学位論文要旨



No 123260
著者(漢字) 滝脇,知也
著者(英字)
著者(カナ) タキワキ,トモヤ
標題(和) 特殊相対論的磁気流体計算に基づく重力崩壊型超新星の研究
標題(洋) Study of core-collapse supernovae in special relativistic magnetohydrodynamics
報告番号 123260
報告番号 甲23260
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5141号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 柴田,大
 東京大学 教授 牧島,一夫
 東京大学 准教授 半場,藤弘
 東京大学 講師 中澤,知洋
 東京大学 教授 森,正樹
内容要旨 要旨を表示する

超新星爆発は非常に重い星が自らの重力を核融合にて支えることができなくなり、爆縮することにトリガーされる爆発であり、中心での高温高密度な環境は、地上では実験できない高エネルギー物理学の実験場として優れている。天文学者のみならず、物理学者も魅了する天体現象である。

この超新星の残骸が非球対称に発達していることから、もともとの爆発も非球対称に起こると考えられ、それらを生み出す星の自転および磁場の効果の重要性が指摘されてきた。しかし近年新たな文脈からこの自転磁場の研究の重要性は高まっている。

ガンマ線バーストと呼ばれる100秒程度の継続時間を持ち10ms程度で激しく時間変化する突発的なガンマ線放射現象は長年謎につつまれていたが、このガンマ線バーストの数日後、同じ位置から超新星爆発が観測されたことなどにより、これらの天体現象は同一の起源を持つと考えられ始めている。現在有力だと考えられている理論モデルによると、この放射は重力崩壊によりできた中心天体周りの降着円盤の回転エネルギーをニュートリノ加熱及び磁気流体過程により爆発エネルギーに変換し、極付近の物質を吹き飛ばすことによって生じると予想されている。このシステムは幾何学的に非常に複雑な形状をしており、1次元的な計算に簡略化することができない。モデルの正しさを検証するためには、多次元磁気流体計算が不可欠になる。

この計算を行うにあたり、強磁場で低密度の領域ではニュートン力学的な取り扱いでは磁気音速が光速を超えてしまい、計算が不安定になるという問題があった。そこで安定かつ正確な計算を行うため、今回新しく特殊相対論的な枠組みに基づく計算コードを開発した。通常相対論的な計算では省略されることの多い素粒子過程に関しても、今回の計算では重要になると考えたため、ニュートリノの全フレーバーを考慮した冷却過程を組み込んである。

本論文の主要な結果はこの新たに開発した2次元磁気流体コードにより強磁場を持ち高速自転する星の重力崩壊過程をシミュレートしたものである。計算の初期で回転エネルギーが重力束縛エネルギーの1%、磁気エネルギーが10-4%ほどのモデルを中心に、幅広いパラメーターレンジをとり、系統的に自転と回転の効果を調べた。本計算では、全てのモデルで磁気駆動のジェット状の爆発を確認したが、その特性は大まかに二つに分かれた。一つ目のグループでは、爆発がコアバウンスの直後にすぐ生じたのに対し、別のグループではバウンス後100ms程度遅れて爆発が起こった。この爆発の時間差は磁場の巻き込みによりトロイダル磁場が、コアの外側に落ちてくる物の力学的エネルギーにより生じるラム圧力を超えるほどに成長するためのタイムスケールに拠っている。このとき物の降着率は、どのモデルでも概ね似たようなものとなり、ラム圧力も同程度の値を示すことから、必要な磁場も各モデルで共通の1015G程度となる。必要とされる磁場の強さが同じことから、このジェット状の爆発の1次元的な構造は各モデルでよく似ている。その一方、爆発エネルギー自体は生成されるジェットの太さに依存し、この量は、爆発が起きるまでの時間と強い相関があった。

本計算の結果から、このような強磁場・強回転が伴う重力崩壊の結果、中心に超強磁場の中性子星、マグネターが残されることが予想される。そのため、この計算結果はこのマグネター生成の際に生じるジェットに応用できると考えられる。2006年に見つかったGRBの亜種であるX線フラッシュは中心天体がマグネターだと予想されており、我々のシミュレーションと状況がよく似ている。観測結果から、通常のガンマ線バーストと違い比較的低いローレンツファクターで運動していることが報告されているが、本計算でもこのようなジェットは密度が高く、ローレンツファクターの大きくない低速のものであることが示されている。

