学位論文要旨



No 123761
著者(漢字) 山西,吉典
著者(英字)
著者(カナ) ヤマニシ,ヨシノリ
標題(和) 活性型免疫グロブリン様レセプターLMIR5の機能解析
標題(洋) Analysis of leukocyte mono-immunoglobulin-like receptor 5 (LMIR5)
報告番号 123761
報告番号 甲23761
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3100号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 清野,宏
 東京大学 教授 三宅,健介
 東京大学 教授 東條,有伸
 東京大学 准教授 関根,孝司
 東京大学 講師 高見澤,勝
内容要旨 要旨を表示する

近年、ペア型レセプターと総称される分子群が、NK細胞を中心に相次いで報告され、免疫系細胞の機能制御に重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。これらは、細胞外領域はよく保存され類似しているが、細胞内領域が異なるために、両者は共通のリガンドを認識するものの、一方は活性化シグナル、他方は抑制化シグナルを伝達し、免疫系細胞の機能を正負に調節しているものと考えられている。一般に、抑制型レセプターは細胞内領域が長く、そのなかにimmunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM)を有し、SHP-1、SHP-2、SHIPなどの脱リン酸化酵素を介して、抑制化シグナルを伝達する。一方、活性型レセプターは細胞内領域が短く、シグナル伝達に関わるモチーフを持たない代わりに、DAP10、DAP12、FcRγといったアダプター分子と結合し、アダプター分子の持つimmunoreceptor tyrosine-based activation motif (ITAM)、あるいはそれに準じるモチーフを介し、Sykに代表されるリン酸化酵素を経て活性化シグナルを伝達する。

Leukocyte mono-Ig-like receptor (LMIR)は、我々のグループがマウス骨髄由来マスト細胞 (BMMC)のcDNAライブラリーよりクローニングした新規のペア型免疫グロブリン様レセプターである。当初、LMIR 1とLMIR2が同定されたが、その後、細胞外領域をプローブとした相同性スクリーニングを行い、マウスにおいて少なくとも5種類のLMIRが存在することが確認された。今回、私は、この新たに確認されたLMIRのうち活性型レセプターLMIR5について、マウスにおける発現分布、機能解析、およびマウス及びヒト由来のLMIR5における機能差違を中心に研究を行ったので、報告する。

LMIRはマウスの11番染色体、ヒトの17番染色体に遺伝子クラスターを形成しており、LMIR1とLMIR3のみが細胞内領域にITIMを有する抑制型レセプターで、他は全て活性型レセプターに属している。その細胞外領域の相同性は、LMIR1とLMIR2、LMIR3とLMIR4が極めて高くペアを形成している。LMIR5はLMIR1と34%、LMIR3と53%の相同性があるが、LMIR4はヒトでは認められず、ヒトにおいてはLMIR3とLMIR5がペアを形成する可能性が示唆される。

mouse LMIR5 (mLMIR5)のmRNAレベルでの発現パターンをRT-PCR法を用いて調べたところ、マウス組織では骨髄において高く、肺、大腸にも発現が認められた。また、マウス血球系細胞株や骨髄由来細胞を用いた検討では、マスト細胞、好中球、マクロファージ、樹状細胞といった骨髄球系細胞で発現が認められた。一方、B細胞、T細胞といったリンパ球系の細胞には発現が認められなかった。特異的抗体を用いて、マウス血球系細胞を中心に蛋白レベルでの解析を行ったが、同様の結果であった。骨髄球系細胞においてその発現が高いことから、LMIR5が感染防御・炎症・アレルギーなどに関与する可能性が示唆された。

次にアダプター分子との親和性を検討した。LMIR5とアダプター分子(DAP10、DAP12、FcRγ)を共発現させる実験系で、FACSにより膜表面におけるLMIR5の発現をみたところ、mLMIR5は主としてDAP12によってその発現増強がみられた。一方、human LMIR5 (hLMIR5)はDAP12およびDAP10の両者で増強が認められた。この結果は、実際の結合をみた共沈実験でも確認された。また、DAP10、DAP12、FcRγノックアウトマウスの解析では、DAP12の欠損により骨髄細胞でmLMIR5の発現が低下しており、mLMIR5は主にDAP12と結合することで細胞表面の発現量を維持することが示された。

次にマスト細胞における機能を検討した。マスト細胞にmLMIR5を導入し、mLMIR5を架橋したところ、MAPK、Aktのリン酸化とそれに伴う炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα)やケモカイン(MCP-1)の産生、ヒスタミン放出、接着、細胞生存延長に代表されるマスト細胞の活性化が認められた。またマウス胎児肝由来マスト細胞(FLMC)では内在性mLMIR5の架橋によっても、その活性化がみられた。さらに、ノックアウトマウスを用いた検討で、これらの現象はDAP12及びSyk依存的であることも証明された。

