学位論文要旨



No 123262
著者(漢字) 武長,祐美子
著者(英字)
著者(カナ) タケナガ,ユミコ
標題(和) スーパーカミオカンデにおける太陽ニュートリノ振動パラメータを考慮した大気ニュートリノ振動解析
標題(洋) Atmospheric neutrino oscillation analysis with solar terms in Super-Kamiokande
報告番号 123262
報告番号 甲23262
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5142号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 浅井,祥仁
 東京大学 教授 相原,博昭
 東京大学 教授 山本,明
 東京大学 教授 横山,順一
 東京大学 准教授 山下,了
内容要旨 要旨を表示する

The atmospheric neutrino data have been well explained in the two-flavor νμ〓 νT oscilla-tion scheme and the △m(2 23) and sin22θ(23) parameters have been measured. No evidence of theatmospheric νe oscillation has been observed and the mixing angle θ(13) is consistent with zero bythe results of θ(13) search experiments. On the other hand, thanks to the precise measurementsby solar neutrino observations and the KamLAND experiment, the LMA-MSW solution of thesolar neutrino problem is established and the mixing angle θ(12) and mass difference △m(2 12) havebeen measured accurately.

If these 1-2 parameters are considered into the atmospheric neutrino oscillation analysis, the oscillation of low energy atmospheric νe might be observed even in case of zero-θ(13). The effect of the νe oscillation induced by the 1-2 parameters depends on the octant of θ(23)(θ(23) > 45°orθ(23) < 45°).Therefore the atmospheric neutrino oscillation analysis including the 1-2 parametershas a possibility to determine the octant of θ(23) for the non-maximal sin2θ(23). This informationcannot be obtained by the standard νμ〓 νT two-flavor oscillation analysis because the oscillation probability in that framework depends on sin22θ(23), not on sin2θ(23).

We have observed large number of atmospheric neutrino events in Super-Kamiokande. In this thesis, the atmospheric neutrino data from the SuperKamiokande-I (1996-2001) and SuperKamiokande-II (2003-2005) are summarized and used in the oscillation analysis. The analysis has been done in the two schemes, pure two-flavor νμ〓 νTanalysis and three-flavor analysis with the 2-3 and 1-2 parameters. There is no significant discrepancy of θ(23) from 45°, though the effect of the 1-2 parameters is seen in the X2 distribution. The stronger constraint on sin2θ(23) has been observed in the analysis with the 1-2 parameters. The 1σ arrowed region for sin2θ(23) is 0.43 < sin2θ(23) < 0.58, which is equivalent to sin22θ23 > 0.973.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は9章よりなる。イントロダクション(第1章)では、ニュートリノ振動の最新結果がまとめられて、太陽ニュートリノ振動の測定結果が、大気ニュートリノ振動から得られた振動パラメーター(θ23:第2,3世代の混合)に与える効果について具体的に述べられ、本研究の目的が纏められている。Super-kamiokande検出器の記述(第2章)に続いて、第3章では、解析に用いるシミュレーションや宇宙線のフラックスモデルについて纏めている。解析の系統誤差になる大気物質とニュートリノとの反応過程の不定性なども詳しく述べられている。続く第4章、5章では、データからニュートリノ起源の事象を選び出し(data reduction)、事象を再構成する方法を述べている。再構成による系統誤差で重要なものは、キャリブレーションとπ0を電子と間違えてしまう効果であり、それらの不定性についても詳しく述べられている。第6章は選択・再構成された事象数やその様々な分布の詳しい研究がなされている。第7章では、このデータに最新の太陽ニュートリノ振動の測定結果を加味して、sin2θ23 の決定を行い、系統誤差の評価を行っている。8章では、θ23の精度を上げるために、必要な統計量と改良すべき系統誤差と期待される精度について述べ、9章では結論が述べられている。

