No | 123592 | |
著者(漢字) | 張,国益 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チョウ,コクエキ | |
標題(和) | 農産物貿易パターン決定の諸要因 : 東アジア貿易を中心に | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123592 | |
報告番号 | 甲23592 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第3296号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 農業・資源経済学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 東アジアにおける製造業の分業を貿易モデルの実証にて理解する試みは、部分均衡や一般均衡手法などさまざまなレベルでの経済発展論に基いたマクロ的な視点からの蓄積が多く存在する。しかし、地域経済統合を議論する際、常に浮上してくるのが、農業問題であり、農産物や食品貿易分野を対象に、検討すべき問題やトピックはは膨大である。本研究の具体的な課題は、そのなかから特に東アジア諸国の農産物貿易の分業パターンと貿易障壁の変化の特徴を明らかにするとともに、こうしたパターンが形成される過程を経済学的に理解することである。本研究を通じて、貿易の理論と実証分析の接合点を模索し、農産物貿易の政策的課題の一端を提示する。 本研究は、農産物貿易の概念整理・統計的把握と農産物貿易の理論的・実証的考察によって構成される。第1章では、統計的把握により、東アジア諸国の農産物貿易の分業パターンを概観し、全体象を把握した。使った貿易の指標はそれぞれ、貿易マトリクスによる各国の構造と貿易マトリクスによる各国の貿易結合度である。アジア諸国にとって、農産物及び加工食品の上記の貿易の指標は、貿易面に関しては、東アジア域内経済の緊密化は進んでいることを示している。 第2章では、日本と東アジア諸国の農産物や加工食品貿易は殆どが産業間貿易で、1997年から2005年にかけて、垂直的なVIITは殆ど促進されなかったことが明らかにされた。注目すべきことは、日本対シンガポール、日本対台湾を除いて、日本は対象国から相対的に高品質な農産物を輸入し、相対的に低品質な農産物を輸出しているという、Flam and Helpman の垂直的差別化モデルの予想される結果は得られなかったことである。日本と東アジア諸国の農産物や加工食品貿易における、垂直的産業内貿易と要素賦存の弱い関係は、先行研究における近年アグリビジネスにおける食品加工業の海外直接投資をその理由として挙げることができる。 第3章では貿易データにより推定される重量モデル(Gravity Model)におけるボーダー・エフェクト(Border Effect、国境効果)を応用し、こうした東アジアにおける農産物貿易障壁を推計によって計測し、それがUR交渉後に低下しているかどうかを検証した。その結果1990年から1995年に比べて、1995年から2000年の障壁の低下効果は大きくないことが分かった。この結果は先行研究の結果を強く支持するもので、UR農業協定の経済効果は東アジアにとって小さいものだと検証された。次に、技術的貿易障壁を中心に農産物や食品貿易に与える影響の近年の理論的・実証的手法の動きを整理し、尚且つその経済的含意を明らかにした。残された問題は、科学的側面をどのように認識し、制度としてどのように位置付けるかであり、今後更なる研究分析が望まれる。 第4章では「貿易国同士において、農産物貿易のほうが製造業品貿易より文化的つながりに依存しているか」を検証し、貿易と文化の繋がりを分析した。言語、宗教および植民地関係といった文化的繋がりは農産物貿易の方が製造業品貿易より大きいことが検証された。世界118国を対象にした分析で、貿易国同士において農産物貿易の方が製造業貿易より文化的繋がりにより依存していることが計量的分析により明らかとなった。今後、東アジア経済連携における、文化の共有や交流が更に重要視されるべきであろう。逆に、貿易国同士において、文化の相違が拡大すれば、それは、農産物貿易であれ製造業品貿易であれ、取引コストが上昇し、貿易への影響も農産物の方がセンシティブになることが示唆された。 本研究の貢献は、1990年代後半からの東アジアの農産物貿易における分業の位置付けを明らかにし、国際貿易理論に垂直的産業内貿易の枠組みに基いて、貿易パターンを分析し、経済的な特徴づけと解釈を与えたことである。また、グラビティモデルを農産物貿易のボーダー・エフェクトに応用することにより、先行研究との結果を強く支持し、農業協定の再評価を行い、且つ技術的貿易障壁を中心に非関税障壁の理論的・実証的考察を行い、今後東アジア経済連携における取組みの重用性を提示した。更に、文化の要因と貿易においては、社会学を中心とした既存研究の成果と国際経済学を橋渡しし、理解の多角化と共有の促進に貢献できた。 | |
審査要旨 | 本研究の目的は、東アジア諸国の農産物貿易の分業パターンと貿易障壁の変化の特徴を統計・数量分析を通じて実証的に明らかにすることである。これまで東アジアにおける製造業の分業パターンについては、貿易モデルの実証分析を通じて、部分均衡や一般均衡手法などさまざまなレベルで行なわれており、また、経済発展論に基いたマクロ的な視点からの蓄積も多く存在する。しかし、近年提唱されている東アジア共同体など、地域経済統合を議論する際、常に問題となるのは農業分野の取り扱いである。食品を含む農産物貿易は国境措置や国内保護政策で歪められており、その是正が望まれる。そのためには農産物貿易の実態の解明と貿易パターン決定要因の分析が不可欠である。本研究はこうした問題意識の下に、貿易の理論と実証分析を融合させ農産物貿易の実態を解明し、今後の政策的課題を提示するものである。 本研究は、農産物貿易の概念整理・統計的把握および農産物貿易の理論的・実証的考察を論じる4つの章(序章および終章を除く)で構成される。第1章では、貿易統計の分析を通じ、東アジア諸国の農産物貿易の分業パターンを明らかにし、全体象を把握している。使われた貿易指標は貿易マトリクスによる各国の輸出入構造と各国の貿易結合度である。計算されたこれらの指標によって、農産物及び加工食品の貿易に関して東アジア域内貿易の緊密化が進んでいることが解明されている。 第2章では、日本と東アジア諸国の間における農産物貿易の構造に焦点を当てて分析がなされている。日本の対東アジア貿易において農産物や加工食品貿易は殆どが産業間貿易で、1997年から2005年にかけて、垂直的な産業内貿易は殆ど促進されなかったことが明らかにされた。注目すべき点は、日本の対シンガポールおよび対台湾を除いて、日本は対象国から相対的に高品質な農産物を輸入し、相対的に低品質な農産物を輸出しているという、Flam and Helpmanの垂直的差別化モデルで予想された結果は得られなかったことである。日本と東アジア諸国の農産物や加工食品貿易において、垂直的産業内貿易と要素賦存の関係が弱いことが明らかにされたが、その理由の一つとして、近年アグリビジネスにおける食品加工業の海外直接投資が増加していることが挙げられている。 第3章では、東アジアにおける農産物貿易の国境障壁の大きさとその変化が分析されている。貿易データから推定されるグラビティ・モデルとそこでのボーダー・エフェクト(国境効果)を通じ、東アジアにおける農産物貿易障壁がウルグアイ・ラウンド交渉後どのように変化したが検証された。その結果、1990年から1995年の変化に比べ、1995年から2000年の貿易障壁の低下は大きくないことが判明した。これは先行研究の結果を強く支持するもので、WTO農業協定の経済効果は東アジアにとって小さいものだったことが確認された。さらに、検疫制度など技術的貿易障壁がどのように農産物や食品貿易に影響を与えているか、近年の理論的・実証的分析結果を整理し、その経済的含意を明らかにしている。こうした非関税障壁は新たな貿易摩擦の火種となっており、今後更なる研究分析が望まれる。 第4章では、貿易パターンの決定要因として文化的共通点の影響を分析している。「貿易している国同士において、農産物貿易のほうが製造業品貿易より文化的繋がりに大きく依存する傾向がある否か」が統計的に検証された。世界118国を対象にした統計分析において、文化的繋がりとして、言語、宗教および植民地関係といった変数を取り上げ、これらの影響が農産物貿易の方が製造業品貿易より大きいことが実証された。こうした事実は、今後、東アジア経済連携の推進において、文化の共有や交流が更に重要視されてしかるべきこと、また逆に、貿易国同士において文化の相違が拡大すれば、それは農産物貿易であれ製造業品貿易であれ取引コストが上昇するが、貿易への影響は農産物の方がセンシティブになることが示唆されている。 | |
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