No | 123676 | |
著者(漢字) | 星野,大輔 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ホシノ,ダイスケ | |
標題(和) | 細胞運動を制御する新規RhoA活性化調節タンパク質の同定 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123676 | |
報告番号 | 甲23676 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3015号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Rho GTPase は、様々な細胞機能の調節に関与するため、その活性は時空間的に厳密に制御される必要がある。このため Rho 活性化は guanine nucleotide exchange factors (GEFs)、GTPase activating proteins (GAPs) により厳密に調節されている。Rho と GEFs の結合は Rho guanine nucleotide dissociation inhibitors (RhoGDI) により負に制御されている。さらに、細胞周期調節タンパク質である p27(kip1) も RhoA と結合することで GEFs との結合を阻害することが報告されているが、p27(kip1) による RhoA 活性化抑制メカニズムは不明である。本研究では、新規 RhoA 活性化調節タンパク質 P27RF-Rho に注目し機能解析した。P27RF-Rho を発現させると cdc42、Rac の活性化には影響を及ぼさないが RhoA 特異的に活性化が亢進した。さらに P27RF-Rho は RhoGDI とは結合しないが、p27(kip1) と直接結合し RhoA を p27(kip1) から解離させることを見出し、p27(kip1) 非結合型 RhoA は GEFs が結合可能となり活性化が亢進する。shRNA を用いて内在性 P27RF-Rho をノックダウンしたところ、p27(kip1) と RhoA 複合体が増加し、LPA、 PMA 刺激による RhoA 活性化が減少した。一方、siRNA により内在性 p27(kip1) をノックダウンすると RhoA 活性化が亢進し、この際 P27RF-Rho を発現させても RhoA 活性化はこれ以上増加しなかった。このことから、P27RF-Rho は p27(kip1) 経路を介して RhoA 活性化を制御していることが明らかになった。内在性P27RF-Rhoはベシクル様局在を呈し、アクチン凝集体と共局在することを見出した。このアクチン凝集体は浸潤突起と呼ばれ浸潤の際に形成される突起であり、浸潤装置として浸潤に重要な役割を果たすことが多数報告されている。実際に、P27RF-Rhoは浸潤突起マーカーであるコルタクチン及びアクチンと共局在することを確認し、さらにP27RF-RhoとMT1-MMPが共局在することも明らかにした。P27RF-RhoはRhoA活性化を制御すること、浸潤突起に局在することから、 P27RF-Rho のマトリゲル浸潤への影響を調べた。P27RF-Rho を発現させた細胞は、マトリゲル浸潤能が増加し、ROCK 阻害剤を加えることで P27RF-Rho による浸潤亢進が抑制された。一方、内在性 P27RF-Rho を発現抑制するとマトリゲル浸潤能が減少した。以上のことから、P27RF-Rho はMT1-MMPの近傍に局在し p27(kip1) と直接結合することによってp27(kip1)非結合型RhoAを増加させる。つまり、MT1-MMP近傍でRhoA活性化の場を用意することで、アクチンストレスファイバーによる細胞極性制御を制御しているモデルが考えられる。RhoA は、癌を含む様々な病気に関与することが知られているため、P27RF-Rho がこれらの病気の治療に大いに貢献する可能性がある。 | |
審査要旨 | 本研究は、細胞運動や接着、形態形成等に重要な役割を果たすと考えられている RhoA の新規活性化調節タンパク質を同定、機能解析したものであり、下記の結果を得ている。 1、ゼラチンザイモグラフィーにより P27RF-Rho タンパク質量依存的に MMP9 タンパク質量を増加させることが示唆された。さらに、ルシフェラーゼ融合ヒト MMP9 プロモーターコンストラクトを用いてレポーターアッセイを行ったところ、P27RF-Rho は転写レベルで MMP9 を調節することが示された。 2、P27RF-Rho を発現させると cdc42、Rac の活性化には影響を及ぼさないが RhoA 特異的に活性化が亢進した。P27RF-Rho は既存のドメインやモチーフを持たないため、間接的に RhoA 活性化を制御していることが考えられたため、RhoA と GEFs の結合を免疫沈降によって調べた。P27RF-Rho タンパク質量依存的に RhoA と GEFs 複合体が増加していたことを明らかにした。これらの結果から、P27RF-Rho は RhoA-GEFs 結合を増加させることによって RhoA 特異的に活性化を促進することが示された。 3、RhoA 活性化抑制タンパク質である RhoGDI 及び p27(kip1) との結合を調べたところ、P27RF-Rho は p27(kip1) と直接結合することが明らかになった。さらに、P27RF-Rho ノックダウン細胞株では RhoA とp27(kip1) 複合体が増加することを見出した。さらに p27(kip1) ノックダウン細胞では P27RF-Rho による RhoA 活性化が起こらなかったことから、P27RF-Rho はp27(kip1) による RhoA 抑制経路を介して RhoA 活性化を行っていることが示された。 4、内在性 P27RF-Rho は浸潤突起に局在し、そこで RhoA 活性化が起こっていることを免疫染色で明らかにした。さらに、MT1-MMP と共局在すること、結合することを示した。P27RF-Rho は MT1-MMP の近傍で RhoA 活性化の場を用意することで、アクチンストレスファイバーによる細胞極性を制御している可能性が示唆された。 5、P27RF-Rho のマトリゲル浸潤への影響を調べたところ、P27RF-Rho を発現させるとマトリゲル浸潤能が増加し、ROCK阻害剤を加えることで P27RF-Rho 依存的浸潤亢進が抑制されたことを示した。 以上、本論文は P27RF-Rho がp27(kip1) と直接結合することで、p27(kip1) から RhoA を解離する。結果、GEFs は RhoA へ結合可能となり、RhoA 活性化が増加する。 本研究はこれまで未知に等しかった、p27(kip1) による RhoA 活性化抑制経路を解明し、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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