学位論文要旨



No 123040
著者(漢字) 黄,紅雲
著者(英字)
著者(カナ) コウ,コウウン
標題(和) 三次元担体造形と肝前駆細胞灌流培養に基づいた肝組織再構築
標題(洋) Liver Tissue Engineering Based on Three-dimensional Scaffold Fabrication and Perfusion Culture of Hepatocyte Progenitors
報告番号 123040
報告番号 甲23040
学位授与日 2007.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6657号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 酒井,康行
 東京大学 教授 中尾,真一
 東京大学 教授 岡田,文雄
 東京大学 教授 牛田,多加志
 東京大学 講師 新海,政重
内容要旨 要旨を表示する

The objective of this study was to develop an implantable liver tissue with a middle-scale volume using the principle of tissue engineering.The key obstacles in developing an implantable liver tissue includes differentiation of proliferative hepatocyte progenitors,design and fabrication of three-dimensional (3D) scaffold with an interconnected flow channel network, as well as optimal oxygen and nutrient transport.

We investigated the effects of various soluble factors on the differentiation and maturation of primary fetal porcine hepatotyes. 3D culture using biodegradable poly-L-lactic-acid (PLLA) scaffolds (0.1 cm3) supplemented with hepatocyte growth factor (HGF) and sodium butyrate (Sb)remarkably enhanced various live-specific functions of fetal hepatocytes.

We designed a novel porous scaffold with a 3D flow-channel network and calculated the dimension of this scaffold based on oxygen consumption and shear stress. The scaffold (volume was 13 cm3, porosity was 87%) with a pre-designed branching and joining 3D diameter-varying flow-channel network was successfully fabricated via selective laser sintering (SLS) technique by collaborative lab.

We evaluated its efficacy by perfusion culture of liver-derived cells, including Hep G2 cell line, primary fetal porcine hepatocytes. A novel cell-seeding technique based on avidin-biotin binding system (ABBS) for reconstruction of large tissues in vitro was also described. Results of perfusion culture demonstrated that such 3D flow channels and ABBS-based cell seeding are essential to the cells growth and function. A design of a large-scale porous scaffold with parallel channel array based on oxygen consumption and shear stress was proposed.

Oxygenation is the most important issue for high-density hepatocytes culture. Hemoglobin-based oxygen carrier has a potential capacity to enhance the oxygen transport in a physiological oxygen tension. We used a novel PEG-modified liposome encapsulated hemoglobin (LEH) oxygen carrier. Mathematical simulation and experimental results show that the efficacy of LEH in culturing primary rat hepatocytes in a flat-plat bioreactor.

This dissertation provides useful methodologies for engineering large-scale implantable human liver tissues.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、三次元担体造形と肝前駆細胞灌流培養に基づいた埋め込み形肝組織の再構築に関するもので、全6章から成っている。

第1章は序論であり、本研究の背景及び目的を述べている。冒頭では、生体組織工学の基本的な方法論と基本三要素(細胞、マトリックス、増殖分化因子)を紹介すると共に、最新の研究開発動向をまとめている。また、工学的な視点からの肝組織再構築に関する既往の研究と問題点を述べている。特に、三次元の大型肝組織再構築においては、多孔質担体のデザインと微細造形・酸素供給などが重要課題であること指摘し、本研究の具体的な目的とアプローチを示している。

第2章では、ヒト前臨床試験としてのブタでの治療実験を想定し、三次元培養と液性因子群の組み合わせによる胎児由来のブタ肝前駆細胞集団の分化誘導及び成熟化に関する成果を述べている。ポリL乳酸(PLLA)三次元多孔質担体を用いた小スケールの振盪培養において、マウス等で高い効果の得られている因子群は必ずしも適切ではなく、肝細胞増殖因子(HGF)と酪酸ナトリウム(Sb)を添加した三次元培養において成熟ブタ肝細胞と同程度の機能学的成熟が達成可能であることを述べている。

第3章では、最終段階で必要とされる500 cm3スケールの前段階として13 cm3スケールの担体デザインと造形について述べている。三次元分岐合流流路ネットワークを基礎とする既往の担体デザインを、マクロ流路からの拡散による細胞への酸素供給、流路内壁に負荷されるせん断応力および造形装置の解像度を加味して、13 cm3まで拡張している。また、その造形のためには生分解性樹脂粉末を用いる粉末焼結積層造形法が適切であることを述べ、共同研究先と共に、安価な生分解性樹脂であるポリカプロラクトン(PCL)と水溶性フィラーとなる塩粒子を用いて造形を行い、空隙率87%、最小流路内径800μmの多孔質担体を造形することに成功している。

第4章では、第3章で造形した担体を用いて、まず培養が容易なヒト肝がん細胞株Hep G2用いた9日間の灌流培養を行い、流路配備が細胞増殖と肝特異的機能の発現に必須であることを明らかとしている。また、一般に細胞付着率に劣る生体吸収性樹脂の付着改善を目的として、Avidin-Biotin結合を利用した細胞安定播種方法を、同様の担体を用いた9日間の灌流培養において検討し、流路配備と本播種方法との組み合わせで最も高い細胞密度と肝機能が得られることを示している。また、灌流培養後の担体の組織学的観察より、細胞が流路内壁から平均で200μmの領域に高い密度で局在することを明らかとし、生理学的せん段応力の制限の下での流路の半径方向および軸方向の酸素供給-消費シミュレーションの結果をも利用して、並行したマクロ流路構造(流路内径50μm・150μm)を持つ大型多孔質担体 (500 cm3) の基本デザインを提案している。またその実現のためには、ヘモグロビンを利用した酸素運搬体の利用が必須であることも示している。

大型肝組織育成で必須な酸素供給の抜本的改善を目的として、輸血用に開発されたリポソーム化ヘモグロビン(LEH)の培養肝細胞への毒性及び有効性を検討している。ヒト全血ヘモグロビン濃度基準で20%のLEHを添加した単層培養において、ヒト肝がん細胞(Hep G2)では強い毒性が、ラット胎児肝細胞では弱い毒性がそれぞれ観測されたが、成熟ラット肝細胞では全く毒性が観察されなかったことから、LEH取り込みによる細胞内でのヘモグロビン分子の遊離が毒性の原因であり、少なくとも成熟細胞については使用が可能であることを明らかとしている。この結果に基づき、平板型灌流バイオリアクターを用いた20%LEH添加条件下での成熟ラット肝細胞の灌流培養において、下流部で起こる酸素不足に伴う細胞死を完全に防止できリアクター全体の肝機能を大幅に高め得ることを示している。また、この実験結果は、バイオリアクター内で形成される酸素濃度勾配のシミュレーション結果と符合することを述べている。

第6章では終章であり、本論文全体のまとめとその意義を述べると共に、ブタでの前臨床試験とヒト臨床試験までを展望した場合における今後の研究課題についても述べている。

以上要するに本論文は、埋め込み形肝組織の実現に向けて、前臨床試験で使用が想定されるブタ肝前駆細胞集団の生体外分化誘導条件の確立、酸素供給に着目した三次元分岐合流流路ネットワークを持つ生分解性樹脂担体のデザインと粉末積層法による造形、灌流培養による評価と酸素供給シミュレーションを用いた500 cm3スケールの肝組織の基本デザイン提案、リポソーム化ヘモグロビンの培養系での有効性提示、等の研究成果を述べている。これらの成果は、今後、ヒト肝前駆細胞の増殖分化制御に関する知見を取り入れることで、ヒト埋め込み形肝組織構築に道を拓くものであり、再生医療・生体組織工学・生体材料工学・医用工学及び化学システム工学へ大きく貢献するものと考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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