学位論文要旨



No 123179
著者(漢字) 青野,貞康
著者(英字)
著者(カナ) アオノ,サダヤス
標題(和) 応答型Web交通調査手法の開発と適用に関する研究
標題(洋)
報告番号 123179
報告番号 甲23179
学位授与日 2008.03.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6681号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 原田,昇
 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 准教授 城所,哲夫
 東京大学 准教授 羽藤,英二
 東京大学 講師 大森,宣暁
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,応答型Web 交通調査手法に着目し,その特徴を整理し,新しい交通計画課題の分析に必要な交通行動データ(実績,意向,評価)を収集可能な応答型Web 交通調査手法を開発し,従来の調査手法では獲得困難であった有用な調査回答が得られることを示したものである.

応答型Web 交通調査手法の特徴を3点に整理した.まず,回答者の状況に即した設問設定により,仮想状況に関して代替性の高い代替案を提示し,信頼性の高い行動意向データを収集できる.また,GISおよびGPS等の位置特定技術と組合せて活用することにより,信頼性の高い交通行動実績の把握や空間情報を用いた設問設定が可能になる.さらに,Webの普及に伴い,回答可能サンプルの偏りが生じない調査環境が整うとともに,調査対象者の交通行動特性を把握し,適切な情報提供を行うコミュニケーション施策を効率的,低廉に実施できる可能性が高い.

大規模施設移転後の交通施設へのインパクトに関する事前検討の例として,東京大学柏キャンパスの整備を取り上げて,移転後の通勤通学手段・経路選択に関する応答型Web交通調査システムを開発し,移転後の手段・経路の選択意向に関して,モデル推定に有用なデータが得られることを示した.対象者の多くは,本郷キャンパスに通勤通学しており,通勤通学先が地理的に大きく変化し,鉄道新線開業に伴う交通ネットワーク変更に直面するため,将来の交通状況について十分な情報を持っておらず,応答型Web交通調査を通して個人の状況に応じて利用可能な通勤通学手段・経路が提示されることによって初めて,有用な行動意向データが収集可能となる.調査システムでは,ネットワークデータにもとづくOD間のサービス水準データベースを用意し,Web-GIS機能を用いて個人が入力する出発地点データと組み合わせることで,代替経路情報を即時に画面表示することが可能である.開発した応答型Web交通調査システムは,本社移転,総合病院の新設・移転等に伴う交通施設へのインパクトに関する事前検討に適用可能である.

活動施設の整備に伴う活動中心の魅力向上に関する事前検討の例として,宇都宮市の中心市街地の魅力向上施策を取り上げて,休日の私事目的地選択に関する応答型Web交通調査システムを開発し,個人にとって重要な活動施設の整備に伴う目的地評価の変化に関する有用なデータが得られることを示した.休日の私事活動には,「必須」,「ついで」,「思いつき」の重要度の相違があるとの仮説を立て,回答者別に私事活動の実態とその重要度,ならびに中心市街地の活動施設との相対評価を設問し,それらを用いて,重要度が高く,中心市街地の相対評価が低い「最重要活動」の施設が中心市街地に整備されるといった,魅力向上施策が実施された場合の仮想スケジュールを構築し,現実の活動履歴と比較させることにより,目的地評価の変化を捉えた.調査結果からは,活動スケジュールへの満足度の比較評価を説明する統計的に有意なモデルが得られており,回答データの有用性は高いと結論する.ここで開発した,活動施設で展開される複数活動の重要度を考慮した行動計測と評価データの収集システムは,私事や観光での目的地評価に幅広く適用可能である.

Web調査環境の整った大規模施設に関するコミュニケーション施策への応答型Web交通調査手法の適用例として,移転がほぼ完了した東京大学柏キャンパスを対象とする通勤通学モビリティ・マネジメント(MM)に適用した.まず,グループインタビュー等により,教員,職員(常勤,非常勤),大学院生の通勤通学実態が大きく異なることを把握し,その相違を定量的に捉えるために通勤通学者全員を対象とするWeb交通調査を実施し,メールを介した接触だけによって有効回答率3割を達成し,交通手段や経路の利用実態とともに,登校頻度,滞在パターン,自動車通勤通学者の代替可能手段等の相違を初めて明らかにした.次に,この実態把握をもとに,キャンパス構成員の多様性に応じて,通常MM,GPS-MM,健康MMの3 種類のWeb-TFPを開発した.いずれも周辺の公共交通の利便性が低い郊外型大学キャンパスにおいて,過度の自動車利用の抑制を目的としたコミュニケーション手法である.登校日数や曜日による登校パターンの変動を考慮し,一週間の交通実態の把握と,それらの評価結果の参加者へのフィードバックが基本となる.通勤通学バスや自転車共同利用システムの交通社会実験の事前事後を含む3回のコミュニケーションを実施した.その結果,通常MMの有効性を確認するとともに,一日全体の移動を対象としたGPS-MMでは,相対的に変化させやすい通勤通学以外での自動車利用抑制効果が大きいことを明らかにした.健康MMでは,交通情報,環境情報に加えて健康情報を提供し,短距離自動車利用者の徒歩・自転車への転換とともに,長距離自動車利用者が鉄道端末の自転車利用に着目して鉄道利用に転換する事例を確認した.このような多様な交通実態の把握とそれらにもと基づくコミュニケーション手法の実施は,郵送方式や訪問方式では極めて困難であるが,応答型Web交通調査手法の活用によって可能となったものである.ここで示したような応答型Web交通調査手法の組み合わせにより,Web環境の整った大規模事業所を対象にしたコミュニケーション施策に効果的に適用することが可能であり,過度の自動車利用の抑制のために有用な手法を提供できる

以上,本論文で具体的に開発した三種類の応答型Web交通調査システムは,応答型Web交通調査手法の特徴を活かし,技術的課題を克服し,計画の立案や評価に必要なデータの収集や,効果的なコミュニケーションが実行可能であることを実証したものであり,その適用領域の拡大に大きく寄与すると言える.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、応答型Web 交通調査手法に着目し、その特徴を整理し、新しい交通計画課題の分析に必要な交通行動データ(実績、意向、評価)を収集可能な応答型Web 交通調査手法を開発し、従来の調査手法では獲得困難であった有用な調査回答が得られることを示したものである。

応答型Web 交通調査手法の特徴を三点に整理した。具体的には、GPS等の位置特定技術とGISを組合せて活動地点と移動の時空間軌跡を被験者に提示し修正を依頼できる機能により、信頼性の高い交通行動実績を把握できる。また、回答者の状況に即した設問設定により、仮想的状況に関して代替性の高い代替案を提示し、信頼性の高い行動意向データを収集できる。さらに、Webの普及に伴い、回答可能サンプルの偏りが生じない調査環境が整うとともに、調査対象者の交通行動特性を把握し、適切な情報提供を行うコミュニケーション手法を低廉に実施できる可能性が高い。

大規模施設移転後の交通施設に関する事前検討の例として、東京大学柏キャンパスの整備を取り上げて、移転後の通勤通学手段・経路選択に関する応答型Web調査システムを開発し、移転後の選択意向に関して、モデル推定に有用なデータが得られることを示した。対象者の多くは、本郷キャンパスに通勤通学しており、通勤通学先が地理的に大きく変更し、鉄道新線開業に伴う交通ネットワーク変更に直面するため、応答型Web調査を通して個人の状況に応じて利用可能な通勤通学手段・経路が提示されることによって初めて、有用な行動意向データが収集可能となる。調査システムとしては、ネットワークデータに基づくOD間テーブルを用意し、個人の入力する出発地点データと組合せて、鉄道(新駅利用、柏駅利用、江戸川台駅利用)、高速バス、車(高速利用と非利用)の六ルートの経路情報を即時に画面表示することを可能とした。開発した応答型Web調査システムは、本社移転、総合病院の新設・移転等に伴う交通施設の事前検討に適用可能である。

活動施設の新設に伴う活動中心の魅力度向上に関する事前検討の例として、宇都宮都心部の中心市街地の魅力度向上を取り上げて、休日の私事目的地選択に関するWeb応答型調査システムを開発し、個人にとって必要な活動施設の新設に伴う目的地評価の変化に関して、モデル推定に有用なデータが得られることを示した。休日の私事活動には、「必須、ついで、思いつき」の必須度の相違があるとの仮説を立て、Web応答型調査の特徴を活かし、回答者別に私事活動の実態とその重要度、ならびに都心部との相対評価を設問し、それらを用いて、必須度が高く、都心の相対評価の低い重要活動の施設が都心に新設される場合の活動スケジュールを構築し、比較させることにより、目的地評価の変化を捉えた。これらの結果、活動スケジュールへの満足度の比較評価を説明する統計的に有意なモデルが得られており、回答データの有用性は高いと結論した。ここで開発した、活動施設で展開される複数活動の重要度を考慮した行動計測と評価データの収集システムは、私事や観光の目的地評価に幅広く適用可能である。

Web調査環境の整った大規模施設に関するコミュニケーション手法への適用例として、移転がほぼ完了した東京大学柏キャンパスを対象とする通勤通学モビリティマネジメント(MM)に適用した。まず、グループインタビュー等により、教員、職員(常勤、非常勤)、院生の通勤通学実態が大きく異なることを把握し、その相違を捉えるための通勤通学者全員を対象とするWeb交通調査を実施し、メイルを介した接触だけによって有効回答率三割を達成し、交通手段や経路の利用実態とともに、出校頻度、滞在時刻、車通勤通学者の代替可能手段等の相違を始めて明らかにした。次に、この実態把握を基に、キャンパス構成員の多様性に応じて、通常MM、GPS-MM、健康MMの3 種類のWeb-TFP を開発した。いずれも、出校回数や曜日の変化を考慮し、一週間の通勤通学実態を把握し、それらの評価結果を回答者にフィードバックするコミュニケーション手法を内包する。自転車共同利用の事前事後を含む三回の一週間調査を基本とした。その結果、通常MMの有効性を確認するとともに、一日全体の移動を対象としたGPS-MMでは、相対的に変化させやすい通勤通学以外での自動車利用抑制効果が大きいことを明らかにした。健康MMでは、交通情報、環境情報に加えて健康情報を提供し、短距離車利用の徒歩・自転車への転換とともに、長距離車利用者が鉄道端末の自転車利用(この例では三キロ程度)に着目して鉄道利用に転換する事例を確認した。このような多様な交通実態の把握とそれらに基づくコミュニケーション手法の実施は、郵送方式や訪問方式では極めて困難であるが、応答型Web調査によって可能となったものである。

以上,本論文で具体的に開発した三種類の応答型Web調査は、応答型Web調査の特徴を活かし、技術的課題を克服し、計画の立案や評価に必要なデータが収集できることを実証したものであり、その適用領域の拡大に大きく寄与すると言える。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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