学位論文要旨



No 123734
著者(漢字) 外川,修
著者(英字)
著者(カナ) トガワ,オサム
標題(和) 悪性胆道閉塞に対する金属ステント留置後のステント不全に対する再インターベーションに関する検討
標題(洋)
報告番号 123734
報告番号 甲23734
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3073号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 教授 名川,弘一
 東京大学 教授 國土,典宏
 東京大学 客員准教授 金井,文彦
 東京大学 講師 丸山,稔之
内容要旨 要旨を表示する

1.緒言

切除不能悪性胆道閉塞に対する非手術的ドレナージ術は、外科的バイパス術と比べ術関連死が少なく入院期間が短いとされている。中でも内視鏡的なplastic stentの留置は経皮的ドレナージと比べ減黄成功率が高く術関連死が少ないと報告されており、腸管循環の状態が保たれるためより生理的である。しかし内視鏡的に留置されたplastic stentは平均3-4ヶ月で閉塞するため、自己拡張力を持ち、より太い口径を持つ、メッシュ構造の金属ステント(self-expandable metallic stent; EMS)が導入された。Plastic stentとの無作為化比較試験によりEMSの開存期間が有意に長いことが証明されたが、EMSのメッシュ構造の間隙から腫瘍が入り込みステントが閉塞するtumor ingrowthという新たな問題が出現した。そのためEMSに薄い膜を張ったカバー付き金属ステント(covered EMS)開発され、開存期間の延長が期待されている。しかし最近ではuncovered EMSとcovered EMSとの間に開存期間の差は認めないとするretrospective studyの報告や、covered EMSでは急性胆嚢炎の頻度がuncovered EMSと比べ高いとする報告もあり、covered EMS のuncovered EMSに対する優越性はいまだ確立されていない。そのため中下部悪性胆道閉塞に対してuncovered EMSが用いられる場合も依然として少なくない。

Uncovered EMSの閉塞率は20-40%、covered EMSの閉塞率は20-30%とされ、covered EMSにはステントの逸脱・迷入が合併症として存在するため、EMS留置後に閉塞や逸脱などのステント不全によって閉塞性黄疸の再発や胆管炎を発症する症例が存在する。このような症例に対しても初回ドレナージ時と同様に適切な対処を行なうことが重要である。しかし金属ステントのステント不全時の対処方法の検討は、uncovered EMS閉塞時の対処に関する報告が数編あるのみで、covered EMSのステント不全時の対処についての報告はなく、そのstrategyは確立されていない。そこで本研究ではEMSのステント不全に対して再インターベンションを行なう際に適した適切な対処方法のstrategyを検討した。

2.方法

1994年11月から2007年5月までに、当院およびその関連施設で中下部悪性胆道閉塞に対してEMSを留置した332例(uncovered EMS 95例、covered EMS 237例)のうち、研究期間内に閉塞や逸脱・迷入などの合併症によりステント不全を来たし、再インターベンションを行なった128例(初回uncovered EMS症例 40例、初回covered EMS症例 88例)を対象とした。

Uncovered EMS症例では、閉塞したステントの中を通して、新たなステントの留置("stent in stent")を行なった。2本目のステントには、uncovered EMS、covered EMS、およびplastic stentを用いた。

Covered EMSのステント不全に対する再インターベンションは、ステント(covered EMS、uncovered EMS、plastic stent)の再留置もしくは閉塞したcovered EMS内のクリーニングを行なった。

3.結果

初回uncovered EMS症例 40例の患者背景は、男女比は14:26。平均年齢 72歳(41-89歳)。胆道閉塞の原疾患は膵癌18例、胆管癌11例、胆嚢癌5例、リンパ節転移4例、乳頭部癌2例であった。初回EMSの平均開存期間は153日(4-523日)で、ステント不全の原因はtumor ingrowth 36例、胆泥および食物残渣 3例、胆道出血 1例であった。再インターベンションに用いたステントはcovered EMS 26例、uncovered EMS 7例、plastic stent 7例であった。ステント不全はそれぞれ7例(26.9%)、5例(71.4%)、2例(28.9%)に生じ、平均開存期間はそれぞれ220日、141日、58日であり、原因はcovered EMSではtumor overegrowth 3例、胆泥および食物残渣 3例、uncovered EMSではtumor ingrowth 4例、胆泥および食物残渣 1例、plastic stentでは胆泥および食物残渣 2例であった。累積開存率の比較ではcovered EMS群はuncovered EMS群と比べ有意に高かった。Covered EMS群とplastic stent群との比較では有意差はないがcovered EMS群が長く開存している傾向を認めた。Uncovered EMS群の2例で閉塞時の胆管炎がコントロールできず死亡した。Covered EMS群で胆管炎と胆嚢炎がそれぞれ1例ずつ起きた。Uncovered EMS群とcovered EMS群の生存期間に統計学的な有意差は認めなかった。Plastic stent群は他の2群と比較し有意に生存期間が短かった。

