学位論文要旨



No 123507
著者(漢字) 東,正信
著者(英字)
著者(カナ) ヒガシ,マサノブ
標題(和) チタン系酸化物およびタンタル系オキシナイトライドを用いる水分解光触媒システムの構築
標題(洋)
報告番号 123507
報告番号 甲23507
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6823号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 准教授 牛山,浩
 東京大学 准教授 野田,優
 東京大学 講師 山口,和也
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、水の完全分解反応を指向した新規酸化物光触媒の開発および非酸化物系光触媒を用いた2段階水分解システムの構築を行った結果について記述している。本論文は全6章で構成されている。

第1章では、研究の目的、原理および論文の構成について述べている。

第2章では、パイロクロア構造を有するチタン系複合酸化物、R2Ti2O7(R=Y、Eu~Lu)を合成し、光触媒活性を検討したことについて述べている。Tbを除く全ての複合酸化物において水の分解反応が進行し、パイロクロア構造を有する材料で初めての例である。R2Ti2O7を錯体重合法で合成する際、イオン半径の小さいR=Y、Dy~Luの場合において焼成温度が900℃以上でTiO2ルチルの不純物が確認された。このTiO2ルチルの生成を抑制するためにRを5%(Luは7%)量論比より過剰に添加して合成した結果、TiO2ルチルの生成は抑制された。また、Rを過剰に添加することで粒径が小さくなることも分かった。R過剰で合成したR2Ti2O7の光触媒活性は、量論比で合成したR2Ti2O7より向上した。この理由は、不純物であるTiO2ルチルの生成を抑制したことと、粒子が小さくなったことと結論した。一方、量論比で合成した際、不純物のTiO2ルチルが生成しないGd2Ti2O7においても、Gdを5%過剰にして合成すると光触媒活性は向上した。これは、量論比で合成したGd2Ti2O7の表面は平滑なのに対し、Gd過剰で合成したGd2Ti2O7は細孔構造を有していたためであることが分かった。

第3章では、R3MO7(R=Y、Gd、La; M=Nb、Ta)を錯体重合法で合成し、光触媒活性と結晶構造の関係について検討したことについて述べている。Nb、Ta系ともにRがY、Gd、Laとイオン半径が大きくなるにつれ、結晶構造はフルオライト構造、パイロクロア構造、ウェベライト構造と変化することを確認した。またLa3TaO7、La3NbO7はそれぞれ、1050℃、1000℃で相転移することを見出し、高温相はウェベライト構造に、低温相はパイロクロア構造に帰属された。これらの光触媒活性を検討した結果、ウェベライト構造を有するLa3TaO7、L3NbO7が活性を示した。光触媒活性を示す結晶構造の特徴は、伝導帯を形成する金属Mと価電子帯を形成する酸素Oからなる八面体MO6が頂点を共有して連なっていることである。同じ構成元素、同じ組成を有するが光触媒活性を示さないパイロクロア構造のLa3TaO7、La3NbO7は、MO6とLaO6が交互に連なっており、他の光触媒活性を示さない材料も、MO6が連なっていなかった。MO6が連なっていることにより電荷の移動が効率良く進行すると考えられる。このように、光触媒活性を示す条件の1つとして、MO6が連なっていることと結論した。

第4章では、オキシナイトライドATaO2N(A=Ca、Sr、Ba)を合成し、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムの水素生成系へ適用した結果が述べられている。Ptを担持したCaTaO2NおよびBaTaO2Nは、ヨウ化物イオン(I-)が存在する水溶液中から、可視光を照射することで水素を生成することが分かった。これらを5 mM-NaI水溶液中で、酸素生成系光触媒であるPt-WO3と組み合わせることで、水素および酸素が化学量論比で生成したことから、2段階励起によって水の可視光全分解反応が進行したと結論している。この際、BaTaO2N(吸収端:660 nm)の水素生成反応に寄与していることを明らかにし、600 nm以上の光を利用して水を完全分解できることが示されている。

