学位論文要旨



No 123770
著者(漢字) 大松,華子
著者(英字)
著者(カナ) オオマツ,ハナコ
標題(和) 接触皮膚炎におけるβ7 integrinの関与
標題(洋)
報告番号 123770
報告番号 甲23770
学位授与日 2008.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3109号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 北村,唯一
 東京大学 教授 山本,一彦
 東京大学 准教授 富田,京一
 東京大学 講師 佐伯,秀久
 東京大学 准教授 百瀬,敏光
内容要旨 要旨を表示する

リンパ球の体内循環は生体内での免疫応答に極めて重要である。すなわち、骨髄や胸腺等の一次リンパ組織で産生されたナイーブなリンパ球は血中に移行し、脾臓や末梢リンパ節などの二次リンパ組織を循環する。その後ナイーブなリンパ球の一部は脾臓や末梢リンパ節などにおいて抗原提示を受けて主としてエフェクター細胞となり、皮膚、肺、腸管などの末梢組織へと移行し、免疫を司る。このようにリンパ球が体内を移動することにより、免疫の最前線である末梢組織が、その所属リンパ組織と協奏して免疫応答が成立する。また、生体内においてある特定の抗原に対する抗原特異的リンパ球はごく少数しか存在しないが、このリンパ球の循環により抗原との反応が能率よく行われる。このようにリンパ球が生体内を移動するために重要な働きを担っているものとして細胞接着分子が知られている。例えば、リンパ球が血液中から血管内皮細胞を通り抜けリンパ組織に移行するためには、リンパ組織に存在する高内皮細静脈(high endothelial venule: HEV)を通過する必要があるが、その際、リンパ球表面上に発現している接着分子と、血管内皮細胞上に発現しているリガンドとの相互作用が重要な役割を担っている。

細胞接着分子とは細胞表面に存在して細胞同士、あるいは細胞と細胞外基質との接着に関与する分子群の総称であり、これらのリガンドは限られた組織のみに発現している場合が多い。その結果、特定の接着分子を発現する細胞は、自分の相手となるリガンドを発現している特定のリンパ組織に移動する傾向を示す。細胞接着分子は構造上の特徴からいくつかのファミリーに分類されている。その中の一つであるインテグリンファミリーは、αサブユニットとβサブユニットからなるヘテロ二量体構造をもつ膜蛋白質である。これらのα鎖とβ鎖は特定の組み合わせからなり、β7 integrinはα4鎖もしくはαE鎖とのみヘテロダイマーを形成する。α4β7 integrinは大部分のリンパ球、好酸球、肥満細胞等、幅広く血球細胞に発現する。リガンドとしてはmucosal addressin cell adhesion molecule-1 (MAdCAM-1)、vascular cell adhesion molecule-1 (VCAM-1)、fibronectinが知られている。α4β7 integrinの主たるリガンドであるMAdCAM-1は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、腸管のパイエル板や腸管膜リンパ節の高内皮細静脈および腸管粘膜固有層の血管内皮細胞に発現している。VCAM-1は炎症などにより活性化した血管内皮細胞に発現している。fibronectinは細胞外マトリックスの構成成分の一つであり、血液、血漿中にも可溶性分子として存在している。

α4β7 integrinはMAdCAM-1と結合することにより、主にリンパ球のパイエル板や腸管膜リンパ節への移行を司る。このためβ7 integrinが欠損すると、欠損リンパ球はパイエル板に移行できず、その結果β7 integrin欠損マウスのパイエル板は有意に小さい。一方、αEβ7 integrinは皮膚や腸管などにおける上皮細胞間リンパ球(intraepithelial lymphocyte: IEL)など一部のリンパ球や樹状細胞に発現している。αEβ7 integrinのリガンドとしてはカドヘリンファミリーに属するE-カドヘリンが知られ、種々の臓器の上皮細胞に発現している。その結果、αEβ7 integrinはIELや上皮に存在する樹状細胞のretensionに関与すると考えられており、αEβ7 integrinが欠損すると、マウス皮膚に存在するdendritic epidermal T-cellが減少する。

接触皮膚炎は大別して、一時刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎とに分けられる。一時刺激性接触皮膚炎とは非特異的な刺激物の塗布により塗布部に炎症が惹起される反応を指し、浸潤細胞の大部分は好中球である。一方、アレルギー性接触皮膚炎とは個体がある抗原に感作されたのちに、再び同一抗原を投与された際におこる反応であり、感作相と惹起相からなる。感作相では皮膚の樹状細胞が抗原を取り込み成熟化し、皮膚から輸入リンパ管を経て所属リンパ節まで移動する。所属リンパ節においては抗原提示を受けたナイーブなT細胞が活性化して増殖し、エフェクターT細胞やメモリーT細胞に分化する。惹起相では抗原塗布部の皮膚に、抗原特異的なエフェクターT細胞が遊走し、サイトカイン産生といった炎症反応が生じ、臨床的に"かぶれ"として観察される。

