学位論文要旨



No 123703
著者(漢字) 阿部,克俊
著者(英字)
著者(カナ) アベ,カツトシ
標題(和) C型肝炎ウイルスコア蛋白質と結合する新規宿主因子の同定と解析
標題(洋)
報告番号 123703
報告番号 甲23703
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3042号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 俣野,哲朗
 東京大学 教授 村上,善則
 東京大学 准教授 池田,均
 東京大学 講師 森屋,恭爾
 東京大学 講師 椎名,秀一朗
内容要旨 要旨を表示する

C型肝炎ウイルス(HCV)のcore蛋白は191アミノ酸からなり、ウイルスヌクレオキャプシドの主構成成分である上に、宿主細胞の転写、細胞増殖、アポトーシス、脂肪化などに影響を及ぼす生理活性を有した多機能蛋白であり、HCVの病原性発現機構に重要な役割を果たすと考えられている。これまでにHCV core蛋白と相互作用を示す宿主因子が多数報告されているが、HCV core蛋白の病原性は未だ不明な点が多い。Heterogeneous nuclear ribonucleoproteins(hnRNPs)はRNA結合能を有する蛋白群である。また、多くのhnRNPsで転写調節や翻訳抑制による蛋白発現の制御など多様な機能が報告され、発癌への関与が示唆されている。本研究では、HCV core蛋白の未知の生理活性や病原性を明らかにするためにまずHCV core蛋白と結合する新規宿主因子の同定を試み、蛋白間相互作用解析を行った。

Tandem Affinity Purification(TAP)法の変法であるMEF-tag精製法および質量分析法により、新規HCV core蛋白結合因子としてhnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fを同定した。293T細胞およびHuh-7細胞を用いて哺乳動物細胞内での結合を免疫沈降法により解析した。結果、hnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fはいずれも強制発現したHCV core蛋白と哺乳動物細胞内で特異的な結合が認められた。また、hnRNP H1, hnRNP FはHCV持続感染細胞内のHCV core蛋白とも特異的に結合した。細胞免疫染色により細胞な局在の検討をした結果、hnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fと強制発現したHCV core蛋白はHuh-7細胞内で核周囲で共局在することが示唆された。精製蛋白を用いて両者の結合が蛋白-蛋白の直接結合であるかの検討をした。精製hnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fを用いてGST pull-down法により精製GST-HCV core蛋白との結合を解析した結果、精製hnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fと精製HCV core蛋白は結合し、両者の結合は蛋白-蛋白の直接結合であることが示された。

hnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP FとHCV core蛋白の結合が確認できたため、次にそれぞれの結合領域をhnRNP H1, hnRNP F, HCV core蛋白の各欠損変異体を用いて解析した。各欠損変異体は、昆虫細胞および大腸菌で発現、精製したものを用いた。その結果、hnRNP H1は、少なくともHCV core蛋白のaa 1-43とaa 92-111の2箇所で結合することが示唆された。また、hnRNP Fは、少なくともHCV core蛋白のaa 1-43とaa 66-91の2箇所で結合することが示唆された。HCV core蛋白のaa 1-43の領域はhnRNP H1, hnRNP Fに共通した結合領域であった。hnRNP H1, hnRNP FのHCV core蛋白との結合領域の解析も同様に行った。hnRNP H1のHCV core蛋白との結合領域は、hnRNP H1に3カ所存在するRRM領域のうちのC末端側の2つのRRM(RRM2およびRRM3)を含む領域であることが示された。hnRNP FのHCV core蛋白との結合領域は、aa 1-288(RRM3領域よりもN末端側の領域)にあることが示された。

