学位論文要旨



No 123680
著者(漢字) 椛沢,宏之
著者(英字)
著者(カナ) カバサワ,ヒロユキ
標題(和) 非直交周波数空間収集による高分解能拡散テンソル収集法の開発と拡散トラクトグラフィーへの応用
標題(洋)
報告番号 123680
報告番号 甲23680
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3019号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,譲二
 東京大学 准教授 坂井,克之
 東京大学 准教授 阿部,裕輔
 東京大学 准教授 百瀬,敏光
 東京大学 講師 笠井,清登
内容要旨 要旨を表示する

本論文は4章からなる。第1章は、本論文の序を成しており現状の拡散テンソル撮像法の問題点の指摘と解決すべき問題を提示した。現在、拡散テンソル画像撮像には、1回の励起で画像撮像を収集するsingle shot Echo Planar Imaging (SS-EPI)法を用いた手法が用いられている。SS-EPI法では、被験者の動きに影響を受けず、安定した撮像を行うことが出来るが、一方で、磁化率不均一の影響を受け、画像歪みと空間分解能の制限を受ける。拡散強調画像撮像の高分解能化をおこなうには、Multi-shotでデータを取得する必要があり、体動によるショット間の位相変化の問題を解決する必要があることを述べた。この問題を解決するために、非直交周波数空間上でのデータサンプリング手法である、radical scan法とPROPELLER (periodically rotated overlapping parallel lines with enhanced reconstruction)法を用いた拡散強調画像および拡散テンソル画像撮像法が有効である可能性を述べた。また、高磁場MRIを使用することにより高い信号雑音比による高分解能の高い画質が期待されることを述べた。一方で磁化率効果およびSAR(specific absorption rate)が増加することによる不利益も予想されることを述べた。

第2章は、第1章で提示された問題点を検証するための方法論が記述されている。拡散強調像撮像における体動による画像データの位相変化の影響を回避する方法として、投影データを用いるradial scan法とPROPELLER法を使用した拡散テンソル撮像法を開発し、特性の評価を行った。View orderingおよび運動検出磁場勾配の印加方法を比較検討し、最適化を行った。また、PROPELLER法による拡散テンソル法を3T装置の実装し、高磁場装置における問題、とくにSARに起因する撮像制限について検討した。空間分解能および画像歪みの検証には、ファントムを用いて定量的に解析を行った。正常ボランティアにPROPERLLER拡散テンソル法を適用し、高空間分解能撮像の一例として、脳神経の描出能のについて従来法のEPI法との比較検討を行った。また、高磁場における問題点を緩和するため、VERSE法をPROPELLER法に実装し、その効果を検討した。

第3章では、第2章で示された実験方法の結果を示している。radial scan法では動きの少ない正常被験者においては、これまでにない高空間分解能の拡散強調画像を得ることが可能であった。Spin Echo法をベースとしているため高分解能撮像を行うためprojection方向を256マトリクスでの撮像にて繰り返し時間が2秒程度である場合には、撮像時間はおよそ8分程度となり、比較的長い時間を要し、撮像の高速化が必要と考えられた。

PROPELLER法のファントムによる基本画質の検討においては、EPI法の収集マトリクスが128, 256に関らず、EPI法とT2強調画像の間の歪みは、PROPELLER法とT2強調画像の歪みに比べて、有意差(P=0.003, P=0.006) をもって大きな値となっており、通常画像に歪みが生じていないと考えられるT2強調画像を基準としたときには、EPI法による画像は歪んでいることが示唆された。また、PROPELLER法とT2強調画像ではファントムで計測された、半値幅に有意差は無い(P=0.07)が、EPI法はEPI法の収集マトリクスが128, 256に関らず有意差をもって(P<0.001)大きな値となっており、EPI法は空間分解能がT2強調画像に比較して劣化していることが示唆された。

高磁場MRIでのPROPELLER法を用いた拡散テンソルトラクトグラフィー(DTT)の検討を行い、PROPLELLER-DTT法を用いた脳神経のトラッキングは、EPI 法を用いたそれに比べて、優れていることが示唆された。DT-EPI法では著しい信号消失が磁化率不均一の影響を受けやすい頭蓋底のテント下領域で確認された。一方で、PROPELLER法では、磁化率効果による信号消失の影響は見られなかった。これらの結果は、PROPELLER法がテント下の頭蓋底領域における詳細な脳神経構造の画像化のための有用なツールであることを示している。