β7 integrinの腸管免疫への関与に関しては様々な検討が行われている。例えばGVHDの腸症状はα4β7 integrinを発現するリンパ球の浸潤に依存し、これらの細胞の移行を制御することが治療のターゲットになると考えられる。一方、皮膚におけるβ7 integrinの関与についてはほとんど知られていない。しかし近年、皮膚に感作物質であるoxazoloneを塗布すると、一時的に所属リンパ節のHEVでα4β7 integrin の主たるリガンドであるMAdCAM-1の発現が亢進するという報告や、真皮のリンパ管でVCAM-1の発現が亢進するという報告がみられた。加えて、接触皮膚炎患者の皮膚で惹起後早期に血管内皮細胞にfibronctinが発現するという報告もみられ、β7 integrinが皮膚免疫に関与する可能性が示唆された。そこで今回我々はβ7 integrin欠損マウスを用いて接触皮膚炎反応につき検討し、β7 integrinの皮膚免疫における機能を解析することにした。

croton oilによる一次刺激性接触皮膚炎は、野生型マウスとβ7 integrin欠損マウスで差を認めなかった。しかしアレルギー性接触皮膚炎は、感作物質によらず野生型マウスに比較してβ7 integrin欠損マウスでは減弱していた。β7 integrin欠損マウスでみられたアレルギー性接触皮膚炎の減弱が、αEβ7 integrinとα4β7 integrinいずれの欠損が原因で生じているのかを調べるためにαE integrin欠損マウスを用いたところ、αE integrin欠損マウスと野生型マウスとでアレルギー性接触皮膚炎に差を認めなかった。αE integrin欠損マウスではαEβ7 integrinのみが欠損しているので、β7 integrin欠損マウスで認められたアレルギー性接触皮膚炎の減弱はα4β7 integrinの欠損が原因と考えられた。引き続きβ7 integrin欠損マウスを用いてアレルギー性接触皮膚炎の各段階につき検討したところ、β7 integrinが欠損しても表皮の樹状細胞は減少せず、表皮に存在する樹状細胞の抗原取り込み能、皮膚における移動、皮膚から所属リンパ節への移動に異常はみられなかった。加えてβ7 integrinが欠損した樹状細胞は、所属リンパ節に存在するT細胞に対して正常な抗原提示能を有していた。

所属リンパ節に存在するT細胞は、β7 integrinが欠損しても抗原感作されたのちに抗原刺激に対して増殖する能力に障害を生じておらず、惹起部位に存在すれば正常に機能した。しかしβ7 integrinが欠損すると、惹起相における活性化T細胞の皮膚への移動が障害されていた。一方、活性化したT細胞が皮膚に浸潤したのちの惹起相の反応は、β7 integrinが欠損しても障害されなかった。既にアレルギー性接触皮膚炎の惹起相において皮膚の血管内皮細胞にVCAM-1やfibronectinが発現することが知られている。以上よりβ7 integrinが欠損すると、α4β7 integrinを発現する抗原特異的な活性化T細胞とVCAM-1もしくはfibronectinの相互作用が阻害された結果、皮膚への浸潤が障害され、アレルギー性接触皮膚炎が減弱すると考えられた。β7 integrinを標的とすることで、皮膚への細胞浸潤が病因となる疾患を制御できる可能性が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究はリンパ球の体内循環において重要な役割を演じている細胞接着分子の一つであるβ7 integrinの皮膚免疫における機能を明らかにするため、β7 integrin欠損マウスを用いて接触皮膚炎モデルを検討したものであり、下記の結果を得ている。

1.β7 integrin欠損マウスでは、感作物質によらずアレルギー性接触皮膚炎反応は減弱したが、一時刺激性接触皮膚炎反応には異常を認めなかった。β7 integrin欠損マウスではα4β7 integrinおよびαEβ7 integrinが欠損しているが、αEβ7 integrinのみが欠損しているαE integrin欠損マウスでは、アレルギー性接触皮膚炎反応に異常を認めなかった。以上の結果より、α4β7 integrinの欠損によりアレルギー性接触皮膚炎反応が減弱することが示された。

2.引き続き、β7 integrin欠損マウスを用いてアレルギー性接触皮膚炎反応の各段階につき検討した。β7 integrinが欠損しても表皮の樹状細胞は減少しておらず、表皮に存在する樹状細胞の抗原取り込み能、表皮における移動、皮膚から所属リンパ節への移動に異常はみられなかった。加えてβ7 integrinが欠損した樹状細胞はT細胞に対し、正常な抗原提示能を有していた。またβ7 integrin欠損マウスにおいて、皮膚から所属リンパ節へのリンパ流に異常はみられなかった。

3.β7 integrinが欠損した感作T細胞は、in vitroにおいて抗原刺激に対する増殖能に異常を生じていなかった。加えてβ7 integrinが欠損した感作T細胞を皮下注射し抗原を塗布したところ、正常な耳介腫脹を認めた。以上より、β7 integrinが欠損した感作T細胞には機能異常がないことが示された。

4.β7 integrinが欠損した感作T細胞を静脈注射後に耳に抗原を塗布したところ、耳介に浸潤するT細胞の数は減少し、耳介腫脹は減弱した。以上より、β7 integrinが欠損した感作T細胞は移動障害を有すると考えられた。

5.炎症を生じた皮膚ではα4β7 integrinのリガンドであるvascular cell adhesion molecule-1 (VCAM-1)やfibronectinの発現が亢進することが既に知られている。以上より、β7 integrinが欠損すると、α4β7 integrinとVCAM-1もしくはfibronectinとの相互作用が障害された結果、アレルギー性接触皮膚炎反応が減弱すると考えられた。

以上、本論文はβ7 integrin欠損マウスにおける接触皮膚炎モデルの解析から、β7 integrinの皮膚免疫における関与を明らかにした。本研究は皮膚免疫における細胞接着分子の関与について新たな知見を示しており、学位の授与に値するものと考えられる。

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