hnRNP H1, hnRNP FとHCV core蛋白はいずれもRNA結合蛋白であることやHCV core蛋白のhnRNP H1, hnRNP Fとの結合領域(aa 1-43)がRNA binding site(aa 1-75)と重なることから、両者の結合にRNAが関与している可能性が考えられた。そこで、両者の結合に対するRNAの影響を検討した。結果、RNase Aを添加することによりhnRNP H1, hnRNP FとHCV core蛋白の結合は増強し、HCV IRES RNAおよびtRNAを加えることにより容量依存的に阻害された。以上の結果より、両者の結合は蛋白-蛋白の直接結合であり、その結合はRNAによって阻害されることが示された。また、その結合阻害作用におけるRNAの配列特異性は低いことが示された。HCV core蛋白のhnRNP H1, hnRNP F結合領域は、HCV core蛋白のRNA結合領域と重なっていることから、RNAはHCV core蛋白とhnRNP H1, hnRNP Fの結合に対して競合阻害している可能性が考えられる。

hnRNP H1, hnRNP Fは細胞内でRNAプロセッシング、polyadenylationなどに関与している。HCV core蛋白がhnRNP H1, hnRNP Fの相互作用によりBcl-Xなどの宿主細胞内のRNAプロセッシング制御やpolyadenylationに影響し、病原性を獲得している可能性は十分考えられる。HCV core蛋白とhnRNP H1, hnRNP Fの相互作用によるhnRNP H1, hnRNP Fの機能への影響の解析は、HCV core蛋白による発癌機構を考える上でも必要である。また、HCV core蛋白はHCVゲノムRNAとキャプシドを形成するほか、IRES依存性翻訳の調節にも関与している。hnRNP H1, hnRNP FがHCV core蛋白と相互作用を介し、ウイルス粒子産生やHCVの翻訳調節などのHCVのライフサイクルの調節機構として機能している可能性についてさらなる解析が必要である。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はC型肝炎ウイルスの病原性の発現および肝発癌機構に重要な役割を演じていると考えられるコア蛋白質の新規宿主因子の同定とその相互作用の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.C型肝炎ウイルス(HCV)コア蛋白質と相互作用を示す新規の宿主因子としてHeterogeneous nuclear ribonucleoprotein(hnRNP) H1, H2, Fを同定した。HnRNP H1, H2, FはhnRNP H familyとして高い相同性を示し、HCVコア蛋白と哺乳動物細胞内での結合を示した。また、両者は核周辺の細胞質で共局在を示唆した。

2.HCVコア蛋白の欠損変異体を用いてGST pull-down法によるhnRNP H1, hnRNP FのHCVコア蛋白における結合領域の解析を行ったところ、hnRNP H1はアミノ酸1-43および92-111の領域が、hnRNP Fはアミノ酸1-43および66-91の領域が重要であると示唆された。

3.HnRNP H1の欠損変異体を用いてGST pull-down法によるHCVコア蛋白の結合領域の解析を行ったところ、hnRNP H1のアミノ酸90-448の領域に少なくとも2箇所以上の結合領域が存在することが示された。

4.HnRNP Fの欠損変異体を用いてGST pull-down法のよるHCVコア蛋白の結合領域の解析をおこなったところ、hnRNP Fのアミノ酸1-227の領域が重要であることが示された。

5.HCVコア蛋白とhnRNP H1, Fの結合はRNase Aの添加により増強し、HCV IRESおよびyeast tRNAの添加により阻害されたことより、RNAにより阻害されることが示された。また、HCV IRES RNAおよびyeast tRNAの両者により結合阻害作用が認められたことより、RNAのよるHCVコア蛋白とhnRNP H1, hnRNP Fの結合阻害作用のRNA配列特異性は高くない可能性が示唆された。

以上、本論文はHCVコア蛋白質と宿主因子の解析から、HCVコア蛋白と相互採用を示す新規宿主因子であるhnRNP H1, hnRNP H2, hnRNP Fの存在を明らかにした。本研究はこれまで明らかにされていなかったHCVの病原性発現、特に肝発癌の過程に重要な役割を果たすと考えられ、HCVの発癌機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク