No | 123289 | |
著者(漢字) | 長倉,隆徳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ナガクラ,タカノリ | |
標題(和) | 第一世代星による誘発的星形成 | |
標題(洋) | Star Formation Triggered by the First Generation of Stars | |
報告番号 | 123289 | |
報告番号 | 甲23289 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5170号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 天文学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では、第一世代星(宇宙で最初に形成される星)形成に伴うフィードバック効果を詳細に調べ、次世 代星が誘発的に形成される可能性について考察した。現在までに、第一世代星の形成について、準解析的手法 やシミュレーションを用いた多くの研究がなされており、その質量は数百太陽質量であると示唆されている (Abel et al.;Bromm et al.)。宇宙初期では、ガスは水素、ヘリウムからなる始原組成であるため、低温で有 効な冷却剤は水素分子のみである。水素分子は電気双極子がないため、最低励起温度が約512Kであり、ガス は200K程度までしか冷えない。このため、低密度(~104cm-3)でのガスの分裂質量は大きくなる(~100 -1000M)。また、近年の3次元シミュレーション(Yoshida et al.)から、より高密度でガスの再分裂は起 こらないことが示唆されており、この大質量のガス雲から第一世代星が形成されると考えられている。さら に、原始星コア誕生からの質量降着計算(Omukai & Palla)では、現在の星形成の場合よりも星周物質の温度 が高く、ガスが非常に光学的に薄いため、星からの輻射圧で質量降着を止めることができずに第一世代星は大 質量となる。「度、大質量星が形成されると、星からのさまざまなフィードバック効果により、その後の星形 成は複雑になる。例えば、第一世代星から大量の輻射が放射されるため、周囲の物質は電離され、同時に低温 のガスを有効に冷却する唯一の冷却剤である水素分子は解離される。このため、第一世代星形成により、次世 代星形成が阻害されるのか、あるいは、促進されるのかは未だに解決されていない大きな問題である。第一世 代星は寿命を迎えたとき、その質量により、崩壊し直接ブラックホールになる場合と超新星爆発を起こす場合 とに分かれることが知られている。我々は、この2つの場合をそれぞれ調べ上げ、次世代星形成が誘発される かどうかを調べた。その結果、第二世代星が形成される条件は、周囲の環境に強く依存することが分かった。 それぞれの場合について、概要は以下の通りである。 球対称流体シミュレーションと非平衡化学反応を同時に解き、同一のハローで星形成が可能かどうかを調べた。その結果、第一世代星形成によって周囲のガスは電離加熱されるため、星が死んだ後のガスは膨張を続け るが、ダークハローの質量が大きい場合には、その重力により中心のガスはやがて収縮を始め、同一ハロー内 で次世代星形成が起こり得ることが分かった。我々は、次世代星が形成されるために必要なダークハローの質 量を見積もった。その結果、質量が106Mo以上のダークハローでは、同一のハローで次世代星形成が可能 であることを見出した(図1参照)。 このとき、化石電離領域内には電子が大量に存在するため、電子を触媒とした水素分子形成反応が効率よく 起こるが、その水素分子による輻射冷却でガスは十分に低温(150K)まで冷やされ、HD分子が形成されるこ とが分かった。このHD分子は電気双極子をもつため、最低励起温度が128K程度であり水素分子よりも低 温で有効な冷却剤となる。宇宙初期では宇宙背景放射の温度が40~50K程であり、ガス温度がこの温度を下 回ると、宇宙背景放射が有効な加熱源となり、ガスは輻射では宇宙背景放射の温度以下には下がれない。この ため、ガスの分裂のスケールとその後の星へのガス降着率は、この宇宙背景放射の温度でほぼ決まることにな る。したがって、HD分子で温度が下がるとは言え、現在の星の典型的な質量(~1Mo)に比べ、かなり質量 の大きなガスに分裂する可能性があることが分かった。第一世代形成時にはガス温度が200K程度までしか 下がらないため、HD分子はほとんど形成されないことが分かっており、第一世代星形成時と同じ組成であり ながらも、より小さい質量の星が形成される可能性があることが分かった。 次に、我々は、第一世代星がその終焉で超新星爆発を起こす場合、爆発によって形成されるシェルの熱的進化を詳細に調べた。また、我々は少量の炭素と酸素の冷却の影響がその超新星残骸の進化に与える影響も同時に調べた。その際、我々は、一次元球対称流体と非平衡化学反応を同時に計算し、衝撃波によって掃き集められて形成されるシェルから次世代星が形成される可能性について考察した。