No | 123470 | |
著者(漢字) | 山脇,正人 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマワキ,マサト | |
標題(和) | 光ファイバサーキット型PETの研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123470 | |
報告番号 | 甲23470 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6786号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | システム量子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | PETはガンの早期発見診断法として注目を集めており、その医療診断への利用も普及しつつある。しかし、PET装置が他の診断装置と比較してやや画像の鮮明度が悪く、その撮像の空間分解能を高めることが望まれている。 PET装置の空間分解能を高める方法として、まず、検出器を構成する個々のシンチレータの断面積を小さくすることや、シンチレータの奥行きが深いことによるLORの決定誤差を補正するDOI検出器の導入など、LOR決定精度を高める方法が挙げられる。次に、お互いに統計的に独立な観測量を増やすことが画像の鮮明化を高めることになることは確率論的に確かなことであると思われるから、被験者から放出されるγ線を検出することのできる範囲の立体角を増やすべく、検出器を幅広く配置することも考えられる。しかし、これらの方法はいずれもPMTや信号処理回路を増やすことになり、診断装置の運用コストを高めることになる。 ここで提案した光ファイバサーキット型TOF-PET方式は、光ファイバを利用して光信号の段階で合成処理を行い、PMT等の電子機器を大幅に削減する方式である。同時に、パルス状の個々の光信号を合成して得られたパルス列光信号をPMTによって電気信号に変換・増幅して、パルス間の時間差として観測されるTOF時間差をデジタルオシロスコープの処理機能を活用して測定する。このことにより、TOF処理関連電子機器を大幅に増加させることなく、TOF-PET方式を実現するものである。本研究では、この光ファイバサーキット型TOF-PETの研究については概念設計段階を越えることができず、装置としての具体的な検討において3次元CADによるシンチレータリングのイメージ作成を行ったものの、その設計仕様を具体化することのできる段階には至っていない。 光ファイバを用いて多数のシンチレータの信号を収集し、TOF遅延回路などを付加した後、PMTで合成する方法は、明らかに電子機器の削減が可能であるだけでなく、電磁干渉が予想される環境でのPMTによるγ線観測に有効である。このような観点を考慮に入れて、光ファイバを光信号の伝播手段とするγ線計測を本研究の基本的な研究課題として位置づけ、光ファイバを使用した際の光量、信号の立ち上がり特性及び時間分解能の問題を検討することとした。また、光ファイバ使用時の光信号伝送効率やTOF測定における時間分解能を向上させるには、シンチレータ表面の反射材にどのようなものを使用すべきか、シンチレータ・ファイバ間をどのように接続すべきか、について検討を加えた。 第1章では、PETの基礎及びPETに関わる関連技術について概観するとともに、今後のPET研究では何が求められているのかを検討し、今後のPET開発には装置の低価格化とTOF情報の導入が必要であると判断した。 第2章では、光ファイバサーキットを用いた新たなTOF-PETシステムを提案した。そして、提案方式のPETの実現性を検討するため、光信号の伝送・合成処理の手段として光ファイバを使用した場合の光量の減少、TOF信号の立ち上がり時間及び時間分解能に関する予備実験を行い、実現のための問題点として、光ファイバ伝送における光損失が比較的大きな問題であることがわかった。また、TOF-PET方式の従来PETに対する優位性を明らかにするため確率論的な考察を加え、TOF-PET方式において求められる時間分解能の程度について検討すると共に、TOFの利用が画像生成の過程において視覚的にどのような意味を持つかを検討するためにパソコンによるシミュレーションを行い、3次元CADを用いて画像化を試みている。 第3章では、第2章で述べた問題点について実験およびシミュレーションにより定量的な検討を加えた。特に光信号の伝送効率を高めるには、シンチレータ表面にどのような反射材を用いるべきか、シンチレータ・光ファイバ間の光学接続をどうすべきかについて検討を加え、反射材については乱反射材と鏡面反射材の併用、光学接続についてはグリース等を用いないで、空隙とすることにより、ある程度の改善が可能であることを示した。 第4章では、シンチレータの光信号を光ファイバを用いて伝送・合成した場合の時間分解能に関するシミュレーションを実施して、実際にその改善策が時間分解能の向上に繋がるのかを検討した。そして、シンチレータの形状に応じて乱反射材と鏡面反射材とを適切に併用することが時間分解能及び伝送効率の改善に有効であることがわかった。さらに、光ファイバ使用による伝送効率の低下という問題を緩和するために、光ファイバサーキットの代わりに電気信号ケーブルを用いて遅延時間の付与するケーブルディレイ方式についても検討を加え、TOF-PET方式の新たな可能性を示した。 最後に、近年開発中のシンチレータや光電子増倍管等の技術開発の進歩を考慮すると、本研究が検討課題とした要素技術は、近い将来、さらに検討するに値するものになると思われる。今回、光ファイバサーキット方式によるPETシステムを提案し、その実現のための検討を行った。確かに、本方式は光ファイバを用いることでPMT本数を大幅に減らすことが可能であるが、光ファイバ伝送時に光量が大幅に失われてしまうため、時間分解能が2倍程度に劣化するであろうことは否めない。PMTのコンパクト化、低価格化、さらに新規光計測機器の登場等、最近の光計測技術の分野における発展を考えると、光ファイバサーキット方式とケーブルディレイ方式のどちらの方式がシステム設計上有効であるかは、今後の技術開発の展開次第であると思われる。従って、今後も関連技術の進展に合わせて本研究を進め、TOF-PET装置のシステム設計をさらに高める必要があるものと思われる。 | |
