学位論文要旨



No 123481
著者(漢字) 中西,政崇
著者(英字)
著者(カナ) ナカニシ,マサタカ
標題(和) 機能性材料のための基盤高分子Poly(β-benzyl L-aspartate) (PBLA)の定量的アミノリシス反応に関する研究
標題(洋) Study on the Quantitative Aminolysis Reaction of Poly(β-benzyl L-aspartate) (PBLA) as a Platform Polymer for Functionality Materials
報告番号 123481
報告番号 甲23481
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6797号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 片岡,一則
 東京大学 教授 宮原,裕二
 東京大学 准教授 吉田,亮
 東京大学 准教授 高井,まどか
 東京大学 講師 長田,健介
内容要旨 要旨を表示する

The author, throughout the present thesis, clarified the meachanism of the quantitative aminolysis reaction of poly(P-benzyl L-aspartate) (PBLA), focusing on the intermediate structure which enables this reaction to proceed quantitatively, the detailed structure of polypeptide backbone (namely, transition and chirality) (Chapter 2) and also clarified that the quantitative aminolysis reaction of PBLA with 0.5-fold amine compound proceeds alternately (Chapter 3). Especially, in Chapter 2, the author confirmed his suggestions described in Chapter 1 (General Introduction), was quite reasonable through 1H NMR and infrared adsorption spectroscopy analyses.

In Chapter 2, the author identified the real identity which enabled this aminolysis reaction of PBLA to proceed promptly and quantitatively. It was the succinimide ring which was promptly formed by the activation of nitrogen atom by amine coordination which exists in the amide linkage of main chain, following the nucleophilic attack to the carbonyl group in the side chain of PBLA. The polarity of solvents and the secondary structure of the polymer strand were closely related to each other in terms of reactivity and stereoselectivity. The aminolysis reaction of PBLA treated with one equivalent amine against benzyl ester groups resulted in the complete conversion at 35℃ in random-coil solvents within 1 h. The racemization that accompanied this reaction was observed in random-coil solvents, but was efficiently suppressed in helicogenic solvents. This is worth mentioning that the optical purity of the L-isomers was maintained with the yield of 95 % in CH2Cl2, which is unprecedentedly high. These data will apparently be a great advantage in its application as biomaterials.

In Chapter 3, the author developed the first example of versatile synthesis of alternating copolymers via the quantitative side chain reaction. It was verified that the aminolysis reaction of PBLA proceeds alternatively with 0.5-fold amine compounds, probably due to the resonance structures of succinimide intermediate. Thus it is possible to prepare the random and alternating copolypeptides respectively via the quantative side-chain reaction of PBLA just by changing the addition procedure of amine compounds This is the 1st report that the alternating copolypeptide was synthesized via the quantitative side chain reaction of polymer.

Throughout this thesis, the author obtained insight into the detailed structure of polyaspartamide prepared by the quantitative aminolysis reaction of PBLA and has shed light on the alternating polypeptide synthesis, which will be a novel methodology of various supramolecular materials and self-assembled materials. These insights should be used for developing a variety of advanced material and extended for more sophisticated polymer design.

*論文提出者が提出したものを添附する。

審査要旨 要旨を表示する

近年、合成高分子の精密設計・精密合成の発展も相まって高分子の自己組織化により精密に構築されたナノ構造体が工学・医学の分野で数多く応用されている。高分子の自己組織化による均質なナノ構造体の構築には、重合度や分子量分布、対掌性、化学構造のいずれにおいても均質な高分子の精密合成が不可欠となる。その中でも高分子材料を生物学的研究などに応用する場合、特にハイスループット・スクリーニングの迅速化やコンビナトリアルケミストリーの実現、高分子の構造機能相関解析において様々な構造を有し且つより均質な高分子ライブラリーを構築することが重要となる。本論文では、そのための一手法として出発材料となる母体高分子の化学修飾により種々の誘導体を調製する側鎖変換法に着目し、マテリアル工学的観点から母体高分子であるPoly(-benzyl L-aspartate) (PBLA)のアミノリシス反応の反応機構を解析するとともに生成する高分子構造を詳細に検証し、側鎖変換によるライブラリー構築の手法としての有用性を明らかにすることを目的としている。以下、各章毎に、本論文の審査結果の概要を述べる。

第1章の序論においては、ナノ構造体の構築における均質な高分子合成の重要性から説き起こし、側鎖変換法の有用性を指摘している。さらに、バイオマテリアルとしてのポリアミノ酸の側鎖変換の展開例を対象にPBLAの定量的アミノリシス反応の有用性を述べるとともに、この未だ解明されていない定量的な高分子側鎖反応の詳細な反応機構において、予測される中間体を二つ取り上げて、その根拠と予想される反応機構、並びに検証方法について言及している。

