学位論文要旨



No 123597
著者(漢字) 福山,弘
著者(英字)
著者(カナ) フクヤマ,ヒロシ
標題(和) 木質材料接合具によるせん断接合の設計式とその応用
標題(洋)
報告番号 123597
報告番号 甲23597
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3301号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 准教授 稲山,正弘
 東京大学 准教授 信田,聡
 東京大学 准教授 井上,雅文
内容要旨 要旨を表示する

本研究は、木質構造接合部に、木栓および木質材料による栓を用いた場合のせん断性能についての基本的な理論設計式を提案し、その応用としての設計活用例を示すものである。提案する設計式は理論式であり、理論計算に必要な物性試験形式を整理している。本論が既に使われている材料による木質接合部設計のみならず、材料研究による新たな接合具の設計などに活用されることを期待している。

現在までのところ、木質材料接合具によるせん断接合の研究について十分に理論的な体系をなす研究は存在しない。世界的に広く用いられている接合部一般の理論計算モデルに弾性床上梁理論と降伏理論がある。本研究もこれらの理論モデルを骨格とし、木質接合具を用いる場合に必要な修正を加えることを主要なテーマのひとつとした。また、理論計算において必要な接合具の物性値について、寸法効果が存在する。このため軸組材料に使われる物性値とは興なるものとして慎重に扱う必要がある。特に木質材料のせん断物性については、現在もその正確な値が網羅的に分かっているとは言えない。これらを踏まえて研究を進めた。以下に本研究が示したことを挙げる。

・理論計算のための修正モデルと新しいモデルを提案した。

・モデルからの数値計算方法を簡略化し、実務設計に適した計算法を示した。

・母材と接合具の複合面圧めり込み現象について、理論仮定一検証試験を行った。

・物性試験から接合具サイズの場合の寸法効果の影響を示した。

・物性試験一せん断接合部試験から、モデルの妥当性と物性値との関係を示した。

・せん断接合部試験から様々な場合の耐力発現メカニズムを整理した。

・既往研究の実験データに理論解析を適用し良好な結果を得た。

・木栓接合部の望ましい設計を例示し、部分試験で検証した。

図1のような形式のせん断接合部試験を行い、変形のメカニズムを明らかにした。接合貝の細長比・直径、母材の樹稗、接合貝の樹種によって図2に示すような様々な変形メカニズムが現れることが分かった。定量的な評価のために母材・接合具について物性試験を行い、これらの物理量と接合部としての性能の関係を得るために、既往モデルを修正し、また、いくつかのモデルを提案した。接合部としての剛性・耐力はこれらの理論モデルの適切な組合せから計算することとなる。以下に提案したモデルについてまとめる。

・せん断変形を考慮する弾性床上梁モデル(図3)

・せん断降伏を考慮する降伏モデル

・母材と接合具の複合面圧めり込みモデル(図4)

・母材一接合具間の摩擦を考慮する剛体回転モデル(図5)

・接合具の水平せん断強度算定と寸法効果を規定するモデル(図6)

これらのモデルを使って1面せん断接合の剛性・耐力を予測計算した。予測された数値は実際の荷重一変位曲線の特性を良く表すことが分かった。試験結果と理論モデル計算結果を図7に比較して示す。既往の試験データに対して本研究が示したモデルを適用した場合も、同様に良好な予測が可能であることを示した。

図1接合部せん断試験

図2様々なパラメーターの変化に対する接合部せん断変形のメカニズムの整理

図3せん断を考慮する弾性床上梁モデル

図4複合面圧めり込みバネモデル

図5接合具と母材の摩擦を考慮する剛体回転モデル

図6接合具の水平せん断強度算定と寸法効果を規定するモデル

図7試験結果と解析結果の比較

審査要旨 要旨を表示する

木質接合部において機械的接合部は構造的に弱点部となり得、接合部強度が木質部材自体の強度を上回るように設計を行うことは、基本的に接着接合のみによって可能である。しかし、木材の物理的な特性は横圧縮特性を除いて脆性であり、構造物の破壊箇所が木質部材にあることは基本的に望ましいことではない。そこで、機械的接合による接合部を木質部材より先行破壊させることで十分な塑性変形を与える設計を行うことが木質構造設計の重要な課題となっている。

現在までのところ、木質材料接合具によるせん断接合の研究について十分に理論的な体系を与える研究はなされておらず、一般的な接合部の理論計算モデルには弾性床上梁理論と降伏理論が用いられている。本研究ではこれらの理論モデルを骨格とし、木質接合具を用いる場合に必要な修正を加えることを主要なテーマのひとつとしている。また、木質接合具の場合、理論計算において必要な接合具の物性値について寸法効果が存在することから、軸組材料に使われる物性値とは異なるものとして慎重に扱う必要がある。特に木質材料のせん断物性については、現在もその正確な値が網羅的に分かっているとは言えない状況である。本研究は、木質構造接合部に、木栓および木質材料による栓を用いた場合のせん断性能についての基本的な理論設計式を提案し、その応用としての設計活用例を示した。設計式は理論式であり、理論計算に必要な物性試験方法を整理し、材料研究等によって今後実用化される新たな接合具の設計に対しても汎用性を与えている。

緒言に続く第2章では既往の研究と本研究の位置付けを明らかにし、第3章では理論モデルと設計式、第4章で材料諸物性、第5章で1面せん断試験結果を明らかにし試験結果と理論モデル計算結果を比較検討した。第6章では2面せん断試験への解析計算の適用を検討した。第7章では応用的研究として組積型構法の接合部について複数本配列効果について実験的検証や、ラーメンフレームに木栓を用いる場合の設計例とフレームの部分実験を行っている。

研究を進めた結果、以下に本研究で明らかにした項目を挙げる。

(1)理論計算のための修正モデルと新しいモデルの提案。(2)モデルからの数値計算方法を簡略化し、実務設計に適した計算法の提案。(3)母材と接合具の複合面圧めり込み現象について、理論仮定とその検証試験。(4)物性試験結果から接合具サイズの場合の寸法効果の影響。(5)せん断接合部試験結果から、モデルの妥当性と物性値との関係。(6)せん断接合部試験から多様な場合の耐力発現メカニズム。(7)せん断面に複数本の接合具がある場合の低減効果。(8)木栓接合部の望ましい設計例と部分試験による検証。

定量的な評価のために母材・接合具について物性試験を行い、これらの物理量と接合部としての性能の関係を得るために、既往モデルを修正し、また、いくつかのモデルを新たに提案した。接合部としての剛性・耐力はこれらの理論モデルの適切な組合せから計算することができる。提案したモデルは以下の通りである。(1)せん断変形を考慮する弾性床上梁モデル。(2)せん断降伏を考慮する降伏モデル。(3)母材と接合具の複合面圧めり込みモデル。(4)母材‐接合具間の摩擦を考慮する剛体回転モデル。(5)接合具の水平せん断強度算定と寸法効果を規定するモデル。

これらのモデルを使って1面せん断接合の剛性・耐力を予測計算した結果は、実際の荷重‐変位曲線の特性を良く表すことが分かった。既往の試験データに対しても、本研究の解析方法の有効性が確認された。

以上本論文は、木質構造接合部に、木栓に代表される木質材料接合具を用いた場合のせん断性能についての基本的な理論設計式を提案し、その応用としての設計活用例を示した。設計式としての理論式の精度および汎用性が高いことが認められ、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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