学位論文要旨



No 123730
著者(漢字) 鈴木,正志
著者(英字)
著者(カナ) ススキ,マスシ
標題(和) 近位尿細管性アシドーシス症例で同定されたNBC1変異体の機能解析
標題(洋) Functional analysis of a novel missense NBC1 mutation and of other mutations causing proximal renal tubular acidosis
報告番号 123730
報告番号 甲23730
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3069号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 門脇,孝
 東京大学 准教授 平田,恭信
 東京大学 准教授 山上,聡
 東京大学 教授 三品,晶美
 東京大学 講師 森屋,恭爾
内容要旨 要旨を表示する

腎臓の主要な機能の1つとして酸塩基バランスの調節がある。糸球体でろ過された重炭酸イオンは80%以上が近位尿細管で再吸収され、残りは遠位尿細管で再吸収される。近位尿細管の管腔側では主にNa+/H+ exchanger (NHE3)によりナトリウムイオンの再吸収と交換に水素イオンが排出され、基底膜側ではNa+/HCO3-共輸送体(NBC1)によりナトリウムイオンと共に重炭酸が再吸収される。NBC1の変異により眼症状を伴う重症の近位尿細管性アシドーシスが生じる事が報告されている。これまでの報告によると、変異によりNBC1の輸送活性が50%以下となると血中重炭酸濃度は13mEq/lとなり、低身長や帯状角膜変性症、緑内障、白内障などの眼症状を伴う重症の近位尿細管性アシドーシスが生じる。また、最近の報告では、NBC1の輸送活性の低下だけでなく極性を持つ細胞でsorting異常を示す変異も報告されている。本論文では眼症状をともなう重症の近位尿細管性アシドーシスの患者において、新たなNBC1のホモ変異G486Rを同定した。Xenopus oocyte発現系においてNBC1の機能解析を行ったところ、この変異は細胞膜に発現せず、NBC1の輸送活性も見られなかった。一方、ECV304細胞で機能解析を行ったところ、この変異は野生型と同様の十分な膜発現が見られ、NBC1の輸送活性は野生型の約50%であった。また、極性を持つMadin-Darby canine kidney (MDCK)細胞では、この変異は野生型と同様にbasolateral側の細胞膜に発現した。そこで既報の変異についてもMDCK細胞、ECV304細胞において機能解析を行った。T485SはG486Rと同様に、Xenopus oocyteで膜発現が見られずNBC1の輸送活性を示さないものの、ECV304細胞では野生型の約50%の活性を示す事が報告されている。このT485SについてMDCK細胞での膜発現を観察したところG486Rと同様にbasolateral側に発現が見られた。これらの結果からG486RとT485Sはsorting異常ではなく機能低下型の変異であると考えられた。一方最近報告されたL522PもT485SやG486Rと同様に Xenopus oocyteで膜発現が見られず、NBC1の輸送活性を示さないと報告されている。この変異についてECV304細胞において機能解析を行ったところNBC1の輸送活性は見られなかった。また、ECV304細胞とMDCK細胞で膜発現を観察したところNBC1は細胞質にとどまり膜発現は見られなかった。これらの結果からL522PにおけるNBC1の輸送活性低下は主に細胞膜に到達しないことによると考えられた。NBC1の変異による病態の解析には、異なる発現系を組み合わせ総合的に考える必要があると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

ナトリウム重炭酸共輸送体1(NBC1)の変異により眼症状を伴う重症の近位尿細管性アシドーシスが生じる事が報告されている。本研究では新規NBC1変異体を同定し、これまでに報告されている変異と共に機能解析を試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.眼症状を伴う重症近位尿細管性アシドーシス患者のDNA解析を行ったところ新たなNBC1のホモ変異G486Rを同定した。

2.Xenopus oocyte発現系において機能解析を行ったところ、野生型で見られるNBC1の輸送活性はG486Rでは見られなかった。また、GFPを付けたconstructにより膜発現を観察すると、G486Rは野生型で見られる膜発現が見られなかった。これらの結果からG486RはXenopus oocyteでは膜発現がないためにNBC1の輸送活性がない事を示した。

3.これまでに報告されているNBC1の変異の中でXenopus oocyteでNBC1の輸送活性を示さないがECV304細胞でNBC1活性を示すものが報告されている。このためG486RについてもECV304細胞で機能解析を行ったところ、G486Rは野生型と同様の十分な膜発現が見られ、NBC1の輸送活性は野生型の約50%であった。

4.また、最近報告されたNBC1変異体L522PもXenopus oocyteで膜発現がないためNBC1活性を示さないと報告されている。しかし、他の発現系での機能解析は行われていない。このためECV304細胞での機能解析を行ったところ、L522Pの膜発現は見られず細胞質内に留まりNBC1の輸送活性も見られなかった。

5.極性を持つMadin-Darby canine kidney (MDCK)細胞でsorting異常を示す変異も報告されているためG486Rについても膜発現を観察したところ、この変異は野生型と同様にbasolateral側の細胞膜に発現した。T485SはG486Rと同様に、Xenopus oocyteで膜発現が見られずNBC1の輸送活性を示さないものの、ECV304細胞では野生型の約50%の活性を示す事が報告されている。T485SについてMDCK細胞での膜発現を観察したところG486Rと同様にbasolateral側に発現が見られた。L522PはMDCK細胞でも細胞質内に留まり膜発現が見られなかった。

これらの結果からG486RとT485Sはsorting異常ではなく機能低下型の変異であり、一方、L522PにおけるNBC1の輸送活性低下は主に細胞膜に到達しないことによる事を示した。また、NBC1変異の解析には異なる発現系を組み合わせ総合的に考える必要があることを示した。本研究はNBC1変異による近位尿細管性アシドーシスの発現機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。

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