学位論文要旨



No 123762
著者(漢字) 渡辺(大河内),直子
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ(オオコウチ),ナオコ
標題(和) AML1点突然変異はマウスBMTモデルにおいてMDSおよびMDS/AMLを発症させる
標題(洋) AML1 point mutations induced MDS and MDS/AML in a mouse BMT model
報告番号 123762
報告番号 甲23762
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3101号
研究科 医学系研究科
専攻 生殖・発達・加齢医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 黒川,峰夫
 東京大学 教授 中内,啓光
 東京大学 教授 東條,有伸
 東京大学 准教授 岡,明
 東京大学 講師 八杉,利治
内容要旨 要旨を表示する

骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndrome:MDS)は、造血幹細胞の異常による2系統以上の造血系細胞に分化成熟異常を伴い、しばしば急性骨髄性白血病に移行する症候群である。本研究では、MDSの発症および白血病へ移行するメカニズムを明らかにするため、MDSの発症との関連が疑われる転写因子AML1(Runx1) の点突然変異に着目し、レトロウイルスを利用した骨髄移植によるマウスMDSモデルを樹立した。

骨髄移植においては、ドナーとレシピエントとしてそれぞれB6/Ly5.1およびB6/Ly5.2マウスを利用した。5FU投与後のドナー骨髄細胞に、AML1の野生型あるいは変異型(Runtホモロジードメインに点突然変異を有するAML1-D171NとC末欠失を有するAML1-S291fsX300の2種)を発現するレトロウイルスを感染させて、放射線照射したレシピエントマウスに注入した。変異型AML1導入骨髄細胞を移植したマウスでは、移植後3ヶ月目くらいから末梢血中にc-Kit陽性幼若細胞が出現した。多くのマウスは、4ヶ月から13ヶ月で、MDS/AMLを発症するか、高度な貧血及び白血球減少をきたし死亡した。末梢血で2系統以上の造血細胞に形態異常を確認したが、ヒトMDS患者細胞の形態異常と酷似していた。

AML1-D171Nを導入した骨髄細胞の移植では、骨髄球系細胞の形態異常が強く、白血球増多を伴いMDS/AMLに移行するケースが多かった。一方、AML1-S291fsを導入した骨髄細胞の移植では汎血球減少が特徴的であった。しかしながら、それぞれの変異型AML1発現細胞を移植したマウスでも潜伏期や病型などは均一ではなく、ウイルスベクターの挿入部位あるいは発現量の差によって、病型が異なることが示唆された。その中でAML1-D171N移植群では、形態異常を伴う白血球増多と著しい肝脾腫を伴い、MDS/AMLに移行する一群のマウスが出現し、その白血病細胞がB220およびCD11b陽性であるという共通の特徴を示した(26例中11例)。bubble PCR法を用いて、レトロウイルス挿入部位を検索した結果、上記の11例中7例でウイルス挿入部位がEvi1近傍でありEvi1高発現が認められた。また、Evi1近傍にウイルス挿入が認められなかった4例でもEvi1の発現上昇が確認された。そこで、D171NとEvi1がcollaborateしているのかどうかを確かめるために、二つを同時に導入して移植実験を行ったところ、マウスは早期にMDS/AMLを発症して死亡した。このことから、AML1-D171NはEvi1と協調してMDS/AMLを誘発することが示唆された。一方、AML1-S291fsでは同部位への挿入は認めず、変異型AML1のタイプによってMDS/AMLに進展する際に協調する遺伝子変異が異なることが示唆された。本研究のように、レトロウイルスを用いた骨髄移植モデルでレトロウイルスの挿入部位近辺にある遺伝子を同定する方法はほかのグループでも相次いで報告されており、今後、MDS/AMLの進展メカニズムを解明するにあたって有用な方法であると考えられる。

これまで、MDSのモデルマウスとして適切なものが確立されていないことが、MDS研究の発展の弊害となっていたが、本研究で示したマウスがMDSの良いモデルとなり、今後の研究の発展におおいに貢献できると思われる。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はMDS/AMLの発病において重要な役割を演じていると考えられる転写因子AML1の点突然変異体について、その機能を明らかにするため、レトロウイルスを用いてマウスBMTモデルを作成し、AML1点突然変異体が造血系にどのような異常をもたらすかを詳細に解析したものであり、下記の結果を得ている。

1.AML1の野生型あるいは変異型(Runtホモロジードメインに点突然変異を有するAML1-D171NとC末欠失を有するAML1-S291fsX300の2種)を発現するレトロウイルスを感染させて、放射線照射したレシピエントマウスに注入したところ、変異型AML1導入骨髄細胞を移植したマウスでは、4ヶ月から13ヶ月で、MDS/AMLを発症して死亡した。末梢血で2系統以上の造血細胞に形態異常を確認し、それらはヒトMDS患者細胞の形態異常と酷似していた。

2.AML1-D171Nを導入した骨髄細胞の移植では、骨髄球系細胞の形態異常が強く、白血球増多を伴い白血病に移行するケースが多かった。一方、AML1-S291fsを導入した骨髄細胞の移植では汎血球減少が特徴的であった。

3.bubble PCR法を用いて、レトロウイルス挿入部位を検索した結果、D171N移植群の11例中7例でウイルス挿入部位がEvi1近傍でありEvi1高発現が認められた。また、Evi1近傍にウイルス挿入が認められなかった4例でもEvi1の発現上昇が確認された。そこで、D171NとEvi1が協調的に働いているのかどうかを確かめるために、二つを同時に導入して移植実験を行ったところ、マウスは早期にMDS/AMLを発症して死亡した。このことから、AML1-D171NはEvi1と協調してMDS/AMLを誘発することが示唆された。

4.一方、AML1-S291fsでは同部位への挿入は認めず、変異型AML1のタイプによってMDS/AMLに進展する際に協調する遺伝子変異が異なることが示唆された。

以上、本論文は、MDS/AMLの患者検体から高率に見つかるAML1点突然変異体を用いてマウスBMTモデルを作成および解析することによって、AML1点突然変異体が造血異常を引き起こすこと、またその際には協調的に働く分子が存在することを明らかにした。本研究はこれまで作成が困難とされていたMDSのマウスモデルを作成したことで、MDS/AMLの発症メカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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