学位論文要旨



No 123301
著者(漢字) 原田,雄司
著者(英字)
著者(カナ) ハラダ,ユウジ
標題(和) 火星における表層質量荷重による真の極移動
標題(洋) True Polar Wander Due to Surface Mass Loading on Mars
報告番号 123301
報告番号 甲23301
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5182号
研究科 理学系研究科
専攻 地球惑星科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,學
 東京大学 教授 栗田,敬
 東京大学 准教授 阿部,豊
 国立天文台 准教授 花田,英夫
 北海道大学 教授 日置,幸介
 東京大学 教授 大久保,修平
内容要旨 要旨を表示する

Abstract

Time variation of a pole location is calculated regarding a case of large-scale true polar wander due to surface mass loading on Mars. In this calculation, both cases with and without effect of pole tide are investigated. Through comparison between them, the effect of the pole tide on the time variation of the pole location is discussed. As a conclusion, this calculation quantitatively indicates that the pole tide stabilizes the pole location over much longer time scale than that of relaxation. On the other hand, it also implies that the effect of the pole tide is negligibly small in a case of longer term variation than the delay by this stabilization.

Also, in this study, long-term variation of a pole location driven by evolution of a volcanic province on a terrestrial planet is investigated. The present modeling comprehends large-scale variation. Also, this study considers an elastic lithosphere as a fossil bulge. For this purpose, this study tries to expand the previous formulation for the final state of TPW to that for long-term variation. Remarkable variations are those on a TPW angle for the following situations. The parameter Qmax (a normalized magnitude of a surface mass load) is larger than or equal to 1, and also is slightly smaller than 1. In addition, the initial load co-latitude is less thanabout 10°. Under the situations of such Qmax and initial load co-latitude, the results are as follows. If the initial load co-latitude is close to zero, extremely large and rapid variation like as inertial interchange true polar wander is possible. If not close to zero, variation is relatively large but is much more gradual. These results would give us a possibility of reconstruction of volcanic history, such as the evolution of Tharsis on Mars.

KeyWords

Geophysics,Mars,interior,Planetary dynamics,Rotational dynamics,Volcanism

審査要旨 要旨を表示する

論文内容の要約

本論文は全8章から構成される。各章の概要は以下の通りである。

第1章は序説である。最初に本研究の動機付けを行なっている。そして本研究において取り組んだ課題を示している。

第2章では背景について前章よりも詳細に解説している。前半では地球型惑星一般における真の極移動の力学モデルに関する先行研究を紹介している。一方、後半では近年の火星探査から得られた真の極移動を示唆する観測結果を紹介している。

第3章ではパラメーターについて説明している。先ず真の極移動の励起源である表層質量荷重のモデルについて説明し、更に荷重及び遠心力ポテンシャルに対する惑星内部の応答のモデルについて説明している。

第4章では手法について説明している。最初に極潮汐による粘弾性変形の影響を考慮しない場合における真の極移動の取り扱い、次いで極潮汐を考慮した場合における真の極移動の取り扱いについて説明している。

第5章では理論について前章よりも詳細に解説している。最初に重力ポテンシャルの擾乱と慣性能率テンソルの擾乱を結び付ける定理を示している。その後、極潮汐の効果を考慮しない場合を想定して慣性能率テンソルの擾乱の定式化、次いで極潮汐を考慮した場合の慣性能率テンソルの擾乱の定式化を行なっている。

第6章は結果である。最初に極潮汐の効果を考慮しない場合のモデル計算の結果、次いで極潮汐を考慮した場合の結果についてまとめている。

第7章は考察である。最初に極潮汐の効果を考慮しない場合の結果に対する物理的解釈、同じく極潮汐を考慮した場合の結果に対する解釈を与えている。更には、荷重が時間変化する場合における計算結果に関して実際の火星における真の極移動の制約条件と比較検討している。その後、本研究において未解決であった問題点について列挙している。

第8章は結論である。本研究において取り組んだ課題に対する解答を与え、最後に今後の展望を述べている。

審査委員会の評価

本論文は既存の研究と比較して、主に下記の二つの研究成果について斬新で有意義である。

一つは、極潮汐を媒介とする惑星回転と惑星変形の相互作用に関する成果である。大規模な真の極移動における極位置の時間発展の解を求める場合、従来のリュービルの極運動方程式における線形近似は一般に適応不可能である。本研究では、極位置の最終状態に関する従来の松山理論に、極潮汐による粘弾性変形の効果を新たに組み込んだ。それに基づいて、大規模な場合を含む時間発展にも適用可能な定式化を行ない、かつその解を並列計算によって数値的に求めている。

この成果の意義は、荷重成長の時間スケールがどの位であれば極潮汐の影響を無視し得るのかという問題について定量的基準を与えている事である。これは惑星における長期的な真の極移動をモデル化する際に重要である。何故なら、極潮汐を無視した流体的極限を想定する事が果たして妥当であるかどうかを判断する根拠となり得るからである。例えば火星の場合、タルシス地域の発達の時間スケールは極潮汐による安定化の時間スケールよりも遥かに長く、従って無視しても良いと言える。このような定最的判定が、本研究を踏まえる事で可能となる。

もう一つは、タルシス地域の進化に与える示唆に関する成果である。本研究では、長期的な荷重成長を前提として松山理論を時間発展へ拡張している。そして化石バルジが残存する惑星について極位置の時間変化を求めている。尚、拡張の際、荷重成長の時間スケールが十分に長い場合には極潮汐を無視しても良い、という前述の定量的根拠を踏まえている。更には本結果を、現実の火星における真の極移動の傍証と比較する事によって、荷重としてのタルシス地域の大きさ及び完成年代の推定を試みている。

この成果の意義は、惑星の内部・表層のシステムの変遷をより深く理解する上で有益な知見を与えている事である。第一に、火山の発達史を制約する事は惑星内部の進化を制約する事に等しい。何故なら大規模な火山の形成過程は内部の熱進化と密接に関連するからである。第二に、大規模な確からしい真の極移動のシナリオを復元する事は、特定の地域における地史を理解する上でも重要である

尚、本論文は他の研究者との共同研究ではない。全て論文提出者が主体となって行なった研究であり、本論文に対する提出者自身の寄与は十分であると判断する。従って理学博士の学位授与に値すると認める。

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