ニュートリノ振動は20世紀末最大の主要な物理成果であるが、振動を起こしている混合角の測定精度は未だに低く、この測定精度を高めることは振動の起源を探る上でも極めて重要である。大気ニュートリノは、主に第2、3世代が振動している現象である為、θ23に対する測定感度があるが、実際に決定出来る量は、sin22θ(23) とかなり縮退した量である。特に45度より大きいか小さいかの区別は原理的に不可能である。一方太陽ニュートリノ振動測定はθ(12)と強く関係があり、カムランドやSNOなどの最新の研究成果により、このパラメーターの測定精度が向上しており、この結果を加味して大気ニュートリノの解析をおこなった。特に低エネルギー側(<400MeV)の電子事象数と、電子事象数とミューオン事象数の比の角度依存性が、sin22(23) でなく、sin2(23)の決定能力に高い感度があることが分かり、低エネルギー側のデータに重みを置いて研究をおこなった。これが本論文の目的とする所であり、ユニークな研究であると認められる。

低エネルギー電子の精密な測定を行う上、π0→γγ起源の偽電子とミューオン崩壊から放出された電子が重要なバックグラウンドとなる。前者は、νx NC反応で原子核が破砕し、π0 が放出され、π0→γγの作る2つの電子的なシャワー(リング)が一つの電子的なリングに見えてしまう現象である。この論文では、積極的に2つめのリングを選んで、2つの不変質量やvertexを再構成し、それらを入力とした最尤関数をもちいて、π0→γγだったか否かを判断することにより、このバックグランドを制御している。このπ0 filterの研究・開発が一つ目の重要な成果である。後者(ミューオンの崩壊でミューオン事象が減り、電子事象が増える)のバックグラウンドは、エネルギー分布を用いてその評価を行っている。当然、エネルギーキャリブレーション(2%誤差)が重要となり、その改善に大きく貢献すると同時に、これにより生じる系統誤差の詳しい研究を行っている。この2点の研究が、最終結果の向上に大きく寄与している。

バックグランドを抑えた電子事象とミューオン事象の分布を比較し、sin2(θ23)の最適値を求めた。この過程で系統誤差を80個考察し、その効果を取り入れて解析を行っている。一番大きな効果は、水とニュートリノの反応の断面積の不定性であり、CCに対するπ0の生成量の不定性が最終結果に影響を及ぼす。また上に記したπ0filterやミューオンの崩壊に一番大きな影響を及ぼすものは、キャリブレーションの系統誤差である。これらを加味して得られたΔχ2分布を右に示す。黒色が従来の結果であり、sin2(θ23)=0.5について対称であり、0.39 < sin2(θ23) < 0.61であった。この研究(図赤色)により、0.43 < sin2(θ23) < 0.58と従来より高い精度で sin2θ23について決定することが出来た。まだ統計量が不足している為、(θ23)が45度より大きいか小さいかの区別(sin2(θ23) > or < 0.5)は出来なかっが、これは、sin22(θ23) > 0.973とFull mixing ((θ23)=45°)に近いことを示す結果である。

この研究をすすめて、θ(23)が45度より大きいか小さいかを90%CLの確度で判断するには、現在の測定レート・系統誤差では約20年分データが必要であることを示した。また系統誤差のうち、結果に一番大きな効果を与えるものは、水とニュートリノの反応の断面積の不定性であり、この誤差を現在の1/4にすると、10年分以上の統計量に相当する向上が得られることが示され、今後の研究方針に重要な示唆を与えている。

なお、本論文は、国際共同実験The Super-Kamiokande Collaborationでの共同研究であるが、この研究に関しては論文提出者が主体となって解析している。本研究の鍵となる「π0 filterの開発」や「エネルギー較正の改良」で、論文提出者は主導的に研究開発をすすめ、グループ全体に重要な貢献を行っている。またSK-III検出器の製作に当たっても貢献を行っている。したがって論文提出者の寄与が十分であると判断する。

審査員全員十分納得する研究結果であり、論文提出者の物理学の知識も博士(理学)をうけるに十分である。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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