学位論文要旨



No 123417
著者(漢字) 臼杵,深
著者(英字)
著者(カナ) ウスキ,シン
標題(和) 変調照明シフトによる光学式超解像欠陥計測に関する研究
標題(洋)
報告番号 123417
報告番号 甲23417
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6733号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 高橋,哲
 東京大学 教授 樋口,俊郎
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 神保,泰彦
 東京大学 准教授 日暮,栄治
内容要旨 要旨を表示する

半導体デバイスの微細化に伴う製造コストの増大の主要因は生産ラインにおける歩留り低下にあり,これを防止するために,欠陥検査技術が重要な役割を果たしてきた.しかしながら,半導体検査業界においても,検査技術の微細化への追随が困難となっているのが現状である.これは,微細化に伴うキラー欠陥サイズ縮小による欠陥検出能力の低下,ウエハの大口径化による検査スループットの低下,に起因する.また,多層配線化や新材料の導入がなされ,欠陥が多様化したことにより,欠陥の有無の検出以外に,欠陥レビューが強く求められている.更に,生産ラインにおける検査には非破壊性が要求される.つまり,高解像力,高速計測性,非破壊性,全てを有する欠陥計測技術を開発することが急務である.

従来,100mmスケールの欠陥レビューはSEM(走査型電子顕微鏡)によって行われる.しかし,SEMは高解像力を有する半面,検査対象の汚染という問題を抱えている.更に,高速化の研究が活発になされているとはいえ,ウエハのインライン検査の観点でいうと,光学式検査技術に対してスループットの面で劣る.また,光学式検査技術は高いスループットを有する反面,解像力は,光源波長や対物レンズのNAにより制限され,100mmケールといった微細構造の解像は困難である.

そこで,本論文では,従来技術では困難である項目(高解像性と高速計測性の両立)に対して,超解像技術からアプローチする.これにより,光学式計測法が本質的に有する非破壊性・高速計測性に加えて,波長や結像NAにとらわれない高い解像力を有する計測技術の実現が期待できる.超解像といっても,短波長化や高NA化といった単なる解像力向上の意味での超解像ではなく,本質的に波長や結像NAを超えた解像を達成する技術を提案・開発し,次世代欠陥計測技術として確立することを目指す.

半導体欠陥計測に対する要求として,高解像性,高速計測性,非破壊性があることは既に述べたが,様々な外乱が想定される生産現場における計測技術であることを考慮すると,ノイズに対するロバスト性が要求項目の1つとして挙げられる.そこで我々は,これらの要求項目全てを満たす手法として,変調照明シフトによる光学式超解像欠陥計測手法を提案する.

本手法は,試料に変調照明(空間的に変調された照明)を行い,照明光の位相シフトと共に複数の画像を取得し,それらを計算機により後処理することで試料分布を解像する手法である.変調照明を微小シフトさせることによって得られた複数画像には,通常の結像情報以外に,照明の空間周波数帯域情報,微小シフトの情報が含まれるため,超解像が期待できる.更に,複数情報取得によるノイズ抑制効果の観点から,様々な外乱ノイズが想定される製造現場における半導体欠陥計測への適用が期待できる.

本研究の最終的な目的は,半導体欠陥計測において従来法では困難である項目(非破壊,高解像力かつ高スループット)を実現する新しい光学式計測技術を開発することである.具体的には,提案手法である変調照明シフトによる超解像欠陥計測法を半導体生産現場における有効なアプリケーションとして確立することを目的とする.

この目的を達成するためは,提案手法が以下の要件を満たすことが不可欠である.

(1)レイリー限界以上の解像力,すなわち光学的超解像を達成すること.

(2)様々な外乱が想定される生産現場において適用可能な計測法を開発すること,すなわちノイズに対する高いロバスト性を有する手法を開発すること.

(3)超解像欠陥レビューが可能な手法を開発し,レイリー限界以下のサイズである100nmスケールの解像力および欠陥検出能力を達成すること.

本論文では,(1)~(3)の要件の検証を軸として研究を進めた.行った研究内容と得られた知見を以下に示す.

