No | 123090 | |
著者(漢字) | 山下,健一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマシタ,ケンイチ | |
標題(和) | インターロック型錯体の構造制御に関する研究 | |
標題(洋) | Studies on the Structural Control of Interlocked Complexes | |
報告番号 | 123090 | |
報告番号 | 甲23090 | |
学位授与日 | 2007.10.31 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6668号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 応用化学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 分子の環が化学結合を介さずに空間を介して連結したカテナンと呼ばれる化合物に代表されるインターロック化合物は、その特異な構造に起因して分子スイッチや分子メモリー等のきわめて高度な分子素子としての可能性が考えられ注目を集めている。本研究では、自己組織化の原理に基づき環状錯体が溶媒環境の変化に応じて自発的に連結・解離する「可逆的カテナン化」という特異的現象に注目し、それを活用した高次構造制御に関する研究をまとめたものである。 本論文は以下の9章から構成されている。 第1章では、本研究の背景、目的および概要を論じた。 第2章では、「可逆的カテナン化」を新規結合様式として活用した高次オリゴマー構造の構築について論じた。環を二つ持つ8の字型分子と白金環状分子を1対2の比率でカテナン化を行うと、2つのカテナン部位を持つBis[2]catenaneが定量的に自己集合することを見出した。さらに、8の字型分子の割合を大きくすることでより高次のオリゴマーが自己集合することを見出した。 第3章では、ナノメートルサイズの巨大なカテナン結合を利用した大環状構造の定量的構築について論じた。一般に柔軟な鎖状分子の環化反応では、5、6員環の形成は容易に起こるものの、原子数が増えるに従いエントロピーロスのため高収率で環化させることは非常に難しいことが知られている。本章では、点と点をつなぐ従来の有機合成的な手法ではなく、輪と輪をつなぐ巨大な結合を用いて巨大な環状構造を定量的に生成させることに成功した。実際に、2つの環状錯体を柔軟なオリゴエチレンオキシド鎖で連結した手錠型錯体を新規に構築しカテナン化を行うと、直径約3.8nmにも及ぶ大環状2量体が瞬時に、且つ定量的に自己集合することを明らかにした。 第4章では、異なる環状錯体の新規選択的交差カテナン化手法を開発した。まず、配位子に嵩高いメトキシエトキシ基を導入した環状錯体が、置換基の立体障害のために、それ自身のカテナン化が著しく阻害されることを明らかにした。そのため、この環状錯体と立体障害のない環状錯体を混合してカテナン化を行うと、立体障害の少ない環の配位子が他方の環をすり抜ける過程が速度論的に優先され、交差カテナンが選択的に速やかに生成することを見出した。 第5章では、Pt(II)-ピリジン結合の光置換活性化とそれを利用した白金環状錯体の光カテナン化について論じた。室温で置換不活性な白金(II)-ピリジン間の配位結合が光照射により置換活性となることを見出した。この現象を利用して白金環状錯体が極性溶媒中で紫外光を照射することで速やかにカテナン化することを見出した。また、光カテナン化挙動の速度論的考察から、従来の熱反応に見られた反応速度における白金上の配位子依存性がほとんど見られず、置換活性化のメカニズムが通常の熱反応とは異なることを明らかにした。 第6章では、前述の光置換活性化を利用した多核白金大環状錯体の光誘起自己集合について論じた。ピリジルメチル基を含む二座配位子とenPt(NO3)2を混合し紫外光を照射することで二核環状錯体が速やかに自己集合することを見出した。また、ピリジン環の共役系が広がった配位子は、光置換活性を示さないことを明らかにした。さらに、光置換活性の有無は、理論計算によりおよそ予測できることを示した。 第7章では、新たにレドックス・光応答性のあるルテニウムを含む環状錯体およびカテナンの構築を検討した。四座チアクラウンエーテル配位子で保護したルテニウム錯体と配位子を有機溶媒中混合することで、環状錯体が自己集合することを明らかにした。この環状錯体を極性溶媒中、加熱または紫外線照射を行うことで容易にカテナンへと構造変化することを明らかにした。 第8章では、ルテニウムを用いた自己集合を他の系に適用することを目指し、6核ルテニウムかご状錯体の自己集合とその特異的ゲスト包接挙動について論じた。構築したルテニウムかご状錯体は、従来の類似錯体と異なり、ゲスト包接に伴い、錯体のMLCTバンドが大きく長波長シフトすることを見出した。 第9章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。 以上本研究では、「可逆的カテナン化」という特異的現象を通じて、高次カテナンオリゴマーの構築、および精密な分子設計による高度なカテナン化挙動の制御を達成した。今後、両者を組み合わせることで、より高度な分子素子の開発が可能であると考えられる。さらに、後半に示したように、本研究を通じて得られた知見は、カテナンだけでなく自己集合の系全般において適用できる汎用性があり、自己集合の化学の更なる展開に寄与するものと考える。 | |