今回の計算では自転磁場の初期条件について幅広い可能性を考え、パラメーターレンジを広くとったことにより、磁気超新星の爆発機構を一般的に議論することができた。このことは、新しい計算コードにより今までは計算が破綻してしまっていたような長時間計算が可能になったことにも強く拠っている。ただし、今回の計算の磁場の成長と現実に起こっている磁場の成長とはまだ隔たりがあることを指摘しておかねばならない。まず、本計算では星の自転軸に対して、軸対称が仮定されているため、非軸対称的な磁場の成長を人為的に抑制してしまっている。また、計算グリッドの不足から、MRIと呼ばれる磁場の不安定成長モードを完全に追えていない。磁場の増幅に関して、さらなる計算手法の精密化が求められる。

今後、天体物理学におけるシミュレーションの価値はより高くなっていることが予想される。高精度の観測結果と直接比較できる量をシミュレーションにより得ることができるからである。超新星爆発のシミュレーション究極的な目標は輻射輸送を含めた3次元一般相対論的磁気流体計算を、適切な解像度にて行うことにある。今回の我々の計算はその究極の目標に向けた着実な1歩を報告するものである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、太陽の約10倍を超える質量を持つ恒星(以下、大質量星)が進化の最終段階で起こす重力崩壊と超新星爆発に関して論文提出者が行った最新のシミュレーション研究について報告している。

大質量星の重力崩壊およびそれに付随する超新星爆発は、正確に理解されていない高エネルギー宇宙現象の一つである。重力崩壊の結果、重力エネルギーの多くは熱エネルギーに変換され、電磁波、ニュートリノといった形で放射される。これらは重力崩壊現象を解明する上での情報を運んでくるので、これらを観測することによって現象の解明が試みられている。しかし観測事実は限られるため、あらかじめ現象を理論的に詳細に理解しておく必要がある。そのためには理論シミュレーションが不可欠なので、シミュレーション研究はこの分野において重要な位置を占めている。これまでにも様々なシミュレーション研究がなされてきたが、本研究の新しさは磁気流体効果と現実的状態方程式の両方を考慮してシミュレーションを行うことで課題の解決を目指している点にある。

本論文は6章から構成されている。第1章では、超新星爆発の観測の歴史およびその爆発機構の理論的研究について概観し、既存の研究のレビューを踏まえて研究の方向性を導き出すとともに、本研究の問題意識と目的を明らかにしている。第2章では、これまでに理解されている超新星爆発の機構に関してまとめている。本論文の主目的は超新星爆発において磁気流体効果が果たす役割を明らかにすることであるが、第3章では重要となりうる磁気流体過程について述べている。第4章では、シミュレーションを行うにあたって用いる基礎方程式および数値的手法についてまとめている。本研究で新しい点の1つは、特殊相対論の効果を一部取り入れて、高速のアウトフローを正確に追えるようにしたことであるが、それに関する詳述もなされている。第5章では、数値シミュレーションの結果をまとめている。シミュレーションの初期条件としては、高速回転する大質量星を考え、さらに重力崩壊前に強い極方向磁場が存在することを理想的に仮定している。このような場合、重力崩壊に伴って磁場形状は変形を受け、まず動径方向磁場が生まれる。動径方向磁場が生まれると、やがて回転による磁場の引きずりの効果のため、回転方向磁場が増大することが知られている。また重力崩壊後に原始中性子星が誕生したのち、衝撃波が発生し、それは半径100km程度まで伝播したのちに停滞することも超新星爆発研究で普遍的に見られる特徴である。今回のシミュレーションではこれらと無矛盾な結果を示し、その正当性を示している。本研究の新しい点は、原始中性子星誕生後その高速差動回転のため引き続き回転方向磁場の強度が増し、ある一定値に達した後に、磁気圧の効果で回転軸方向に光速の30%にもおよぶ高速アウトフローが、初期に与えた磁場強度に関わらず発生することを明らかにしたことである。このようなアウトフローは、回転軸方向に密度の低い領域を誕生させるが、このような低密度領域の形成は、その後発生するかも知れないガンマ線バーストやX線フラッシュといった現象の促進に重要な役割を果たす可能性がある。このような事例を示したのは本研究が初めてであり、博士論文として高く評価できる。なお本論文の研究は、佐藤勝彦氏と固武慶氏との共同研究によるものであるが、論文提出者が主体となって数値シミュレーションを実行しており、その寄与は十分であると判断する。

以上述べたように、本論文では、大質量星の重力崩壊における磁気流体効果を調べた世界的にも最先端の研究が発表されており、この分野における学術的貢献が認められる。したがって本審査委員会は、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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