No | 123418 | |
著者(漢字) | 寺林,賢司 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | テラバヤシ,ケンジ | |
標題(和) | 光学系を用いた異なる大きさの手の疑似体験システム | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123418 | |
報告番号 | 甲23418 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6734号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では,手で扱う製品の設計支援を想定した,相似的に形が変化する異なる大きさの手を疑似体験するシステムを提案している. 手で扱う製品の設計支援において, (i) 直接製品を手にとって評価すること (ii) ユーザの多様な手の大きさを考慮して評価すること が重要であるが,従来研究では,Augmented Prototypingやコンピュータマネキンなど,一方を取り扱うものは存在するが,これら2つを両立するアプローチは見当たらない.また,ユーザの評価内容を設計者に伝える際の問題として伝達誤差があるが, (iii) 異なる手の疑似体験 ができれば,設計者自らが評価内容を得ることができ,設計者間における設計意図共有の促進も期待できる. 以上の(i),(ii),(iii)を同時に成立させるアプローチとして,本論文では,相似的に大きさのみが変化する手を対象として,手で扱う製品への設計支援を行うための異なる大きさの手の疑似体験システムの実現を研究の目的に据え,製品評価や設計意図の共有を促進する設計支援の基礎的な枠組みの確立を目指した(第1章). システム実現に際し,解決するべき3つの課題を明らかにし,それぞれについて各章において以下のように解決をはかった. まず,1つ目の課題「手の大きさの感じ方を変化させることができるか?」に対して,実現可能性を示唆する研究を整理し,「感覚間整合性」と「身体図式を更新するための随意運動」の2点が重要であることを示す.また,これに基づき,光学系を用いた異なる大きさの手の疑似体験システムの提案を行う(第2章). 提案システムの有効性を確認するために, 手の大きさが変わったように感じること 十分高い意志作用感および自己所有感を感じること を同時に満たすという「異なる大きさの手の疑似体験」の定義に基づき評価を試みる.主観評価実験を通して,提案システムにより異なる大きさの手の疑似体験が実現できることを示す(第3章). また,提案手法である光学系により視覚的に手の大きさを操作することの重要性を他の方法との比較により明らかにする.これらのことから,異なる大きさの手の疑似体験が,提案システムにより可能であることを示す(第4章). 次に,2つ目の課題「手の大きさに応じた行動戦略を再現することができるか?」に対して,異なる大きさの手の疑似体験においてより高度な,手の大きさに応じた行動戦略の再現について,提案システムの応用を行う.具体的には,手と物体の大きさにより正三角柱の把握パターンが決まるという行動戦略を例に,異なる大きさの手の提示により,提示した手の大きさに依存した行動戦略の再現を確認する.また,身体図式更新という観点から,提案システムの応用範囲について考察を行い,身体図式が支配的な行動に対する応用可能性を示す(第5章). 最後に,3つ目の課題「異なる大きさの手の疑似体験の促進方法はあるか?」に対し,没入タスク効果の検証を,その有無を比較することで行う.没入の度合いを表す「没入度」という定量指標を導入し,その比較を行うことにより,没入タスクにより異なる大きさの手の疑似体験への没入効果を検証する.また,どのような大きさの手を提示する際により効果的であるか,没入タスク効果の非対称性について考察を行う(第6章). これらの内容を身体図式の更新という観点から考察し,研究目的に対する提案した異なる大きさの手の疑似体験システムの実現範囲,および適用範囲についてまとめる(第7章). 以上に基づき,手で扱う製品への設計支援を行うための異なる大きさの手の疑似体験システムの基礎的な枠組みの確立を目指した本論文は,以下のように結論付けられる.(第8章). 異なる大きさの手の疑似体験をするシステムとして,光学系および相似形物体により視覚的に手の大きさを変化させる方法を提案し,高い感覚間整合性を実現する. 提案システムにより,異なる大きさの手の疑似体験の第1段階(手の大きさの感じ方が変化し,意志作用感,自己所有感が共に得られる体験)が実現可能である. 異なる大きさの手の疑似体験には,意志作用感および自己所有感が重要であるが,これらは視覚遅延量が100[ms]までは十分高い水準で得られる. 異なる大きさの手の疑似体験には,光学系により手の大きさを視覚的に変化させることが重要である.単に物体サイズを変えるだけでは,このような疑似体験を得ることはできない. 異なる大きさの手の疑似体験の第2段階である,手の大きさに依存した行動戦略の再現について,提案システムにより正三角柱の把握行動戦略の再現が可能である.このことは,ユーザビリティ評価において,設計者が,自身とは異なる大きさの手を持つユーザの行動戦略を体験できることを意味しており,ユーザビリティ評価ツールとしての発展性が期待される. 異なる大きさの手の疑似体験において,没入タスクは効果的であり,特に手の大きさが大きく遷移する際により有効的である. | |
審査要旨 | 寺林 賢司(てらばやし けんじ) 提出の本論文は「光学系を用いた異なる大きさの手の疑似体験システム」と題し,全8章より構成される.本論文は,異なる大きさの手を疑似体験することにより,手で扱う製品の設計における,製品評価の伝達・設計意図の共有を促すシステムを提案するものである. 第1章では,手で扱う製品の設計支援において, ・ 直接製品を手にとって評価すること ・ ユーザの多様な手の大きさを考慮して評価すること ・ 異なる手の疑似体験 の重要性について述べ,手の大きさの違いが,ユーザの評価内容を設計者に伝える際の伝達誤差や設計者間における設計意図共有の難しさの要因となっていることを示した.また,これら3つの観点から従来研究を整理し,未解決の問題点を明らかにした.その上で,これらを解決する方法として,手で扱う製品の製品評価や設計意図の共有を促進する設計支援の基礎的な枠組み確立を目指した,異なる大きさの手の疑似体験によるアプローチを提案した. 第2章では,1つ目の課題「手の大きさの感じ方を変化させることができるか?」に対して,実現可能性を示唆する研究を整理し,「感覚間整合性」と「身体図式を更新するための随意運動」の2点が重要であることを示した.また,これに基づき,光学系を用いた異なる大きさの手の疑似体験システムの提案を行った. 第3章では,提案システムの有効性を確認するために,「手の大きさが変わったように感じること」,「十分高い意志作用感および自己所有感を感じること」を同時に満たすという「異なる大きさの手の疑似体験」の定義に基づき評価を行った.主観評価実験から,提案システムにより,手の大きさの感じ方を変化させられるという結果が得られ,主観評価レベルでの有効性を確認した. 第4章では,光学系により視覚的に手の大きさを操作するという提案手法と他の方法との比較を行った.その結果,視覚的に手の大きさを変化させることの重要性が示された. 第5章では, 2つ目の課題「手の大きさに応じた行動戦略を再現することができるか?」に対して,異なる大きさの手の疑似体験においてより高度な,手の大きさに応じた行動戦略の再現について,提案システムの応用を行った.具体的には,手と物体の大きさにより正三角柱の把握パターンが決まるという行動戦略を例に,異なる大きさの手の提示により,提示した手の大きさに依存した行動戦略の再現を確認した.提案システムにより,異なる大きさの手に応じた行動戦略が再現するという結果が得られ,また,身体図式更新という観点から,提案システムの応用範囲について考察を行った. 第6章では,3つ目の課題「異なる大きさの手の疑似体験の促進方法はあるか?」に対し,没入タスク効果の検証を,その有無を比較することで行った.没入の度合いを表す「没入度」という定量指標を導入し,その比較を行うことにより,没入タスクにより異なる大きさの手の疑似体験への没入効果を検証した.その結果,没入タスク効果が存在し,また手の大きさが大きく遷移する場合についてより有効であることが示された. 第7章では,以上の実験結果に対して,身体図式の更新という観点から,統一的に考察を行った.また,第1章で述べた研究目的に対する提案システムの実現範囲,及び提要範囲について説明した. 第8章では,本論文の結論として,手で扱う製品の設計支援を目指した,異なる大きさの手の疑似体験システムの実現を行ったことを述べた.提案システムにより,手の大きさが自らのものとは違うという主観体験,および手の大きさに応じた行動戦略の再現が確認されたことから,手で扱う製品の設計支援の基礎的な枠組みを確立したという結論を得た. 以上を要するに,本論文は,手で扱う製品の設計における,手の大きさの違いによるミスコミュニケーションの問題を解決するために,異なる大きさの手の疑似体験をするシステムを提案したものであり,手の大きさの感じ方変化や手の大きさに応じた行動の再現を実現したものである.これによって,本論文は,手で扱う製品のよりよい設計,ひいては製品の使いやすさ向上に寄与するものと考えられ,重要なものである. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク |