No | 123732 | |
著者(漢字) | 高瀬,暁 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タカセ,サトル | |
標題(和) | 高中性脂肪血症を呈し臨床的にアポリポ蛋白C-II欠損症と診断された症例の分子生物学的解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123732 | |
報告番号 | 甲23732 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3071号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | アポリポ蛋白C-II(アポC-II)はリポ蛋白中のトリグリセライド(TG)を水解するリポ蛋白リパーゼ(Lipoptotein lipase:LPL)の補因子である。アポC-II遺伝子変異によるアポC-II蛋白の欠損および機能不全はLPLの活性化障害からI型高脂血症を招く。 今回、私は著明な高TG血症と測定感度以下のアポC-II蛋白濃度から臨床的に新たにアポC-II欠損症と診断された症例について分子生物学的手法を用いて解析を行った。 臨床検査で免疫比濁法にて測定されたアポC-II蛋白濃度は測定感度以下であったが、より感度の高いイムノブロットにて検討したところ、健常者より減少していたものの患者血漿中にもアポC-II蛋白が検出された。アポC-II蛋白の希釈配列を作成し患者血漿中のアポC-II蛋白濃度を検討したところ、およそ0.6mg/dlと推定され基準範囲以下であった。等電点電気泳動および2次元電気泳動にてVery low density lipoprotein (VLDL)を展開したところ、患者のアポC-II蛋白アイソフォームの分子量と等電点は健常者と同等であることが示された。以上より、患者の血漿中には正常構造のアポC-II蛋白が基準範囲以下の濃度で存在していることが明らかとなった。 post heparin plasma(PHP)を用いてリパーゼ活性を検討したところ、患者PHP中のLPL 活性は健常者に比して低下しており、正常血清を添加しアポC-II蛋白を補充するとLPL 活性の上昇を認めた。アポC-II蛋白の減少によりLPLの活性化が障害されていると考えられ、高中性脂肪血症の原因と考えられた。また、患者のhepatic lipase(HL)活性も健常者と比して25%程度に低下していた。高中性脂肪血症による2次的な現象である可能性が考えられたが明らかではない。アポC-II蛋白欠損症におけるHL活性は上昇、低下いずれの報告もあり一定の傾向はみられない。 次にRNAの解析を行った。アポC-IIは主に肝臓で発現しているが、患者の肝臓からのRNA採取は困難なためマクロファージを用いて解析した。患者全血より単球を単離しマクロファージに分化させ、in vitroの解析に供した。マクロファージ由来のアポC-IIRNAは健常者と比し約50%に低下していた。Actinomycin Dを用いた検討では患者のアポC-IImRNAの安定性は保持されていることが示された。 これまでに遺伝子変異部位が明らかにされているアポC-II欠損症は20家系15種あり、蛋白翻訳領域、プロモーター領域、splicing donor junctionに変異を認めている。患者のゲノム解析を行ったところ、当初の予想に反して、アポC-II遺伝子の蛋白翻訳領域、プロモーター領域、3'-untranslated region(UTR)領域のいずれにも遺伝子変異を認めず、大きなrearrangementも認めなかった。また、アポEのgenotypeはε3/3のホモ接合体であった。 以上、本症例は著明な高中性脂肪血症を呈する一方、アポC-II蛋白の血中濃度が基準範囲より明らかに減少しており、LPL活性の減少を認めることから改めてアポC-II欠損症と診断された。少量ながら血中に正常なアポC-II蛋白が検出され、アポC-II遺伝子に変異を認めないことが本症例の特徴として挙げられる。アポC-II蛋白の減少を来たす原因にはこれまでに報告されているアポC-II遺伝子自身の変異によるものとは異なる機序が存在することが示され、エピジェネティクスを含めた転写調節の他、蛋白翻訳後の細胞内輸送や分泌の異常等も想定された。 本症例の解析により、既報のアポC-II欠損症とは異なる型のアポC-II欠損症の存在が見出され、アポC-IIの代謝経路に関する新たな知見が得られる可能性が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は新規にアポリポ蛋白C-II欠損症と診断された症例について分子生物学的解析を行い、下記の結果を得た。 1.患者の血清中性脂肪濃度は著明な高値を呈し、免疫比濁法にて血清アポリポ蛋白C-II(アポC-II)は測定感度以下を示した。この結果より臨床的にアポC-II欠損症と診断された。 2.患者と健常者の血清を抗アポC-II抗体を用いてイムノブロットしたところ、患者サンプルにも量は減少していたものの健常者と同等の泳動度を示すバンドが検出され、患者血中には少量のアポC-II蛋白が存在する可能性が示された。濃度は0.6mg/dlと推定され、基準範囲より明らかに減少していた。等電点電気泳動にて両者のVery low density lipoprotein (VLDL)を分離しアポC-II蛋白のアイソフォームを比較したところ、両者の泳動度は同等であった。また、両者のVLDLを2次元電気泳動にて展開しイムノブロットを行ったところ、両者とも同等の位置にスポットが検出された。等電点電気泳動、2次元電気泳動とも患者サンプルは健常者よりも減少しており、アポC-II-2はほとんど検出されなかった。これらより患者の血液中には正常構造のアポC-II蛋白が存在することが示され、その蛋白量は健常者より減少していることが示された。Post heparin plasma(PHP)を用いてリパーゼ活性を測定したところ、患者のlipoprotein lipase (LPL)活性およびHepatic lipase (HL)活性は健常者より減少していた。LPLの補因子であるアポC-II蛋白の減少によりLPL活性が減少していると考えられた。健常者の血清を添加してアポC-II蛋白を補充するとLPL活性は上昇した。HL活性の減少は高中性脂肪血症による2次的な現象である可能性が考えられたが明らかではない。アポC-II蛋白欠損症におけるHL活性は上昇、低下いずれの報告もあり一定の傾向はみられない。 3.患者および健常者の末梢血からヒト単核球細胞を分離培養しマクロファージに分化させ、ノーザンブロットにてmRNAの検討を行った。アポC-IIのmRNAは健常者より患者サンプルで減少していたが、アポE、アポC-IVはほとんど差を認めなかった。Actinomycin Dを用いた検討ではアポC-II mRNAの安定性は保持されていることが示された。 4.アポC-II遺伝子の各ExonについてSingle Strand Conformation Polymorphism (SSCP)を行ったが遺伝子変異は検出されず、ダイレクトシークエンスおよびサブクローニングによるシークエンスを行っても各Exon、promoter領域、3'-UTR領域に遺伝子変異を認めなかった。アポE遺伝子のgenotypeはε3/3のホモ接合体であることが示された。また、患者および健常者のゲノムをBamHI、EcoRI、PstI、SacI、XbaIにて切断し、全長アポC-II cDNAのプローブを用いてサザンブロットを行ったがアポC-II遺伝子の大きなrearrangementは検出されなかった。 以上、本症例は著明な高中性脂肪血症を呈する一方、アポC-II蛋白の血中濃度が基準範囲より明らかに減少しており、LPL活性の減少を認めることからアポC-II欠損症と診断された。少量ながら血中に正常なアポC-II蛋白が検出され、アポC-II遺伝子に変異を認めないことが本症例の特徴として挙げられる。本症例の解析により、既報のアポC-II欠損症とは異なる型のアポC-II欠損症の存在が見出された。また、アポC-II蛋白の減少を来たす原因にはこれまでに報告されているアポC-II遺伝子自身の変異によるものとは異なる機序が存在することが示され、本研究はアポC-II蛋白の代謝機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられた。 | |
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