学位論文要旨



No 123768
著者(漢字) 大島,寧
著者(英字)
著者(カナ) オオシマ,ヤスシ
標題(和) 軟骨細胞アポトーシスの分子メカニズム
標題(洋)
報告番号 123768
報告番号 甲23768
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3107号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 芳賀,信彦
 東京大学 教授 宮園,浩平
 東京大学 准教授 川口,浩
 東京大学 客員准教授 星,和人
 東京大学 講師 張,京浩
内容要旨 要旨を表示する

長幹骨の成長板において未分化間葉系幹細胞から生じた軟骨前駆細胞は、増殖軟骨細胞・肥大軟骨細胞へと分化し、さらに石灰化を誘導した後、最終的には骨組織へ置換される。この過程は軟骨内骨化と呼ばれ、骨格形成の重要なプロセスであるが、分化初期段階はSox trio(Sox 5、6、9)が、また肥大分化の過程ではRunx2が極めて重要な働きをしている。一方、肥大軟骨細胞の最終的な運命についてはアポトーシスによって死滅するという報告が散見されるが、その制御因子については殆んど分かっていない。

アポトーシスとは、生体にとって不必要な細胞が遺伝子にプログラムされた様式にしたがって自分自身に細胞死を惹き起こす現象であり、細胞外からの刺激や細胞内の伝達経路によって厳密に制御されている。これまでに多くのアポトーシス関連遺伝子が報告されているが、軟骨細胞のアポトーシス制御機構について詳細に解析した論文は少ない。その中で、培養軟骨細胞に対して無機リン酸(Pi)が軟骨細胞の石灰化およびアポトーシスを誘導するという報告がある。また、ビタミンD受容体ノックアウトマウスでは成長板の肥大軟骨層が異常に伸長することが知られているが、その原因が低リン血症に起因した肥大軟骨細胞アポトーシス障害であることが報告されている。これらの報告は細胞内へのPi流入が成長軟骨細胞のアポトーシスを誘導することを示唆しているが、軟骨細胞アポトーシスの詳細な分子メカニズムについては不明な点が多い。

哺乳類には主に二つのアポトーシス経路がある。一つはデスレセプター経路であり、もう一方はミトコンドリア経路である。この二つのアポトーシス経路はともにcaspaseと呼ばれるアスパラギン酸特異的システインプロテアーゼの活性化により誘導されるが、ミトコンドリア経路はBcl-2 family membersといわれる一連の分子群によって制御されており、その相互作用によって細胞の生死が決定される。

Bcl-2 family membersはアポトーシスを促進する分子群(pro-apoptotic Bcl-2 family members)と抑制する分子群(anti-apoptotic Bcl-2 family members)で構成されており、両者のバランス・相互作用が重要である。anti-apoptotic Bcl-2 family membersにはBcl-2, Bcl-xL, Mcl-1, Bcl-w, A1などが知られている。一方、pro-apoptotic Bcl-2 family membersは現在20種類以上が知られており、さらに2種類に分類される。一つはmulti-domain membersでありBax, Bak, Bok/Mtd,等が存在する。もう一つは BH3 domain-only membersであり、Bik/Nbk, Bad, Bid, Hrk/DP5, Bim/Bod, Noxa, Bmf, Puma/Bbc3, Bnip3, Nix等が存在する。BH3 domain-only proteinは組織ならびに細胞特異性が強く、組織や細胞、細胞死刺激によって異なる役割をアポトーシスにおいて果たす一方、anti-apoptotic member およびmulti-domain pro-apoptotic memberはユビキタスに発現しており、BH3 domain-only proteinがアポトーシスの開始に重要であり、multi-domain memberがその下流でアポトーシスを進行させるのに必要であると考えられている。

本研究では、anti-apoptotic Bcl-2 family memberであるBcl-xLおよびpro-apoptotic Bcl-2 family memberであるBnip3の相互作用が肥大軟骨細胞アポトーシスの制御に重要であることを証明した。

はじめに、in vitroにおいて無機リン刺激による培養軟骨細胞アポトーシス誘導実験系を確立した。培養軟骨細胞および前軟骨細胞株であるATDC5細胞にPi刺激を加えると、刺激後約12から24時間でミトコンドリアからのシトクロムcの放出およびCaspaseの活性化が確認され、ミトコンドリア経路を介したアポトーシスが誘導された。この系を用いてBcl-2 family member分子群がPi刺激後のアポトーシスに与える影響を調べた。anti-apoptotic memberでは、Bcl-xLの強制発現によりアポトーシスが抑制され、逆にRNAiによる発現抑制で亢進した。一方、pro-apoptotic Bcl-2 family memberでは、Bnip3の発現をRNAiで抑制することでPi刺激後のアポトーシスが抑制された。