我々は、爆発エネルギーEsN(=10(52),10(52)erg)、周囲の数密度 n0(=0.1,1,10cm-3)、重元素量Z(=10(-4),10(-3),10(-2)Z)をパラメータとして、広範囲に渡って超新星残骸の進化を調べた。まず、我々はシェル内部の熱的構造が物理的にどのような機構で決まるのかを調べた。その結果、シェルの中心部のガスは断熱膨張により冷え、シェルの縁側、つまり、シェルに取り込まれた直後のガスは輻射冷却で冷えることが分かった。 まず、重元素量が少ない場合(Z≦10(-3)Zo)、炭素、酸素の微細構造遷移冷却が有効でないことが分かった。シェルの中心部では膨張による密度低下により、HD分子形成が阻害され、それに伴い宇宙背景放射による加熱率が低下し、~10K程度にまで下がることが分かった。一方、シェルの速度が十分に遅くなるってからシェルに取り込まれたガス(シェルの縁側)は、密度が十分に高くならない。そのため、周囲のガス密度が小さい場合には、放射冷却があ_まり効かなく、温度は十分に下がらない。一方、周囲のガス密度が大きい場合には放射で冷えることができることが分かった。重元素が多い場合(Z=10(-2)Zo)、炭素、酸素の微細構造遷移冷却が有効に働くことが分かった。このため、シェル中心部では、低温での宇宙背景放射による加熱が断熱膨張による急激な温度低下を阻止することが分かった。一方、シェルの縁側では、周囲の密度が低い場合には、重元素量が小さい場合同様の理由で温度が十分に下がらないが、周囲の密度が高い場合には、炭素、酸素の微細構造遷移冷却により十分に温度が下がることが分かった。今までの先行研究では、シェルの温度は水素分子やHDで下がると考えられてきた(Salvaterra et al.;Machida et a1.)が、我々の計算では、それはシェルの縁側で起こり、シェルの中心部では膨張による冷却が支配的であることを新たに見出した。 我々は、流体計算で得られたシェルの温度と膨張減速シェルの線形解析(Elmegreen)を組み合わせて、シェルが重力的な不安定を起こし分裂するかどうかについて考察した。重力不安定を起こすためには、シェルの温度が十分に冷えなければならないが、シェルの温度は爆発のエネルギーと周囲の密度に強く依存する。爆発のエネルギー、周囲の密度が高くなればなるほど、シェルに取り込まれるガス質量が大きくなり、シェルの密度が大きくなるため、シェルは放射冷却で冷えやすくなる。そのため、爆発のエネルギー、周囲の密度が大きいほど・シェルは分裂しやすくなる・我々の流体計算の結果を用いると、(E(SN),n0)一(10(52)erg,10cm(-3)の場合と(E(SN),n0)=(10(51)erg,103cm(-3))の場合に、シェルが重力不安定により分裂することが分かった。その分裂質量はそれぞれ~104Mo、(~103Moであることが分かった(図2参照)。これの結果とone-zone(一領域)近似を用いた先行研究(Machida et al.)とを比較すると、我々の結果の方がシェルは分裂しにくいことが分かった。これは、先行研究のシェル温度がシェルの中心部を表しているのに対し、我々の結果はシェルの縁側の高い温度の寄与が大きいためである。また、シェルが分裂するためには重元素量はほとんど関係なく、周囲の密度と爆発のエネルギーが重要であることが分かった。これは、シェルの縁側の温度が重要であることを意味している。 我々は、さらに分裂条件から、第二世代の星形成が誘発されるための宇宙論的な条件を見積もった。冷たい暗黒物質モデル(CDM)の枠組みでは、第一世代星はviriat温度が104K(以下の小さなダークハローの中で形成される。近年の第一世代星形成に伴う電離領域の進化計算によると、小さいダークハローでは電離領域はハローの外まで広がり、衝撃波によって密度は低い値(0.1cm(-3))にならされる(Kitayama et a1.;Whalenet al.)。したがって、このような質量の小さなハローでは次世代星形成は困難である。しかし、質量の十分大きいハローでは、電離領域の膨張に伴って生じる衝撃波の伝播半径は小さく、ガスは十分にハロー内に留まる。,よって、質量の大きなハロー内で第一世代星が超新星爆発を起こした場合、次世代星形成が可能であることが分かった。我々は、分裂条件の結果を用いて、分裂可能なハローの最小質量を見積もった。その結果、(E(SN),n0)=(10(52)erg,10cm(-3))の場合・最小質量は5.6×106M。であり、(E(SN),n0)=(10(51)erg,103cm(-3))の場合、最小質量は4.1×106-107Moに制限されることが分かった。 図1 ガスが収縮を起こすかどうかを表した、ハローがvirial化するときの赤方偏移Zvirとハローの質量Mhaloの関係。ガスが収縮する場合を○、収縮できない場合を×で表す。点線はvirial温度Tvir=104Kのハロー。 図2シェルの分裂が起こるパラメータ範囲。分裂が起こる場合は○、起こらない場合は×。比較のため、一領域近似で求めたZ=10(-4)Zoの場合の結果を実線で表す。この線より上の領域では分裂可能である。また、シェル温度を300Kに固定した場合の結果をドット・ダッシュ線で表す。この線より上の領域では分裂可能である。 | |