初回covered EMS症例 88例の患者背景は、男女比は48:40。平均年齢 69歳(39-89歳)。胆道閉塞の原疾患は膵癌64例、胆管癌13例、乳頭部癌5例、リンパ節転移4例、胆嚢癌2例であった。初回EMSの平均開存期間は138日(0-556日)で、ステント不全の原因は胆泥および食物残渣 39例、tumor overgrowth 18例、逸脱・迷入 23例、Kink 5例、胆道出血 3例であった。再インターベンションに用いたステントはcovered EMS 41例、uncovered EMS 8例、plastic stent 22例であった。クリーニングのみの症例は17例であった。再インターベンションの不全はcovered EMS群 18例(43.9%)、uncovered EMS群 6例(75.0%)、plastic stent群 17例(77.3%)、cleaning群 13%(70.6%)に生じ、その原因は胆泥および食物残渣 42例、逸脱・迷入 5例、tumor overgrowth 1例、tumor ingrowth 1例、kinking 1例、不明 3例であった。50%開存期間はcovered EMS群 176日、plastic stent群 38日、cleaning群 34日、uncovered EMS群 139日であった。Covered EMSの累積開存率は、plastic stent群、cleaning群と比較して有意に長かった。再インターベンションの不全に関わる因子の解析では、胆泥および食物残渣による閉塞とplastic stentが有意な危険因子であった。Uncovered EMS群とplastic stent群に1例ずつに急性胆嚢炎が、covered EMS群 1例に肝膿瘍が起きた。この3例は経皮的ドレナージにて改善した。2例(covered EMS群およびplastic stent群、それぞれ1例ずつ)で、初回EMS閉塞時の胆管炎がコントロールできずに、21日および28日後に死亡した。再インターベンション別の生存期間に差は認めなかった。

4.考察

Uncovered EMSのステント不全時にuncovered EMSを用いた"stent in stent"はこれまでに報告があるが、本研究では7例中4例(57%)でtumor ingrowthによる再閉塞が生じ有効とはいえなかった。Covered EMSを用いた"stent in stent"を26例に行ない、累積開存率の比較ではcovered EMSはuncovered EMSと比べ有意に高い開存率を示した。またcovered EMSは7例(26.9%)で閉塞したが、その閉塞原因は胆泥および食物残渣 4例、tumor overgrowth 3例であり、tumor ingrowthを完全に防いでおり、開存期間の延長に寄与したと考えられる。

Covered EMSのステント不全時の再インターベンションとして、covered EMSは最も長い開存期間を示し、初回内瘻化だけではなくcovered EMSのステント不全時の再インターベンションにも有用と考えられた。再インターベンションの不全に関与する因子の解析では、胆泥および食物残渣による閉塞が危険因子の一つであった。しかし胆泥および食物残渣で閉塞した症例でのサブグループ解析では、閉塞したcovered EMSを抜去し新しいcovered EMSに交換した群と閉塞したEMSは抜去せずにクリーニングのみ行なった群との間に統計学的有意差は認めず、胆泥や食物残渣により閉塞したcovered EMSは抜去すべきである、という結論は導かれなかった。

5.結語

閉塞したuncovered EMSの再内瘻化において、covered EMSの"stent in stent"は、有効で安全な手技と考えられる。

Covered EMSのステント不全時には、covered EMSを用いた群が最も長期の開存を示し有効と考えられる。胆泥もしくは食物残渣で閉塞した症例は、再インターベンションの開存期間が他の原因によるものと比べ短かった。Covered EMSのステント不全時の再インターベンションの適切なstrategyを確立するために、さらなる検討を行なう必要がある。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、悪性胆道閉塞に対する金属ステント留置後に生じるステント不全への適切な再インターベンションのstrategyを検討するため、ステント不全に対して再インターベンションを行なった128例における再インターベンションの成績を、閉塞率、開存期間、合併症について検討を行い、下記の結果を得ている。

1.ステント不全を来たしたuncovered metallic stentに対する再インターベンションでは、uncovered metallic stentの中に新たなステントを挿入する"stent in stent"で留置したcovered metallic stentが、同様にして留置したuncovered metallic stentやplastic stentと比べ長期の開存性を示し、その有用性が示された。

2.ステント不全を来たしたcovered metallic stentに対する再インターベンションでは、covered metallic stentを用いた再インターベンションが最も長期に開存していたが、有意差を認めたのはplasitc stentと比較した場合のみであった。

3.Covered metallic stentのステント不全時に行なった再インターベンションの不全に関与する因子の解析では、初回金属ステントの不全の原因が胆泥もしくは食物残渣での閉塞であることが危険因子として同定された。この胆泥もしくは食物残渣で閉塞した症例での解析では、初回金属ステントを抜去し新しいcovered metallic stentに交換した群と初回金属ステントは抜去せずに内部をクリーニングしたのみの群の間に開存期間に有意差は認めず、胆泥もしくは食物残渣で閉塞した場合に閉塞した初回金属ステントを抜去すべきか否かについては明らかにはならなかった。

以上、本論文は悪性胆道閉塞に対して留置したuncovered metallic stentのステント不全時にcovered metallic stentを用いることの有用性を明らかにした。Covered metallic stentのステント不全時においても、covered metallic stentを用いた再インターベンションが有用である可能性を示し、今後の悪性胆道閉塞に対する治療法の向上に貢献すると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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