第2章において

(1)変調照明による超解像の原理を,空間周波数領域における帯域拡大の観点から理論的に説明した.

(2)変調照明による超解像の解像力に関してレイリー限界値を指標として定式化した.

(3)変調照明の帯域情報を解像結果に反映させることにより,解像力をレイリー限界のおよそ2倍まで高めることが可能であることを示した.

(4)変調照明による超解像は低NA(深い焦点深度)においてもレイリー限界を超えた解像が実現できる可能性があり,計測対象の振動に強く,高速走査が可能となり,高いスループットの計測技術の開発が期待できることを示した.

(5)デジタル超解像の原理,デジタル超解像を実現するための反復的アルゴリズムの説明を行った上で,生産現場への適用性について考察した.

(6)提案手法である,変調照明シフトによる超解像法の原理に関して,変調照明による超解像とデジタル超解像の2つの側面から考察した.

第3章において

(1)解像アルゴリズムの構築にあたって,変調照明による光学結像式を示し,光学結像式の行列表現について説明した.

(2)変調照明シフトによる超解像を実現するために,変調照明シフトにより取得された画像1枚毎に結像方程式の解を再構成してゆく解像アルゴリズムを新たに構築した.

(3)構築アルゴリズムによる解像計算例を示し,アルゴリズムの機能確認を行った結果,試料分布が再構成され,通常の光学結像では解像できない構造が解像されることを確認した.

第4章において.

(1)変調照明シフトによる複数像に対して構築したアルゴリズムを適用した結果,レイリー限界を超えた解像,すなわち一様照明による光学結像では判別不能な二点物体の超解像を確認した.

(2)変調照明の複数シフトによるノイズに対するロバスト性向上をノイズ混入時の複数像を用いた二点物体の解像シミュレーションで検証し,独立なシフト回数を多くすることにより,ノイズに対するロバスト性が向上することを示した.

(3)解像結果に影響する入カパラメータの検討を行い,理想条件における構築アルゴリズムによる解像限界について検討した結果,構築アルゴリズムによる限界解像力を達成するためには,可能な限り変調照明ピッチを小さくすること(変調照明周波数を高く設定すること)の他,位相条件が揃った状態で独立なシフト回数を多くすること(シフトステップサイズを小さくすること)が要件となることがわかった.理想条件の下,現実的な光学条件を用いて提案手法により得られる限界解像力は20nmであった.

(4)ノイズ混入時の構築アルゴリズムによる限界解像力は,理想条件下での条件に加え,可能な限り変調照明周波数を高く設定することで達成できることがわかった.更に,

(1)提案手法により100nmの解像力が得られること

(2)30%のノイズの下,現実的な光学条件を用いて提案手法により得られる限界解像力は50nmであること

を確認した.

(5)提案手法による超解像を関連超解像と比較した.その結果,提案手法(変調照明シフトによる方法)は,

(1)変調照明による超解像に対して解像力の面で優位性が期待できること

(2)ノイズ混入時において一様照明下でのデジタル超解像に対し,二点物体の識別性,二乗誤差関数の収束性の面で優位であること

がわかった.

第5章において

(1)変調照明シフトによる超解像法の実験的検討を目的として,定在波照明シフト光学系の構築,暗視野散乱光検出光学系の構築を行い,変調散乱光検出のための基礎実験装置の開発を行った.

(2)更に,開発装置の基本機能確認として,定在波照明生成実験および変調散乱光検出実験を行った.その結果以下の事項を確認した.

(1)開発した装置を用いて周期的な強度分布を有する定在波照明が生成可能であること

(2)開発した実験装置を用いて定在波の周期的強度分布に対応した散乱光の変調が可能であり,これを暗視野検出可能であること

第6章において

開発した装置,構築アルゴリズムを用いて超解像実験を行い,以下の事項を確認した.

(1)提案手法により,一様照明かつ結像NA(0.46)ではぼやけて判別不能であった標準粒子の2点並列構造および3点並列構造が明確に分離されるということが確認出来た.

(2)比較的低いNAO.46の対物レンズを用いたラインアンドスペースの超解像実験を行い,レイリー限界(647nm)を超えて500nm間隔のラインエッジの解像が可能であることを確認した.