審査要旨 | 本論文は5章からなる。第1章は、イントロダクションであり、初期宇宙における星形成過程の解明の重要性、なかでも第二世代星の形成に対する第一世代星の影響をあきらかにしようとする本研究の動機と目的が述べられている。 第2章では、初期宇宙での星形成を示唆する観測的証拠を述べたあと、膨張宇宙の中で暗黒物質のハローが形成されその中から第一世代の星が形成される過程をこれまでの研究を引用しつつ物理的考察を加えて説明している。第一世代の星が形成されたことによる次世代の星形成への影響には、星からの輻射の影響、爆発や星風などの力学的効果、および星で作られた重元素による化学的効果があり、本研究の目的がこれらの影響を考慮した第二世代星形成の可能性とその条件を調べるものであることが示されている。 近年の3次元シミュレーションから第一世代星は非常に重く100-1000 太陽質量であったと考えられている。それらの第一世代星は数百万年で寿命を迎えるが、その質量によって直接ブラックホールになる場合と超新星爆発を起こす場合に分かれると考えられるので、それぞれの場合についてその後の星形成の条件が調べられた。 第3章では、直接ブラックホールになる場合に後に取り残された電離領域中で星形成が可能かどうか調べられた。先行研究では、ハロー中の水素分子が星からの輻射で完全解離されており、ブラックホール形成後もガスは高温のまますべてハローの外に流出してしまうため、星形成は起こらないとされていた。本研究では、非平衡化学反応を考慮した球対称流体のシミュレーションを行って、106 太陽質量以上のハローでは中心部で電離ガス中の自由電子が触媒となって水素分子が形成され、その冷却効果で温度が低下したガス中でHD 分子が作られることでさらに温度が100K 以下に下がる。そのため第一世代の星と組成は同じだが第一世代星よりは質量の小さい星が形成されうることが示された。また、これらのガスはHD 分子で温度が下がるとは言え、宇宙背景放射の温度以下には下がれないため、作られる次世代星は現在の典型的な質量(~1太陽質量)に比べかなり大きく、数十太陽質量となる可能性があることが示された。 第4章では、超新星爆発が起こる場合に爆発によって形成されるシェルの力学的・熱的進化を爆発エネルギーESN (= 10(51), 10(52) erg)と周囲の数密度n0 (= 0.1,1, 10 cm-3)および重元素量Z (= 10(-4), 10(-3), 10-(2) Z)をパラメータとして調べ、膨張減速シェルの線形解析を用いて重力不安定によるシェルの分裂の条件が議論された。その結果、すべての重元素量にたいして(ESN, n0)=( 10(52) erg, 10 cm(-3))と(ESN, n0)=( 10(51) erg, 103 cm(-3))のときにシェルが分裂することが分かった。この条件はシェルを一層で近似した先行研究に比べれば高い周囲の数密度を要求するものである。重力不安定を起こすためにはシェルの温度が十分に冷えることが必要で、爆発のエネルギーと周囲の密度が高いほど、シェルに取り込まれるガスの質量が大きくなりシェルの密度も高くなるため放射冷却が効いて分裂しやすい。先行研究ではシェルの温度は水素分子とHD 分子による放射冷却によって下がると考えられていたが、シェルの構造変化を詳細に調べた本研究によって、シェルの周縁部では放射冷却が効くがシェルの中央部はシェル自体の断熱膨張による冷却効果が支配的なことが分かった。シェル周縁部での冷却は周囲の密度が高くシェルの密度も高くないと効かないため、周囲の密度が低いときにはシェルを一層で近似した場合よりも温度が高く分裂しにくい。 重元素量の影響も詳しく議論され、太陽組成の1%程度以上に多い場合には炭素と酸素の微細構造遷移による放射冷却が有効に働く一方で、宇宙背景放射による加熱も効くため、ガスの温度は背景放射温度程度になる。一方、重元素量が少ないときは背景放射による加熱は効かず、断熱膨張による冷却で10K 近くまで下がる。どちらの場合でも重力不安定による分裂が起こりうる温度まで下がるために、シェルの分裂条件としては、重元素量はほとんど関係なく、周囲の密度と爆発のエネルギーがより重要であることが示された。 第5章でこれらの結果が簡潔にまとめられており、補遺として超新星シェルの古典的モデルや膨張減速シェルの不安定性の線形解析、さまざまな放射冷却過程と計算で使用した化学反応のリストが付けられている。 以上、本論文は、大質量の第一世代星の影響、すなわち、星からの輻射と非平衡化学反応による冷却の効果、爆発によって形成されるシェルの温度や密度変化について、詳細な研究を行ない、第二世代星の質量について、新たな定量的な結果を得た。このような、本論文の結果は、宇宙初期での星形成、特に、第二世代星形成の研究に新しい知見をあたえる重要な貢献であると高く評価できる。 なお、本論文第3 章は大向一行との共同研究であり、第4章は大向一行・細川隆史との共同研究であるが、論文提出者が主体となって計算及び結果の検討と考察を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 | |
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