学位論文要旨



No 123529
著者(漢字) 早田,敬太
著者(英字)
著者(カナ) ソウダ,ケイタ
標題(和) アンジオテンシンIIタイプ2受容体相互作用タンパク質(ATIP1)の機能解析
標題(洋)
報告番号 123529
報告番号 甲23529
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6845号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浜窪,隆雄
 東京大学 教授 児玉,龍彦
 東京大学 特任教授 柴崎,芳一
 東京大学 特任准教授 南,敬
 東京大学 特任准教授 先浜,俊子
 北里大学 教授 服部,成介
内容要旨 要旨を表示する

レニンーアンジオテンシン系(ReninAngiotensinSystem,RAS)は、血圧調節において最も重要な系であり、アンジオテンシンII(AngII)が主にタイプ1受容体(AT1)に作用することにより調節している。一方、タイプ2受容体(AT2)への作用の重要性も報告されているがその詳細なメカニズムは明らかになっていない部分が多い。また、AT2は7回膜貫通型のGPCR(G protein coupled receptor)であり、近年、GPCRのC末端領域と結合するタンパク質が、GPCRのトラフィッキング、およびシグナル伝達を制御しているという報告がなされている。本研究ではAT2のC末端と結合してクローニングされた新規タンパク質AT2 receptor interactiong protein(ATIP)に着目し研究を進めた。

ATIPはAT2と結合するタンパク質として報告されているが、その機能はほとんど明らかになっていない。そこで、本研究ではATIPの機能解析をおこなうことを目的とし、ATIPに対するモノクローナル抗体の作製、DNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析を行った。

これまで、ATIPはオルターナティブスプライシングによる5つのアイソフォームが報告されている。中でもATIP1は細胞の増殖抑制効果が報告されていることから、特にユニークな機能をもつタンパク質である可能性が高い。

ATIPの解析ため、ATIPに特異的なモノクローナル抗体(anti mouseATIP monoclonal antibody; a-mATIP-mAb)を作成した。当研究室で開発したバキュロウイルス発現系により、gp64 fusionのmATIPを発現させ、免疫抗原を調整した。免疫後、マウス脾臓とミエローマ細胞を融合させ抗ATIP抗体を産生するハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマのスクリーニング後、培養上清を精製し、a-mATIP-mAbを得た。

作成したa-mATIP-mAbの評価をWesternBlotで行なった結果、ATIPを特異的に認識した。また、免疫沈降でも使用することができたため、複合体解析に向けた条件検討をおこなった。血管内皮細胞であるHUVECをもちいた結果、抗体に特異的に反応したATIPを酸溶出できた。そこで、ショットガン法LC-MS/MSにより解析した結果、HUVECに発現するヒトATIP1(hATIP1)を同定することができた。

ついで、AT2アゴニストであるcGP 42112A投与後誘導される遺伝子、およびsiRNAhATIPにより発現が抑制される遺伝子をDNAマイクロアレイによって網羅的に解析した。CGP 42112A刺激後のHUVECでは炎症性の作用を及ぼす遺伝子が誘導された。さらに、siRNA hATIPにより減少が見られた遺伝子を解析した結果、ATIP1がある遺伝子の発現に重要なタンパク質であることが示唆された。また、マイクロアレイのデータを別の側面から検討し、この結果を支持するデータを同様に得た。

本研究の結果からATIP1はAT2受容体からのシグナル伝達において重要な役割を果たすタンパク質であることが示された。また、HUVECにおいてhATIP1が同定できたことから、血管内皮細胞、およびAT2受容体の機能解析がhATIP1の研究から、さらに発展する可能性を示すことができた。

審査要旨 要旨を表示する

アンジオテンシンは血圧調節を主として,生体のホメオスタシスを保つために重要な役割を果たしているペプチドホルモンであり,日本の死因の第一位を占める脳心臓血管系疾患の病態に深く関与しており,細胞や組織の刺激応答機構の解明は新しい治療につながると考えられる。早田敬太氏の研究は,血中のアンジオテンシン刺激を受容する細胞受容体の一つであるアンジオテンシンIIタイプ2受容体のシグナル伝達に関わると考えられているタンパク質である,アンジオテンシンIIタイプ2受容体相互作用タンパク質(ATIP1)の機能を解析したものである。

まず,先端科学技術研究センター分子生物医学教室が持つバキュロウイルス発現系技術を用いてヒトATIP1タンパク質に特異的に反応するモノクローナル抗体を作製した。これをツールとして,ATIP1のヒトさい帯静脈内皮細胞(HUVEC)における局在を明らかにすることに成功した。さらにHUVEC細胞において,アンジオテンシン刺激によるシクロオキシゲナーゼ酵素の誘導が,ATIP1のノックダウンにより抑制されることを見出し,血管組織における炎症反応の刺激伝達にATIP1が重要な役割を担っていることを示した。これらの発見は,アンジオテンシン系が血管系疾患に果たす生理的機構の理解を深めるものであり,心不全や高血圧症の治療の開発につながるものと考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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