学位論文要旨



No 123160
著者(漢字) 立石(松浦),彩美
著者(英字)
著者(カナ) タテイシ(マツウラ),アヤミ
標題(和) 病院に勤務する看護職のアサーションと組織コミットメントが職場のメンタルヘルスに与える影響
標題(洋)
報告番号 123160
報告番号 甲23160
学位授与日 2008.03.05
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2977号
研究科 医学系研究科
専攻 健康科学・看護学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 数間,恵子
 東京大学 准教授 上別府,圭子
 東京大学 准教授 山崎,喜比古
 東京大学 准教授 佐々木,司
 東京大学 准教授 井上,和男
内容要旨 要旨を表示する

序論

看護職はストレスが多い職場環境にあると言われる。看護職における神経症圏の障害の割合は、他の医療従事者に比べて高いことが報告されており、医療現場の環境の複雑化や慢性的な人手不足、忙しさ、医療事故への不安などによって、スタッフのストレスは増大している。本研究の目的は、アサーションの3つの自己表現と組織コミットメントの3側面が、メンタルヘルスの異なる側面(精神的健康度とバーンアウトの3側面)へどのように関連しているかを明らかにすることと、労働職場ストレス要因によってストレス反応が生じる過程に、アサーション、組織コミットメントがどのように影響しているかを明らかにすることである。

方法

調査の対象は都内の中規模総合病院3施設の全看護職817名である。横断的調査で、平成16年6月中旬に無記・名のアンケート調査を行った。回収数は572名(70.0%)、このうちアサーションインベントリーが有効回答であった521名(63.8%)を分析の対象とした。調査内容は、基本属性、精神的健康度(GHQ)、バーンアウト(MBI-GS)、アサーションインベントリー、Meyerらの3次元組織コミットメント尺度、職業性ストレス(JCQ)であり、精神的健康度とバーンアウトの3つの下位尺度(疲弊感、シニシズム、職務効力感)を従属変数とし、関連する変数を投入して重回帰分析を行った。

結果

非主張的な自己表現は、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと正の有意な関連、職務効力感と負の有意な関連があり、アサーティブな自己表現は、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと負の有意な関連、職務効力感と正の有意な関連があった。攻撃的な自己表現は、GRQ得点・疲弊感と有意な関連はなく、シニシズム・職務効力感と正の有意な関連があった。また、情緒的コミットメントは、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと負の有意な関連、職務効力感と正の有意な関連があり、規範的コミットメントは、GHQ得点・疲弊感・職務効力感と有意な関連はなく、シニシズムと負の有意な関連があり、継続的コミットメントは、GHQ得点とバーンアウトの3つの下位尺度と有意な関連がなかった。さらに、メンタルヘルスに対する、アサーション、組織コミットメントと労働職場ストレス要因との交互作用を検討したところ、非主張的な自己表現が多い時は少ない時に比べて、仕事の要求度が高い時は疲弊感が高いという関係が弱まっていた。また、非主張的な自己表現が少ない時には、仕事の要求度が高い時はシニシズムが高いという関係があったが、非主張的な自己表現が多い時は、その関係が消えていた。労働職場ストレッサーとして仕事の要求度の代わりに、仕事のコントロール、残業時間とアサーション・組織コミットメントとの交互作用を検討した分析では、非主張的な自己表現が少ない時は、残業時間とシニシズムの間に一定方向の関係はなかったが、非主張的な自己表現が多い時は、残業時間が多い時にはシニシズムが高いという関係があった。

考察

アサーションとメンタルヘルスについての分析結果より、労働職場ストレス要因と職場の社会的支援が精神的健康度・バーンアウトに影響を与える以外に、非主張的な自己表現は、精神的健康度・職務効力感を低下させ、疲弊感・シニシズムを高め、アサーティブな自己表現は、精神的健康度・職務効力感を高め、疲弊感・シニシズムを低下させ、攻撃的な自己表現は、シニシズムを高め、職務効力感を高める影響がある可能性が考えられた。また、組織コミットメントとメンタルヘルスの分析結果より、労働職場ストレス要因が精神的健康度・バーンアウトに影響を与える以外に、情緒的コミットメントは、精神的健康度・職務効力感を高め、疲弊感・シニシズムを低下させ、規範的コミットメントは、シニシズムを低下させる影響がある可能性が考えられた。さらに、メンタルヘルスに対する、アサーション、組織コミットメントと労働職場ストレス要因との交互作用を検討した結果から、非主張的な自己表現の程度によって、仕事の要求度と疲弊感・シニシズムの関係、残業時間とシニシズムの関係は変化することが明らかになった。

結論

本研究により、病院に勤める看護職のメンタルヘルスを改善するには、非主張的な自己表現を減らし、アサーティブな自己表現を増やし、情緒的コミットメントを高めるような取り組みが必要と考えられる根拠の一つが示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、病院に勤務する看護職のアサーション(自己表現)とメンタルヘルス、組織へのコミットメントとメンタルヘルスの関係について、アサーションの3側面(非主張的・攻撃的・アサーティブな自己表現)と組織コミットメントの3側面(情緒的・継続的・規範的コミットメント)が、メンタルヘルスの異なる側面(精神的健康度、バーンアウトの疲弊感・シニシズム・職務効力感の3側面)へどのように関連しているかを明らかにした。また、労働職場ストレス要因によってストレス反応が生じる過程に、アサーション、組織コミットメントがどのような影響を与えているかについても検討した。

本研究では、都内の中規模総合病院3施設の全看護職817名を対象者に、横断的にアンケート調査を行い、アサーションインベントリーの有効回答が得られた521名(63.8%)を分析の対象とした

調査内容は、基本属性、精神的健康度(GHQ)、バーンアウト(MBI-GS)、アサーションインベントリー、Meyerらの3次元組織コミットメント尺度、職業性ストレス(JCQ)であり、精神的健康度とバーンアウトの3つの下位尺度(疲弊感、シニシズム、職務効力感)を従属変数とし、関連する変数を投入して重回帰分析を行った。

主要な結果は下記の通りである。

1.非主張的な自己表現は、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと正の有意な関連、職務効力感と負の有意な関連があり、アサーティブな自己表現は、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと負の有意な関連、職務効力感と正の有意な関連があった。攻撃的な自己表現は、GHQ得点・疲弊感と有意な関連はなく、シニシズム・職務効力感と正の有意な関連があった。

2.情緒的コミットメントは、GHQ得点・疲弊感・シニシズムと負の有意な関連、職務効力感と正の有意な関連があり、規範的コミットメントは、GHQ得点・疲弊感・職務効力感と有意な関連はなく、シニシズムと負の有意な関連があり、継続的コミットメントは、GHQ得点とバーンアウトの3つの下位尺度と有意な関連がなかった。

3.メンタルヘルスに対する、アサーション、組織コミットメントと労働職場ストレス要因との交互作用を検討したところ、非主張的な自己表現の程度によって、仕事の要求度と疲弊感・シニシズムの関係、残業時間とシニシズムの関係は変化することが明らかになった。

以上、本論文は、病院に勤める看護職の、アサーション、組織コミットメント、メンタルヘルスの関係に着目し、それぞれを構成する下位概念を測定できる指標を用いて、関連を検討している点で独創的であり、看護職における今後の職場のメンタルヘルス対策に役立つ有用な示唆を与えており、学位の授与に値するものと考えられた。

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