学位論文要旨



No 123110
著者(漢字) 蒲池,健
著者(英字)
著者(カナ) カマチ,ケン
標題(和) 2面せん断ボルト接合を用いた木造ラーメン構造に関する研究
標題(洋)
報告番号 123110
報告番号 甲23110
学位授与日 2007.12.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3229号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 准教授 稲山,正弘
 東京大学 准教授 信田,聡
 東京大学 准教授 井上,雅文
内容要旨 要旨を表示する

ラーメン構造は本来、鉛直部材と水平部材の節点の剛接合を前提とした構造形式であるが、木質構造では部材同士を剛に接合することは一般に困難であり、半剛接としてその変形量を考慮に入れることが必要である。また、接合部の終局モーメントは部材の曲げ強さに比して相当に小さく、なおかつラーメン構造では最もモーメントが厳しい位置に接合部を設けなければならないため、接合部の終局に至るまでの変形性能や破壊性状を理解せずに設計するのは大変危険である。しかしながら、実験によらずに接合部の終局状態に至るまでの変形挙動を定量的に評価できるような接合部の設計体系には未だ不完全な点が数多く見受けられる。

こうした中にあって、本研究では2面せん断ボルト接合部の終局に至るまでの荷重-すべり関係を閉じた形で誘導する評価手法を提案した。理論の展開にあたっては、弾性床上の梁理論を基礎とし、その近似解を多項式の形で誘導することによってボルト内に生じる曲げモーメントの極値を閉じた形で得ることで、現在の設計基準では初期すべり係数の推定にのみに利用されてきたものを、降伏耐力や終局状態までの変形挙動を予測できる統一的な設計手法にまで押し広げることができた。以降誘導した推定式を示す。

初期すべり係数

比例限度耐力

降伏耐力

P: 降伏耐力

二次すべり係数

modeiiiのとき

modeivのとき

K-iii,K-iv:modeiii, modeivのときの2次すべり係数 :z座金のめり込み剛性 w:座金の一辺の長さ Siii ,Siv : modeiii,modeivにおいて座金のめり込みが比例限度に達したときの接合部すべり量 Siii ,Siv :modeiii,modeivにおける接合部の降伏すべり量 :座金の比例限度めり込み応力度 μ:主材-側材間の静摩擦係数

以上の理論解を用いて予測される木-木2面せん断ボルト接合の荷重-すべり関係および木-木2面せん断ボルト接合を利用した合わせ梁式モーメント抵抗接合部のモーメント-回転角関係は、実験による挙動とよく一致することが確かめられた。

Fig.1 接合部の降伏モード

Fig.2 2面せん断試験(左)とモーメント抵抗接合部試験(右)における解析値と実験の比較

審査要旨 要旨を表示する

ラーメン構造は、本来鉛直部材と水平部材の節点が剛接合であることを前提とした構造形式であるが、木質構造における接合部では部材同士を剛接合することは一般に困難であり、半剛節としてその変形量を考慮に入れることが必要である。また、接合部はモーメントが最大となる位置に設けられることになるため、架構の終局状態は接合部によって決定されることが多い。このような理由から、木質構造の設計においては接合部の荷重-変形性能を考慮に入れることが不可欠となる。本論文は木造ラーメン構造の一形式である合わせ梁、合わせ柱を利用したラーメン構造を取り上げ、ボルトの2面せん断接合を利用したモーメント抵抗接合部について、設計手法を確立すべく理論的研究を行った結果がまとめられたものである。

ボルトのせん断接合をはじめとした鋼製ファスナーの機械接合に関する既往の研究は多く、有限要素法等の数値解析技術の発達もあって、接合部の荷重-すべり挙動における耐力発現メカニズムは徐々に明らかにされてきている。しかし、実際の構造設計において、接合部設計については依然として困難な点や不明な点が多く、汎用性と実用性を兼ね備えた設計体系が十分に確立されているとは言い難い。例えば、現行の設計基準に示されている設計情報から接合部を設計するとき、接合部の剛性や許容耐力の計算は余りにも複雑であることに加え、降伏後の変形性能、隣接する複数本のボルトによって接合した場合の低減、先穴とボルトの間のクリアランスによる初期ガタによって生じる剛性や耐力の低減、さらに破壊荷重の推定などの問題に対して、精度が高くかつ十分な定量的評価が得られないのが実状である。

本論文の中に示された理論的研究は、弾性床上の梁理論の適合が良好であると認められるような条件下における接合部の変形挙動を予測することを目的として、解の厳密性を追求するよりは実用性に重きを置くという観点から、力学的なパラメータを合理的な形で取り入れ、汎用性に優れた設計手法の確立が図られている。理論の展開にあたっては、弾性床上の梁理論を基礎として、その近似解を多項式の形で誘導し、ボルト内に生じる曲げモーメントの極値を閉じた形で得ることで、現在の設計基準では初期すべり係数の推定にのみに利用されてきたものを、降伏耐力や終局状態までの変形挙動を予測できる統一的な設計手法にまで展開している。

緒言に続く2章では、これまでのボルト接合および合わせ梁式モーメント抵抗接合部に関する既往研究の主なものを取り上げ、現在に至るまでの研究の進捗と成果についてまとめている

3章では主材-側材が共に木材である場合の2面せん断ボルト接合について、弾性床上の梁理論に基づいて、接合部の終局に至るまでの過程を統一的に評価する設計式の誘導が示されている。特に、降伏後の荷重増加に関する2次すべり係数の評価方法は、閉じた形による理論的設計式の提案としては前例がない。設計式について実験値との比較を行った結果は良い一致を示した。また、一般に広く用いられている鋼板添え板接合と、鋼板挿入接合についても同様の解法による理論的考察を行っている。

4章では合わせ梁式モーメント抵抗接合部のモーメント-回転角特性の評価方法について検討がなされている。3章で誘導した設計式を用いた接合部のモーメント-回転角の評価は、実験値と比較して実用的に十分なレベルを示した。

本論文の中で提案されている設計手法は、弾性床上の梁理論の適用が良好と見なしうるボルト接合に関して、接合部の荷重-変形特性を全体的に評価し得るという点において、その有用性は極めて高いことが認められる。また、合わせ梁式木造ラーメン構造の構造設計において、モーメント抵抗接合部のモーメント-回転角特性を評価する際に有効な手段となる。

以上本論文は、木質構造の範疇である合わせ梁式モーメント抵抗接合部を有する木造ラーメンについて、ボルト接合部の荷重-変形特性の理論的設計手法を明かにしたこと、また、そこから導かれた評価方法の精度が高いことが認められ、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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