審査要旨 | 分子の環が化学結合を介さずに空間を介して連結したカテナンと呼ばれる化合物に代表されるインターロック化合物は、その特異な構造に起因して分子スイッチや分子メモリー等のきわめて高度な分子素子としての可能性が考えられ注目を集めている。本研究は、自己組織化手法により形成されるインターロック型錯体の高次構造制御に関する研究をまとめたものである。 本論文は以下の9章から構成されている。 第1章では、本研究の背景、目的および概要を論じた。 第2章では、「可逆的カテナン化」を新規結合様式として活用した高次オリゴマー構造の構築について論じた。環を二つ持つ8の字型分子と白金環状分子を1対2の比率でカテナン化を行うと、2つのカテナン部位を持つBis[2]catenaneが定量的に自己集合することを見出した。さらに、8の字型分子の割合を大きくすることでより高次のオリゴマーが自己集合することを見出した。 第3章では、ナノメートルサイズの巨大なカテナン結合を利用した大環状構造の定量的構築について論じた。一般に柔軟な鎖状分子の環化反応では、5、6員環の形成は容易に起こるものの、原子数が増えるに従いエントロピーロスのため高収率で環化させることは非常に難しいことが知られている。本章では、点と点をつなぐ従来の有機合成的な手法ではなく、輪と輪をつなぐ巨大な結合を用いて巨大な環状構造を定量的に生成させることに成功した。実際に、2つの環状錯体を柔軟なオリゴエチレンオキシド鎖で連結した手錠型錯体を新規に構築しカテナン化を行うと、直径約3.8nmにも及ぶ大環状2量体が瞬時に、且つ定量的に自己集合することを明らかにした。 第4章では、異なる環状錯体の新規選択的交差カテナン化手法を開発した。まず、配位子に嵩高いメトキシエトキシ基を導入した環状錯体が、置換基の立体障害のために、それ自身のカテナン化が著しく阻害されることを明らかにした。そのため、この環状錯体と立体障害のない環状錯体を混合してカテナン化を行うと、立体障害の少ない環の配位子が他方の環をすり抜ける過程が速度論的に優先され、交差カテナンが選択的に速やかに生成することを見出した。 第5章では、Pt(II)-ピリジン結合の光置換活性化とそれを利用した白金環状錯体の光カテナン化について論じた。室温で置換不活性な白金(II)-ピリジン間の配位結合が光照射により置換活性となることを見出した。この現象を利用して白金環状錯体が極性溶媒中で紫外光を照射することで速やかにカテナン化することを見出した。また、光カテナン化挙動の速度論的考察、および理論計算から光置換活性化のメカニズムおよび従来の熱反応との違いについても論じた。 第6章では、前述の光置換活性化を利用した多核白金大環状錯体の光誘起自己集合について論じた。ピリジルメチル基を含む二座配位子とenPt(NO3)2を混合し紫外光を照射することで二核環状錯体が速やかに自己集合することを見出した。また、ピリジン環の共役系が広がった配位子が、光置換活性を示さないことを明らかにした。さらに、光置換活性の有無は、理論計算によりおよそ予測できることを示した。 第7章では、新たにレドックス・光応答性のあるルテニウムを含む環状錯体およびカテナンの構築を検討した。四座チアクラウンエーテル配位子で保護したルテニウム錯体と配位子を有機溶媒中混合することで、環状錯体が自己集合することを明らかにした。この環状錯体を極性溶媒中、加熱または紫外線照射を行うことで容易にカテナンへと構造変化することを明らかにした。 第8章では、ルテニウムを用いた自己集合を他の系に適用することを目指し、6核ルテニウムかご状錯体の自己集合とその特異的ゲスト包接挙動について論じた。構築したルテニウムかご状錯体は、従来の類似錯体と異なり、ゲスト包接に伴い、錯体の吸収特性が変化することを見出した。 第9章では、本研究の総括と今後の展望を論じた。 以上本研究では、「可逆的カテナン化」という特異的現象を通じて、高次カテナンオリゴマーの構築、および精密な分子設計による高度なカテナン化挙動の制御を達成した。今後、両者を組み合わせることで、より高度な分子素子の開発が可能であると考えられる。さらに、後半に示したように、本研究を通じて得られた知見は、カテナンだけでなく自己集合の系全般において適用できる汎用性があり、自己集合の化学の更なる展開に寄与するものと考えられる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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