学位論文要旨



No 123442
著者(漢字) 野﨑,雄一郎
著者(英字)
著者(カナ) ノザキ,ユウイチロウ
標題(和) 基本的実測を援用した端効果の数値計算に基づく車両駆動用リニア誘導モータのプラントモデル同定法
標題(洋)
報告番号 123442
報告番号 甲23442
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6758号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 古関,隆章
 東京大学 教授 日,邦彦
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 橋本,樹明
 東京大学 准教授 久保田,孝
 東京大学 准教授 馬場,旬平
内容要旨 要旨を表示する

今日、リニアモータを利用した交通システムは世界中で数多く運用・計画されており、21世紀の地上軌道系輸送交通機関にもっとも適した推進システムとして関心を集めている。その中でもリニア誘導モータ(Linear Induction Motor)は堅牢な構造、直接駆動、従来の鉄道との制御装置の共通性などの利点を持ち、電磁吸引式磁気浮上車両HSSTや小断面地下鉄リニアメトロなどに採用され、現在、最高時速100km/h程度の中速交通機関として営業運転を行っている。

一方、現在のリニア誘導モータへの要求としては、最高速度向上による国際的競争力や魅力の向上、回転型と同様に「誘導モータ」としての理論の枠組みを利用した制御方式の改善によるベクトル制御の応用や、従来回転型モータ駆動鉄道の汎用電気品との共通化による低コスト化が挙げられる。これらによってLIM駆動方式軌道交通の導入の敷居がより低くなりさらなる市場の拡大が見込める。

これら産業界の要求に応えるためには、LIMの本質的な特性を解明しそれを制御装置のためのプラントモデルに反映させなければならない。これまでのLIMの研究では解析と制御のためのモデル化が統一的に議論されていることは少なかった。本研究ではその総合的なモデル化を考え、数値計算シミュレーション・実際のリニアメトロ用LIMの基本的な試験・それらを制御装置とのインターフェースとなる等価回路への反映するための検討を行う。

LIMは回転型誘導モータを切り開いた構造となっており、その構造上、高速の動作点や低速領域においてもすべりの動作点によって、ギャップ磁束密度が不均一となる端効果が顕著となり推力の低下のように性能の劣化・モータ自身の定数の変化が発生する。また、回転型モータよりギャップ長が大きく漏れ磁束も大きくなり、回転型モータとは異なる特性となることが知られている。これらのことから、高速化や制御方式の改善による性能向上にはこの端効果を正確に考慮する必要性が挙げられる。

端効果を考慮したLIMの本質的な特性解明のために、現在の電気機械設計の主流となっている数値計算を用いた電磁界解析を行う。本論文では誘導モータの基本となる移動導体を含むうず電流問題を、風上法を利用したLIMの二次元有限差分法を用いて扱う。端効果のみの考慮のためには二次元解析で十分であるが、さらに二次導体のうず電流分布による縁効果を考慮するためには三次元解析が必須となる。その解析は計算機負荷が大きく現実的ではない。そこで、三次元モデルの一部を取り出した有限要素法による解析を基に、二次導体板うず電流の分布を近似関数で解析的に解くことで二次元数値解析に反映させる手法を提案した。これにより、大幅に計算機の計算量や記憶容量を削減しながら、三次元効果の考慮が可能となりLIMの様々な動作点での特性計算が可能となった。

また、この数値計算の妥当性を確認するため、過去リニア地下鉄の開発段階で行われていた回転型試験機による走行試験結果と数値計算結果の比較を行った。さらに実際にリニア地下鉄で使用されているLIMを準備し、静止試験におけるギャップ磁束測定を行い、数値計算の有効性を検証した。

