学位論文要旨



No 123393
著者(漢字) 辻埜,真人
著者(英字)
著者(カナ) ツジノ,マサト
標題(和) マイクロ波加熱技術を応用した骨材回収型完全リサイクル
標題(洋)
報告番号 123393
報告番号 甲23393
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6709号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 教授 松村,秀一
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 准教授 岸,利治
内容要旨 要旨を表示する

近年の環境問題に対する意識は非常に高く、全産業廃棄物排出量の約2割を占め、今後も増加が予測されている建設業界が担う役割は非常に大きい。その中でも、特にコンクリート廃棄物に対する関心は高く、路盤材利用によって再資源化率は極めて高くなっているが、道路建設の減少や戦後の高度経済成長期に多量に建設され、ストックされてきた構造物から発生するコンクリート塊の増加、最終処分場の逼迫という将来のコンクリート廃棄物問題を鑑みると、現在、路盤材として利用されているコンクリート塊をコンクリート用骨材として再利用する必要性に迫られている。このような状況のもと,再生骨材が普及に向けJIS化されるなど,コンクリートを取り巻くリサイクルシステムは大きく前進しつつあるが,現在の加熱すりもみ式再生処理などの高度処理技術を要する逆工程には,エネルギーやコストの削減,微粉末の処理など課題が多いことが示されている。従って、コンクリートの打ち込み当初から骨材リサイクルが可能な解体分離を念頭においたリサイクルシステムを構築するための技術が求められている。

研究背景からコンクリート用骨材のリサイクルには逆工程の省力化が極めて重要である。また、コンクリートの性能改善によって超寿命化が図れ、環境負荷低減につながることから、骨材回収性能を向上させつつ、コンクリートの性能改善をも可能とする技術の確立を目的として検討を行った。

まず、骨材分離を念頭においた技術を利用し、低エネルギーによる骨材リサイクルの検討を行った。この技術は、骨材表面に撥水作用などを有する改質処理剤を施工し、コンクリートの打ち込み時から、骨材とセメントマトリクスとの付着強度を低減することで、骨材の容易なリサイクルを実現するものである。さらに、骨材表面に被膜を形成することから、骨材の吸水率低減効果をもたらし、コンクリートの性能改善を図るものである。この技術を利用し、広範囲なコンクリートの材料試験および構造試験を実施し、実構造物への利用可能性を言及した。

次に、前述した技術は、骨材分離を念頭においた技術であることから、力学性能の改善を図ることは困難である。そこで、力学性能をも改善でき、骨材回収性能を有する技術の検討を行った。

提案技術は高い誘電率を有する改質材料を骨材表面に塗布し、この部分をマイクロ波によって選択的に加熱・脆弱化させ、低エネルギーで高品質な骨材を回収し、骨材の完全リサイクル化を実現するものである。この技術は、マイクロ波加熱による瞬間的な骨材表面の強度低下であることから、解体前の構造物の運用時には、強度低下する可能性が小さい。さらに改質材料の種類によっては、遷移体の改善を行うことも可能となり、コンクリートの強度増進および耐久性の改善が実現し、建築物の延命化といった根本的な環境負荷低減につながるものである。

まず、骨材分離技術を利用した結果、簡易な散水方法での塗布でも再生粗骨材の吸水率を低減することが可能であると示された。そしてこれらの骨材を利用したコンクリートのフレッシュ特性は、処理を施していない水準と同程度であることが明らかになった。次に、コンクリートの硬化特性において、水セメント比が60%程度であれば強度低下がなく、中性化抵抗性能が改善され、剥離率も改善したことから骨材回収を念頭においた構造用コンクリート骨材としての利用可能性を示した。一方シラン系は、50%以上の剥離効果が見られ高度処理を行うことなく,回収率を高めることができるが、強度低下が著しく、構造物への適用は困難であると結論付けられた。

構造用コンクリート骨材としての利用可能性を示した油脂系表面改質処理骨材を利用した曲げ部材の検討を行った。その結果、ひび割れに対する性能は若干低下するが,最大ひび割れ幅が0.3mm以下であることから,本研究と同程度の鉄筋径を用いた場合には大きな問題になるとは考えにくく,ひび割れ追従性の良い仕上材との併用により,構造部材への実用に十分耐えうると結論付けられた。また、油脂系表面改質処理骨材を用いたRC梁の曲げ耐力は,普通粗骨材コンクリートとほぼ同等の性能を示し,コンクリートの圧縮縁ひずみを3500μと仮定することで終局耐力を予測できることが明らかになった。以上の結果から、油脂系表面改質処理を施した骨材は構造材料として十分利用可能であることが示された。

マイクロ波加熱を利用した技術においては、まずマイクロ波の概要および特徴を示し、コンクリート分野へのマイクロ波加熱の利用状況を精査した。そして、マイクロ波加熱技術を利用したコンクリートのリサイクルが、他のリサイクル手法に対して、低エネルギーであることを証明し、今後の技術開発の基本を組み上げた。

マイクロ波を利用した誘電材料の加熱試験の結果、現在では、酸化鉄(FeO)が昇温特性や含有物質および物量に対する問題もなく、最も利用可能性が高いと判断された。

次に選定した誘電材料である酸化鉄を骨材へ施工するためのバインダーの選定を行った。マイクロ波を利用した本技術では、構造物の運用時には、骨材と誘電材料を含む改質材(以下、誘電体被覆改質材)そして誘電体被覆改質材とモルタルマトリクスが強固に付着している必要がある。そこで各種のバインダーについて検討を行い、骨材への施工を試みた。その際に求められる要求は、下記の5点であると考えられる。

(1) 骨材への施工の容易さ

(2) 誘電材料が均一に施工できていること

もしくは、誘電材料がバインダーに均一に分散可能であること

(3) 利用するバインダーがコンクリート(強アルカリ)中で安定していること

(4) マイクロ波加熱によって短時間で300℃程度までの昇温効果が得られること

(5) 骨材と誘電体被覆改質材そして誘電体被覆改質材とモルタルマトリクスがコンクリートの強度低下を生じさせない強固な付着力を有していること

(1)および(2)に関しては、実施工の上で判断し、(3)については、フレッシュモルタル中への投入を行うことで評価した。そして(4)に関しては、マイクロ波加熱試験を行うことによる昇温特性の評価を行った。最後に(5)については、コンクリートの練混ぜ試験を行い、最終的に圧縮強度における強度によって評価を行った。

その結果、(1)および(2)に関しては、スプレー状および低粘度バインダーであれば、大きな問題がないことが示された。誘電材料の選定に当たって最も困難であるのは(3)である。バインダーとして、有機材料を用いた場合には、コンクリートの強アルカリ環境下で安定している低粘度材料は少なく、現時点では低粘度エポキシのみであった。(4)に関しては、酸化鉄エポキシ比が2.86程度であれば、全くコーティングを施さない骨材と比較し、3倍程度の昇温特性を有しており、目標とする加熱温度300℃に達するには60秒程度の加熱でよいことが示された。(5)については、エポキシ-酸化鉄骨材に適量の反応性物質(シリカフューム)をコーティングすることで誘電体被覆改質材とモルタルマトリクスが強固に付着することが示された。さらに、普通コンクリートに比べても強度が高いことから、骨材と誘電体被覆改質材の付着強度も十分有していることが明らかになった。以上の結果、誘電材料である酸化鉄を骨材へ施工するためのバインダーは、低粘度エポキシであると結論付けられた。

最後に、選定した誘電体被覆改質処理材を利用し、力学性能および骨材回収性能の相反する性能を両立し、マイクロ波加熱技術を利用した骨材回収型完全リサイクルコンクリートの実現を目指した。

まず、十分な力学性能を有するために誘電体被覆改質材に必要なシリカフューム量は、10~20%程度であり、この範囲であれば、同調合における普通コンクリートに比べ1.2倍以上の強度発現が可能であることを明らかにした。

そして力学性能に改善効果が見られた水準においてマイクロ波加熱を利用した骨材回収性能に関する実験を行った。その結果、十分な摩砕効果を有していない試験機を用いたにもかかわらず、ペースト付着率は極めて小さく、原骨材回収率が90%を超える水準となった。さらに、加熱すりもみ技術を想定した水準と比較してもペースト付着率、原骨材回収率ともに劇的に向上することが明らかになった。

