋
 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 川合,眞紀
 東京大学 教授 宮山,勝
 東京大学 教授 瀬川,浩司
内容要旨 要旨を表示する

近年、結晶成長技術の進歩により、GaNに代表されるIII族窒化物半導体を利用した青色発光ダイオードおよびレーザーダイオードが実用化した。しかしながら、III族窒化物薄膜の成長用基板として用いられているサファイアはIII族窒化物と格子定数や熱膨張係数が大きく異なるため、作製した薄膜内には多くの結晶欠陥が含まれており、この欠陥が発光効率や素子の寿命を低下させていることが知られている。また、GaNとInNの混晶半導体であるInxGa1-xNのバンドギャップは0.6eVから3.4eVまで可変であり、本来可視全域をカバーする発光素子が作製可能であるが、長波長用高In組成InGaNは熱的に不安定で相分離反応を起こすため、In組成の低いInGaNを利用した青色発光素子しか実現していない。

前者の問題は、III族窒化物との格子整合性が高いZnOを成長用基板として用いることで解決できると考えられる。ZnOはGaNとの面内格子不整合率が1.9%と非常に小さく(サファイアの場合16%)、結晶構造もGaNと同じウルツ鉱型であるため、結晶欠陥の抑制が期待できる。しかしながら、ZnOはGaNと700℃程度の温度で容易に反応するため、従来のMOCVD法やMBE法を用いた高温での結晶成長では基板として使用できない。一方、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いると、III族原料の基板表面でのマイグレーションが促進されるため、成長温度の低減が可能である。また、PLD法による低温成長は後者の相分離反応の問題も同時に解決できる可能性がある。そこで、本研究ではPLD法を用いてZnO基板上にGaNおよびInGaNの結晶成長を行い、界面構造や結晶構造、結晶品質の解析、および成長メカニズムの解明を試みた。

本研究ではPLD法を用いて格子整合ZnO上基板にGaNの結晶成長を行い、構造特性、光学特性の評価を行った。PLD法による低温成長がGaNとZnOの界面反応を抑制し、GaN薄膜表面を原子レベルで平坦化することが分かった。成長温度を室温にまで低減することで、GaN/ZnO界面で極性反転が起こることを見出し、密度汎関数法による第一原理計算によりそのメカニズムを解明することに成功した。

非平衡性の高いPLD法による低温成長が、InGaNの相分離反応を抑制できることを見出し、全組成領域のInGaNのエピタキシャル成長が可能であることが分かった。

室温成長プロセスは無極性面GaNの成長に対しても有効であり、無極性ZnO上にコヒーレント成長させたことGaNは高い結晶性を有することが分かった。

審査要旨 要旨を表示する

近年、結晶成長技術の進歩により、GaNに代表されるIII族窒化物半導体を利用した青色発光ダイオードおよびレーザーダイオードが実用化した。しかしながら、III族窒化物薄膜の成長用基板として用いられているサファイアはIII族窒化物と格子定数や熱膨張係数が大きく異なるため、作製した薄膜内には多くの結晶欠陥が含まれており、この欠陥が発光効率や素子の寿命を低下させていることが知られている。また、GaNとInNの混晶半導体であるInxGa1-xNのバンドギャップは0.6eVから3.4eVまで可変であり、本来可視全域をカバーする発光素子が作製可能であるが、長波長用高In組成InGaNは熱的に不安定で相分離反応を起こすため、In組成の低いInGaNを利用した青色発光素子しか実現していない。前者の問題は、III族窒化物との格子整合性が高いZnOを成長用基板として用いることで解決できると考えられる。ZnOはGaNとの面内格子不整合率が1.9%と非常に小さく(サファイアの場合16%)、結晶構造もGaNと同じウルツ鉱型であるため、結晶欠陥の抑制が期待できる。しかしながら、ZnOはGaNと700℃程度の温度で容易に反応するため、従来のMOCVD法やMBE法を用いた高温での結晶成長では基板として使用できない。一方、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いると、III族原料の基板表面でのマイグレーションが促進されるため、成長温度の低減が可能である。また、PLD法による低温成長は後者の相分離反応の問題も同時に解決できる可能性がある。本論文はPLD法を用いてZnO基板上にGaNおよびInGaNの結晶成長を行い、界面構造や結晶構造、結晶品質の解析、および成長メカニズムの解明について纏めたものである。

第1章ではIII族窒化物半導体の概要が述べられ、その成長方法に関する問題点を挙げ、発光素子の高効率化に向けて必要な手段が提案されている。窒化物半導体の結晶欠陥を低減するために、格子整合性が高いZnOを基板として用いることと、ZnOと窒化物半導体の反応を抑制するために、PLD法による低温成長技術が必要であることが述べられている。また、極性に由来する発光効率の低減を抑制するために、無極性面の利用についても述べられている。

第2章では、ZnO基板をIII族窒化物半導体の結晶成長に用いるための表面平坦化処理技術の開発とその特性について述べられている。高温における熱処理の段階で、雰囲気を制御することにより、高い表面平坦性と結晶性を有したZnO基板が実現することについて述べられている。

第3章ではZnO基板上へのGaNの成長温度が室温にまで低減できることが述べられている。また、GaN/ZnO界面特性の成長温度依存性が述べられており、成長温度の低減が必要不可欠であることが明らかになっている。室温において成長させたGaNの極性が基板の極性に対して反転していることが実験的に示され、そのメカニズムが密度汎関数法に基づいた第一原理計算により説明されている。

第4章では低温で成長させたInGaNの特性について述べられている。ZnOとの格子整合率が極めて高いInGaNは成長開始第1層から急峻な界面と保ちながら2次元成長することが明らかになった。また、成長温度の低減がInGaNの相分離反応を抑制できることを見出し、通常の成長手法では作製が困難なIn組成領域のInGaNの単一相化に成功している。

第5章では、極性面であるc面に垂直な無極性面m面およびa面のGaNの結晶成長を行い、その構造特性や光学特性について述べられている。格子整合性が高いZnO基板を用いることで、無極性面GaNの結晶品質の飛躍的改善が見られ、また、その上に作製された量子井戸には内部電界が存在していないことが確認している。

第6章では発光効率の改善に有効なもう1つの手段である半極性面GaNの結晶成長について述べられている。様々な半極性面GaNの成長を行い、評価を行った結果、r面GaNが最も結晶品質が高いことを見出している。また、ZnO基板の表面平坦化処理により半極性面GaNの光学特性の大幅な改善について述べている。

第7章では本論文を総括し、本研究で得られた知見を実用化させるための展望が述べられている。III族窒化物半導体に格子整合性が高く、かつ無極性面および半極性面が提供できる唯一の材料である基板がZnOであることと、PLD法による低温成長が必須であることが述べられている。

以上のように、紫外域および長波長領域における高効率発光素子に必要なIII族窒化物半導体の高品質化に成功しており、今後の窒化物半導体結晶成長及びエレクトロニクスの発展に大きく寄与するものとして高く評価できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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