No | 123715 | |
著者(漢字) | 五十嵐,正樹 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イガラシ,マサキ | |
標題(和) | 新規に同定されたマクロファージコレステロールエステル水解酵素(M-CEH)の特性と泡沫化改善における役割 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123715 | |
報告番号 | 甲23715 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3054号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | マクロファージの中性コレステロールエステル水解酵素(NCEH)活性を担う遺伝子は、これまでホルモン感受性リパーゼ(HSL)であると考えられていたが、HSLノックアウトマウスのNCEH活性はほとんどすべて残存しており、マクロファージでのNCEH活性を担う他の酵素の存在が示唆された。当研究室では、マクロファージの主要なNCEH活性を担う候補遺伝子としてマクロファージコレステロールエステル水解酵素(M-CEH)を同定した。 M-CEHは、マウスでは、マウス腹腔マクロファージ(MPM)で発現レベルが高い。しかし、RAW264.7などの不死化細胞株では発現レベルは低く、むしろHSLが優位である。M-CEH とHSLのタンパク発現量の比はMPMで11:1、RAW264.7で1:1であった。また、動脈硬化モデルマウスであるアポEノックアウトマウスの大動脈で免疫染色をおこなうと内膜に高い発現を認めた。ヒトでは、ヒト単球由来マクロファージで発現レベルが高く、単球から分化するに従い発現レベルは上昇する。 M-CEHがMPMのNCEH活性の多くを担うことを確かめるために、MPMにM-CEHに対するsiRNAを発現させてM-CEHのノックダウンをおこない、50%程度のNCEH活性の低下を認めた。 また、アセチル化LDL(acLDL)で泡沫化させたTHP-1マクロファージに、アデノウイルスを用いてM-CEH遺伝子を過剰発現させ、泡沫化改善への寄与を検討した。300moiではコントロールに比べて9.8倍NCEH活性の上昇を認めたが、HSLアデノウイルスを感染させた場合に比べて活性は14%であった。NCEH活性の上昇に応じて、[14C]oleateからのコレステロールエステル(CE)の合成は低下し、細胞内のCE含量も低下を認めた。また,[3H]cholesterolをとりこませた細胞からのコレステロール排出の増加を認めた。 HSLとM-CEHとはアミノ酸配列の相同性は22.1%程度だが、機能ドメインは類似している。しかし、M-CEHではHSLでのリン酸化領域に対応する部位が存在しない。また、M-CEHはN末に疎水性の23の連続するアミノ酸配列をもつ。HSLでのリン酸化領域に対応する領域が存在しないことは、M-CEHがHSLと異なり、cyclic AMPによる制御を受けないことに矛盾しない。疎水性のN末端は、各種プログラム上、膜貫通領域ないしシグナルシークエンスとして機能するものと考えられる。 M-CEHは膜分画に局在する蛋白であるが、活性中心を含む領域が膜の内外いずれに存在するかについて検討した。低濃度のdigitoninないしsaponinでMPMを処理した後に蛍光免疫染色を施行した場合に、saponin処理では活性中心部を認識するM-CEH抗体でM-CEHが認識され、低濃度digitonin処理では認識されなかった。このことは、M-CEHが膜の内腔に存在することを示唆した。また、M-CEHにはN結合型糖鎖が付加する可能性のある部位が3箇所あり、そのいずれもN結合型糖鎖修飾を受けていることが脱糖鎖酵素やアミノ酸変異導入の実験により示された。このことも、M-CEHが膜の内腔に存在することを示唆した。 さらに、MPMでの蛍光免疫染色で、M-CEHは小胞体(ER)に局在するPDIやACAT1と同様なパターンを示し、M-CEHがERに局在することが確かめられた。 以上から、M-CEHはNCEH活性をもち、マクロファージ泡沫化改善に関わることが示された。また,MPMおよびヒト単球由来マクロファージで発現が高く、MPMではNCEH活性を担う主要な酵素であることが示された。さらに、局在がERの内腔であることから、主に細胞質でCEを分解するHSLとは異なるCE分解のメカニズムとコレステロールの動態の存在が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、マクロファージの主要な中性コレステロールエステル水解酵素(NCEH)を担う候補遺伝子としてホルモン感受性リパーゼ(HSL)とは別に同定された、マクロファージコレステロールエステル水解酵素(M-CEH)の特性、およびマクロファージ泡沫化改善における役割についての解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.M-CEHは、マウスでは、マウス腹腔マクロファージ(MPM)で発現レベルが高い。しかし、RAW264.7などの不死化細胞株では発現レベルは低く、むしろHSLが優位である。M-CEH とHSLのタンパク発現量の比はMPMで11:1、RAW264.7で1:1であった。また、動脈硬化モデルマウスであるアポEノックアウトマウスの大動脈で免疫染色をおこなうと内膜に高い発現を認めた。ヒトでは、ヒト単球由来マクロファージで発現レベルが高く、単球から分化するに従い発現レベルは上昇する。 2.MPMで、アデノウイルスによりM-CEHに対するsiRNAを発現させてM-CEHのノックダウンをおこない、50%程度のNCEH活性の低下を認めた。 3.アセチル化LDL(acLDL)で泡沫化させたTHP-1マクロファージに、アデノウイルスを用いてM-CEH遺伝子を過剰発現させ、泡沫化改善への寄与を検討した。300moiではコントロールに比べて9.8倍NCEH活性の上昇を認めたが、HSLアデノウイルスを感染させた場合に比べてNCEH活性は14%であった。M-CEH過剰発現によるNCEH活性の上昇に応じて、[14C]oleateからのコレステロールエステル(CE)の合成は低下し、細胞内のCE含量も低下を認めた。また、[3H]cholesterolをとりこませた細胞からのコレステロール排出の増加を認めた。 4.HSLとM-CEHとのアミノ酸配列の比較から、両者の機能ドメインは類似しているものの、M-CEHではHSLでのリン酸化領域に対応する部位が存在しない。また、M-CEHはN末に疎水性の23の連続するアミノ酸配列をもつ、という相違点がある。HSLでのリン酸化領域に対応する領域が存在しないことは、 M-CEHがHSLと異なり、cyclic AMPによる制御を受けないことに矛盾しない。疎水性のN末端は、各種プログラム上、膜貫通領域ないしシグナルシークエンスとして機能するものと考えられる。 5.M-CEHは膜分画に局在する蛋白であるが、低濃度のdigitoninないしsaponinでMPMを処理した後に、活性中心部を認識するM-CEH抗体による蛍光免疫染色を施行したところ、M-CEHの活性中心が膜構造の内腔に存在することを示唆する結果が得られた。また、M-CEHにはN結合型糖鎖が付加する可能性のある部位が3箇所あり、そのいずれもN結合型糖鎖修飾を受けていることが脱糖鎖酵素やアミノ酸変異導入の実験により示された。このことも、M-CEHが膜の内腔に存在することを示唆した。 6.MPMでの蛍光免疫染色で、M-CEHは小胞体(ER)に局在するPDIやACAT1と同様な局在パターンを示し、M-CEHがERに局在することが示唆された。 以上、本論文はM-CEHがNCEH活性をもち、マクロファージ泡沫化改善に関わることを明らかにした。また、MPMおよびヒト単球由来マクロファージで発現が高く、MPMのNCEH活性を担う主要な酵素であることを明らかにした。さらに、M-CEHの局在がERの内腔であることから、主に細胞質でCEを分解するHSLとは異なるCE分解のメカニズムとコレステロールの動態の存在が示唆された。本研究は、これまで未知であったマクロファージの主要なNCEH活性を担う遺伝子の同定と、その機能の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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