LIMの制御のためのプラントモデルに数値計算の結果を反映させるために、LIMの端効果を考慮した等価回路の提案を行う。本論文では、回転型誘導モータの等価回路モデルを可能な限りそのままLIMへ応用することを目標として、回転型誘導モータの理論の連続性が保たれるように考慮した。等価回路定数を速度の関数とするという最小限の変更とし、実動作点付近でのインピーダンスからのフィッティングを行って等価回路定数を定めることで、その動作点付近では誤差数%で端効果を考慮した特性計算が可能となった。この等価回路からLIMベクトル制御系を回転型モータのプラントモデルをそのまま利用し、簡単なベクトル制御シミュレーションを行いその実現の可能性を明らかにした。

以上の手法を用いることで、都市交通用LIMの端効果を考慮したLIMのシミュレーションが容易に行えるようになり、必要とされる動作点での推力特性だけでなく、他の詳細な特性を得ることが可能となった。さらにその効果を等価回路定数に反映することで、これまでの回転型誘導モータの制御理論を大きく変えることなく、容易にLIMに応用することが可能となる。これまでのLIM駆動の短所を克服し長所をさらに生かすことができる有効な手段であると言える。

本論文はこれまでのリニア誘導モータの研究であった電磁界解析と制御理論とを融合した総合的なモデル化を提案し、高性能化を課題としているリニア誘導モータ駆動交通機関に対して新しい方向を示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「基本的実測を援用した端効果の数値計算に基づく車両駆動用リニア誘導モータの数値計算に基づくプラントモデル同定法」と題し、リニア誘導モータ(以下、LIMと略称)特有の現象である端効果を考慮した特性を表現する等価回路モデルを提唱するとともに、回転形モータと異なり限られた測定しかできないモータ特性試験を代替する方法としてLIMの磁界解析を援用し等価回路定数を速度の関数として定める方法論を提唱し、その有用性を動的シミュレーションと基礎的特性試験を通じて検証したもので、7章からなる。

第1章は、「序論」であり、リニア駆動を応用した交通システムの概要、その中でのLIMの位置づけやこれまでの研究経緯をまとめ、本論文で論じる課題を整理している。

第2章は、回転形誘導モータとLIMの相違を物理的観点から述べ、基本特性が速度上昇に伴い劣化するというLIM特有の困難な現象である端効果と、磁界解析の精度を上げる際に重要な縁効果について基本的説明を行っている。

第3章は、端効果を陽に考慮するため、導体の速度項をもつ時間依存電磁界場の数値解析および解析的な古典的計算法の理論的基礎を解説するとともに、実用的観点から小さな計算機負荷で精度良い計算を行うための物理的考察に基づくそれらの適切な組み合わせ方法を考察・提案している。

第4章は、電気的性質の把握に主眼を置き、第3章で述べた解析における重要な基礎数値を限られた試験条件の中で定める測定方法を提案し、実用規模のLIMで測定を行った実例を具体的に記述している。

第5章は、3,4章の考え方とそこで得られた実データに基づき、回転形誘導モータ等価回路定数を速度の関数として記述する拡張として、端効果を考慮したLIM等価回路のモデル化を行う方法論を具体的に提案している。すなわち、多項式曲線近似のパラメータ最適化を用いた等価回路同定の具体的方法と、それに基づく推力計算が実用的に十分な精度を持つことを実用規模のLIMを用いたケーススタディを通じて説明している。

第6章は第5章で提案した等価回路モデルが、交流モータ駆動制御の現代的方法であるフィールド座標に基づくモータ駆動制御の基礎として有用性が高いことを、モータ特性の動的計算を通じて示している。

第7章は「結論」として本研究を総括し、今後の問題点を整理している。

以上これを要するに、本論文は中高速軌道系交通のリニア駆動推進システムとして、最も実用例の多いLIMに着目し、モータ単体での限られた測定項目から、高速走行条件下での電気的性質、および推力特性を実用上十分な精度で簡易に記述するモデル構成、およびその主要な定数を過大な計算コストを要さない電磁界数値解析を援用し効率良く定める方法論と、そのモデルと高性能な現代の駆動制御法との良好な関係を明示し、実用規模の製品を用いたケーススタディでその実用性を定量的に示したもので、電気工学、および電気機器学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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