一方でRFパルスを多用する3T-PROPELLER法のSARの制限を緩和するための最適化について述べた。VERSE法との組み合わせにより、SARを従来法の1/2程度まで低下させることが可能であることを示した。

第4章は、 第3章の結果に対する考察である。PROPELLER法は2次元面内の位相変化を検出し補正をおこなうため、高空間分解能の拡散強調画像をMulti-shot EPI法やradial scan法と比較して、より安定して収集することが可能であった。脈波同期等の体動検出手段を用いることなく、補正が可能なことも利点であった。また、従来のEPI法では磁化率不均一の影響が強く撮像が困難であった、頭蓋底,後頭蓋窩,上部頚髄の拡散画像を歪みなく撮像をおこなうことが可能であった。歪みに関しては、PROPELLER法が優れていたが、画質においてはテント上の構造ではEPI法が優れていた。これは、single shotのEPI法がMRIの撮像法の中ではSNRに優れる撮像法であり、EPIと比較するとPROPELLER法はSNRが低下しているためと考えられた。SNRに制限があるため、スライス厚は比較的厚く(5mm程度)設定されるため、拡散テンソル画像では部分容積効果により脳神経などの詳細な構造を三次元的に追跡することは困難であった。

また、従来、拡散テンソル画像撮像法では、EPI法を使用しており、磁化率不均一の影響を受けやすい頭蓋底領域の撮像は困難であった。PROPELLER法をしようすることで、磁化率不均一の影響の少ない拡散テンソル画像および拡散テンソルトラクトグラフィーを実施することが可能となった。また、PROPELLER法による拡散強調画像撮像は、EPI法に比較してSNRが低いが、高磁場MRI装置(3T MRI)を使用することにより、SNRを向上させることが可能となった。PROPELLER法では、長いRFパルス列を使用し、リフォーカスパルスのフリップ角が180度に制限されるため、SARが高い。VERSE法をPROPELLER法に組み込むことにより、撮像条件を大きく変更することなくSARを1/2以下と大幅に削減することが可能となった。これにより、撮像時間を短縮し、撮像範囲を拡大することが可能となった。これらの開発により、現実的な時間内にて十分なSNRを持った画像が3Tにおいても収集が可能となった。

高磁場MRI装置においてPROPELLER法を適用することにより、高空間分解能の拡散テンソル画像を収集し拡散テンソルトラクトグラフィーを作成することが可能となった。従来は収集困難であった頭蓋底領域においても、拡散強調像を収集することが可能となり、三叉神経、聴神経のトラクトグラフィーを作成することが可能となった。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、脳白質内の水の拡散方向依存性計測に関し、従来法では実現困難であった高空間分解能の拡散テンソル撮像収集および拡散テンソルトラクトグラフィーの解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.自己参照型位相補正を備えた非直交周波数空間収集の拡散強調画像収集法であるPROPELLER(Periodically rotated overlapping parallel lines with enhanced reconstruction)法に拡散テンソル撮像法を実装し、画像収集および拡散テンソルトラクトグラフィーを行ったところ、安定した拡散テンソル撮像および拡散テンソルトラクトグラフィーが可能であることが示された。また、同収集法では、信号雑音比はsequential view orderingに比較してcentric view orderingが優れていることが示された。収集信号の安定化には運動検出勾配磁場の反転は行わないほうが優れていることが示された。

2.開発されたPROPELLER拡散テンソル撮像法を高磁場装置である3T MRIに実装し、拡散テンソルトラクトグラフィーを行った。従来のMRIに比較して高い信号雑音比を持つ3T MRIを使用することにより、画像歪みの無い高空間分解能拡散テンソルトラクトグラフィーを実施することが可能であった。健常ボランティアの脳神経の描出を試み、従来法であるEPI法に比較して有意に描出能が向上することが示された。

3.高磁場装置特有の問題であるSAR(specific absorption rate)に起因する制限をRFパルスデザインにより解決した。具体的には、VERSE(Variable rate selective excitation)法をPROPELLER拡散テンソル撮像法に実装した。これにより、撮像枚数は繰り返し時間TR 12000msにて10~15枚であったものが、TR8000msにて25枚程度撮像可能となり、大幅に増加させることが可能となり、全脳をカバーする撮像が可能となった。

以上、本論文は高空間分解能の拡散テンソル撮像収集および拡散テンソルトラクトグラフィーの撮像を可能とすることに成功した。本研究はこれまで不可能であった、高空間分解能の拡散テンソル画像撮像を可能とし、脳神経構造の解析手法に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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