審査要旨 | ポジトロン放出核種を使用したPET(Positron Emission Tomography) システムは、ガンの早期発見に有効な診断法であることから広く使用されるようになってきた。本研究は光ファイバを駆使したTOF (time of Flight)測定による原理的に簡便で感度の高い新しいPETシステム、光ファイバサーキット型PETを新たに提案した。さらに、この新システムを実現するためには、ファイバによる光伝送時の光量の減少抑制と、時間分解能の劣化回避が必須の条件であることから、これら実現のための技術開発を実験とシミュレーションにより検討したものである。 論文全体は五章からなっており、第一章は序論である。最近、日本人の病種別死亡率の第一位にガンが位置するようになり、ガンの早期発見にPET技術が有効であること、現在使用されている以上の高性能のシステムが期待されている背景を紹介するとともに、新しいPETシステムを提案し、その実現のための技術開発を本研究の目的としたことが述べられている。 第二章は新システムの原理について述べている。ここで提案した光ファイバサーキット型TOF-PET方式は、光ファイバを利用して光信号の段階で合成処理を行い、パルス状の個々の光信号を合成して得られたパルス列光信号をPMTによって電気信号に変換・増幅して、パルス間の時間差として観測されるTOF時間差をデジタルオシロスコープの処理機能を活用して測定する。このことにより、TOF処理関連電子機器を大幅に増加させることなく、TOF-PET方式を実現するものである。光ファイバを用いて多数のシンチレータの信号を収集し、TOF遅延回路などを付加した後、PMTで合成する方法は、明らかに電子機器の削減が可能であるだけでなく、電磁干渉が予想される環境でのPMTによるγ線観測に有効であることが期待される。 しかし、提案方式のPETの実現性を検討するため、光信号の伝送・合成処理の手段として光ファイバを使用した場合の光量の減少、TOF信号の立ち上がり時間及び時間分解能に関する予備実験を行い、実現のための問題点として、光ファイバ伝送における光損失が比較的大きな問題であることを述べている。また、TOF-PET方式の従来PETに対する優位性を明らかにするため確率論的な考察を加え、TOF-PET方式において求められる時間分解能の程度について検討すると共に、TOFの利用が画像生成の過程において視覚的にどのような意味を持つかを検討するためにパソコンによるシミュレーションを行い、3次元CADを用いた画像化を試みている。 第三章では、第二章で述べた問題点について実験およびシミュレーションにより定量的な検討を加えている。特に光信号の伝送効率を高めるには、シンチレータ表面にどのような反射材を用いるべきか、シンチレータ・光ファイバ間の光学接続をどうすべきかについて検討を加え、反射材については乱反射材と鏡面反射材の併用、光学接続についてはグリース等を用いないで、空隙とすることにより、ある程度の改善が可能であることを示した。 第四章では、シンチレータの光信号を光ファイバを用いて伝送・合成した場合の時間分解能に関するシミュレーションを実施して、実際にその改善策が時間分解能の向上に繋がるのかを検討している。そして、シンチレータの形状に応じて乱反射材と鏡面反射材とを適切に併用することが時間分解能及び伝送効率の改善に有効であることを述べている。さらに、光ファイバ使用による伝送効率の低下という問題を緩和するために、光ファイバサーキットの代わりに電気信号ケーブルを用いて遅延時間の付与するケーブルディレイ方式についても検討を加え、TOF-PET方式の新たな可能性を示している。 第五章は結論と今後の展望をまとめている。特に、近年のシンチレータや光電子増倍管等の技術開発の進歩を考慮すると、本研究が検討課題とした要素技術は、近い将来、さらに検討するに値するものになると思われる。今回、光ファイバサーキット方式によるPETシステムを提案し、その実現のための検討を行った。確かに、本方式は光ファイバを用いることでPMT本数を大幅に減らすことが可能であるが、光ファイバ伝送時に光量が大幅に失われてしまうため、時間分解能が2倍程度に劣化するであろうことは否めない。PMTのコンパクト化、低価格化、さらに新規光計測機器の登場等、最近の光計測技術の分野における発展を考えると、光ファイバサーキット方式とケーブルディレイ方式のどちらの方式がシステム設計上有効であるかは、今後の技術開発の展開次第であると思われる。従って、今後も関連技術の進展に合わせて本研究を進め、TOF-PET装置のシステム設計をさらに高める必要がある、とまとめている。 以上をまとめると、従来ない光ファイバを使用する新PETシステムの提案を行い、その実現のために必要な項目の技術開発を実験とシミュレーションを用いて進めたもので、放射線・量子ビーム利用分野への寄与は大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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