以上の結果から、力学性能および骨材回収性能の相反する性能を両立し、マイクロ波加熱技術を利用した骨材回収型完全リサイクルコンクリートを実現した。

審査要旨 要旨を表示する

辻埜真人氏から提出された「マイクロ波加熱技術を利用した骨材回収型完全リサイクルコンクリート技術に関する研究」は、鉄筋コンクリート構造物が老朽化・陳腐化によって寿命を迎えて解体される段階では、解体コンクリート塊からコンクリート用骨材として再生利用可能な高品質再生骨材を低エネルギー・低コストで容易に回収でき、かつ、解体前のコンクリートとしては高性能を発現できる骨材の表面改質技術を開発したものである。本開発技術により、コンクリートの品質・性能の低下を招くことなく、将来の骨材回収が容易なコンクリート構造物を構築することができるようになり、将来的なコンクリート系廃棄物の大幅な削減が可能になると考えられる。

本研究は8つの章で構成されている。

第1章では、本研究の背景、目的、範囲などが的確に述べられている。

第2章では、文献調査が行われ、再生骨材の製造に関する既存の技術が要領よく纏められており、既存の技術では低消費エネルギーで高品質の再生骨材を製造することが困難であることが確認され、再生骨材の普及を図るためには、低エネルギー生産と高品質製品というトレードオフの関係を両立させる技術開発が必要であり、解体コンクリート塊の廃棄物化を未然に防止する仕組みとコンクリートの品質低下を防止する仕組みを兼ね備えた表面改質処理技術の開発方向性が示されている。

第3章では、骨材表面に被膜を形成させて骨材とセメント硬化体との付着力を低減させることにより、解体コンクリート塊からの容易な骨材回収を実現する技術の開発研究がなされている。実験の結果、撥水塗膜を適用した場合、骨材の吸水率の低減とコンクリートの流動性が確保され、かつ低エネルギーでの骨材回収を実現できるものの、コンクリート強度の低下が生じるため構造物への適用は不可能であることが明らかにされている。一方、金属塩被膜を適用した場合には、通常強度レベルのコンクリートであれば強度低下は生じず、かつ乾燥収縮・中性化抵抗性が改善され、骨材回収率の向上も見られ、金属塩被膜を施した骨材の構造用コンクリートへの利用可能性が示されている。

第4章では、第3章において利用可能性が示された金属塩被膜を施した骨材を用いて鉄筋コンクリート梁試験体が製作され、その構造部材としての曲げ特性に関する検証がなされており、ひび割れ抵抗性能は若干低下するものの、ひび割れ追従性の良い仕上材を併用することで実用化可能であることが示され、第3章および第4章の結果を元に、金属塩被膜が施された骨材は、完全にとは言えないが、構造物への適用も可能であるという結論が導かれている。

第5章では、構造用コンクリート骨材として全く問題なく利用可能であり、将来非常に容易な骨材回収を可能とする骨材表面改質技術を開発することを目的として、骨材表面の誘電体を含んだ改質処理材を選択的に加熱し、その周囲のセメント硬化体のみを限定的に脆弱化させる手法として、マイクロ波加熱処理法の適用可能性について実験的な検討がなされており、マイクロ波加熱処理によって、原骨材の回収率が高く、低エネルギーで高品質な再生骨材を製造できることを確認するとともに、マイクロ波加熱による昇温特性に優れた実用可能な誘電体として、酸化鉄微粉末が選定されている。

第6章では、酸化鉄微粉末を骨材表面に施工するためのバインダーの選定実験がなされており、十分な施工性およびコンクリート中での安定性を有している材料として、低粘度エポキシ樹脂が選ばれている。また、無理のない昇温特性を実現するためには、酸化鉄-エポキシ質量比を3程度にすることが望ましいことを明らかにしている。

第7章では、表面改質処理骨材のセメント硬化体との付着力を向上させる技術開発が行われており、酸化鉄を含むエポキシ樹脂の表面にシリカフュームおよび副産微粉を適切な割合で混合した粉体を塗布することで、シリカフュームのポゾラン反応と副産微粉の機械的摩擦力が導入され、コンクリートの強度向上が可能であることを明らかにしている。また、上記表面改質処理を施した骨材を用いたコンクリートは、乾燥収縮および中性化抵抗性も向上することを明らかにしている。さらに、同コンクリートにマイクロ波加熱処理を施すことで、極めて高い回収率で原骨材の回収が可能であることを明らかにしている。

第8章では、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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