第5章では、TaONを表面修飾し、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムのオキシナイトライド型光触媒のみで構築した結果について述べている。TaONにRuO2やIrO2を担持することで、電子と正孔の反応選択性を変え、電子受容体であるIO3-存在下で酸素を生成することが可能となった。そして、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムの水素生成系にPt-TaONを、酸素生成系にRuO2-TaONを利用することで、可視光水分解反応が進行した。このようにd0型オキシナイトライドのみによる、水の完全分解は初めての例である。これにより、Ta3N5、LaTiO2Nといった、他の d0型オキシナイトライドを酸素性生成系に利用することで、さらなる長波長側の光を利用して水を分解できる可能性が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、水の完全分解反応を指向した新規酸化物光触媒の開発および非酸化物系光触媒を用いた2段階水分解システムの構築を行った結果について記述している。本論文は、全6章で構成されている。

第1章では、研究の目的、原理および論文の構成について述べている。

第2章では、パイロクロア構造を有するチタン系複合酸化物、R2Ti2O7(R=Y,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)が紫外光照射により水を水素と酸素に完全分解できる光触媒として機能することについて述べている。これら複合酸化物を錯体重合法で合成する際、RをTiに対して5%過剰に添加することで起こる活性の向上は、Y、Dy~Luに関しては、TiO2(ルチル)の生成の抑制と結晶成長の抑制、Gdに関しては、細孔構造による表面積の増加によると結論している。

第3章では、R3MO7(R=Y,Gd,La; M=Nb,Ta)の光触媒活性と結晶構造の関係について述べている。これらの複合酸化物は錯体重合法により合成されたが、ウェベライト構造を有するLa3TaO7、La3NbO7が水の完全分解に対する光触媒活性を有することを明らかにしている。これら活性を示した光触媒の結晶構造は、伝導帯を形成する金属Mと価電子帯を形成する酸素Oからなる八面体MO6が頂点共有で連続して連なっており、生成した電子と正孔が表面へ移動しやすいため、活性を示したと結論している。また、La3TaO7、La3NbO7はそれぞれ1050℃、1000℃で相転移することを明らかにし、X線粉末回折法およびラマン分光法を用いて、低温相はパイロクロア構造、高温相はウェベライト構造であると結論している。

第4章では、オキシナイトライドATaO2N(A=Ca,Sr,Ba)を、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムの水素生成系へ適用した結果について述べている。Ptを担持したCaTaO2NおよびBaTaO2Nは、ヨウ化物イオン(I-)が存在する水溶液中から、可視光を照射することで水素を生成することを明らかにしている。これらを5 mM-NaI水溶液中で酸素生成系光触媒であるPt-WO3と組み合わせることで、水素および酸素が化学量論比で生成したことから、2段階励起によって水の可視光全分解反応が進行したと結論している。この際、BaTaO2N(吸収端:660 nm)の水素生成反応に寄与していることを明らかにし、600 nm以上の光を利用して水を完全分解できることが示されている。

第5章では、TaONを表面修飾し、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムのオキシナイトライド型光触媒のみで構築した結果について述べている。RuO2またはIrO2を担持したTaONは、ヨウ素酸イオン(IO3-)を電子受容体とする酸素生成活性を示し、これは、TaONを表面修飾することで、生成した電子と正孔の反応選択性を変えたためと結論している。さらに、ヨウ素レドックス系2段階水分解システムの水素生成系にPt-TaON、酸素生成系にRuO2-TaONを利用することで、可視光水分解反応が進行することを示している。これはd0型の電子状態をもつ遷移金属(オキシ)ナイトライドのみを用いた完全分解の初めての例であり、今後、他の(オキシ)ナイトライドを利用することで、更なる長波長側の光を利用して水を分解できる可能性を示している。

第6章では、本研究で得られた結果を総括し、今後の展望を述べている。

以上のように本論文では、水の完全分解反応を目的とした新規酸化物光触媒の開発およびオキシナイトライドを用いた2段階水分解システムの構築を行った成果について述べている。新規な光触媒であるR2Ti2O7(R=Y,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)、R3MO7(R=Y,Gd,La; M=Nb,Ta)を合成し、光触媒活性と結晶構造との関係を検討することで、触媒設計に関する有用な指針を与えている。また、触媒を表面修飾することで電子と正孔の反応選択性を変え、遷移金属オキシナイトライドによる水の完全分解を初めて達成している。本論文に述べられている研究成果は、エネルギー変換型光触媒化学の領域において重要であるばかりでなく、材料化学、化学システム工学への貢献は大きいものと認定される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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