第2章では、N,N-diisopropylethylenediamine(DIP)をアミン化合物として用いることでPBLAの定量的アミノリシス反応の反応機構解析と合成されるポリアスパルタミドPAsp(DIP)の詳細な構造解析及び多重刺激応答性を企図したPAsp(DIP)の合成結果について述べている。その結果PBLAは1等量のDIPで全ての側鎖の変換が可能であること、0.5等量のDIPの添加においても定量的にアミノリシス反応が進行することを、核磁気共鳴分光法とゲル透過クロマトグラフィーを用いて反応前後の重合度及び分子量分布が合致することを確認して実証している。反応機構解析に関しては、溶媒の誘電率とPBLAの高次構造との関連から詳細な比較解析を行っており、PBLAがランダムコイルを形成する極性溶媒中での反応は非常に迅速でありL体はラセミ化することを、PBLAが-ヘリックスを形成する低極性溶媒中での反応はゆっくりと進行し、また、ラセミ化が抑制されることを明らかにしている。特に、塩化メチレン溶媒においてはL体が95%も保持されたままであることを見出し、ラセミ化を効率的に抑制出来る反応条件はバイオマテリアルへの応用にとって有用性が高いことを指摘している。また、反応機構を解析するにあたり、PBLAのアルカリ加水分解の中間体であるスクシンイミド形成が触媒反応であることに着目し、核磁気共鳴分光法と赤外分光法を用いることによって、PBLAに対して触媒量のDIPを添加することで中間体として活性体であるスクシンイミドが形成され、定量的アミノリシス反応を可能ならしめるものであると結論づけている。この定量的アミノリシス反応において反応可能なアミン化合物はアニリン及びtert-ブチルアミン以外の1級アミンのみであること、2級アミン/3級アミン/複素環アミンにおいては反応不可能であるとともに解重合が発生することを明らかとした。さらに、外部刺激に応答する高分子の溶解挙動の特性解析として、PAsp(DIP)溶液はpH変化や温度変化に応答し濁度を誘起すること、また低温側において疎水性水和が増大することを見い出しており、PBLAの定量的アミノリシス反応により合成されるポリアスパルタミドは多重刺激応答性材料としても応用可能であることを指摘している。

第3章では、第2章で結論づけたPBLAの定量的アミノリシス反応の反応機構について、より詳細な検討を加え、アミノリシス反応による側鎖の化学構造の変換が交互に進行するということを確認した。核磁気共鳴分光法の結果では、PBLAを含むポリアミノ酸の-CHと比較してスクシンイミドとアスパルタミドの-CHが高磁場側に出現し、全ての側鎖が変換された後にはポリアミノ酸の-CHと同じ箇所に全てシフトすることから、この側鎖変換反応が交互に進行する反応であるということを対偶的に証明している。さらに、側鎖に疎水基とイオン性親水基を側鎖にランダムに導入したものと交互に導入したものとを合成し、これら2種類の高分子のpHに対する溶解性挙動が大きく異なること中和濁度適定により実証し、側鎖の配列効果の差異を確認した。これはPBLAを母体高分子として側鎖変換により交互共重合体が合成可能であることを実証した世界で初めての研究例である。またこの反応は定量的に進行することから、反応アミン化合物の添加法を変更するだけでランダム共重合体と交互共重合体両方のポリマーライブラリーの構築が容易に実現でき、PBLAの定量的アミノリシス反応の有用性が非常に高いと結論づけている。

第4章は総括として、一連の研究のまとめと、今後の交互共重合体を主体とするナノ構造体及びそれらを利用するバイオマテリアルの展望をまとめている。本性で提案されているPoly(ethylene glycol)(PEG)-ポリアミノ酸ブロック共重合体のポリアミノ酸セグメントがイオン性親水基と疎水基の交互に配列する構造に変換したPEG-ポリカチオンとPEG-ポリアニオンから静電相互作用により調製される高分子ナノ構造体の特性は今後ナノテクノロジーの分野で注目に値する。

以上のように本論文では、PBLAのアミノリシス反応により側鎖の化学構造の定量的な全変換及び部分変換が可能であること、またその反応機構がスクシンイミドを中間体として迅速且つ定量的に進行することを明らかとしており、PBLAを母体高分子とする定量的アミノリシス反応がライブラリー構築に有用であるというマテリアル工学的見地から重要な結論を導き出している。また、本研究の成果に基づき、L体を95%保持する手法が明らかになったこともバイオマテリアルの観点から特筆に値する事項である。さらに、PBLAのアミノリシス反応は定量的な側鎖変換のみならず0.5等量のアミン化合物を反応させることで交互に導入されるということも明らかとしており、交互共重合体の新規合成法として今後の展開が期待される。本論文の内容は、PBLAの定量的アミノリシス反応を高分子の側鎖変換法として高分子材料設計の観点より提案するものであり、高分子によるバイオマテリアルを中心とする医工学研究分野において極めて秀逸であると判定される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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