(3)定在波照明のシフトの回数をおおよそ変調照明1ピッチ分とすることで,実験におけるノイズを抑制可能なことを実験的に確認できた.

(4)開発装置および構築アルゴリズムにより,レイリー限界313nmの条件下で150nmの超解像が達成できることがわかった.

第7章において

ラインアンドスペース上に欠陥が存在するサシプルに対して解像実験を行い,解像結果を高解像観察手法であるAFMやSEMによる像と比較することにより以下の事項を実験的に確認し,提案手法の超解像欠陥検出に対する実験的な有効性を示した.

(1)レイリー限界647nmの結像系および超解像処理によって500nm間隔のラインエッジに影響を及ぼす欠陥を検出可能ということ

(2)レイリー限界313nmの結像系および超解像処理を用いて,250nm間隔のラインエッジを埋めるように存在する異物欠陥を検出可能ということ

本論文の結論を総括すると以下のようになる.

提案手法によって,ノイズに対する高いロバスト性の下,100nmスケールの解像力を有する光学式欠陥計測手法が実現可能と考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本研究は,半導体欠陥計測において,非破壊性,高解像力,高速計測性,を兼備する新しい光学式計測技術を開発することを目的とした研究である.この目的を達成するために,変調照明シフトによる光学式超解像欠陥計測手法を提案し,提案手法が以下の要件を満たすことを理論的かつ実験的に検証している.

(1)レイリー限界以上の解像力,すなわち光学的超解像を達成すること.

(2)様々な外乱が想定される生産現場において適用可能な計測法を開発すること,すなわちノイズに対する高いロバスト性を有する手法を開発すること.

(3)超解像欠陥レビューが可能な手法を開発し,レイリー限界以下のサイズである100nmスケールの解像力および欠陥検出能力を達成すること.

本論文の具体的な内容を以下に記す.

第2章において

(1)変調照明による超解像の原理を,空間周波数領域における帯域拡大の観点から理論的に説明した.

(2)変調照明による超解像の解像力に関してレイリー限界値を指標として定式化した.

(3)変調照明の帯域情報を解像結果に反映させることにより,解像力をレイリー限界のおよそ2倍まで高めることが可能であることが示された.

(4)変調照明による超解像は低NA(深い焦点深度)においてもレイリー限界を超えた解像が実現できる可能性があり,計測対象の振動に強く,高速走査が可能となり,高いスループットの計測技術の開発が期待できることが示された.

(5)デジタル超解像の原理,デジタル超解像を実現するための反復的アルゴリズムの説明を行った上で,生産現場への適用性について考察した.

(6)提案手法である,変調照明シフトによる超解像法の原理に関して,変調照明による超解像とデジタル超解像の2つの側面から考察した.

第3章において

(1)解像アルゴリズムの構築にあたって,変調照明による光学結像式を示し,光学結像式の行列表現について説明した.

(2)変調照明シフトによる超解像を実現するために,変調照明シフトにより取得された画像1枚毎に結像方程式の解を再構成してゆく解像アルゴリズムを新たに構築した.

(3)構築アルゴリズムによる解像計算例を示し,アルゴリズムの機能確認を行った結果,試料分布が再構成され,通常の光学結像では解像できない構造が解像可能であることが確認された.

第4章において

(1)離散的散乱体のモデル化を行い,FDTD法用いて構築モデルを検証した.その結果,変調照明ピッチに対して十分小さい散乱体を設定することで,散乱体の形状によらず理想的な照明強度分布に対応した散乱光量が結像されることを示した.この条件のもとで,照明強度に線形な応答を示す散乱光結像を扱うことが可能であることを確認した.

(2)変調照明シフトによる複数像に対して構築したアルゴリズムを適用した結果,レイリー限界を超えた解像,すなわち一様照明による光学結像では判別不能な二点物体の超解像が確認された.

(3)解像特性を定量的に評価するために,解像結果において二点物体の識別性を指標として与えた.二点物体識別性に影響を与える入力パラメータに関して考察し,理想条件下での解像特性について検討した結果,位相条件が揃った状態でシフト回数を多くすること(シフトステップサイズを小さくすること)により,構築アルゴリズムによる限界解像力が達成できることを明らかにした.理想条件の下,現実的な光学条件を用いてシミュレーション検討した結果,20nmの限界解像力が達成可能であることを明らかにした.