興味深いことに、mLMIR5とは異なり、hLMIR5の架橋によるマスト細胞のサイトカイン産生はDAP12欠損による影響を受けなかった。そこで、mLMIR5とhLMIR5のアミノ酸配列を比較したところ、hLMIR5にのみ細胞内領域に1つチロシン残基(Y188)が認められ、マスト細胞にhLMIR5を導入し架橋した場合には、DAP12欠損マスト細胞でのみそのチロシンリン酸化が確認された。さらに、野生型hLMIR5あるいは変異型hLMIR5(Y188F)を野生型マスト細胞に導入し架橋した場合のサイトカイン産生量に差はなかったが、両者をDAP12欠損マスト細胞に導入し架橋した場合にはその変異によってサイトカイン産生が強く抑制された。以上より、hLMIR5はDAP12存在下では架橋によりY188はリン酸化を受けず、おそらくDAP12のITAM依存的にシグナルを伝達するのに対し、DAP12欠損下ではY188のリン酸化依存的にシグナルを伝達し、DAP12の有無に関わらず、マスト細胞を活性化することが示唆された。DAP12欠損下で機能する、このhLMIR5特異的なY188リン酸化依存的シグナル経路について、他のアダプター分子、特にhLMIR5と結合のみられたDAP10の関与が考えられるため、今後はDAP10、DAP12両者のダブルノックアットマウスによる検討が必要と思われた。

LMIRの全体像を明らかにするためにはリガンドの同定とノックアウトマウスの解析が不可欠である。今後はこれらを中心に研究を続けていきたいと思っている。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は免疫系細胞の機能制御に重要な役割を果たすと考えられるペア型レセプターで、当研究室で新規にクローニングされたleukocyte mono-immunoglobulin-like receptor 5(LMIR5)について、その発現分布、機能を明らかにするため、特異的抗体、各種ノックアウトマウスを用いて解析を試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.mouse LMIR5 (mLMIR5)のmRNAレベルでの発現パターンをRT-PCR法を用いて調べたところ、マウス組織では骨髄において高く、肺、大腸にも発現が認められた。また、マウス血球系細胞株や骨髄由来細胞を用いた検討では、マスト細胞、好中球、マクロファージ、樹状細胞といった骨髄球系細胞で発現が認められた。一方、B細胞、T細胞といったリンパ球系の細胞には発現が認められなかった。特異的抗体を用いて、マウス血球系細胞を中心に蛋白レベルでの解析を行ったが、同様の結果であった。

2.LMIR5とアダプター分子(DAP10、DAP12、FcRγ)を共発現させる実験系で、フローサイトメトリー法により膜表面におけるLMIR5の発現をみたところ、mLMIR5は主としてDAP12によってその発現増強がみられた。一方、human LMIR5 (hLMIR5)はDAP12およびDAP10の両者で増強が認められた。この結果は、実際の結合をみた共沈実験でも確認された。また、DAP10、DAP12、FcRγノックアウトマウスの解析では、DAP12の欠損により骨髄細胞でmLMIR5の発現が低下しており、mLMIR5は主にDAP12と結合することで細胞表面の発現量を維持することが示された。

3.マスト細胞にmLMIR5を導入し、mLMIR5を架橋したところ、MAPK、Aktのリン酸化とそれに伴う炎症性サイトカイン(IL-6, TNFα)やケモカイン(MCP-1)の産生、ヒスタミン放出、接着、細胞生存延長に代表されるマスト細胞の活性化が認められた。またマウス胎児肝由来マスト細胞(FLMC)では内在性mLMIR5の架橋によっても、その活性化がみられた。さらに、ノックアウトマウスを用いた検討で、これらの現象はDAP12及びSyk依存的であることも証明された。

4.mLMIR5とhLMIR5の機能をマスト細胞において比較したところ、mLMIR5とは異なり、hLMIR5の架橋によるマスト細胞のサイトカイン産生はDAP12欠損による影響を受けなかった。そこで、mLMIR5とhLMIR5のアミノ酸配列を比較したところ、hLMIR5にのみ細胞内領域に1つチロシン残基(Y188)が認められ、マスト細胞にhLMIR5を導入し架橋した場合には、DAP12欠損マスト細胞でのみそのチロシンリン酸化が確認された。さらに、野生型hLMIR5あるいは変異型hLMIR5(Y188F)を野生型マスト細胞に導入し架橋した場合のサイトカイン産生量に差はなかったが、両者をDAP12欠損マスト細胞に導入し架橋した場合にはその変異によってサイトカイン産生が強く抑制された。以上より、hLMIR5はDAP12存在下では架橋によりY188はリン酸化を受けず、おそらくDAP12のITAM依存的にシグナルを伝達するのに対し、DAP12欠損下ではY188のリン酸化依存的にシグナルを伝達し、DAP12の有無に関わらず、マスト細胞を活性化することが示唆された。

以上、本論文は新規ペア型レセプターであるLMIR5が骨髄球系細胞に広く発現しており、マスト細胞を活性化する機能を有すること、さらにその活性化機序がマウス由来及びヒト由来LMIR5で異なることを明らかにしたものである。その発現分布や機能から、LMIR5が自然免疫・炎症・アレルギーに関与する可能性が示唆され、免疫関連疾患の予防・治療法開発の面でも重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。

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