以上から、Bcl-xLおよびBnip3がPi刺激後の軟骨細胞のアポトーシスに重要であることが分かったため、両者の相互作用をさらに調べた。Pi刺激後Bcl-xLの発現量は不変であったが、Bnip3の発現量はPi刺激後12-24時間で上昇し、遅れてCaspaseの活性化がみられた。また、Pi刺激後6時間でBcl-xLとBnip3は結合した。マウス成長板においてBcl-xLの発現量はほぼ均一であったのに対し、Bnip3の発現量は肥大軟骨層で強く発現していた。すなわち、肥大軟骨層でBnip3の発現量が上昇し、Bcl-xLに結合してその抗アポトーシス作用を阻害することで軟骨細胞のアポトーシスが誘導されると考えられた。

さらにin vivoにおける作用を確認するため、Cre-loxP recombination systemを用いて軟骨組織特異的bcl-xノックアウトマウスを作製した。Bcl-xコンディショナルノックアウトマウスは体幹および四肢短縮を呈し、組織学的には成長板の肥大軟骨層が短縮していた。Bnip3の発現量はノックアウトマウスおよび正常な同胞との間で差異がみられなかったが、ノックアウトマウスでは肥大軟骨層においてCaspase活性が亢進しており、アポトーシス亢進が肥大軟骨層の短縮の原因と考えられた。このノックアウトマウスを低リン食で飼育したところ、短縮していた肥大軟骨層が部分的に改善された。低リン食を与えたノックアウトマウスでは肥大軟骨層におけるBnip3の発現量が低下しており、亢進していたアポトーシスもほぼ正常化していた。

まとめると、肥大軟骨細胞のアポトーシスはanti-apoptotic Bcl-2 family member分子Bcl-xLおよびpro-apoptotic Bcl-2 family member分子Bnip3の相互作用によって規定される。すなわち、肥大軟骨層における無機リン酸濃度の上昇はBnip3の発現上昇を介してBcl-xLの機能を阻害し、アポトーシスが誘導されると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

軟骨内骨化は骨格形成の重要なプロセスであり、分化初期段階はSox trioが、肥大分化の過程ではRunx2が制御因子として重要な働きをしていることが報告されている。一方、その次の段階である軟骨細胞アポトーシスの制御因子については殆んど分かっておらず、無機リン酸(Pi)が培養軟骨細胞の細胞死を誘導するという報告が散見される程度である。本研究は、軟骨内骨化の過程において重要な律速段階の一つである軟骨細胞アポトーシスの制御機構の解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。

1. in vitroにおいてPi刺激による培養軟骨細胞アポトーシス誘導実験系を確立した。培養軟骨細胞および前軟骨細胞株であるATDC5細胞にPi刺激を加えると、刺激後約12から24時間でミトコンドリアからのシトクロムcの放出およびCaspaseの活性化が確認され、ミトコンドリア経路を介したアポトーシスが誘導された。

2. この系を用い、ミトコンドリア経路のアポトーシスを正/負に制御するBcl-2 family member分子群がPi刺激後のアポトーシスに与える影響を調べた。anti-apoptotic memberでは、Bcl-xLの強制発現によりアポトーシスが抑制され、逆にRNAiによる発現抑制で亢進した。一方、pro-apoptotic Bcl-2 family memberでは、Bnip3の発現をRNAiで抑制することでPi刺激後のアポトーシスが抑制された。

3. Bcl-xLおよびBnip3がPi刺激後の軟骨細胞のアポトーシスに重要であることが分かったため、両者の相互作用を生化学的に検討した。Pi刺激後Bcl-xLの発現量は不変であったが、Bnip3の発現量はPi刺激後12-24時間で上昇し、遅れてCaspaseの活性化がみられた。また、Pi刺激後6時間でBcl-xLとBnip3は結合した。

4. これら分子の発現量をin vivoにおいて組織学的に検討した。マウス成長板においてBcl-xLの発現量はほぼ均一であったのに対し、Bnip3の発現量は肥大軟骨層で強く発現していた。すなわち、肥大軟骨層でBnip3の発現量が上昇し、Bcl-xLに結合してその抗アポトーシス作用を阻害することで軟骨細胞のアポトーシスが誘導されると考えられた。

5. さらにin vivoにおける作用を確認するため、Cre-loxP recombination systemを用いて軟骨組織特異的bcl-xノックアウトマウスを作製した。Bcl-xコンディショナルノックアウトマウスは体幹および四肢短縮を呈し、組織学的には成長板の肥大軟骨層が短縮していた。Bnip3の発現量はノックアウトマウスおよび正常な同胞との間で差異がみられなかったが、ノックアウトマウスでは肥大軟骨層においてCaspase活性が亢進しており、アポトーシス亢進が肥大軟骨層の短縮の原因と考えられた。このノックアウトマウスを低リン食で飼育したところ、短縮していた肥大軟骨層が部分的に改善された。低リン食を与えたノックアウトマウスでは肥大軟骨層におけるBnip3の発現量が低下しており、亢進していたアポトーシスもほぼ正常化していた。

以上、本論文は、肥大軟骨細胞のアポトーシスがanti-apoptotic Bcl-2 family member分子Bcl-xLおよびpro-apoptotic Bcl-2 family member分子Bnip3の相互作用によって規定されることを、in vitroおよびin vivo両方で示した。本研究はこれまで未知に等しかった、軟骨内骨化における軟骨細胞アポトーシスの機序解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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