(4)生産現場におけるノイズに関して考察し,ノイズを付加させた複数像を用いて二点物体の解像シミュレーションを行いノイズ混入下での解像特性の検討を行った.結果,変調照明の複数シフトによるノイズ抑制効果を確認した.更に,ノイズ混入下での入力パラメータの影響を評価し,解像特性について検討した結果,変調照明ピッチを小さくすることと位相条件が揃った状態で独立なシフト回数を多くすること(シフトステップサイズを小さくすること)により, 限界解像力が達成できることが明らかになった.更に,変調照明ピッチ300nm,シフト回数10回の条件の下では,像に混入するノイズを20%に抑えることで,提案手法により,目標解像力である100nmが達成可能であることが示された.

(5)提案手法による超解像を関連超解像と比較した.結果,提案手法(変調照明シフトによる方法)は,

(1)変調照明による超解像に対して解像力の面で優位性が期待できること

(2)ノイズ混入時において一様照明下でのデジタル超解像に対し,二点物体の識別性,二乗誤差関数の収束性の面で優位であること

(3)ノイズ混入時において, GPMと比較して,同等の解像力が得られること,二乗誤差関数の収束性の面で優位であること

が明確となった.

第5章において

(1)変調照明シフトによる超解像法の実験的検討を目的として,定在波照明シフト光学系の構築,暗視野散乱光検出光学系の構築を行い,変調散乱光検出のための基礎実験装置の開発を行った.

(2)更に,開発装置の基本機能確認として,定在波照明生成実験および変調散乱光検出実験を行った.その結果,以下の事項が確認された.

(1)開発した装置を用いて周期的な強度分布を有する定在波照明が生成可能であること

(2)開発した実験装置を用いて定在波の周期的強度分布に対応した散乱光の変調が可能であり,これを暗視野検出可能であること

第6章において

(1)提案手法の解像特性を実験的に検討するために,標準粒子を用いた離散的散乱体の解像実験を行った.結果,1200nmピッチの定在波照明をシフトすることにより得られたNA0.46の対物レンズによる複数像を用いて超解像処理することにより,一様照明かつ結像NA(0.46)ではぼやけて判別不能であった2点並列構造および3点並列構造が明確に分離されるということが確認された.

(2)比較的低いNA0.46の対物レンズを用いたラインアンドスペースの超解像実験を行った.結果,1750nmピッチの定在波照明をシフトすることにより得られたNA0.46の対物レンズによる複数像を用いて超解像処理することにより,レイリー限界(647nm)を超えて500nm間隔のラインエッジの解像が確認された.

(3)ノイズに対するロバスト性の実験的検討を行った.結果,定在波照明のシフトの回数をおおよそ変調照明1ピッチ分の20回程度とすることで,実験におけるノイズに対応することが可能であり,複数シフトによりロバスト性が向上することが実験的に確認された.

(4)高NA0.95対物レンズを用いた微細ラインアンドスペースの超解像実験を行った.結果,開発装置および構築アルゴリズムにより,レイリー限界313nmの条件下で150nmの超解像が確認された.

第7章において

ラインアンドスペース上に欠陥が存在するサンプルに対して解像実験を行い,解像結果を高解像観察手法であるAFMやSEMによる像と比較することにより,以下の事項が実験的に確認され,提案手法の超解像欠陥検出に対する実験的な有効性が示された.

(1)レイリー限界647nmの結像系および超解像処理によって500nm間隔のラインエッジに影響を及ぼす欠陥を検出可能ということ

(2)レイリー限界313nmの結像系および超解像処理を用いて,250nm間隔のラインエッジを埋めるように存在する異物欠陥を検出可能ということ

以上から,提案手法によって,「光学的超解像が実現すること」,「ノイズに対する高いロバスト性を有する計測技術が実現すること」,「100nmスケールの解像力を有する光学式欠陥計測手法が実現可能であること」が明確となった.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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