No | 123318 | |
著者(漢字) | 宮川,拓真 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ミヤカワ,タクマ | |
標題(和) | 都市大気中における微小エアロゾルの変質・輸送過程に関する研究 | |
標題(洋) | Studies on transformation and transport of submicron aerosols in urban atmosphere | |
報告番号 | 123318 | |
報告番号 | 甲23318 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第5199号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究ではエアロダインエアロゾル質量分析計(AMS)を用いて、東京大都市圏内とそこから輸送される微小粒子(粒径く1μm)の生成・消失過程に関する研究を行った。AMSは分の時間分解能で微小粒子の粒径別化学組成を測定可能である。AMSによる無機、有機エアロゾル(OA)測定と他の独立した測定器による測定の相互比較を行った。AMSの粒子捕集効率(CE)を0.5と仮定すれば、AMSにより測定された硝酸塩、硫酸塩(SO4(2-)、塩酸塩、アンモニウムは粒子液化捕集一イオンクロマトグラフ(PILS-IC)で測定されたそれらと±26%以内で一致した。また、無機成分と同じCEを仮定し、AMSで測定されたOAの質量濃度を加熱分離-光透過法に基づく有機炭素(OC)測定と相互比較した。2003年の7月(10月)において、平均的な有機炭素重量に対する有機成分全量の比率(OM/0C比)は1.8(1.6)であった。これらの値は先行研究で見積もられている1.6-2.1という値と整合的である。 実験室内で生成した有機エアロゾル粒子の質量スペクトルをAMSによって測定した。実大気中のOAのAMS質量スペクトル(MS(AMS))を解釈するために、 MS(AMS)中の信号強度と官能基情報を利用した統計解析を行った。質量電荷比(m/z)55、60、61、73の信号は様々な有機成分中で検出された。しかしながら、m/z60+61+73/m/z55比は糖類においてのみ1以上の値をとり、それ以外の炭化水素骨格を持つ成分や、チェンバー内で生成された二次有機エアロゾル(SOA)、ディーゼル排気内の一次有機エアロゾル(POA)では1よりも小さい値をとった。m/z 44信号は低分子量のジカルボン酸や多官能基酸中のカルボキシル基と密接に関係していた。m/z44信号の相対強度は、都市大気中であれば、OM/OC比や、有機酸素重量に対する有機成分全量の比率、全OC中の水溶性成分の割合の良い指標となりえることがわかった。2003年夏季の2日間(8/4-8/6)において、実大気中のOA質量スペクトルと実験室内で測定を行ったそれと比較を行った。大気中の低分子量のジカルボン酸、ヒドロキシル酸、ケト酸のバルク濃度から推定されるm/z45の信号強度はAMSで測定されるm/z45信号と非常に類似した時間変動を示した。日中にその信号強度が高くなる傾向にあった。今回比較を行ったシュウ酸(それ以外の成分)は全量に対して平均的に20%(2%)寄与していた。m/z44だけでなく、m/z45信号も低分子量のジカルボン酸中のカルボキシル基のよい指標となりえることが示唆された。これらの結果は実大気やチェンバー内で測定されるMS(AMS)の解釈に対して有用な知見を与えるものである。 2003年4月から2004年2月の問に東京で行った4回の地上観測で得られた二酸化硫黄(SO2)、SO4(2-)、一酸化炭素(CO)濃度のデータを用いて、都市近傍でのSO4(2-)の生成過程と硫黄酸化物(SOx)の消失過程に関する研究を行った。SOxの消失を定量化するために、観測されたSOx-CO相関と東京におけるSO2とCOの放出比からSOxの残存率を見積もった。平均的なSOxの残存率は夏季で0.4、冬季で0.2であった。平均的なSOx中のSO4(2-)の比とSOxの残存率を用いて、SO4(2-)の生成効率を見積もった。得られた生成効率は夏季に0.18であり、冬季の0.03と比べ、大きな値を示した。観測されたSOx消失の時定数を見積もるため、簡略化したボックスモデルを構築した。見積もられたSOxの寿命は夏季において約1日であり、冬季の半日程度と比べ、2倍長かった。これらの値から観測期間中の東京では1日以内の時定数で約60%以上のSOxが混合層内から除去され、放出されたSO2の約20%以下がSO4(2-)を生成していたことを示している。これらの値の季節変化は混合層高度とSO2の酸化速度の季節変化に起因する。これらの結果は都市域から輸送されるSOxの生成・消失過程に関する有用な知見を与える。 2004年夏季の関東平野上の2点観測(都市と郊外)から得られたデータから、光化学スモッグ時の都市起源空気塊中での微小エアロゾル(特にOA)の時間発展に関して研究を行った。観測期間中は両観測点でOAとSO4(2-)が微小粒子中の主要成分であった(それぞれ20-30%と40-50%)。空気塊の時間経過で微小エアロゾル化学組成に大きな変化はなかった。もっとも光化学酸化プロセスを経た気塊中では黒色炭素エアロゾル(BC)に対して、OAとSO4(2-)はそれぞれ約3倍、2倍の増加を示した。これらの成分の二次生成は微小エアロゾル総濃度の支配要因として重要であることが示唆される。OA全量だけでなく、BCに対する質量スペクトル信号は概ね増加した。しかしながら、その増加傾向は異なるm/z信号によって異なっていた。 〃露57信号は先行研究では統計解析から得られる炭化水素様OA(HOA)の質量スペクトルに分類されていた。本研究は典型的にHOAと分類されるm/z信号(m/z41、55、57など)が、SOAから寄与を受ける場合があることを示した。カルボキシル基の良い指標であるm/z44と45信号は他のm/z信号と比べ、突出した増加を示した。このことは数時間という時間スケールでカルボキシル基を含む成分が効率的に生成していたことを示している。 2004年夏季の関東平野上の2点観測(都市と郊外)から得られたデータから、光化学スモッグ中でのOAの生成と輸送過程を調べた。 OAの輸送フラックスをCOの放出インベントリとOA-CO相関の傾きから推定した。典型的な場合(光化学経過時間が2~4時間)では25Mgd(-1)、最大ケース(光化学経過時間が~12時間)では63Mgd(-1)であった。最大ケースではSOAの寄与が約70%であることがわかった。本研究で示された発生源近傍でのSOA生成とその輸送量から、SOA前駆気体にとって人為的発生源が重要であるということが示唆される。OAとCOの相関は、光化学経過時間や発生源からの距離などと組み合わせることによって、OAの生成・消失、輸送過程に関して有用な知見を与えることが示された。 | |
審査要旨 | 本論文ではエアロダイン社製のエアロゾル質量分析計(AMS)を用いた室内実験・実大気観測・解析により、東京大都市圏内とそこから輸送される微小粒子(粒径<1μm)の生成・消失過程、特に有機エアロゾル成分の動態に関する研究を論じている。論文は6章からなり、第1章はイントロダクション(エアロゾルの重要性)、第2章は本論文の研究で用いられたエアロゾル測定器(AMS)の性能評価や有機エアロゾル成分に関する室内実験、第3章は硫酸エアロゾルの生成とその前駆気体である二酸化硫黄の消失過程、第4章では実大気中でのエアロゾルの輸送中での生成過程、第5章ではこのような大気の輸送中での有機エアロゾル成分の生成、第6章は全体のまとめを示してある。 本論文の研究ではAMSによる無機エアロゾル成分の測定を、独立な測定手法である粒子液化捕集-イオンクロマトグラフ(PILS-IC)法による測定と比較を行った。この結果、硝酸塩、硫酸塩(SO42-)、塩酸塩、アンモニウムは±26%以内で一致した。またAMSで測定されたOAの質量濃度を加熱分離-光透過法に基づく有機炭素(OC)測定と相互比較した結果、東京における平均的な有機炭素重量に対する有機成分全量の比率(OA/OC比)が1.6-1.8という、先行研究で見積もられている値と同程度であることを明らかとした。 本論文では、実験室内で生成した有機エアロゾル粒子の質量スペクトルをAMSによって測定した研究も論じている。実大気中のOAのAMS質量スペクトル(MSAMS)を解釈するために、MSAMS中の信号強度と官能基情報を利用した統計解析を行った。この結果、m/z 44信号は低分子量のジカルボン酸や多官能基酸中のカルボキシル基と密接に関係するなど、実大気やチェンバー内で測定されるMSAMSの解釈に対して有用な対応関係を明らかとした。 本論文ではまた、2003年4月から2004年2月の間に東京で行った4回の地上観測で得られた二酸化硫黄(SO2)、SO(42-)、一酸化炭素(CO)濃度のデータを用いて、都市近傍でのSO(42-)の生成過程と硫黄酸化物(SOx = SO2 + SO(42-))の消失過程に関する研究について論じている。この結果、平均的なSOxの残存率は夏季で0.4、冬季で0.2であり、またSO(42-)の生成効率は夏季に0.18であり、冬季の0.03と比べ、大きな値を示すことが明らかとなった。観測されたSOx消失の時定数を見積もるため、簡略化したボックスモデルを構築した。見積もられたSOxの寿命は夏季において約1日であり、冬季の半日程度と比べ、2倍長かった。これらの値から観測期間中の東京では1日以内の時定数で約60%以上のSOxが混合層内から除去され、放出されたSO2の約20%以下がSO(42-)を生成していたことを示している。これらの値の季節変化は混合層高度とSO2の酸化速度の季節変化に起因することが明らかとなった。 2004年夏季の関東平野上の2点観測(都市と郊外)から得られたデータから、光化学スモッグ時の都市起源空気塊中での微小エアロゾル(特にOA)の時間発展に関して研究を行った。観測期間中は両観測点でOAとSO(42-)が微小粒子中の主要成分であった(それぞれ20-30%と40-50%)。空気塊の時間経過で微小エアロゾル化学組成に大きな変化はなかった。もっとも光化学酸化プロセスを経た気塊中では黒色炭素エアロゾル(BC)で規格化した場合、OAとSO(42-)はそれぞれ約3倍、2倍の増加を示した。これらの成分の二次生成は微小エアロゾル総濃度の支配要因として重要であることが示唆される。OA全量だけでなく、BCで規格化した質量スペクトル信号は概ね増加した。しかしながら、その増加傾向は異なるm/z信号によって異なっていた。この結果、数時間という時間スケールでカルビキシル基を含む成分が効率的に生成していたこと等を明らかとした。 2004年夏季の関東平野上の2点観測(都市と郊外)から得られたデータから、光化学スモッグ中でのOAの生成と輸送過程を調べた。OAの輸送フラックスをCOの放出インベントリとOA-CO相関の傾きから推定した。典型的な場合(光化学経過時間が2~4時間)では25 Mg d(-1)、最大ケース(光化学経過時間が~12時間)では63 Mg d(-1) であった。最大ケースではSOAの寄与が約70%であることがわかった。本研究で示された発生源近傍でのSOA生成とその輸送量から、SOA前駆気体にとって人為的発生源が重要であるということが示唆された。 以上のように本論文は、大気中の無機成分を高精度で測定することによりその詳細な動態を明らかとするとともに、有機エアロゾルを構成する各種成分の大気中での生成・変容の様相の重要な側面を明らかとするなど、大気中のエアロゾルの理解に対し大きな貢献をしたものと評価できる。 なお、本論文の第3、4、5の各章の主要な内容は共同研究に基づいたものでありJournal of Geophysical Researchなどの学術論文誌に発表済み・あるいは投稿中であるが、いずれの論文も論文提出者が第一著者であり、主体となって解析・解釈を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 従って、博士(理学)の学位を授与できると認める。 | |
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